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ゲイルとの別れ
しおりを挟むゲイルから貰ったブレスレットのおかげで、検問から難なく突破できた。
エニシダの本来の髪と瞳の色はピンクと黄色。
だが、髪も瞳も真っ白へと変わった。
そのことを伯爵たちも知っているので、髪と瞳の色が真っ白な女性を見つけたら捕まえろ、と命じれていた。
瞳の色はどうしようもできなくとも、髪の色は染め粉があればどうにでもなったが、持ってくることができなかった。
ゲイルからブレスレットをもらっていなかったら、きっとこの街に留まり続け、最終的に連行された可能性が高い。
心の中で感謝しながら、突破した検問を振り返ると、一人の男性と目があった。
その男性の目にシオンは見覚えがあった。
ついさっきゲイルも同じような目をしていた。
その目は、感謝と罪悪感だ。
(まさか……!)
シオンは、なんでこんなに簡単に突破できたのかようやく理解できた。
彼らはエニシダの顔を知っていたのだ。
きっと、ゲイルも本当は知っていたのだ。
だから、初めてエニシダを見たとき驚いたのだ。
どうやって知ったのかはわからない。
でも、間違いなく知っている。
貴族の令嬢の顔を平民が知れることなど不可能に近い。
エニシダなら尚更だ。
伯爵にやって監禁に近い状態で過ごさせられていたのだから。
それなのに、この男性はエニシダのことを知っている。
知っていて伯爵の命に背いた。
男性から目を逸らし、前を向こうとしたが、その隣の男性の目も同じ目をしていることに気づいた。
その男性だけでなく、近くにいたもの全員が同じ目をしていた。
シオンには何が起きているのか理解できなかった。
ただ、彼らが危険を冒してでも自分たちを逃がしてくれたことだけはわかった。
この事実をエニシダに教えるべきだと思った瞬間、一人の男と目が合った。
そして、その男は首を横に数回振った。
ただの偶然かもしれないが、シオンは確信した。
その男性は、どうか言わないでくれ、と言っているのだと。
どうしてそんな選択をするのだと、そんなことをすればエニシダは街の人たちに嫌われていると勘違いしてしまう、と怒りが込み上げてくるが、冷静に考えたら彼らがなぜ「言うな」と頼んだのか簡単にわかる。
言えば優しいエニシダは逃げるのをやめるからだ。
これが、街の人たちなりの恩返しなのだろう。
彼らの想いを汲み取り、シオンはエニシダにこの事実を伝えることはしなかった。
エニシダが苦しんでいることはわかっていたのに、でも言えば、彼女はもっと苦しくなる未来を選んでしまうため言えなかった。
せっかく、残りの人生を自分のために生きようと決心したのに、その邪魔をするわけにはいかなかった。
シオンは彼らに心の中で「ありがとう。すまない」と伝え、馬を走らせた。
※※※
街を抜け出し、ただのエニシダとして生きていくことを決めた彼女と旅を初めたばかりの頃は、共に入れる嬉しさと隠し事をしている罪悪感に襲われた。
初めて会ったときの彼女の笑顔は太陽のように眩しかったのに、今は無理して笑っている。
伯爵たちのせいで作り笑いをすることが染み付いたのだろう。
せっかく自由になれたのに、心の底から笑えないエニシダを救えない自分にシオンは憤りを感じた。
どうにかして心の底から笑ってほしい、と願って行動しても全て空回りしてしまった。
それでも、少しずつ自分のしたいことを言ってくれるようになったとき、この街にイフェイオン・ルーデンドルフが訪れにくるという情報が街中に広がった。
エニシダの耳に入る前にこの街から出ようと部屋に戻ると、彼女は酷く怯えて取り乱していた。
ああ。遅かった。昨日のうちにこの街を出ていれば、と後悔した。
シオンは何を言えばいいか悩んだ。
なんて言えばエニシダは落ち着くか。
考えて、考えて、考えたが、正解がわからなかった。
ゆっくりとエニシダに近づいているときも、なんて言うべきかずっと悩んでいた。
だが、実際に口から出てきた言葉は一度も思い浮かばなかった言葉だった。
「お嬢様。次はどの街に行きたいですか?」
そう無意識に言っていた。
それが正解だったのか、彼女はいつもとは違うちょっと困ったような恥ずかしそうな顔で、上手く笑えてない表情で笑ってこう言った。
「……そうね。次はどこがいいかしら?シオンは?どこか行きたい場所はないの?」
そのとき、シオンは改めて思った。
昔とは違う笑顔だが、ようやく作り物ではないエニシダの本当の感情を見ることができた。
この旅は彼女を守るためでなく、彼女と一緒にいたい自分のわがままな想いからの旅なのだと。
「そうですね。お嬢様はお花が好きでいらっしゃいますよね」
エニシダには花が似合う。
初めて会ったときも花があった。
彼女との思い出の中には必ずといっていいほど花もある。
「そうね。花は好きよ」
花が好き、というエニシダの表情は柔らかかった。
無意識なのだろう。
これから旅する間はずっとそうであってほしいと思った。
せめて、この旅が終わるまでは二度と誰も彼女を傷つけることなく、幸せな時間を過ごさせてほしいと。
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