狐の嫁入り

アリス

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一人目


「申し訳ありません。若奥様」

花梨は床に頭をつけ、必死に謝罪をした。

花梨は急いで服を取り戻しにいったが、既に燃やされていた。

燃やした男は笑顔で「言われた通り、ちゃんとやりました」と褒めてくれと言わんばかりに報告してきた。

いつもなら当然のことを何自慢しているのかしら、と蔑んだが、今日ばかりは「なんで仕事を真面目にやるのよ!」と、自分でも何を言っているのかわからないことを男に言った。

逃げ出そうかとも思ったが、神力で逃げられないように印をつけられたためできない。

殺される、と泣きながら戻るしかなかった。

せめて誠意を見せればと思い、花梨は土下座をするが花嫁様の顔を見なくても空気感で感じてしまった。

物凄く怒っている、と。

「なにが?」

私は花梨が何にたいして謝っているのか、わかっていたが敢えてそう言った。

謝罪だけでは何もわからない、という雰囲気を作りながら。

「服は既に燃やされてしまい、持ってくることはできませんでした」

ここで誤魔化せば何をされるかわからないと、花梨は素直に言った。

(燃やされて……はぁ?人の荷物を勝手に燃やした!?)

怒りが爆発しそうになった。

予想だと雅家の誰かの部屋にあるから持ってこられなかった、と言われると思っていたが、まさかの燃やした発言に頭が痛くなった。

百歩譲って盗んだなら、まだ許せる。

返ってくる可能性があるからだ。

だが、「燃やした」はない。それだけはない。

燃やされたら、二度と私の元に返ってくることがないのだから。

「人のものを勝手に燃やしたの?どうして?」

私は殴りたい衝動を抑えて花梨に尋ねる。

「それは……」

花梨が勝手にやったとは考えにくい。

指示した者がいるはずだ。

それは間違いなく雅家の誰かなのだろう。

「答えなさい。お前は今、私に仕えているはずよ。主の命に従えないのなら、ここにお前の居場所はないし、それ相応の罰を与えるわ」

これは脅しではなく本気だ。

「もし、お前に指示した者が助けてくれると思っているのなら、その期待は捨てたほうがいいわ。西園寺家と雅家の仲に傷をつけたもの者になるリスクなんて背負うと思う?でも、今正直に話すなら、私がお前を助けてあげるわ。どうする?」

選択肢はあるようでない。

このまま死を選ぶというなら、望み通りにするまで。

だが、私の側に着くというのなら、助けてあげるつもりだ。

いくら私でも、この世界で味方もいない状況ではどうなるかはわからない。

一匹でも多くの手駒が必要だ。

花梨には最初の手駒になってもらうつもりだ。

「……奥様とお嬢様方からの指示でございます」

花梨はこの瞬間、雅家から私へと乗り換えた。

彼女もわかっているのだろう。

もし、このことが発覚したら、責任を負わされるのは自分たちだということを。

今までもそうだったため大丈夫だと思い、花嫁を虐めることにしたが、それが全ての間違いだったのだ。

花梨は忠誠からではなく、自分の身を守るために花嫁を利用することに決めたのだ。

「そう。よく言ってくれたわ。約束通り、あなたのことは私が責任をもって守ってあげるわ。もちろん、あなたが私の指示に従っているうちはね」

「……」

花梨は屈辱を感じても何もできなかった。

ただ、歯を食いしばり、拳を強く握りしめて耐えることしかできない。

「じゃあ、あなたが私の側について最初の指示を出すわ。私の荷物にあったものを今すぐ用意してきて。同じものはないから、似たもので許してあげるわ。一人じゃあ、無理でしょうから、他の侍女たちに助けを求めてもいいわ」

侍女たちは部屋の外、砂利の上で正座して待機していた。

「なるべく早くしてね。私の旦那様とその家族が待っているみたいだからね」

「……はい。畏まりました」

命が助かるだけいい方だと思っていたが、花梨は本当に選択は正しかったのかと思い始めた。

その推測は当たっていた。

花梨は待機していた侍女たちを集め、花嫁の荷物は何があったのかをまず確認した。

似たものを全部そろえなければ、花嫁は雅家の皆様がお待ちしているところに行く気はないことを伝えると、全員顔から血の気が引いた。

連れて行かなければ自分たちが雅家の人たちに怒られ、無理やり連れて行こうとすれば自分たちが大けがをする。

つまり侍女たちに残された選択肢は一つしかない。

彼女の荷物と同じものを用意して、自分の足で雅家の人たちが待つ部屋に行ってもらう。

侍女たちは必死になって、花嫁の荷物に何があったのかを思い出した。

妖狐は妖の中では頭がいいことで有名なので、何があったのかはすぐに把握できた。

だが、問題は西園寺家の娘が持っていた荷物を自分たちが用意できるかということだ。

花嫁が持参した服はどれも高価だった。

他にも、メイク道具、日用品、その他諸々、全て高価だった。

お金のことは何も言われなかった。

つまり自分たちでどうにかしろ、ということだ。

侍女たちは、とりあえず自分たちの懐の事情を明かし、足りるかを確認したが、人間の社会のお金の基準がよくわからなかったため、足りるのか足りないのかが把握できなかった。

とりあえず、人間社会のものを取り寄せてくれるという店に行けばわかることだと、行ってから悩むことにした。

結果、お金は全然足りてなかった。
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