私達、婚約破棄しましょう

アリス

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「なんだ?」

ギルバートはその情けない声を聞いて、目の前にいる男は本当に冷徹無慈悲、戦神と恐れられたイフェイオン・ルーデンドルフかと疑いたくなった。

いったい何があったら、この男がこんなふうになるのかと。

だが、それよりも先に報告しないといけないことがあった。

「エニシダ嬢が最後に会っていた人物がわかった」

「それは本当か?」

ギルバートの言葉を聞いて、さっきまで真っ黒で死んだような瞳をしていたイフェイオンの目に希望が宿る。

「ああ。ゲイルっていうか山奥に住んでる医者のところにいた」

'医者'その言葉を聞いて、エニシダは怪我をしたのではと心配になる。

小さな傷も彼女にはつけさせたくなかった。

自分がそばに居ればこんなことにならなかったのに、と何度目かわからない後悔をまたした。

「そいつのところに行くぞ」

希望が見えた。

それも、強く握れば切れてしまいそうなほどの細い糸のような希望。

それでも今はそれに縋るしかない。

イフェイオンは急いでゲイルがいるであろう山へと向かう。




まだ、部屋に残っていた二人は別の緊張感が生まれていた。

「ギル。お前、時の魔法を使ったのか」

男は問い詰めるようなキツイ言い方をする。

「ああ」

「お前……死ぬつもりか」

「ほんの少ししか使ってないから問題はない」

「そういう問題じゃないだろ!」

男はギルバートの自分を大切にしようとしない態度に腹を立て声を荒げる。

時の魔法は体の負担が大きいため、使える魔法使いは百年に一人いるかいないか。

使えたとしても殆どのものが使わない。

権力者に利用されるというのもあるが、時の魔法が使えるものは使うたびに命が削られると言われている。

歴史に名が残っている時の魔法使いたちが短命だったため、そう言われるようになった。

「本来、俺は十年前に死ぬはずだった。それをイフェイが助けてくれたんだ。そのときから、この命はあいつのために使うって決めたんだ。俺はあいつに幸せになって欲しいだ」

「……なら、勝手にしろ」

男はそう言うと一瞬で部屋から姿を消した。

ギルバートは男が自分の身を案じて言っているのはわかっていたが、イフェイオンの役に立って死ねるのなら本望だと思っているので、例え自分の命を失うことになったとしても時の魔法を使うことはこの先やめることはない。

そもそもギルバートは時の魔法が使えるといっても、ほんの少しだけ相手の目を見て過去を覗くことができるだけだった。

未来をみることはできない。

歴史に名を残している時の魔法使いたちは時を操ったり、未来がみえたと記されている。

それに比べたら自分の時の魔法は大したことはない。

体の負担もそこまでない。

時の魔法使いの中でギルバートの能力は最弱。

だから、時の魔法を使ってもほんの少し命が削られるだけで死ぬことはないとわかっていた。

「俺も行くか」

ゲイルの場所を知っているのは自分だけなので、ギルバートも急いでイフェイオンの後を追った。




※※※



トントントン。

ギルバートは山奥の中にポツンと立っている古びた家の扉を叩く。

後ろの方で今にも扉を蹴破りそうな顔をしているイフェイオンをなんとか宥めて、この役を勝ち取った。

いきなり扉を蹴破ってでもしたら、相手の印象は最悪だ。

エニシダが心配でそうしたい気持ちはわかるが、ゲイルの立場からすればいきなりそんなことをされれば恐怖でまともに話などできない。

それに、いきなりそんな横暴な態度を取られたら本当のことを話したいとは思わないだろう。

そんなことを考えていると足音が近づいてくる音が聞こえた。

「はい。……どちら様ですか?」

ゲイルは扉を開けてギルバートを見ると警戒するような目つきになった。

服装を見れば貴族とわかるし、後ろにいる大勢の武装した騎士たちをみれば何をしていなくても、何がしたのではないかと思うのは当然だ。

ゲイルの目つきも仕方がないことだとギルバートは内心思った。

本当なら警戒心をとき、安心して貰ってから話しをしたいところだが、今はそんな時間はない。

ギルバートは軽く自己紹介をした後、本題に入った。

「私はルーデンドルフ家に仕えるものでギルバートと申します。単刀直入に言わせていただきます。こちらに三週間前、白い髪の女性が訪ねてきましたよね。そのお方についてお聞きしたいことがあります」

「聞いてどうするつもりですか?」

ゲイルの柔らかかった口調が厳しくなり、目もスッと細められた。

誰が見てもわかるほど、彼の態度はこちらに対して好意的ではない。

「ただ、傍にいたいだけだと思います。彼女に危害を加えるつもりなどは絶対にありません。
どうか、教えていただけないでしょうか」

「……どうぞ、お入りください。私の知っていることをお話ししましょう」

ゲイルはイフェイオンの方をチラッと見た後、中に入るよう促した。

ゲイルの声が聞こえていたイフェイオンは馬から降りて家の中に入った。

それに続くようにギルバートも中に入った。
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