No morals

わこ

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第二部

67.望むべきもの、ほしいものⅣ

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 怒りはとっくに消えていた。初めから裕也の中には悲痛な感情しかなかった。それが次第に表出し、その顔を俺に見せないように堪える姿がむしろ痛々しい。
 こんなにも近くにいるのに。裏切るとするなら、それは俺なのに。
 常に恐怖を拭い去れない。いつかは失う。それを知ってる。






「ん……ぅ、あ…はぁ…」
「……裕也」
「んんっ……ぁ、あ…」

 一発ヤッて円満解決。などとクソ最低な考えを抱けるほど緩い頭ではないが、いつの間にかこうなっていた。ベッドにもつれ込んだあとは、裕也が俺の上に乗ってきた。
 壁を背にして座る俺に跨って、腰を揺らすその姿。頑丈そうとは言い難い腰を抱きとめるこの腕は戸惑いを隠せない。

 なんでこうなったのか本気で分からない。こんな事をしたくて来たわけじゃない。それでも抱きしめずにはいられない。艶っぽい声を漏らしながら、裕也はしがみついてくる。

「あッ、っ……ン……っ」

 下からほんの少し突き上げてやれば体をしならせ、すり寄ってくる。妙に甘ったるい。素肌で触れ合い、裕也がぴったり重なってくる。
 咥え込まれたそこはギチギチで、強い締め付けにクラクラさせられる。煽られていた。裕也が、煽ってくる。淫らに腰を振るその姿も。

「ぁあ……っ、あ…」
「ぅ……ッく……」

 体は気持ちいい。だけどそれ以上に、罪悪感の方が大きい。
 醜い執着と嫉妬心のせいであれだけ傷つけた。なのに戻ってきてくれた。こんな男に自ら甚振られ、体をこうも穢されて。

「ん……りゅう、……」

 俺の背に腕を回しながら、濡れた目で誘い込んでくる。そっとキスされ、驚くほど甘ったるく、熱を孕んだ唇が合わさった。
 痛々しいと思うのは、気のせいではないだろう。傷付けた。悲しませた。怒る気力さえ、奪い取った。

「ふ……」

 ただただキスを受け入れていると、ゆっくり顔を離した裕也が探るように見つめてくる。ずちゅっと腰を動かしていた。悩まし気に眉根を寄せた、そんな表情から視線を逸らした。

「ぁ……っ、よく……ない……?」

 発狂しそうだ。どうすればそう思える。
 不安そうにポツリと聞かれ、ぎゅっと裕也を抱きしめた。

「いいよ……」
「んぁっ、ぁ……っんん」

 突き上げた。グッと。裕也の肩が震えた。

「……気持ちいい」
「ッ……ん……は、ぁ……っ」

 弱々しく抱きついてくる。壊さないように抱きとめた。俺の様子を窺うように、その目で控えめに見つめてくる。

「ぁっ……なあ……」
「うん……?」
「……満足、できるか……俺で……」
「……え?」

 はっと、いくらか目を見開いたと思う。だって何を今さら、そんなことを。
 しっかり交わっていた視線は外された。顔を肩に埋めるようにして、ぎゅっとその腕に力がこもる。

「……女には……なれねえけど……」

 今度こそはっきり目を見開いた。息が止まる。耳元の消え入りそうな声に、どれだけのことをしたか明確に理解した。
 熱を持った体とは正反対に頭が瞬時に冷えていく。そうだ。それだけは絶対に駄目だった。何が裕也をこうさせたのか、今の一言でようやく分かった。

「……裕也」
「許すって……前に、言ったけどな……やっぱ、ダメだ……っ」

 食いしばるように、声を絞り出すように、ぽつりぽつりと漏らされる。

「……俺じゃないやつ……抱くな」

 一撃で貫かれたような気がした。心臓にどっと深く押し寄せ、抱きとめるこの腕からもとうとう加減が消えている。
 こうしやってどんどん手放せなくなる。窮屈に抱きしめて裕也を閉じ込め、それを拒むどころか抱き返される。芽を出すのは醜い私欲で、執着心だけが膨らんでいく。

「んん……」

 奪うように唇を重ねた。どんなに謝ってももう責めてくれない。どれだけ情けなく頭を下げても、裕也は何も言わずに俺を許す。
 一番肝心なところで俺に甘い。許されないようなことをしたのに、裕也は俺を受け入れた。

「ん、ぅ……」

 繋がったままその体をトサッと後ろに押し倒し、唇をむさぼった。深いキスは合間に途切れるが、そのささいな距離さえも惜しくてならず、どちらからともなくまたすぐに重なる。
 同じタイミングで息をつき、上から裕也を視界におさめた。見上げられて、呼吸が止まる。ただ純粋に、見つめてくる。

「……こんなこと」
「うん……?」
「……させない。お前じゃなかったら……」

 分からせるようにそれだけ言って、すがる手で引き寄せてくる。回された腕が俺の肩を抱く。他にどうしていいか分からず、もう一度ゆっくりキスで返した。

「…………分かってる」

 これは義務じゃない。貸し借りの話とも違う。求めて、求められるから、ひとつの場所に戻って来る。

「分かってる……全部ちゃんと、わかってる……」

 大事なことは何も言えない。言わないことを許されて、それに甘えてきた。今もそう。
 背に触れる指先に僅かな力が入り、それに応じてゆっくり腰を動かした。途端になまめかしく響いてくる。その声を聞き漏らさない。

「裕也……」

 呼びたい名前は一つだけで、抱きたいのも一人だけだ。大事にしたい。優しくしたい。そう思うのに、うまくいかない。

「んっ……ぁあ、っあ……ッ」

 中を犯す。異様に熱い。締め付けられて眉間が寄った。呼吸は乱れ、背中には爪が食い込む。お互いを呼びながらそれ以外は何も言わず、隙間を作らないように体温を感じた。

「りゅうッ、ぁ……はぁ、ぁっ……」

 責任を放棄し、紛らわせている。いつもこうやってはぐらかし、日常の中に逃げ込むしかない。
 大事な相手ができてしまった。なのにまだ、逃げている。
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