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汚された会
「お久しぶりですわね。早苗(さなえ)様」
「ええ。お久しぶりですわ。伊吹(いぶき)様」
夫人は烏天狗の妾に声をかけられ、笑みを浮かべながら挨拶し返した。
「今日はとても楽しみにしておりましたの。今回の‘花嫁様’はどこまでもつのか。どれくらい持ちそうですか?」
「さぁ?どうでしょう。でも、相当生意気な小娘なので、伊吹様のお気に召すかもしれませんわ」
伊吹は自分より弱いものを虐めるのが大好きだ。
昔、自分が下の人間だったから、その過去をなくそうと必死になっているのかもしれない。
容姿だけは烏天狗にしておくのはもったいないほどだ。
だからこそ、今の当主に気に入られ、愛人になることができたのだ。
烏天狗の正妻も容姿は悪くないが、彼女には劣る。
卑しい身分のくせに話しかけるなと早苗は内心思っていたが、彼女を利用するために親切なふりを続けた。
「あら、そうなんですか。それは楽しみですわ。やりすぎたときはごめんなさいね」
「いえいえ。とんでもありません。‘花嫁様’もできるだけ早くこの地に馴染みたいとお思いのはずです。伊吹様からのおもてなしをきっと喜んでくださるはずですよ」
「早苗様なら、私の思いやりをわかってくださると思っていました。誰かが、汚れ役をしなくてはなりませんからね。‘花嫁様’のためにも、心を鬼にして勤めを果たさせていただきます」
(何様のつもりだ。妾のくせに)
早苗は伊吹のまるで自分たちに恩を売るような話し方に腹が立つも、それ以上に今は花嫁の方が優先なので、この女は後回しだと、今は無礼な態度を許すことにした。
「ええ。よろしくお願いいたします。席はあちらにご用意させております」
烏天狗の席の中で愛人が座る席を指さす。
正妻とは比べれば劣るが、十分豪華な席だ。
本来なら愛人たちと同じ席に座るのも嫌だが、こればかりは正妻たちが我慢するしかない。
現在愛人がいないのは妖狐と鬼と蛇だけだ。
これは当主たちが愛人を作らないのでなく、愛人になって少ししたら消えてしまうのだ。
誰が消しているのかは皆が知っているが、誰も口にはしない。
当主が黙認しているからだ。
だが、この女が消えることはないだろう。
この容姿が続く限りは。
「ありがとうございます」
美しい黒髪を靡かせながら、伊吹は自分の席に向かっていく。
その髪を見た瞬間、早苗は花嫁のことを思い出した。
彼女の髪も黒髪で艶があり、とても美しかったのを思い出した。
今とは違い近くで見ていないので、もしかしたら勘違いかもしれないが伊吹よりも美しかった気がした。
人間の小娘に負けるなんて情けない、と小馬鹿にすることで、先ほどまで伊吹に感じていた苛立ちがおさまった。
その後も各種族の当主や幹部たちの正妻、娘、愛人たちが雅家に訪れていた。
今回の「花の会」で使う場所は、紅葉がどこからでも見れるよう庭に会場を設置した。
季節や天気によって、中か外かはその時々でかわあるが、今日は雲一つないほどの快晴で外でやることが決定した。
雨が降ったときにも備えて、一応中にも会場を作っていたが、外に比べたらかなり質素になっている。
「美しい紅葉ですね」
誰も褒めなかったことを鬼の正妻に褒められた。
一番、そういう感性がなさそうな種族にだ。
「ありがとうございます」
「この会場なら、どこからでも紅葉をみることができる。とても素晴らしい会場だ」
「気に入っていただけて何よりです。朱里(しゅり)様のお席はあちらになります」
「あぁ」
鬼の正妻を最後に招待客は全員そろったが、肝心の花嫁がまだ来ない。
(いったいどこで何をしているのよ)
来ないなら、それでいいが、せっかく虐める準備が整っているのにと残念に思う。
まぁ、あとで楽しみを取っておくのも悪くないと「花の会」を始めようと早苗が自分の席につこうと廊下に背を向けた瞬間、強い風が吹き紅葉の葉が舞った。
かなり強い風で、目に映るのは赤だけだった。
暫く風が吹き立ち止まる時間が続いた。
ようやく、風がおさまり歩こうと一歩足を踏み出そうとしたとき、各種族の貴族たちがざわめき始めた。
早苗だけは何故彼女たちが騒いでいるのかわからなかった。
彼女たちの視線は自分の後ろに向けられており、何が起きているのかと後ろを向こうとしたそのとき、少し顔を後ろに向けた瞬間、狐のお面が目に入った。
騒がしくなった理由はお前か、と早苗が理解した瞬間、花嫁の青いドレスが目に入り、「きゃあああ!」と悲鳴を上げそうになった。
神聖な花の会を汚されたと怒りで我を忘れそうになった。
各種族の貴族の方々も同じ気持ちなのか、花嫁を睨みつけていた。
こんな失態を犯したのは歴代花嫁にはいない。
つまり、この花嫁のせいで今、雅家は大恥をかかされている。
それをわかった上でやったのかはわからないが、絶対に許さないと早苗は誓った。
早苗は花嫁に近寄り、耳元で「今すぐ着替えてきなさい」と怒りの籠った声で言ったが、「嫌です」と拒否され、止める暇もなく席に座った。
しかも、座った場所は妖狐の正妻が座る場所だった。
(小娘!そこは、私の席よ!)
早苗は持っていた扇子を怒りで折ってしまう。
「ええ。お久しぶりですわ。伊吹(いぶき)様」
夫人は烏天狗の妾に声をかけられ、笑みを浮かべながら挨拶し返した。
「今日はとても楽しみにしておりましたの。今回の‘花嫁様’はどこまでもつのか。どれくらい持ちそうですか?」
「さぁ?どうでしょう。でも、相当生意気な小娘なので、伊吹様のお気に召すかもしれませんわ」
伊吹は自分より弱いものを虐めるのが大好きだ。
昔、自分が下の人間だったから、その過去をなくそうと必死になっているのかもしれない。
容姿だけは烏天狗にしておくのはもったいないほどだ。
だからこそ、今の当主に気に入られ、愛人になることができたのだ。
烏天狗の正妻も容姿は悪くないが、彼女には劣る。
卑しい身分のくせに話しかけるなと早苗は内心思っていたが、彼女を利用するために親切なふりを続けた。
「あら、そうなんですか。それは楽しみですわ。やりすぎたときはごめんなさいね」
「いえいえ。とんでもありません。‘花嫁様’もできるだけ早くこの地に馴染みたいとお思いのはずです。伊吹様からのおもてなしをきっと喜んでくださるはずですよ」
「早苗様なら、私の思いやりをわかってくださると思っていました。誰かが、汚れ役をしなくてはなりませんからね。‘花嫁様’のためにも、心を鬼にして勤めを果たさせていただきます」
(何様のつもりだ。妾のくせに)
早苗は伊吹のまるで自分たちに恩を売るような話し方に腹が立つも、それ以上に今は花嫁の方が優先なので、この女は後回しだと、今は無礼な態度を許すことにした。
「ええ。よろしくお願いいたします。席はあちらにご用意させております」
烏天狗の席の中で愛人が座る席を指さす。
正妻とは比べれば劣るが、十分豪華な席だ。
本来なら愛人たちと同じ席に座るのも嫌だが、こればかりは正妻たちが我慢するしかない。
現在愛人がいないのは妖狐と鬼と蛇だけだ。
これは当主たちが愛人を作らないのでなく、愛人になって少ししたら消えてしまうのだ。
誰が消しているのかは皆が知っているが、誰も口にはしない。
当主が黙認しているからだ。
だが、この女が消えることはないだろう。
この容姿が続く限りは。
「ありがとうございます」
美しい黒髪を靡かせながら、伊吹は自分の席に向かっていく。
その髪を見た瞬間、早苗は花嫁のことを思い出した。
彼女の髪も黒髪で艶があり、とても美しかったのを思い出した。
今とは違い近くで見ていないので、もしかしたら勘違いかもしれないが伊吹よりも美しかった気がした。
人間の小娘に負けるなんて情けない、と小馬鹿にすることで、先ほどまで伊吹に感じていた苛立ちがおさまった。
その後も各種族の当主や幹部たちの正妻、娘、愛人たちが雅家に訪れていた。
今回の「花の会」で使う場所は、紅葉がどこからでも見れるよう庭に会場を設置した。
季節や天気によって、中か外かはその時々でかわあるが、今日は雲一つないほどの快晴で外でやることが決定した。
雨が降ったときにも備えて、一応中にも会場を作っていたが、外に比べたらかなり質素になっている。
「美しい紅葉ですね」
誰も褒めなかったことを鬼の正妻に褒められた。
一番、そういう感性がなさそうな種族にだ。
「ありがとうございます」
「この会場なら、どこからでも紅葉をみることができる。とても素晴らしい会場だ」
「気に入っていただけて何よりです。朱里(しゅり)様のお席はあちらになります」
「あぁ」
鬼の正妻を最後に招待客は全員そろったが、肝心の花嫁がまだ来ない。
(いったいどこで何をしているのよ)
来ないなら、それでいいが、せっかく虐める準備が整っているのにと残念に思う。
まぁ、あとで楽しみを取っておくのも悪くないと「花の会」を始めようと早苗が自分の席につこうと廊下に背を向けた瞬間、強い風が吹き紅葉の葉が舞った。
かなり強い風で、目に映るのは赤だけだった。
暫く風が吹き立ち止まる時間が続いた。
ようやく、風がおさまり歩こうと一歩足を踏み出そうとしたとき、各種族の貴族たちがざわめき始めた。
早苗だけは何故彼女たちが騒いでいるのかわからなかった。
彼女たちの視線は自分の後ろに向けられており、何が起きているのかと後ろを向こうとしたそのとき、少し顔を後ろに向けた瞬間、狐のお面が目に入った。
騒がしくなった理由はお前か、と早苗が理解した瞬間、花嫁の青いドレスが目に入り、「きゃあああ!」と悲鳴を上げそうになった。
神聖な花の会を汚されたと怒りで我を忘れそうになった。
各種族の貴族の方々も同じ気持ちなのか、花嫁を睨みつけていた。
こんな失態を犯したのは歴代花嫁にはいない。
つまり、この花嫁のせいで今、雅家は大恥をかかされている。
それをわかった上でやったのかはわからないが、絶対に許さないと早苗は誓った。
早苗は花嫁に近寄り、耳元で「今すぐ着替えてきなさい」と怒りの籠った声で言ったが、「嫌です」と拒否され、止める暇もなく席に座った。
しかも、座った場所は妖狐の正妻が座る場所だった。
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