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毒
しおりを挟むシオンは用意しておいた毒を飲むために、池の近くに置いていた鞄を取りに戻った。
カバンの中に入れていた毒は二つある。
どちらも猛毒ですぐに死ねるが、一つは苦しみながら死ぬか、もう一つは苦しまずに死ぬかで毒の種類が違う。
シオンが二種類の毒を用意したのには理由がある。
それはエニシダの最後が苦しみか安らかで、自分の死も同じようにしようと思ったからだ。
最初は剣で死のうと考えていたが、それでは血がエニシダにつくかもしれないと考えやめた。
毒だったら我慢すればいいと考え、毒で死ぬことに決めた。
エニシダの人生に比べたら、毒の苦しみなど大したことではない。
もちろん、苦しむ毒を飲んだ場合の話だ。
安らかに死ねる方は苦しむこともなく眠りにつける。
血を吐く心配をする必要もない。
結果、使うのは安らかに眠りにつける方だった。
血を吐く心配をしたのが無駄に終わって良かったと思う。
鞄から安らかな眠りにつける方の毒の瓶を取り出し、それだけを持ってエニシダの元へと戻る。
さっきと変わらず幸せそうに眠っているエニシダがいる。
まるで御伽話に出てくる眠り姫のようだった。
愛する人にキスされたら目覚めるが、その相手が自分では無理だとシオンはわかっていた。
もしかしたら、イフェイオンならこの呪いからエニシダを救いだせる可能性があるかもしれない。
でも、きっとエニシダはそれを望んでいないはずだ。
だから、連絡しなかった。
文字は書けなくても、人に頼んで書いてもらうことはできた。
方法はいくらでもあったが、エニシダが望まないことをするのは、ただの自己満足。
それに、エニシダの表情を見る限り呼ばなくて正解だったかもしれない。
呼んでいたら呪いが解けたかもしれないが、逆に幸せな表情で死ぬこともできなかったかもしれない。
どれが正解かわからない以上、今見えていることだけで判断するしかない。
シオンはエニシダに触れようと手を伸ばすが、あと少しでというところで手を止めた。
最後だからという思いで触れようとしたが、やっぱり自分のような人間が触れてはいけないと思い直した。
旅をしているときは、どうしても触らないといけないとき以外は決して触れなかった。
エニシダから触れられたときは、体が固まってしまった。
いつかは慣れると思ったが、毎回緊張した。
シオンにとってエニシダは恩人であり、生きる希望であり、初恋の人で、ずっと好きな人だ。
触れるのを躊躇うのも、毎回触られると緊張してしまうのも仕方ないことだった。
例え、最後でもその想いは変わることなかった。
これでいい。これがいいんだ。とシオンは自分に言い聞かせた。
自分とエニシダの関係はお嬢様と騎士。
それ以上でも以下でもない。
だから最後でも、例え何をしても誰にも知られないことでも、一線を越えるわけにはいかなかった。
死ぬ最後の瞬間まで、エニシダが信用してくれた護衛騎士のシオンでいたかった。
シオンは毒の瓶の蓋を開けて、青紫色の液体をゆっくりと口の中へと流し込んでいった。
全て飲み終わると十秒も立たないうちに、ゆっくりと意識が遠ざかっていく。
全身の力が緩やかになくなっていき、座っていたのに力が抜けたせいで地面に倒れ込んだ。
シオンは無意識にエニシダに手を伸ばしたが、届く前にその手は地面の上に落ち、深い眠りについた。
(もし、本当に生まれ変わりがあるなら、今度こそあなたが幸せな未来を歩んでいけるよう願います)
シオンは最後の最後までエニシダの幸せを考えた。
最後に思ったこたは、シオン自身も神に祈ったのか、それでないのかはわからなかったが、ただエニシダの次の人生が幸せと愛と笑顔に満ち溢れたものであればいいと願わずにはいられなかった。
秘密の花園で二人が最後を誰にも見られることなくひっそりた息を引き取ると、まるで二人の死を悲しむかのように、木に咲いてあった花が散っていった。
その花びらは何故か引き寄せられるように、二人の周りに落ちていった。
花たちは二人の死を悲しむかのように、風は吹いてないのに揺れた。
まるで、泣いているかのように。
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