狐の嫁入り

アリス

文字の大きさ
13 / 31

愚かな発言

「花嫁様。少々、おふざけが過ぎるのではありませんか?」

長男の凪(なぎ)が不穏な空気を収めようと凛とした声で言った。

「それは、そちらではありませんか?まさか、自覚がないのですか?そんなわけありませんよね?」

言い合いの収めどころを凪が買って出たことには気づいたが、それは私には関係のないことだ。

今さら、止めるくらいなら最初からやらせなければいいだけのことだ。

「どういう意味でしょうか?」

梨々花が笑顔で尋ねる。

まるで私たちが悪いみたいな言い方をするのね、と批判するような口調で。

「あら、本当におわかりになっていなかったのですね。雅家の品格が疑われるような発言ですけど大丈夫ですか?」

最後の発言に桔梗以外の雅家たちの逆鱗に触れたのか、全員妖力を放出した。

格の違いを見せつけたかったのだろうが生憎、私には効かなかった。

本来の婚約者である茜だったら話は別だろうが、歴代最強と言われている私には痛くもかゆくもない。

そもそも神力は浄化するだけでなく、全ての気を取り込み、自分の力に変えることができる。

そんな力を持つ私相手に妖力を放出するなんて馬鹿でも普通はしない。

今までの花嫁たちは、その時代で最も弱いものが送り出されていたためできなかったのだろう。

だから知らないのも当然だが、仲がよければ教えてもらっていてもおかしくはないのだが、知らないということはどういう対応をしていたのかわかる。

いま妖力を奪い取ってもいいが、それでは面白くはない。

徹底的に潰すためにもお楽しみは最後まで取っておくべきだろう。

いま私が雅家から受けていることを知れば、西園寺家の当主は喜んで雅家を潰し、その力を代々奴隷のように使い潰してやろうと考えるだろう。

だが、それでは私が何もできずに当主に泣きついて助けを乞うたことになってしまう。

これは私一人でやらなければいけないことだ。

誰にも絶対に邪魔をさせない。

そう決意をして、喧嘩を続けることにした。

「‘花嫁様‘。あまり調子に乗らないほうがいいんじゃないですか?」

彪雅が立ち上がりながら今にも殴りかかってきそうな勢いで言ってくるが、私はそれに対して「‘花嫁様’ではなく奥さまです」と言った。

「は?」

彪雅は本気で何を言われているのかわからないと言った表情をする。

「私の旦那様はもうすぐ当主になります。奥さまと呼ぶのが当然でしょう。花梨も先ほどそう呼びました。侍女でもわかることなのに、あなたはわからなかったのですか?」

当主の息子が?とは言わなかったが、私が言いたいことを口調から全員が理解できたはずだ。

花梨はいきなり自分の名前が出されて「本当にお願いだから巻き込まないでよ」と心の中で訴えた。

少し前、この部屋に入る前に私は花梨にあることを頼んだ。

それは「若奥様」ではなく「奥様」と呼んで欲しいと。

花梨に拒否権などないため、素直にそう呼んでくれた。

もともと、今の状況のときに使うために言わせたことではないが、結果的に大いに役に立った。

とりあえず、今日はここまでにして終わらすことにした。

主導権はそちらではなく、こちらがもつと意思表示できただけで良しとする。

「今日は初めてなので皆様も緊張して間違えてしまわれたのでしょう。人間と妖では住む世界が違うので、あわせるのは大変だと思いますので、今日のところは許してさしあげます。ですが、次からはありません。私の言っていること、わかりますよね」

要約すると、「浄化の舞をしてほしければ、分をわきまえろ」だ。

それをわかっているからか、誰も何も言わなかった。

浄化の舞をしてもらえなければ、困るのは雅家の方なのだから。

「では、今日はこれで失礼します」

私は部屋から出ようと歩き出すが、障子が開くと、わざとらしくいま思い出したふりをしてこう聞いた。

「あ、そういえば、私の荷物を盗んだのは誰ですか?」と。

さすが妖狐のトップの家と言ったところか。

さっきまでは無様な姿を晒していたが、一瞬で反応を消した。

今ここで盗んだと言ったが、燃やされたことはすでに知っているはずだ。

さすがに、西園寺家の娘の荷物を燃やした犯人になれば両家の関係に傷をつけたものとして、どうなるかはわかっているみたいだ。

それなら最初からしなければいいものを、獣だから仕方ないかと納得することにした。

「なんで、私たちがあんたの荷物を盗まないといけないのよ!」

梨々花は妖狐なのに鬼のような顔で叫んだ。

「皆さんの誰でもないのなら、この屋敷に誰かが侵入したことになりますよね。天下の妖狐のお屋敷に、ですよ。これ、外に知られたら大丈夫ですか?」

「私たちじゃなくて侍女たちが勝手にやったかもしれないじゃない!」

梨々花はそう叫ぶが、自分が今どれだけ愚かな発言をしたかに気づいていないみたいだ。

「侍女たちが勝手に、ですか?そんな侍女を雅家は雇っているのですか?」
感想 0

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「声に出せなかった五年分の気持ちを、離婚届と一緒に置いていきます」

まさき
恋愛
「ねえ、今日も遅いの?」 返信は、既読だけだった。 陽菜は笑顔が得意な女だった。嬉しいときは声に出して笑って、悲しいときは素直に泣いた。そういう自分が好きだった。 でも蓮の前では、いつからか言葉が出なくなった。 仕事一辺倒の夫を責めたかった。待ちくたびれたと泣きたかった。それでも言えなかった。言ったら、壊れる気がした。 五年間、声を飲み込み続けた。 笑顔で送り出して、一人で夕食を食べて、眠れない夜をやり過ごした。蓮は悪い人じゃない。ただ、私を見ていなかった。 それだけのことが、五年分積み重なった。 離婚届をテーブルに置いて、陽菜は家を出た。声に出せなかった五年分の気持ちを、一緒に置いて。 ドアが閉まった音を聞いて、蓮は初めて立ち上がった。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。