私達、婚約破棄しましょう

アリス

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美しい

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「……わかった?」

説明をし終えると、シオンは悲しくなりながら尋ねた。

もし、このせいで女の子が逃げ出したらと思うと胸が痛くなった。

「全然。全くわからなかったわ」

女の子は悪びれずに笑いながら言った。

その言葉にシオンは喜んでいいのか迷った。

悪魔の子のことを気にしないでくれていることを嬉しいと思うも、説明下手くそだったかなと誤魔化すように落ち込んだ。

「どうしてわからないだ!?俺は'悪魔の子'で、俺と関わったら呪われるんだぞ!気味悪がるべきだろ!逃げるべきだろ!」

だが、すぐにシオンは泣き叫ぶように女の子を怒った。

自分と関われば女の子がどうなるか想像しただけで怖くなった。

本当に呪われたら?

自分と関わっているところを誰かに見られたら?

それで女の子に何か酷いことをしたら?

自分はもうどうなっても良かったが、女の子が傷つくのだけは嫌だった。

「どうして?」

女の子はシオンの悲痛な叫びに対して淡々とそう尋ねた。

本当になんでそんなことをしないといけないのか、わからないといった表情をして。

「どうしてって……俺は、悪魔の子、だから……」

「私にはあなたが悪魔の子じゃなくて、普通の男の子に見えるけど?」

普通の子。

何度そう呼ばれたかったことか。

悪魔の子だと烙印を押されてからも、自分では何一つ変わっていなかった。

どれだけ必死に「俺は何も変わっていない!」と叫んでも誰も信じてはくれなかった。

「俺は悪魔の子じゃない。人間だ。普通の人間なんだ」と何度も自分に言い聞かせたが、誰一人俺をどこにでもいる普通の人間として扱ってはくれなかった。

もう諦めかけていたのに、その言葉を言ってもらえた。

嬉しくて泣いてしまった。

「……本当に、俺は普通の人間に見える?」

「うん。見えるよ」

「ありがどう」

シオンは鼻を啜りながら言ったせいか、「と」ではなく「ど」と言い間違いをしてしまった。

また泣いてしまっただけでも恥ずかしいいのに、言い間違いをしたことで余計に恥ずかしくなり、顔に熱が集中した。

「私にはよくわからないことだけど、それってよくないものなの?」

女の子はシオンの頬を指差しながら尋ねる。

説明したときから薄々気づいていたが、女の子は本当に何も知らないのだな、とシオンは思った。

悪魔の子のことは、貴族なら当然義務教育として、平民の家に産まれたとしても親から当然のことのように教えられることだ。

施設の子どもも同じように教えてもらえる。

それなのに彼女は何も知らない。

着ている服から貴族かと思っていたが、違うのかもしれない。

もしかしたら、女の子には複雑な事情があるのかもしれない。

それが何かはわからないが、もしそうだと仮定したら知らないのは仕方のないことだと思えた。

「うん。よくない。悪いものだ」

シオンは頬にできた悪魔の子の印のせいで受けた暴力や苦痛を思い出し、恨みがこもった声で吐き捨てるように言った。

「そうなんだ。私には美しく見えたのにな」

女の子は残念がるような声音で言ったが、その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。

何も知らないくせに、これのせいでどれだけ死にたいと思ったのか、大切な人に捨てられることになったのか、生きていくのがどれだけ大変なものになったのか、何一つ知らないくせには他人事のように平気で「美しい」と言った彼女に殺意が湧いた。

「これのどこが!美しいっていうんだ!これのせいで!これのせいで俺が今までどんな目に遭ってきたと思ってるんだ!何も知らないくせに!適当なこと言うな!」

シオンは怒りで我を忘れ、女の子に向かって怒鳴りつけた。

最後まで言い切ると、少しずつ頭から血が引いていき、冷静さを取り戻した。

言ったことは後悔はしていないが、言い過ぎだかもしれないと思い始めていた。

泣いてないよな、と恐る恐る女の子の方を見ると真逆の笑顔を浮かべていた。

なんで?最初にその言葉が浮かんだ。

次になんで話しかければいいのかで悩んだ。

悩んで、悩んで、悩んで何も言えずにいると女の子が笑ったままこう言った。

「ねぇ。薔薇って綺麗だと思う?」

全く関係のないことを言い出した。

聞き間違いかと思ったが、同じことをもう一度言われ、気のせいじゃなかったかと困惑した。

「薔薇?」

「うん。薔薇。綺麗だと思う?」

「そりゃあ、綺麗なんじゃないか」

話の方向性が見えず、シオンは少しイライラしながら答える。

「どうして?」

「どうしてって、綺麗だから綺麗なんだよ。綺麗だと思うのに理由なんているのか?」

シオンは質問の意図がわからず、きつい口調で問いただした。

「いらないと思うわ。綺麗なものは綺麗。みんな感性が違うから、私が綺麗だと思ったものは誰かにとっては違うかもそれない。それは、ただ私がおかしいだけかもしれない。それとも、その人がおかしいのかもしれない。でも、綺麗だと思うのに特別な理由がいらないなら、私があなたが嫌っているものを「美しい」と思ってもいいんじゃないかな」

よくない!駄目だ!、そう言いたいのに喉に何か引っかかったみたいに言葉が出てこなかった。
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