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オルテル家side
しおりを挟む「やっぱり、検問がありますね」
ゲイルと別れ、街を出ようとしたが既に検問が設置されていた。
「ええ。大丈夫かしら」
不安でブレスレットに触れる。
シオンがゲイルから貰った魔道具のブレスレットのおかげで髪の色が白から茶色へと変わった。
検問している人たちはオルテル家の騎士ではないので顔を見て私だと気づく可能性は低いだろうが、それでも本当に大丈夫なのかと心配になる。
「大丈夫ですよ。彼らはお嬢様の顔を知りません。知っていたとしてもこの髪色では気づかないと思いす。平民のほとんどは茶色が多いので」
シオンの言うとおり周囲にいるほとんどの人が茶色系の髪をしている。
シオンは灰色の髪色だが、貴族の明るい髪色に比べたらあまり目立たない。
「行きましょう」
オルテル家の騎士も一緒に検問する前に抜けた方がいい。
列に並び、準備が来るのを待つ。
一歩、前に進むたびに心臓の音が大きくなっていく気がする。
早く終わって欲しいと思った。
私の番がきて気づかれないかと怯えた顔をしていたと思う。
だが、そんな思いと裏腹に私の顔を見ることなく髪色だけを見てあっという間に終わった。
ビクビクと怯えていたのが馬鹿らしく思うくらい呆気なかった。
シオンの方も対して調べられることなくすぐに終わった。
「大丈夫ですか」
立ち止まった私にシオンが声をかける。
「ええ。私に全然気づかなかったわ」
妹のアドリアナの顔はきっと知っているのに、悪女として嫌われている私の顔など領民たちもきっと興味などないのだろう。
彼らのために何かできることはないのかと頑張ってきたけど、その手柄も伯爵やアドリアナの手柄となった。
褒められたいためにやったわけではないが、それでもほんの少しも興味をもたれないといのは悲しかった。
「よかったわ」
そのおかげで私は検問を抜けることができた。
シオンに傷ついていることを気づかれたくなくて微笑む。
もう何年も心から笑っていない。
それでも完璧な淑女と言われてきたときから、笑みだけはどんなときでも完璧にできた。
きっと、誰にもこの笑顔が偽物だと気づかれることはないだろう。
「行きましょう」
これ以上ここにいたくなくて、早く立ち去りたかった。
「はい。お嬢様」
シオンは私を馬に乗せた後、後ろに乗り馬を走らせた。
冷たい風が頬にあたるたびに、自分の感情が少しずつなくなっていくような気がした。
※※※
一週間後。オルテル家。
「まだ、エニシダは見つからないのか!?」
伯爵の怒声が屋敷全体を包み込むほどの叫びが響く。
「申し訳ありません」
伯爵の部下は恐怖で体を震わしながら謝罪をする。
「この役立たずめ!エニシダが消えてもう一週間が経っているのだぞ!高い金を払ってやってるっというのに、仕事もできないのか!」
伯爵は机にあるものを適当に掴んで部下に向かって投げる。
運良くそれは部下に当たらず壁に当たった。
大きな音が鳴り、当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれない、と部下は顔が真っ青になる。
「申し訳ありません」
部下は謝ることしかできない。
伯爵がそれ以外を望まないからだ。
反論や言い訳などをした場合、容赦なく殴られる。
利用価値もない者が、自分の機嫌すら悪くさせるものは必要ないと。
エニシダ様ですらそうなのだ。
実の娘にも利用価値を求める。
「謝るだけしかできないのなら、このオルテル家にはいらん!」
「はい」
「それより、エニシダを助けた者の正体はわかったか」
「申し訳……」
ドンッ!
伯爵がまた何かを投げ、壁に当たった。
「エニシダの居場所も、助けた者の正体も、何一つわかっていないと?貴様らは一体何をしてるのだ?」
「……」
部下は顔を下げ、伯爵の怒りがおさまるのを待つ。
時間にしたらほんの数秒の沈黙だが、部下には長い時間に感じた。
伯爵が息を吐くだけで体がビクッとなる。
「もうよい。ささっと探しに行け!必ず生きている状態で連れ戻せ。いいな」
「はい!」
部下は頭を下げると、急ぎ足で部屋から出ていく。
エニシダには悪いと思うが、自分のために必ず連れ戻す誓い、領民たちの家を徹底的に探し始める。
エニシダがオルテル領をとっくに出ているとも知らずに。
ほんの数分前。
伯爵の怒声が屋敷全体に響き渡ったとき。
「まぁた、お父様がお怒りだわ。お母様」
アドリアナが甘ったるい声で母親に声をかける。
エニシダが家を出てからというもの屋敷の雰囲気は最悪だ。
特にお父様の機嫌が日に日に酷くなっていく。
(今まで一度もお父様から怒られたことなどないのに、これも全部エニシダのせいだわ)
プリプリと効果音がつきそうな可愛い顔で頬をぷくぅと膨らまし、怒ってますという表情をする。
「……お母様?」
返事がなかなか返ってこず不思議に思って、母親の方を見ると、爪を噛み何かブツブツと言っていた。
呼ばれたことにも気づいている様子はない。
いつもの自信満々な姿とはあまりにもかけ離れていた。
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戻ってきて欲しくはないが、家から出れないのは嫌だった。
「最後まで迷惑かけるなんて本当に最悪な女ね。本当死んじゃえばいいのに、あんな女」
ポツポツと降り始めた雨が窓にあたる。
その音がだんだんと強くなっていく。
まるで今の自分の気持ちを表しているみたいで、余計に嫌な気分になった。
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