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売られた喧嘩は買いましょう
「奥さまがお越しになりました」
‘奥さま’その言葉を聞いた瞬間、雅家の者たちに緊張の糸が張り巡らされた。
声は花梨のものだった。
花梨は侍女たちの中で最も優秀で、言うことをよく聞く手駒だった。
花梨には花嫁のことを丁重にもてなすように言いつけていた。
彼女ならその言葉の意味をよく理解していたはずだ。
それなのに、‘花嫁様’ではなく‘奥さま’と言った。
朝会ったときは普通だった。
その花梨をたった数時間で手懐けられたなんて信じられなかったが、花嫁を‘奥さま’と呼んだのは事実だ。
優秀な侍女を一人失ったのは残念だが、裏切るのなら仕方がない。
雅家の者たちは部屋の外にいる花梨に向かって殺気を放つ。
(あらら。物騒な気配が外にいてもわかるわね)
私は後ろに控えている花梨と侍女たちを見ると、全員顔面蒼白になっていた。
この程度のさっきに怯えるなんて「まだまだね」と内心呆れながら、障子を開けるように待機していた男に顔で訴える。
男も雅家の者たちの殺気に顔面蒼白していて、動けそうになかった。
これでは自分で開けないといけないため、それでは私が馬鹿にされる材料を自ら提供する羽目になるので、仕方なく神力で空気を和らげ、動ける程度に体に纏わらした。
男の顔はまだ悪いが、それでも神力のおかげで落ち着きを取り戻し、ゆっくりと障子を動かした。
目の前の景色が障子から雅家の者たちへと切り替わった。
一番最初に目に入ったのは妖狐の現当主だ。
一番奥にいて、一人だけ高い床になっている上段の間と呼ばれているところにいる。
本来そこに座るのは私と桔梗でなければならないのだが、顔を見る限りどくつもりは全くなさそうだ。
雅家の者たちの顔がどんなものかと見てやろうとじっくり見ていると、彼らの視線は私ではなく後ろに控えている花梨に注がれていた。
裏切り者にたいして軽蔑の眼差しとはまた違った、ひどく冷たい視線を送っていた。
守るとは言ったが、さすがに他人の視線まではどうにもできない。
それに、これは自業自得。
私に喧嘩さえ売らなければよかったことだ。
甘んじて受け入れるべき罰だ。
花梨が後ろから助けて欲しいと視線で訴えてきているのには気づいていたが、無視して部屋に足を踏み入れた。
花梨だけはついてきて、他の侍女たちは外で待機するようだ。
大変だな、と他人事のように思いながら旦那である桔梗の隣に移動したが座布団がない。
雅家の女性陣たちには見ただけでわかるほどのふかふかの座布団を
使っているのに、なぜ私のところにはないのだろうか。
「座らないのか?」
当主が立ったままの私をみてそう声をかけてきた。
にやけた面を見る限りわかって聞いてきたのだろう。
(上等じゃない。クソジジイ)
「私のところには座布団がないようですけど用意してもらえませんか」
あくまで最初はか弱く無知な女性を演じる。
「ああ。すまない」
全く悪いと思ってない表情と声で言われても許す気にはなれない。
とくにクスクスと声に出して笑っている子供たちは。
「用意してやれ」
そう言って当主が命じ、近くにいた侍女が座布団を取りに向かった。
持って来るまで私はずっと立ったままでわざと待っていた。
侍女が戻ってきたが、彼女が持っていたのはボロボロで匂わなくても臭いそうだとわかる座布団だった。
よくこんなものを捨てずに持っていたなと感心するほどだ。
「どうぞ」
侍女はそう言って私の座る場所に座布団を置いた。
「座るとよい」
「当主様。一つ言いたいことがありますがよろしいでしょうか?」
当主の言葉を無視して私はそう言った。
彼らは私が当主の言葉を無視しても怒るどころか、むしろ愉快そうに笑いだした。
私が怒りに耐えて泣きながら「こんな扱いはやめてください」というとでも思っているのだろうか。
「構わん」
当主の許可が出たので遠慮なく言わせていただこう。
「当主様は、もしかして老眼ですか?それと、鼻も詰まっているのですか?もう、それなりに年を取っているので仕方ないと思いますが、私にたいしてこのような扱いを取るとは思いもよりませんでした。年を取るとはいけませんね。正常な判断ができなくなって大変でしょうし」
憐れむような声と視線をおくると、最初はこんなことを言われるとは思っていなかったのか驚いて固まっていたが、我に返ると顔を真っ赤にして目吊り上げた。
「小娘。今、何と言ったかもう一度申してみよ」
当主は妖力を解放しながら言う。
その威力は雅家の者たちですら耐えられない者だった。
花梨以外の者はその妖力に当てられ気絶した。
「一度で聞き取れないなんて、耳まで悪くなったんですね」
当主の命令を無視して、かわりに更に機嫌を損ねること言ってやった。
それと同時に当主のひじ掛けが跡形もなく木っ端微塵なってしまった。
‘奥さま’その言葉を聞いた瞬間、雅家の者たちに緊張の糸が張り巡らされた。
声は花梨のものだった。
花梨は侍女たちの中で最も優秀で、言うことをよく聞く手駒だった。
花梨には花嫁のことを丁重にもてなすように言いつけていた。
彼女ならその言葉の意味をよく理解していたはずだ。
それなのに、‘花嫁様’ではなく‘奥さま’と言った。
朝会ったときは普通だった。
その花梨をたった数時間で手懐けられたなんて信じられなかったが、花嫁を‘奥さま’と呼んだのは事実だ。
優秀な侍女を一人失ったのは残念だが、裏切るのなら仕方がない。
雅家の者たちは部屋の外にいる花梨に向かって殺気を放つ。
(あらら。物騒な気配が外にいてもわかるわね)
私は後ろに控えている花梨と侍女たちを見ると、全員顔面蒼白になっていた。
この程度のさっきに怯えるなんて「まだまだね」と内心呆れながら、障子を開けるように待機していた男に顔で訴える。
男も雅家の者たちの殺気に顔面蒼白していて、動けそうになかった。
これでは自分で開けないといけないため、それでは私が馬鹿にされる材料を自ら提供する羽目になるので、仕方なく神力で空気を和らげ、動ける程度に体に纏わらした。
男の顔はまだ悪いが、それでも神力のおかげで落ち着きを取り戻し、ゆっくりと障子を動かした。
目の前の景色が障子から雅家の者たちへと切り替わった。
一番最初に目に入ったのは妖狐の現当主だ。
一番奥にいて、一人だけ高い床になっている上段の間と呼ばれているところにいる。
本来そこに座るのは私と桔梗でなければならないのだが、顔を見る限りどくつもりは全くなさそうだ。
雅家の者たちの顔がどんなものかと見てやろうとじっくり見ていると、彼らの視線は私ではなく後ろに控えている花梨に注がれていた。
裏切り者にたいして軽蔑の眼差しとはまた違った、ひどく冷たい視線を送っていた。
守るとは言ったが、さすがに他人の視線まではどうにもできない。
それに、これは自業自得。
私に喧嘩さえ売らなければよかったことだ。
甘んじて受け入れるべき罰だ。
花梨が後ろから助けて欲しいと視線で訴えてきているのには気づいていたが、無視して部屋に足を踏み入れた。
花梨だけはついてきて、他の侍女たちは外で待機するようだ。
大変だな、と他人事のように思いながら旦那である桔梗の隣に移動したが座布団がない。
雅家の女性陣たちには見ただけでわかるほどのふかふかの座布団を
使っているのに、なぜ私のところにはないのだろうか。
「座らないのか?」
当主が立ったままの私をみてそう声をかけてきた。
にやけた面を見る限りわかって聞いてきたのだろう。
(上等じゃない。クソジジイ)
「私のところには座布団がないようですけど用意してもらえませんか」
あくまで最初はか弱く無知な女性を演じる。
「ああ。すまない」
全く悪いと思ってない表情と声で言われても許す気にはなれない。
とくにクスクスと声に出して笑っている子供たちは。
「用意してやれ」
そう言って当主が命じ、近くにいた侍女が座布団を取りに向かった。
持って来るまで私はずっと立ったままでわざと待っていた。
侍女が戻ってきたが、彼女が持っていたのはボロボロで匂わなくても臭いそうだとわかる座布団だった。
よくこんなものを捨てずに持っていたなと感心するほどだ。
「どうぞ」
侍女はそう言って私の座る場所に座布団を置いた。
「座るとよい」
「当主様。一つ言いたいことがありますがよろしいでしょうか?」
当主の言葉を無視して私はそう言った。
彼らは私が当主の言葉を無視しても怒るどころか、むしろ愉快そうに笑いだした。
私が怒りに耐えて泣きながら「こんな扱いはやめてください」というとでも思っているのだろうか。
「構わん」
当主の許可が出たので遠慮なく言わせていただこう。
「当主様は、もしかして老眼ですか?それと、鼻も詰まっているのですか?もう、それなりに年を取っているので仕方ないと思いますが、私にたいしてこのような扱いを取るとは思いもよりませんでした。年を取るとはいけませんね。正常な判断ができなくなって大変でしょうし」
憐れむような声と視線をおくると、最初はこんなことを言われるとは思っていなかったのか驚いて固まっていたが、我に返ると顔を真っ赤にして目吊り上げた。
「小娘。今、何と言ったかもう一度申してみよ」
当主は妖力を解放しながら言う。
その威力は雅家の者たちですら耐えられない者だった。
花梨以外の者はその妖力に当てられ気絶した。
「一度で聞き取れないなんて、耳まで悪くなったんですね」
当主の命令を無視して、かわりに更に機嫌を損ねること言ってやった。
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