狐の嫁入り

アリス

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最悪の始まり

長い廊下をヒールを履いて歩いていると、突然突風が吹いた。

紅葉の葉が舞い、視界が赤一色になった。

突風が止み、紅葉の葉が廊下の上に落ちて、まるでレッドカーペットのようになった。

この屋敷が私の味方をしてくれている気がした。

花の会が開催される場所に近づいていくと、私以外は全員着物を着ていた。

ドレスを着ていたことがそんなにいけなかったのか、夫人は大変ご立腹だった。

お客様の手前、笑ってはいたが声には怒りが込められていた。

着替えてこいと言われたが、笑顔で嫌だと言ったら、夫人は固まってしまい、邪魔だと肩で退かしたあとにわざと夫人の席に座った。

別に問題はない。

本来なら、ここに座るのは嫁いだ花嫁なのだから。

私は正しい形に戻しただけだ。

夫人が怒ろうが知ったことではない。

夫人がどう出るか見守っていると、真っ黒な髪で美しい容姿の女性に声をかけられた。

外見から烏天狗なのは間違いないだろう。

「‘花嫁様‘。そこは’花嫁様‘の席ではなく、妖狐の当主で正妻であられる早苗様の席でございます。’花嫁様‘の席はあちらでございます」

妖狐の座る席で最も質素な席を指さす。

彼女の言葉を聞いた、他の種族たちは笑いながら同意した。

「あなたの名前は?」

私は彼女の言葉を無視して名前を尋ねた。

「私ですか?伊吹と申します」

「そう。伊吹というのね」

私が呼び捨てにすると、彼女は露骨に顔を歪ませた。

人間の小娘に名前を呼び捨てにされるのは癪なのだろう。

妖では自分の名前を呼び捨てにしていいのは、対等な関係か自分より上と認めた相手にだけだ。

それでも、一応花嫁の方が上なので指摘することはできない。

どう呼ぶかは花嫁自身で決められる。

「はい。ですが、‘花嫁様’。初対面の年上の方をいきなり呼び捨てにするのは……」

「悪い?私があなたをどう呼ぼうが私の勝手でしょう」

私はまだ彼女が話しているのに、わざと被せて言った。

「それと、あなたに礼儀について語る権利はないわよ。私のことを‘花嫁様’と言った時点でね」

「どういう意味でしょうか」

伊吹は私を睨みつける。

「あら?わからないほど頭が悪いのかしら?まぁ、しょせん妾だから仕方ないか」

妾、という言葉を放った瞬間、空気が一変した。

妾である女性たちは侮辱されたと怒り、正妻たちは彼女たちを馬鹿にしたように笑った。

(あら、思った以上に仲が悪いのね)

人間の世界でも妻と愛人の仲は悪い。

当然だ。

妖は強い妖を産むことを一番に求められると教えられていたので、ここまで仲が悪いものだとは思っていなかったので、少しだけ驚いてしまった。

「いい?私は次期当主である桔梗の妻よ。‘花嫁様’ではなく‘奥様’と言うべきでしょう」

これは全種族に対する宣戦布告に近い言葉だ。

一瞬で全員が私に対して敵意を向けてきた。

「あ。すみません。まだ、当主ではないでの‘若奥様’と呼ばれるべきでしたね。言葉ではなく、目で教えてくださるなんて、人間と違って獣的で新鮮な体験です。ですが、次からは彼女のように言葉で最初に教えてくださると有難いです。私は人間なので」

私は伊吹を見てほほ笑む。

それをどう受け取ったのかはわからないが、彼女は綺麗な顔が醜くなるほど歪めた。

花の会はまだ始まってもいないのに、既に私は全員から目の敵にされてしまった。

「では、はじめましょう。義妹の雪乃から素晴らしい会だと聞いていたので楽しみにしていました。今日のためにドレスを仕入れたんです。綺麗でしょう」

私はわざと雪乃の名前を出した。

そうすることで、雪乃も私のドレス選びを承諾したと思わせることができる。

雪乃は「花の会」については何一つ教えてくれてはいない。

強制参加だから、としか。

でも、実際のことなんて誰にもわからない。

いくら雪乃が違うと言っても、疑念は消えない。

神聖な会を汚す手伝いをした、と喜んで彼女を貶すだろう。

真実なんて誰も興味ない。

彼女たちが欲しいのは自分より弱いものを虐める権利だ。

いきなり巻き込まれた雪乃は一瞬驚いて固まったが、すぐに怒りに満ちた顔で私を睨みつけてきた。

水色の着物を着ているせいで、彼女の肌はいつもより白く見えていたが、今は怒りで赤く染まっている。

今さら否定したところで意味はない。

もし、それが真実だとしても、なぜもっときちんと教えなかったのかと逆に怒られるだろう。

否定しようがしまいが、どちらにせよ雪乃の地位は落ちてしまうのだから。

(悪く思わないでね。先にそっちが私を陥れようとしたんだから)

仮面をつけているから、私の顔を彼女は見ることはできない。

でも、私と目が合った瞬間、笑っていることに気づいた雪乃は怒りで半妖かしてしまう。

耳と尻尾が生え、目が丸から縦長に変わり怪しく光った。

私に襲い掛かろうとしてきたが、それより早くに霞が雪乃を気絶させた。

(残念ね)

もっと、彼女の地位を落としたかったが邪魔されてしまった。

「申し訳ありません。雪乃は体調が悪いようなので。皆様、大変失礼しました」

霞は淡々と言い放ち、侍女に雪乃を任せた。

雪乃派は侍女に連れられて、そのまま戻ってくることはなかった。
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