狐の嫁入り

アリス

文字の大きさ
11 / 31

価値観の違い

「嘘でしょ。こんなに高いの?」

花梨や侍女たちは唖然とした。

「当然すっよ。これは人間たちの中でも高級ですけど、ここじゃあ、さらに高級になりますよ」

店の店主はおちゃらけた口調で話す。

「でも、ここじゃあ、誰も着ないじゃない」

「そうっすね。でも、あなたたちはこれが欲しいんでしょう?」

妖狐は妖の中では卑しい存在だとよく言われる。

その言葉を聞くたびに腹が立つが、今花梨たちもこの店主に対して同じことを思っていた。

(足元を見やがって)

花梨は花嫁にたいしての怒りすらまだ収まっていないのに、店主のせいで怒りが爆発しそうになった。

それでも我慢するしかない。

この店以外で人間の世界のものを手に入れることなどできないのだから。

「とりあえず。これとこれとこれ。それと、ここの棚にあるものを全部ちょうだい。それと、指定したものを用意することはできる?」

「もちろんできますよ」

店主は目を細めながら怪しく笑う。

「なら、お願いするわ。その件はまた来たときに話すわ。とりあえず今は、これだけでいいから早く用意して」

「畏まりました」

店主は花梨が言ったものを包んでいく。

商品と代金を交換すると、花梨たちは店主の言葉を聞く前に、さっさと店から出て言った。

「ありがとうございました。またのお越しを楽しみにしております」

誰にも聞こえないのに、店主はそう言った。

売れた商品が置かれていた場所を見て、にんまりと笑う。

「はぁ。あの噂はほんまやったんやな。花嫁様が西園寺未桜になったって。これは、面白くなりそうやな」

店主は顎をさすりながら悪い顔をして笑った。

「あ、西園寺未桜が花嫁になったのなら、人間の世界にあるもの沢山仕入れてとかんとな」

店主は店の看板を営業中から休業にして、人間の世界にある商品を仕入れるために出かけた。




※※※




「それで、用意できたのはこれだけだと?」

「はい。申し訳ありません」

花梨たちが出かけてから戻ってくるまで一時間が過ぎたくらいだ。

その間に、誰かが「遅い」と呼びに来るかと思ったが来なかった。

私が花梨たちに虐められているから邪魔しないように来なかったのか、それとも既に朝食を終えたかのどちらかだろう。

後者の方が一人で朝食を食べられるので気を使わなくていいが、やり返すのには前者の方が罪悪感を全く持たなくて済む。

「まぁ、今日はこれでいいわ。その代わり、明日には全部揃えておいて」

花梨たちが用意したのは、ドレス三着とワンピース一着ヒール二足スニーカー一足とメイク道具一式だ。

これだけあれば、朝食に出るには問題ない。

とりあえず、ドレスを着るわけにはいかないので着る服は必然的にワンピースになる。

このワンピースはハイブランドで尚且つ世界に百着しかないものだ。

洗練されていて美しいが、なぜこれが妖の世界にあるのだと疑問に思う。

「謎だわ」

考えても答えはわからないので意味はないが、気になってしまうのは仕方がない。

「準備するから手伝って。それくらいはできるわよね」

「はい。もちろんです」

花梨は雅家の者たちの顔や髪を整えることを許される数少ない者の一人であるため自信があった。

「なら、よろしく」

「はい。お任せください」


花梨は侍女たちを部屋から出すと仮面を外した。

私の顔を見た瞬間、花梨は驚いて固まった。

妖狐は美しい妖として有名だが、私の顔はそれ以上だったみたいだ。

花梨は気を取り直すと、髪から始めた。

雅家の方々がお待ちしているから急がないといけないと内心焦るが、それよりも焦って失敗して花嫁の機嫌を損ねることの方が怖かった。

雅家の女性たちにしたときよりも丁寧に施した。

だが、花嫁からの贈られた言葉は最悪だった。

「なにこれ?信じられない」

私は花梨の「終わった」という言葉を聞いて、渡された手鏡に移った自分の姿を見て絶句した。

人間と妖では美の基準がここまで異なるのか、と。

花梨の様子からわざとやったわけでなはいとわかっていたので怒ることはしなかったが、それにしてもこれはひどい。

江戸時代、いや平安時代にまで時が戻ったのではないかと思うほどだ。

買ってきたメイク道具を使っていない時点で気づくべきだった。

慣れてないから、慣れているものの方がいいだろうと思い花梨の道具を使わせたが、それが仇になるとは思わなかった。

仕方ないので、メイクは全部落とし、髪もほどいた。

ここには電気がないのでヘアアイロンやコテを使うことができない。

そもそも、燃やされたので今はない。

方法は一つしかない。

神力を使って髪を巻くしかない。

「こんなことに神力を使って」と西園寺家にいたときは怒られたが、今はその経験が役に立った。

メイクをするにも鏡が必要なので、手鏡を神力を使って顔の前で固定し、メイクをしていく。

いつもは西園寺家の侍女がしてくれるので自分ではあまりしないが、したことがないわけではないので問題なくできた。

「うん。完璧ね」

鏡に映る自分を見て私はそう呟く。

花梨も私の顔を見てうっとりとした表情を浮かべていた。

「仮面を」

「つけていかれるのですか?」

「ええ」

「せっかく、お美しいのにもったいなくありませんか?」

媚びをあからさまに売られるのはあまり好きではないが、今は花梨を手駒にできたことの方が嬉しく聞き流すことにした。

「だからよ」

私が何を言っているのか理解できていない花梨は首を傾げたが、それを無視して雅家の人隊が待っているであろう部屋に花梨たち侍女を引き連れて向かった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「声に出せなかった五年分の気持ちを、離婚届と一緒に置いていきます」

まさき
恋愛
「ねえ、今日も遅いの?」 返信は、既読だけだった。 陽菜は笑顔が得意な女だった。嬉しいときは声に出して笑って、悲しいときは素直に泣いた。そういう自分が好きだった。 でも蓮の前では、いつからか言葉が出なくなった。 仕事一辺倒の夫を責めたかった。待ちくたびれたと泣きたかった。それでも言えなかった。言ったら、壊れる気がした。 五年間、声を飲み込み続けた。 笑顔で送り出して、一人で夕食を食べて、眠れない夜をやり過ごした。蓮は悪い人じゃない。ただ、私を見ていなかった。 それだけのことが、五年分積み重なった。 離婚届をテーブルに置いて、陽菜は家を出た。声に出せなかった五年分の気持ちを、一緒に置いて。 ドアが閉まった音を聞いて、蓮は初めて立ち上がった。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。