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アリス

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ハンター協会

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「長い間お世話になりました。ありがとうございました」

見送りにきた医者達にお礼を言う。

「いえ、元気になられてよかったです」

医者の一人が微笑む。

実は病院を出ようと医者達に背を向け歩き出そうとすると「あの……」と声をかけられ引き止められる。

実はなぜ自分が引き止められたのかわかっており「やっぱりか」と思う。

「はい」

返事をし医者達の方を向く。

「……」

医者達は言いにくそうで実から言ってくれるのを待っている感じだ。

実はミッションのこともあり、これ以上時間を無駄にするわけにはいかないので、気は進まないが自分の方から求められている言葉を言う。

「あの、もし何かわかりましたらすぐに連絡しまし、何かあれば連絡してください。俺にできることなら何でも協力しますので」

実がそう言うと医者達の顔がパァと輝き「本当ですか!ありがとうございます!」とお礼を言う。

「じゃあ、俺はこれで」

今度は引き止められることなく笑顔で見送られる。

「わかりやすい人達だな」

出水と木村以外は全員、名誉と金目当ての者達。

人を助けたいから協力してほしいと言っているのではなく、自分のために協力しろと言っているのだ。

彼らの目を見た瞬間、その欲望が何かに気づき失望した。

それでも、呪いを解けるならと協力したが彼らと関わるたびその醜さに嫌気がさし話をするのも嫌になった。

「酷い世の中だな」

無意識に思っていたことが口から出る。

「そうですね」

「はい……え?」

実はいきなり会話が成立したことよりも、気配を感じることなく隣に立ち返事をした若桜に驚いた。

「たしか、若桜さんですよね」

「はい。覚えていただきありがとうございます。先日は失礼しました」

倉増のことを教えたことで実が暴れ暫く病んでいたのを知り少なからず責任を感じていた。

「いえ、気にしないでください。俺の方こそご迷惑をおかけしてすみませんでした」

実は若桜達に迷惑をかけたときのことを思い出し、恥ずかしくて逃げたくなる。

でも、こらから若桜達の協力が必要不可欠なので恥ずかしいのを我慢して演技をはじめる。

「あの、それで俺の勘違いでなければお二人は俺に会いにきたんですよね。話の続きをするために」

「はい。そうです。退院早々申し訳ないのですが、我々と一緒にきてもらえますか」

「はい、わかりました」

実が病院から出てくると待ってましたと言わんばかりに若桜達は近づいてきた。

実に拒否権などあるはずもなく黙ってついていくしかない。

もちろん傍には倉増もいる。

実は倉増をみて頷き若桜達についていく。

実は促されるまま高級な車に乗る。




実は協会に着くまでの間、窓から見える景色をみて気を紛らわそうとするが、それでもこれからしなければならないことを考えると緊張で口から心臓が飛び出してきそうだった。




「それでは改めてお話しを聞かせてください」

案内された部屋に入るなりそう言われ、実はもう本題に入るのかと思ったが、覚悟を決め演技をはじめる。

今回は若桜一人で石田はいない。

二人より一人の方が騙しやすいので、実としては有難い。

「もちろんです。ですが、その前に一つだけお願いがあります」

「お願いですか?なんでしょう」

若桜の目の色が変わった。

'交換条件か。金か?それとも地位や名誉か?'

呪いの解明を手伝うかわりに見返りを要求されのだと思った。

前回、実と話して不気味な怖さを感じるも好青年でいい子なのだろうと思っていた。

それに実の噂は聞いていてE級ハンターだが知識が豊富で実と一緒だとダンジョンの罠にかからない。

優しくて誠実でいい子だと有名だった。

若桜もさっきまでは同じ意見だったが、今の言葉で失望した。

実も結局は自分の欲を満たすことの方が大切なのだ。

「それは、倉増さんを殺したハンター達に罰を与えてほしいんです」

「……え?罰?……金や地位とかじゃなくて?」

実のお願いが予想外すぎて思ったことがつい口から出てしまう。

「え?金?地位?何の話ですか?」

若桜の言っている意味がわからず混乱する。

二人は暫く見つめ合い、お互いに何を言っているんだと思った。

先に我に返った若桜が謝罪をする。

「すみません」

勘違いで実に失礼な態度をとったことを後悔する。

「あ、いえ、大丈夫です」

実は口では口ではそう言うも、呪いをだしに金や地位を要求されると思われたことにショックを受ける。

心外だ!

そんな顔をして若桜を見る。

「本当にすみません」

若桜は心の中でも何回も実に謝罪する。

申し訳なくて実の顔を見ることすらできない。




若桜は軽く咳払いをして話を元に戻す。

「それで、どうして罰を与えたいのか聞いてもよろしかでしょうか」

実には関係ないことなのにどうしてそんなことを頼むのかわからない。

そもそも倉増を殺したのが誰かすら判明していない。

なぜ実が他人のためにここまでするのか、若桜には理解できない。

「あの、今から言うこと信じてくれますか?」

「ええ、もちろんです。信じます」

実の青ざめた表情が気になるも、嘘をつく必要性を感じないので信じると伝える。

「その、実は……俺、倉増さんの霊に取り憑かれているんです」

「……は?」

若桜は自分の耳を疑う。

聞き間違いか?

瞬きを何度もする。

「やっぱり、信じてもらえませんよね」

実は悲しそうな顔して俯く。

'こっからが本番だ!'

実は若桜に信じて貰えるよう、怖くてたまらないから助けてほしいと縋りつく。

「自分でも馬鹿げたことを言っているっていう自覚はあるんです。でも、本当なんです。信じてください。このままじゃ、俺殺されます!」

「若桜さん。大丈夫ですから、落ち着いてください」

若桜は目に涙を浮かべ興奮して掴みかかる実を宥める。

「信じます。花王さんが嘘ついていないのはわかっています。ダンジョンは未知の世界です。何があっても不思議はありません。驚いたのは
花王さんの話を嘘だと思ったからではありません。初めての事例に驚いただけです」

まずい!はやく宥めなければ!

若桜はいまにも泣きそうな実を何とか落ち着かせようとする。

さっき疑った罪悪感もあり、また疑っていると思われ、実からの信用をなくすのは避けたい。

「本当に信じてくれますか?」

「はい。信じます」

'だから泣かないでくれ'と祈る。

「ありがとうございます」

実は信じて貰えて嬉しい。

そんな笑みを浮かべ笑いかける。

'ふふん!演技の才能あるな、俺'

若桜の反応から信じようとしているのがわかる。

例え、ダンジョンが未知の世界でも自分に見えないものを完全に信じることはできない。

本当かもしれないと思わせた時点で賭けに勝ったも同然。

「それで、罰を与えるとは具体的に彼女は何を求めているんですか?」

倉増がどこにいるかわからないため視線を彷徨わせる。

「彼らの最も大切にしているのを奪ってほしいそうです」

実は倉増の方を見て「それでいいんですよね」と尋ねる。

倉増は「ええ」と頷く。

若桜は実が向く方に倉増がいるのかと目を凝らすが、どう頑張ってもそういった力のない若桜には幽霊を見ることはできない。

「わかりました。今から上と話し合ってどうするか決めます。私個人で判断できることはないので一旦お待ちいただいても宜しいですか?」

若桜個人としてはやってもいいと感じるが、協会に在籍するハンターの一個人で勝手に決めていい案件ではない。

この件は会長の判断に任せる。

「わかりました。ですが、できれば1時間以内に決めてください」

実も若桜が上の判断を仰ぐことは想定済みなので考えていた言葉を言う。

「理由を聞いても?」

さすがに1時間は短い。

最終決定は会長の判断に任されるが、幹部達、ハンターギルドのギルドマスター達と話し合う必要がある。

例えE級ハンターとしてもそのことを知らないはずがない。

それでも、時間指定をするのはそれ相応の理由があるはず。

それ次第では、実から話が聞けなくなるかもしれない。

若桜は焦る気持ちを隠し尋ねる。

「約5時間以内で彼らが一番大切にしているものを奪わなければ倉増さんの呪いによって死にます。髪の毛一本残すことを許されずに……」

恐怖で体が震える。

実は演技だと気づかれないよう体を小刻みに揺らす。

時間は本当のタイムリミットより早いのを教えた。

「なっ!それは本当ですか!?」

「はい。本当です。この状況で俺が嘘を吐く理由などあると思いますか?」

「たしかにそうですね。すみません。一旦席を外します。なるべく早く上を説得できるようにします。ですが、その前に一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

「はい、なんでしょう」

声が裏返りそうになる。

まさか演技がバレたのか?

このままでは作戦が失敗に終わる。

焦る気持ちを悟られないよう顔を作る。

「倉増さんを殺した者達を教えてください」

罰を与えてほしいと頼むくらいだ。

実は間違いなく倉増から殺したハンター達の名前を聞いたはず。

場合によっては、実の頼みを聞くことはできない。

例え呪いを解明できるとしても!

若桜はどうか、S級ハンターではありませんように、と祈りながら実の言葉をまつ。

「はい。わかりました」

実は鞄から紙を取り出し、若桜に渡す。

殺したハンター達の名前をすぐ教えられるよう紙に書いていた。

若桜は実から紙を受け取ると開いて名を確認する。

そこに書かれてある名を見て一瞬顔を顰めるもすぐに元に戻し、お礼を言う。

「ありがとうございます。では、一旦失礼させていただきます」

「はい。よろしくお願いします」

出ていく若桜の背中に頭を下げて頼む。

若桜の気配が完全になくなると実は「ブハッ!」と息を吐き出しソファーに倒れ込む。

「バレたかと思った」

最後の最後にやらかしたのかと焦り冷や汗が止まらなかった。

『花王さん。先にお礼を言います。本当にありがとうございます』

ずっと黙ってやり取りを見ていた倉増が声をかける。

ミッションのためというのもあるかもしれないが、赤の他人の自分のために力を尽くしてくれる実に倉増は心の底から感謝している。

もし、自分にできることがあるなら何でもしたいと思うほどに。

「お礼なら全て終わってからでお願いします。やれることはやりました。あとは、彼らの良心を信じましょう」

もし駄目だったら、一か八かの賭けになる。

最悪死人がでるかもしれない。

できれば、もう一つの方はやりたくない。

いま決行している作戦の呪いをだしにして脅す方が全員にとっていいだろう。
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