タケノコドン

黒騎士

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大怪獣タケノコドン

その名はタケノコドン

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「てええっっ‼︎」

 力強い号令と共に数多の轟音が響き渡った。見事に整列した戦車の編隊から無数の砲弾が発射され、怪獣に着弾し爆煙に包まれる。しかし、怪獣は一瞬も怯む事無く尚も只管に前進を続けていた。

「戦車砲、効果認められず!」

「構わん、撃ち続けろ! 航空支援を繰り上げ要請」


 怪獣出現から間も無く、国内そして世界に一報が走った。政府は直ちに緊急事態を宣言。緊急対策室を発足するもその動きはあまりに遅く、自衛隊の出動に半日を要した。しかし事態を重く見た防衛省の速やかな事前行動の甲斐もあり、出動要請が降りた瞬間、即座に主力戦車隊が各基地から発進し作戦行動を開始した。

「目標、井戸端町を抜け依然南西に向け直進中」

「誘導弾の使用を許可する」

「しかし上條陸将! 現場は市街地です。上は判断を委ねるとは言ってますが」

「構わん、避難は完了している。アレが動き続けたなら被害はそんなもんじゃ済まん。責任は自分が取る」

 爆音、熱波……嵐の様に降り注ぐミサイルと弾雨をその身に受けながらも巨大な影は、ただ前へ、前へ、這いずる様に一本線を引き続けた。やがて弾薬が底をつき、効果を認められない現状から作戦中断を余儀なくされた自衛隊は一時撤退。幕僚長以下有識者を交え緊急対策会議が招集された。

「――以上、現時点で有効な効果は認められません」

「通常兵器で全く歯が立たんとは……」

「米軍から支援の打診が来ておりますが」

「それは打てる手を打ち尽くしてからだ。国の威信が懸かっている。自衛隊の存在意義も見せねばならん」

「ナパームを使って焼き尽くせんのか?」

「簡単に言わないで下さい。被害の責任は何処が取ってくれるのですか」

「じゃあ、除草剤や枯葉剤は?」

「馬鹿を言うな、ダイオキシンでも撒けと言うのか⁉︎」

「そもそもだが……あれは植物なのか? いやその前に生物なのか?」

「生物……であるとは思います」

「世間じゃ怪獣という認識で通ってる様だがな。にしても……あまりに筍に酷似してはいるが、陸棲の巻貝にも見えなくはない……か?」

「発生地が山でありますし、形状からも巻貝よりは筍の方が近しいと思われます」

「自走する筍なんぞ意味が分からん。どうやって移動しとるんだ、裏に無数の触手でも生えとるのか。大体、何故口が有るんだ」

「今のところ、人や動物はおろか捕食行動らしきものは確認されておりません」

「植物だしな、光合成じゃないの?」

「筍はまだ葉を持っておらず、親の竹に地下茎から養分を送って貰うものでは?」

「じゃああの口は何の為に付いてんだ」

「常識で考えるのやめましょう」

「上條君?」

「相手は常識の範疇から逸脱した存在です。常識を当て嵌めて考えるのはナンセンスだ」

「ではどうするのかね、現場指揮官」

「大量の燃料を投入し高温で燃焼させます」

「ミサイルでも効果が無かったのだぞ。燃えるかね?」

「外表の硬度が高く、衝撃には強くとも高熱への耐性が有るかは未知数です。あれだけ守りを固めるならば、内部は意外と脆く浸透した熱でダメージを与えられるかもしれません」

「しかし周辺被害は甚大な規模になるぞ。もし山火事ともなれば」

「ええ。ですから作戦ポイントは市街地に設定します」

「正気かね⁉︎ 町一つ焼け野原にする気か‼︎」

「消防と協力し事前に消化準備を整えておけば延焼は最小限に抑えられます」

「落とし穴を掘るのはどうか?」

「素直に落ちてくれるとは思えません。それに奴は基本直進してる様で、不意に方向転換している事も確認されます。まるで障害物に当たって方向を変える玩具の様ですが……その転換条件は判明しておりません。また攻撃及び此方からの凡ゆる刺激に一切の反応を示さず誘導も不可能です。よしんば落とせたとしても、元々山の中から現出した生物です。最悪地中を移動されたら打つ手がありません」

「とは言え、国民の財産を守るのが我々の責務だ。それを自ら……」

「現実を見て頂きたい。犠牲無くして解決を見られる様な状況ではありません。幸い、犠牲になるのは誰かの命ではない。千を救う為に十を捨てる。大義の為ならば、私は進んで天秤を持ち悪役になりましょう」

「……上條陸将、君にその権限は無い。その役は、総理である私の役目だ」

「笠原総理……」

「どうせ支持率低迷してるし散々叩かれてるんだ、汚名を被るのは慣れっこだよ。政治生命も人生も残り僅か……例え汚名でも歴史に名を残せるなら本望だ。という訳で上條君、今事案の全権を君に移譲する」

「しかしそれでは……」

「いいのいいの。もう何やるにも会議だ何だと無駄に手順踏むの飽きちゃった。それに歳食って固くなった頭より現場の君らの方が迅速で適切な判断してくれるでしょ。今後の全責任は私が引き受ける。好きにやり給え」

「……格好付け過ぎです」

「ハハ、一度言ってみたかったのよ。悔いは無い」

「謹んで拝命致します。では正式に、巨大不明生物燃焼作戦について会議に移行したいと思います」

「あーちょっと待って。その前に、その巨大不明生物っての長くて面倒だからどうにかならないの? 適当に名前付けるとか」

「適当と申されても難しいですよ? どんな名前だろうと国内外から少なからず批判は受けますし、総理お一人でなく日本政府が笑い者になります」

「あの~よろしいでしょうか?」

「何かね」

「怪獣の呼称ですが……既に広まり始めているようでして」

「どういう事か?」

「実は怪獣発生源地に一部報道が入っておりまして」

「マスコミか……忌々しい。まだ自衛隊も現着しとらんのに、相も変わらず足の早いことよ」

「そ、それでですね。発生地のすぐ近所に個人経営の養護施設がありまして。そこに住む第一発見者である少年がインビュー中にタケノコドンと命名。その映像がテレビ、ネットで拡散され世論に浸透しつつある模様です、はい」

「タケノコドン……ねぇ。古臭い様でなかなかしっくりくる」

「良いんじゃないですか? 第一発見者、それも子供の発案なら文句も出ないでしょう」

「ん、じゃ採用で」

――この後、政見放送により巨大不明生物の呼称は怪獣タケノコドンと正式に発表された。
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