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しおりを挟む「北都、俺気づいてるぞ」
何に、と訊いたが樹は黙りこくるばかり。
「なあ、何にだよ。どうした?」
すると、まるでドラマみたいな台詞が耳に届く。
「――続きは俺ん家でな」
飲み屋を出てタクシーに2人で乗り込み、樹が運転手に告げた行き先は彼の自宅近くだった。
「…何か話あるの?」
訊いても、樹は窓の外を見ていて聞いていないようだ。もしくは無視されているのか。
「気づいてる」と言った意図は、恐らく察しがつく。無論、俺の気持ちにだろう。
でもそのことを断られるんじゃないか。
無言の車内はいつになく重苦しくて、不安で、怖かった。
「どーぞ。片付けてないけど」
いつものことだろ、と適当に返しながら玄関をくぐる。
なぜだろう。何回か言ったことのある家なのに、何年も一緒にいるのに、心臓の鼓動が速くなる。
「ごめんな、急に誘って」
そこでやっと、当日に呼び出したことを詫びた。でも今の俺にはそんなことは関係ない。
「ううん。会いたかった」
言ってから、はっと息を呑む。おかしなことを口走ったと思った。
でも樹は笑っている。
「……ねえ、気づいてるって何に?」
樹はそれには答えず、ソファーを勧める。黒い革張りの、いかにも彼らしい調度品だ。
隣に座ると、腕を肩に回してきて少し動揺する。
最近は散々冷たい態度を取られていたのに、何だこの距離感は。
脳内が思考でぐるぐるしていると、やっと樹が口を開く。
「北都、俺のこと好きだろ」
いきなりの、そしてドストレートな言葉にぎくりとなる。やはりバレていたのだ。
言葉を発しようとした俺の唇を、樹の人差し指がふさぐ。
「俺も好き」
驚いて顔を見返す。
その瞳は、まるで獲物を狩るライオンのように鋭くて力強い。
「…北都が俺にアピールしようとしてるのに気づいて、泳がせてた。子犬みたいで、かわいかったなぁ」
そこでやっと我に返り、「何だよお前…ずるいぞ」
「お前こそ早く言ってこねーのが悪いんだよ」
男同士の屈託のない言葉が交わされる。
これでもいいんだ、と思えた。受け入れてくれた、というか先を越されていたことにどこか安心する。
「じゃあ、別に嫌いになったってわけじゃない?」
俺の問いに、「はっ?」と真剣な顔で訊き返される。
「だって最近めっちゃ冷たかったじゃん」
「ああ…。それに関してはごめん。ふてくされるお前がかわいくて」
何だ、とため息を漏らした。いらない心配をしてしまったようだ。
「じゃ…行こうか」
恐らく寝室だろう方向を指さし、片頬を上げてニヤリと笑う。ああ、こういう笑い方がずるい。
立ち上がったときには、もう服を脱ぎ始めている。
細いけれど筋肉質な上体が露わになった。
シングルベッドはまさにシンプル。意外とシーツが真っ白なことに驚く。
「北都の体格、好きなんだよな」
俺も、と言おうとしたが樹に押し倒される。
確かに樹なら上側かもな、なんて絶妙に腑に落ちる。
そこで、ファーストキスすらしていないことに気が付いた。それをぶっ飛ばしてベッドまで来るなんて、まあ樹らしい。
「あとお前の低い声も好き」
どっちも低いけどな、と笑うと、
「北都のほうが低音出るじゃん」
今夜はたっぷり浴びせろよ、なんて言うから、
「ああ」
騙された分を取り戻してやる、とほくそ笑んだ。
終わり
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