28 / 35
過去
しおりを挟むそれからは国王のお陰で、あっという間に話がうまくまとまっていった。
両親は最初は物凄く反対していたが、国王が説得してくれたお陰で、最後は納得してくれた。
伯爵に関してはすぐに了承してくれたが、妹であるアドリアナの方と婚約させようとしてきたときは、エニシダの父親でなければ殴り倒していたなと思う。
今思い出しても、あの時の出来事は不愉快でしかなかい。
※※
「オルテル伯爵。この度はエニシダ嬢との婚約を許可していただき感謝します」
国王に呼ばれ王宮にきたとき、たまたまオルテル伯爵と出会った。
婚約発表はオルテル家で主催したパーティーで皆に知らせたいと言うので、伯爵の顔を立てるためにも了承した。
公爵は「うちでやるべきだ」と言ったが、決めたことだと言って無視を決め込んだ。
エニシダに会いに行きたかったが、その前に片付けないといけないことが多く、会いにいく時間がなかった。
それでも、エニシダが自分との婚約を了承してくれた事実が嬉しくて、仕事が忙しくても頑張れた。
国王には、もし彼女が望まなければ無理強いはしないで欲しい、と伝えていたので彼女も同じ想いなのだと知って嬉しかった。
オルテル伯爵のことはあまり好きではないが、愛する女性の父親なため礼儀正しく、これからは接することにした。
「これは小公爵ではありませんか。お礼を言うのはこちらの方です。娘と婚約していただき、本当に感謝いたします」
伯爵はにこやかに話していたが、急に笑顔が消え、距離を詰めてこう続けた。
「ただ、どうしてエニシダと婚約しようと思ったのですか?父親である私が言うのもなんですが、娘にはこれといった特技はありませんし、妹のアドリアナと違って可愛らしさもありません。あ、そうだ。婚約はエニシダではなく、アドリアナはどうでしょう。アドリアナなら、きっと毎日楽しく幸せな……」
日々を過ごせると思います。それが良くないですか?と続けたかったが、伯爵は今にも殺されそうなほど感情のこもってない瞳で見下ろされ、それ以上声を出すことができなかった。
「オルテル伯爵。私の婚約者はエニシダ嬢です。いくら、伯爵が彼女の父親だからといって私の婚約者を侮辱する発言は許すことはできません。今回は聞かなかったことにします。次はありません」
イフェイオンは冷たい口調で吐きしてるように言うと、そのままその場から去った。
※※
その一件から伯爵と会うことはなかった。
婚約発表まで残り一ヶ月をきったころ、国王が倒れた。
毒を盛られたのだ。
誰が盛ったのかは明白だったが、証拠がないため裁けなかった。
この事件を調査するために、イフェイオンはまた王宮に行くことになったが、それよりさらに最悪な事態が起きた。
魔物の大群が北に現れた、と言う知らせが入った。
せっかく地獄の日々から逃れられたのに、またあの日に戻らなければならないのか。
イフェイオンは王宮に着くなり、王妃に魔物の討伐を命じられた。
国王に会いたかったが、未だに意識が戻らないため会うことを許されなかった。
それに、なにより、王妃は一秒でも早く魔物討伐に行って欲しかったため、国王に会う時間があるなら出発しろ、という思いもあり許可を出さなかった。
イフェイオンも王妃が何を思っているかわかっていたが、引き下がることはできなかった。
国王をそんな状態にさせた犯人がよく言うな、と内心呆れながらも、会うまでは討伐に行かないと言った。
イフェイオンを含めたルーデンドルフ家は国のために戦う騎士だが、国王に忠誠を誓っている。
その証として、戦いに行くときは必ず国王に誓いを立ててから出向する。
例え、意識不明の状態でも、この行為をしないわけにはいかなかった。
王妃は遠回しに、それは自分にすればいいと言ったが、そのことには気づいていないふりをして、イフェイオンは国王に会わせてほしいと頼み続けた。
イフェイオンと王妃の会話を聞いていた臣下たちは、これは物凄く無駄な時間だと思っていた。
そんな時間があるなら、魔物討伐に時間を割くべきだと。
そんな臣下たちの苛立ちに気づいた王妃は、このままでは自分の印象が悪くなることを恐れて国王に会う許可を出した。
イフェイオンは許可が出るとすぐに王妃にお礼を言い、謁見の間から出て、国王の寝室に向かった。
報告で聞いた通り、国王の顔色は悪く今にも死にそうな容態だ。
見た限り、このままでは助からなさそうだったが、医療知識がないイフェイオンには信じることしかできない。
イフェイオンはベッドの横で跪き、誓いの言葉を述べる。
いつもなら帰ってくる言葉も返ってこない。
少し寂しく思いながらも、最後に言うお決まりの言葉を述べる。
ーー必ずや勝利を勝ち取り、国の平和を守ります。
言い終わって立ち上がると、出る前にもう一度国王の顔を見た。
さっきより顔の表情が柔らかくなっている気がした。
気のせいかもしれないが、誓いの言葉を述べた後、毎回国王はそんな表情をして「任せた」とただ一言言っていたので、寝ててもそう言ってくれているようで、つい嬉しくて口角が上がってしまった。
1,037
あなたにおすすめの小説
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる