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裏切り
「ねぇ、何かあったの?」
今日は私の結婚式。
少し騒がしくなるのは仕方ないとしても、これは度を過ぎているのではないかと苛立つほどうるさい。
私の支度を手伝ってくれている侍女に苛立ちをぶつけないよう、優しく尋ねた。
「わかりません」
侍女は困った表情をして首を横に振る。
「みてきます」
だんだんとうるさくなってくる声にとうとう耐え切れそうになくなったとき、侍女が慌てて言った。
「うん。お願いね」
私は扉から目を外し、目の前の鏡へと視線を移す。
「はい」
侍女は慌てて外の様子を見に行った。
(全く、いい大人が結婚式ぐらいで騒がないでよ。初めてでもあるまいし)
初めてでも、ここまでうるさいとなれば許さることでもないけど、と思いながらため息を吐く。
鏡に映る自分をみて、思わず見惚れる。
私は自分が美しい人間であることを小さい頃から理解していた。
我が一族はもともと美形が多いが、その中でも私は飛びぬけていた。
代々、妖怪とのつながりを持ち、人間社会を守ってきた権力者一族でもある。
これだけでも大勢に言い寄られるのに十分なのに、私はさらに特別だった。
我が西園寺家の女は代々、巫女の力を授かって産まれる。
個人差はあるが、一番弱くても骨折したところを一瞬で治せるくらいの能力だ。
私はその力が歴代最強と呼ばれるほどのものを授かった。
一族はそれはもう呆れるほど、私を蝶や花のように大切に、大切に育てた。
そんな私の婚約者を選ぶとなったときは、それはもう大変だった。
相手の家柄や過去は徹底的に調べ、私と釣り合うかを重要視した。
これは私を愛しているかではなく、自分たちが損をしないようにするためだ。
幼い頃から大人たちの汚いところをたくさん見てきた私にとって結婚とは、愛ではなく利用価値があるかどうかなものだと思っていた。
ドラマや映画のような結婚は私には関係ない。縁のないものだと。
憧れという感情すら湧かなかった。
そんな私の婚約者選びは十年の月日が流れて、ようやく決まった。
私が十五歳のときで、相手は十八歳だった。
彼の第一印象は特に何もなかった。
顔は整っているのだろうが、一族の容姿を飽きるほど見てきた私にとってはたいして何も感じなかった。
友達と言えるかは微妙な関係の子たちには「羨ましい」と言われた。
「笑顔がとても素敵だ」と、ある子は言っていたが、私にはその笑顔は作り物という印象を受けた。
婚約者とはそこまで親密ではないため、実際がどうかはわからなかった。
金持ちや権力者の家に産まれると仕方のないことなのかもしれないが、子供は大人の機嫌を損なわないよう必死になる。
もちろん、私はしたことはないが。
しいていうなら、自分の婚約者の第一印象は「胡散臭い笑顔」をする男だと思っていた。
初めて会ったその日から、私たちは月に一度会うことになった。
面倒くさかったが、西園寺家に産まれたからには結婚し子供を産まなければならない。
これは義務だ。
人間社会を守るため、巫女の力をなるべく多く残さなければならない。
悪鬼と戦うためにも。
彼を好きになることはなかったが、それでも残りの人生を共に過ごしてもいいかもしれないと思えるくらいには仲良くなれたと思う。
恋人というよりは戦友としてだが。
「お嬢様!」
外の様子を見に行った侍女が顔面蒼白で戻ってきた。
入室の許可を取るのを忘れるほど慌てている。
「落ち着いて。ゆっくり息をすって」
私は侍女に近づいて背中をさすってあげる。
侍女の息が落ち着いてくると、何があったのかを尋ねた。
「それが……」
侍女は言ってもいいのか迷っていた。
今にも泣きだしそうだった。
いったい人の結婚式当時に何をやらかしてくれたのだ、と怒りを通り越して親族に呆れていると誰かが部屋に入ってきた。
(はぁ。全く誰が新婦の許可もなく勝手に入ってくるのよ)
髪をセットしてなければ、前髪をかき上げていた。
「未桜」
従妹の茜に呼ばれた。
彼女の方を見ると大粒の涙を流していた。
いつものように噓泣きかよ、と今日何度目かわからないため息を吐いた。
だが、それよりも何故彼女は私の婚約者に肩を抱かれているのだろうか?
彼の方を見るが全く目が合わない。
急に嫌な予感がしてきた。
心臓の鼓動が早くなっていく。
二人の周りには私の両親だけでなく、彼らの両親もいた。
私の両親だけは目を吊り上げていて怒っているのがわかる。
二人の両親は私の両親とは真逆で眉を下げ申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい。未桜」
茜がもう一度私の名を呼んだ。
「すまない。未桜」
婚約者の蘇芳は私の目を見ずに謝る。
(はぁ。本当に呆れるわね。これじゃ、傍から見たら私が悪者じゃない)
何についての謝罪かなんて、言われなくてもわかる。
茜はわざと見せつけるかのようにお腹に手を置き、さすっているのだから。
(クソ女)
茜は昔から私のものを何でも欲しがる悪い癖があった。
まさか、今でもそうだとは思っていなかったが、ある意味感心してしまう。
よくもまぁ、人の物に執着できる、と。
「なにが?言ってくれないとわからないんだけど」
私はにっこりとわざとらしく笑って言ってやった。
厭味ったらしく。
「実は私たち愛し合ってるの」
茜は申し訳なさそうな顔をしながら嬉しそうに、勝ち誇った口調でそう言った。
(馬鹿ね。この子は自分の状況わかって言ってるのかしら。あんた誰と婚約したのか忘れてるんじゃないわよね?)
私の婚約者と茜が子供を作ってしまったことは、西園寺家当主の耳にはもう入っているはずだ。
この二人と両親には重い罰が与えられるだろう。
彼女はそのことがわかっていないのだろうか。
茜はまだ話を続けた。
「子供もいるの」
(言われなくてもお腹をさすっているしぐさを見れば嫌でもわかるわ)
「おめでとう」
私は笑顔で言った。
それがおかしかったのか、その場にいた全員の顔が固まった。
確かに普通なら怒るところだろう。
自分の婚約者を寝取った女に子供ができたことを聞かされてすぐ祝福の言葉などかけないだろうから。
「え?今なんて……」
茜は顔を引きつらせながら聞いてきた。
信じられない表情をしている彼女のために、私はもう一度同じ言葉を言ってやった。
心の底から祝福の言葉をおくった。
「おめでとう、とそう言ったのよ。子供ができたんでしょ。お祝いの言葉をおくるのは当然でしょ」
(まぁ、他の人が私と同じように祝ってくれるかは知らないけどね)
私は間違いなく祝ってもらえないと確信していた。
「じゃあ、これはあなたにあげるわ。あ、今日の結婚式、私の代わりに出る?どうせ、みんな知り合いだし。ドレスはこれになるけど。私のもの好きでしょ、あなた。昔から私のもの欲しがってたし。それ、もう私には必要ないし。いらないからあげるわ」
葵を指さして「いらない」と告げる。
その言葉に傷ついたような表情を蘇芳はするが、被害者ぶる姿に腹が立った。
殴る価値もない男だと言い聞かせて、なんとか耐えた。
「……!」
茜は顔を真っ赤にして体を震わす。
私はドレスを脱ぎ、彼女に投げつけた。
彼女は受け取らなかったため、ドレスは床に落ちた。
茜は悔しそうに唇を噛み、私を睨みつけた。
それに対して、今度は私が勝ち誇った笑みを浮かべてやった。
ドレスを脱いだため下着になったが、恥ずかしがることなく部屋から出た。
すぐに侍女が「お嬢様!」と大慌てで上着を持ってきてくれたので寒くなることはなかった。
その後、結婚式がどうなったのかは知らない。
私は西園寺家の車に乗って屋敷に戻って、ずっと部屋に閉じこもっていたから。
親族からメッセージが届いていたが、一切見なかった。
見なくても何が書いてあるかは簡単に予想ができたから。
心配しているようで、内心馬鹿にしているメッセージなど見る気などおきなかった。
暫くは放っておかれるだろうと思い、部屋でゴロゴロしていると当主に呼び出された。
結婚式のことだよな、と要件はわかっていたので行かないという選択肢は用意されていなかった。
今日は私の結婚式。
少し騒がしくなるのは仕方ないとしても、これは度を過ぎているのではないかと苛立つほどうるさい。
私の支度を手伝ってくれている侍女に苛立ちをぶつけないよう、優しく尋ねた。
「わかりません」
侍女は困った表情をして首を横に振る。
「みてきます」
だんだんとうるさくなってくる声にとうとう耐え切れそうになくなったとき、侍女が慌てて言った。
「うん。お願いね」
私は扉から目を外し、目の前の鏡へと視線を移す。
「はい」
侍女は慌てて外の様子を見に行った。
(全く、いい大人が結婚式ぐらいで騒がないでよ。初めてでもあるまいし)
初めてでも、ここまでうるさいとなれば許さることでもないけど、と思いながらため息を吐く。
鏡に映る自分をみて、思わず見惚れる。
私は自分が美しい人間であることを小さい頃から理解していた。
我が一族はもともと美形が多いが、その中でも私は飛びぬけていた。
代々、妖怪とのつながりを持ち、人間社会を守ってきた権力者一族でもある。
これだけでも大勢に言い寄られるのに十分なのに、私はさらに特別だった。
我が西園寺家の女は代々、巫女の力を授かって産まれる。
個人差はあるが、一番弱くても骨折したところを一瞬で治せるくらいの能力だ。
私はその力が歴代最強と呼ばれるほどのものを授かった。
一族はそれはもう呆れるほど、私を蝶や花のように大切に、大切に育てた。
そんな私の婚約者を選ぶとなったときは、それはもう大変だった。
相手の家柄や過去は徹底的に調べ、私と釣り合うかを重要視した。
これは私を愛しているかではなく、自分たちが損をしないようにするためだ。
幼い頃から大人たちの汚いところをたくさん見てきた私にとって結婚とは、愛ではなく利用価値があるかどうかなものだと思っていた。
ドラマや映画のような結婚は私には関係ない。縁のないものだと。
憧れという感情すら湧かなかった。
そんな私の婚約者選びは十年の月日が流れて、ようやく決まった。
私が十五歳のときで、相手は十八歳だった。
彼の第一印象は特に何もなかった。
顔は整っているのだろうが、一族の容姿を飽きるほど見てきた私にとってはたいして何も感じなかった。
友達と言えるかは微妙な関係の子たちには「羨ましい」と言われた。
「笑顔がとても素敵だ」と、ある子は言っていたが、私にはその笑顔は作り物という印象を受けた。
婚約者とはそこまで親密ではないため、実際がどうかはわからなかった。
金持ちや権力者の家に産まれると仕方のないことなのかもしれないが、子供は大人の機嫌を損なわないよう必死になる。
もちろん、私はしたことはないが。
しいていうなら、自分の婚約者の第一印象は「胡散臭い笑顔」をする男だと思っていた。
初めて会ったその日から、私たちは月に一度会うことになった。
面倒くさかったが、西園寺家に産まれたからには結婚し子供を産まなければならない。
これは義務だ。
人間社会を守るため、巫女の力をなるべく多く残さなければならない。
悪鬼と戦うためにも。
彼を好きになることはなかったが、それでも残りの人生を共に過ごしてもいいかもしれないと思えるくらいには仲良くなれたと思う。
恋人というよりは戦友としてだが。
「お嬢様!」
外の様子を見に行った侍女が顔面蒼白で戻ってきた。
入室の許可を取るのを忘れるほど慌てている。
「落ち着いて。ゆっくり息をすって」
私は侍女に近づいて背中をさすってあげる。
侍女の息が落ち着いてくると、何があったのかを尋ねた。
「それが……」
侍女は言ってもいいのか迷っていた。
今にも泣きだしそうだった。
いったい人の結婚式当時に何をやらかしてくれたのだ、と怒りを通り越して親族に呆れていると誰かが部屋に入ってきた。
(はぁ。全く誰が新婦の許可もなく勝手に入ってくるのよ)
髪をセットしてなければ、前髪をかき上げていた。
「未桜」
従妹の茜に呼ばれた。
彼女の方を見ると大粒の涙を流していた。
いつものように噓泣きかよ、と今日何度目かわからないため息を吐いた。
だが、それよりも何故彼女は私の婚約者に肩を抱かれているのだろうか?
彼の方を見るが全く目が合わない。
急に嫌な予感がしてきた。
心臓の鼓動が早くなっていく。
二人の周りには私の両親だけでなく、彼らの両親もいた。
私の両親だけは目を吊り上げていて怒っているのがわかる。
二人の両親は私の両親とは真逆で眉を下げ申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい。未桜」
茜がもう一度私の名を呼んだ。
「すまない。未桜」
婚約者の蘇芳は私の目を見ずに謝る。
(はぁ。本当に呆れるわね。これじゃ、傍から見たら私が悪者じゃない)
何についての謝罪かなんて、言われなくてもわかる。
茜はわざと見せつけるかのようにお腹に手を置き、さすっているのだから。
(クソ女)
茜は昔から私のものを何でも欲しがる悪い癖があった。
まさか、今でもそうだとは思っていなかったが、ある意味感心してしまう。
よくもまぁ、人の物に執着できる、と。
「なにが?言ってくれないとわからないんだけど」
私はにっこりとわざとらしく笑って言ってやった。
厭味ったらしく。
「実は私たち愛し合ってるの」
茜は申し訳なさそうな顔をしながら嬉しそうに、勝ち誇った口調でそう言った。
(馬鹿ね。この子は自分の状況わかって言ってるのかしら。あんた誰と婚約したのか忘れてるんじゃないわよね?)
私の婚約者と茜が子供を作ってしまったことは、西園寺家当主の耳にはもう入っているはずだ。
この二人と両親には重い罰が与えられるだろう。
彼女はそのことがわかっていないのだろうか。
茜はまだ話を続けた。
「子供もいるの」
(言われなくてもお腹をさすっているしぐさを見れば嫌でもわかるわ)
「おめでとう」
私は笑顔で言った。
それがおかしかったのか、その場にいた全員の顔が固まった。
確かに普通なら怒るところだろう。
自分の婚約者を寝取った女に子供ができたことを聞かされてすぐ祝福の言葉などかけないだろうから。
「え?今なんて……」
茜は顔を引きつらせながら聞いてきた。
信じられない表情をしている彼女のために、私はもう一度同じ言葉を言ってやった。
心の底から祝福の言葉をおくった。
「おめでとう、とそう言ったのよ。子供ができたんでしょ。お祝いの言葉をおくるのは当然でしょ」
(まぁ、他の人が私と同じように祝ってくれるかは知らないけどね)
私は間違いなく祝ってもらえないと確信していた。
「じゃあ、これはあなたにあげるわ。あ、今日の結婚式、私の代わりに出る?どうせ、みんな知り合いだし。ドレスはこれになるけど。私のもの好きでしょ、あなた。昔から私のもの欲しがってたし。それ、もう私には必要ないし。いらないからあげるわ」
葵を指さして「いらない」と告げる。
その言葉に傷ついたような表情を蘇芳はするが、被害者ぶる姿に腹が立った。
殴る価値もない男だと言い聞かせて、なんとか耐えた。
「……!」
茜は顔を真っ赤にして体を震わす。
私はドレスを脱ぎ、彼女に投げつけた。
彼女は受け取らなかったため、ドレスは床に落ちた。
茜は悔しそうに唇を噛み、私を睨みつけた。
それに対して、今度は私が勝ち誇った笑みを浮かべてやった。
ドレスを脱いだため下着になったが、恥ずかしがることなく部屋から出た。
すぐに侍女が「お嬢様!」と大慌てで上着を持ってきてくれたので寒くなることはなかった。
その後、結婚式がどうなったのかは知らない。
私は西園寺家の車に乗って屋敷に戻って、ずっと部屋に閉じこもっていたから。
親族からメッセージが届いていたが、一切見なかった。
見なくても何が書いてあるかは簡単に予想ができたから。
心配しているようで、内心馬鹿にしているメッセージなど見る気などおきなかった。
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