タケノコドン

黒騎士

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タケノコドンⅢ――邪神獄臨――

偽りの神

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 那智熊野、高野山の奥の奥――何人も立ち入れぬ深い深い森の奥深くに在る禁足地に、装束も多種多様な数多の霊能者の集団が集められていた。取り仕切るは日本霊能界の総本山、奥之院と呼ばれる組織の先代頭領を務めた御家老と称ばれる御仁。時には反目する事も有る凡ゆる宗派派閥を結束させる為、歴代頭領の中でも秀でた人望も厚い彼がこの役に抜擢された。
 何故彼らがこんな場所に居るかというと――ここには霊的エネルギーのホットスポット、龍穴が在り、その真上に大地の気を吸って巨大化した“力”を持った神樹が聳え立っている。これを元に儀式を行い、タケノコドンの再現ならぬそれを超える式神を創り出し、あの怪物に対抗しようというのだ。
 現存、神樹を中心に千人を超える霊能者が一心に祝詞を唱える中、巫女が舞を捧げ準備が着々と進んでいた。仰々しく盛られた祭壇の中央には、日本が誇る三種の神器……天叢雲剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉が祀られている。これより行われる儀式は幾つかの段階が有り、龍穴の活性化と神樹への霊気を集約させる第一段階は整った。続いて身を清めた才有る霊能者の身に神を降ろし、最後にその者を人柱として神樹と融合……擬似的に神を降臨させるという奇跡に近い荒業である。

 今、白装束を着た術者の身が輝きを放ち一瞬眩い光輪を背負った。神降ろしの儀が成った証である。ここで、降ろされた神とはどの御柱であろうか? 日本神話に於いて最高神である天照大神アマテラス……位階は最高であるが、戦いには不向きであろう。最強の武神として挙げられる事も多く名高き武甕雷乃男命タケミカヅチか? ……いや。此度畏れ多くも選ばれたのは、神器の一つ天叢雲剣と縁が有り怪物退治の逸話で知らぬ者無いあの荒神……須佐之男命スサノオ

 人柱の儀が済み、遂に神の降臨の時が来た。注連縄で括られた術者と神樹が神々しい輝きに包まれ、光の柱が天を衝く。退避した霊能者達が祈り続ける中、収束していく光の中からそそり立つ巨大な人影が姿を現した。堅牢な甲冑と面に身を包み、神剣を携えた雄々しく精悍な男神の姿がそこに在った。
 歓声を上げる者、手を合わせ拝む者……そんな眼下の人間達を一瞥すると、偽神はゆっくりと歩き出し山を降りて北へと駆け出した。目指すは今正に関西を蹂躙する異形の怪物。偽神の出立を見届けた霊能者催三は、自衛隊との連絡役として司令部に常駐する北野に連絡を入れるのだった。


――司令部

「――分かりました、お疲れ様です。上條さん。儀式は滞りなく成功し、顕現した偽神は紀伊半島を北上してるそうです」

「そうか。では此方も攻撃準備を整えなければな」

「このまま行くと戦地は……」

「……京都になりますかな」



 歴史文化溢れる京の古き街並みを、意思すら解せぬ緑の脅威が侵食して行く。山の如き巨体は歴史有る建物を無造作に押し潰し、無限に生え渡る巨大な怪竹が吐き出す紫の毒霧により景色が染まる。既に日本列島の半分はその様な死の世界へと変わってしまっていた。

 …………ンン …………ゥゥン……ズゥン……

 遠くから地響きと共に猛烈な速度で何かが接近して来る。巨大な影は大地を蹴り、家々を飛び越え掲げた剣を振り下ろした。その身に深々と大きな切込みが入った怪物であったが、次の瞬間には見る見る塞がり出したのを見て偽神は剣を引き抜き飛び退いた。
 対峙する巨頭。偽神の身長100メートル前後に対しミサイルの放射能を吸収した怪物は150メートル超に成長。体高以上に怪物の山の様な巨体を前に偽神は頼り無さげに見えたが、寧ろ戦意は高揚し唸りを上げ益々意気軒昂。その身から淡い光を発し剣を構えた。

「あれが……神……」

「須佐之男命です。名前だけはご存知でしょう」

「日本人なら誰でも知っている。彼の大怪物、八俣遠呂智ヤマタノオロチを退治した神話は特に有名だ。成る程、谷を八つ跨る程の巨大蛇を退治した神であれば打って付けという訳か」

「そう……だと良いんだがな」

 オオオオォォォ‼︎‼︎

 偽神は雄叫びを上げ、再び剣を振り翳し怪物に斬りかかった。幾度も幾度も繰り出される剣撃が怪物の体を切り刻むも傷は悉く再生し、偽神を歯牙にも掛けず突き進もうとする。次第に周辺は怪植物が生え渡り、発せられた怪光が偽神へと向いた。しかし光がその身に達そうとした手前、薄い膜の様な光に阻まれ偽神を撃つ事は叶わなかった。
 偽神を援護する為、戦域ギリギリに配された戦車隊から長距離砲撃と誘導弾が発射される。京の町ごと怪物と怪植物を破砕するが、怪物は歩みを止めず植物の増殖も止まらない。偽神は斬り払った怪植物を掴み怪物を殴り付けるがやはり打撃も効果は見られず、力付くで押し返してみても完全に重量負けし逆に押されるばかり。
 このままだとラチがあかないと判断した偽神は大きく飛び退き、空いた左手を天に掲げると細い光の柱が降り注ぎ、その手にもう一振りの剣が現れた。

「2本目の剣?」

「十握剣……まさか⁉︎ 彼の遠呂智を討つ時に使われた天羽々斬」

「神剣の二刀流……スサノオも本気という事か」

 2本目の神剣を手にした事により更に力を増した偽神。勢いを新たに怪物を激しく切り刻み、その歩みは目に見えて遅くはしたもののやはり押し留めるまではいかない。
 ふと剣を止めた偽神。三度飛び退き、両の剣を天に掲げ交差させると、突如として暴風が吹き荒れ、空には見る間に厚い黒雲が沸き起こり激しい稲光が天を駆ける。と、偽神が剣を振り下ろした瞬間、轟音と閃光と共に幾本もの雷が怪物に降り注ぎその身を砕きながら炎を上げた。偽神の意図を察した上條は即座に命令を下し、発射されたナパーム誘導弾が直撃した怪物を猛烈な炎で包み燃え上がらせた。それを見受けた偽神は右手に持つ天叢雲剣を左脇に深く身構えた。

「何をする気だ」

「天叢雲のもう一つの名をご存知でしょう。ヤマトタケルが携え旅に出た途中、野火を払った事で付いたその字名を……草薙」

 次の瞬間、偽神の放った渾身の一振りが怪物を一刀両断せしめた。その一閃は偽神を中心に周囲に拡がり、全ての怪植物まで斬り払ってしまった。切り捨てられた怪物の燃え盛る上半身が焼け散る草葉の様に散ると、そこに黒と緑が入り混じる球状の核が露わになる。そこに既に振り上げられていた天羽々斬が打ち下ろされ、見事真っ二つに断ち割った。

「やった!」

「…………いや、駄目だ」

「なに?」

 北野の言葉通り、割れた筈の核はすぐ様元の形に戻り失った身体も再生を始めた。

「何故だ。確かに核を破壊した筈」

「物理的に割れただけで、実質的な破壊には至ってなかったんです。今一つ力が足りなかった」

「スサノオであっても及ばないと言うのか」

「所詮アレは人が作り出した偽りの神。本物の須佐之男命であれば或いは……しかし、その須佐之男も遠呂智を正面から討つ力は無かったのですよ。強い酒に酔わせて眠ったところ首を刎ねたのです。方や奴は此の世に解放された地獄其の物。世界と人類を滅ぼす為だけに在る存在……正に邪神」

 偽神はもう一度核を討たんと再び両手を掲げようとしたが、なんと邪神の体の内から伸びた緑の細長い手によって両腕を掴まれ阻止されてしまった。

「腕だと⁉︎」

 あの怪物に腕が在った事実に驚きが有ったが、それ以上にこれまで見れなかった意思的な行為に衝撃が走った。そのか細い二本の手は見た目に反し、逞しく力強い偽神の両腕を完全に押さえ付けその動きを封じている。
 すると何と、掴んだ偽神の腕から小さい怪植物が生え出し侵食し始めた。更に足元からも新たな怪植物が生え渡り、偽神の気の障壁の内部から放たれる赤い光線がその身に降り掛かり始めた。苦痛に思わず声を上げる偽神。また畳み掛ける様に邪神の眼からも更に強烈な怪光線が放たれ気の障壁が阻むも、ダメージと消耗から限界を迎え……遂に障壁が破られた。悲痛な叫びを上げる偽神。やがてその身は光となって霧散し、大きな光球が空に昇りながら掻き消えた。その瞬間、人類の敗北が決定した。
 現場の自衛官達は愕然とし、報せを受けた霊能者達を絶望のどん底に突き落とした。最早誰一人として抗う意思も力も残されてはいなかった。

「上條さん」

「……ああ。作戦、終了。総員撤収せよ」

 あの上條ですら意気消沈し、心ここに在らずという感じで再び進行を始めた邪神をただ見詰めるだけであった。

「上條さん……大丈夫ですか?」

「……あぁ」

「これからどうされますか?」

「手は尽くした。もう一度、アレより強い神を創り出せねば……」

「無理ですね。もう二度と」

「なら、終わりだ」

「この先どうなると?」

「……日本全土死地と成り、北海道が堕ちた時点で世界中から駄目元で核ミサイルの雨が降り注ぐだろう。結果奴は日本を飲み込む程に巨大化し、瞬く間に世界が滅びるだろうな。シェルターに篭もろうと、あの粒子は僅かな隙間からも侵入しフィルターも役に立たん。宇宙か深海にでも逃げない限り生き延びる事は不可能だろうな。他の国でも神を生み出す事は?」

「可能かもしれませんが、少なくとも日本が救われる事は無いでしょう。1つでも多くの船と飛行機を送って貰い避難支援を期待するしか」

「北野……もう我々には打つ手が無いのか?」

「…………無い事もない」

「何だ? 何でもいい、策が有るなら聞かせてくれ」

「策なんて呼べるものじゃない。一種の賭けみたいなもんですよ」

「構わない。僅かにでも希望が有るなら」

「……今一度、タケノコドンを復活させます」

「タケノコドンを⁉︎ しかし、奴は完全に消滅した。他の幼体を使うにしても……何か考えが有るんだな?」

「ええ。それなりに成功する確率は高いかと」

「我々は……自分は何をすればいい?」

「私1人で事足りますよ。貴方は貴方のすべき事を」

「もう自分に出来る事など何も無い。何でもいい、手伝わせてくれ」

「……分かりました。ではすぐに向かいましょう」

「何処へ? もしかして、あの井戸端町か?」

「そうです。しかし、その前に会っておきたい者が居ます」

 そうして、上條は残りの仕事を部下と上司に引き継ぎ、2人は銀のセダンに乗り込み何処かへと走り去った。
 邪神は京都陥落後南へ転進。取り残され逃げ場の無い高野山の霊能者達は三重へと下り、事前に用意されていた船舶で海へと逃れた。紀伊半島を樹海に沈めると邪神は再び北上し、関東へとその魔の手を伸ばし始めた。

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