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教皇
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「顔を上げてください。公爵様」
この場に似つかわしくないほど柔らかく優しい声が公爵の頭上から降りてくる。
公爵はその声に素直に従い、顔を上げた。
公爵は目の前の男と対面するたびに自身がひどく幼い子供になったように感じる。
腰まである長い髪と髭は冬に降る雪が積もり、太陽の光で美しく輝きを放っているかのような真っ白。
顔は皺だらけで口を動かすだけで、さらに皺が刻まれる。
目はその立場からは考えられないほど透き通っていて、見つめられると自分がどれだけ卑しい人間かと相手に思わせるほど清らかな目をしている。
「感謝の言葉を言う必要はありませんよ。我々は当然のことをするだけです。この力はそのためにあるのですから」
だから気にする必要はない、と言われても気にすることなどできるわけない、と公爵は思わずにはいられなかった。
神殿のトップに立つ教皇自ら助けに来てくれるととは思っても見なかったが、彼がいれば安心だった。
勝っても、負けても、世界地図からこの国は無くなるだろうと公爵はわかっていたが、これ以上部下を失うことはない。
それが公爵の心を少しだけ軽くした。
「公爵に伝えなければいけない言葉があります」
突然、教皇がそう言うので柄にもなく公爵は緊張してしまった。
何を言われるのかと、教皇の口元に神経を主張させた。
「ご令嬢は神殿にいらっしゃいます。ご無事だと伝えて欲しい、と言伝を預かりました」
「……!」
正直に言うとエリカのことは諦めていた。
妻のヘイリーの死体を見たときに、エリカもどこかで殺されたはずだと。
考えないようにしていたためか、予想外の朗報に公爵は取り繕うこともできずに動揺した後、喜んだ。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
公爵は何度もお礼を伝えた。
声が震えて、貴族としては情けない姿を見せていたが、そんなことはどうでも良かった。
教皇は柔らかい表情を浮かべた後、公爵の後ろで重症の令嬢が目に入った。
「まずは彼女から治療をした方がいいですね」
教皇は穏やかな表情でありながら、凛とした声で言った。
公爵も確かに今はリナリアを助けるのが最優先だと思い、体を横にずらして道を開けた。
教皇はリナリアに近づくと神聖力で傷ついた体を治療していった。
折れていた骨は元通りになり、血が出ていた箇所の傷も塞がっていく。
ただ顔の傷だけはそのままだった。
公爵は何故顔の傷は治療しないのかと不思議に思い、教皇を見た。
非難するつもりはなかったが、結果的にそんな目を向けてしまった公爵をみて教皇は首を横に振ってから「私ではこの傷を治すことはできません」と言った。
教皇の力を持っても治せない傷は二つある。
一つは教皇よりも強い力を持った者が怪我を負わせた場合。
もう一つは呪いだ。それも、ただの呪いではない。相当強い恨みのこもった呪い。
ただ状況的にみて、可能性が高いのは前者だろう。
教皇でも治すことが無理なら、この時代、リナリアの顔の傷を治せるものは存在しない。
彼女は死ぬまでこの傷と付き合わなければいけなくなる。
可哀想に思うも公爵にはどうすることもできない。
リナリアの治療が終わると教皇と神官たちは公爵たちの治療へと移った。
神官たちが到着してからはあっという間に時が過ぎた。
途切れそうになっていた戦意を取り戻せたおかげで、そう感じているのがしれない。
生存者がいないとわかるや否や王都から立ち去り、魔族、魔物討伐へと向かった。
途中、ルークとサルシューア国の援軍も合流し討伐は無事に終わった。
だが、全て終わったときには国はもう取り返しのつかないところまできていた。
生き残った国民は七分の一程度。
そのほとんどがオルテル領地の者たちだった。
王族も貴族も失った今、国を立て直すことは不可能となり、一か月後にはサルシューア国に統治されることが決まった。
そして、同時にオルテル家の処刑が秘密裏に結構された日でもあった。
※※※
この場に似つかわしくないほど柔らかく優しい声が公爵の頭上から降りてくる。
公爵はその声に素直に従い、顔を上げた。
公爵は目の前の男と対面するたびに自身がひどく幼い子供になったように感じる。
腰まである長い髪と髭は冬に降る雪が積もり、太陽の光で美しく輝きを放っているかのような真っ白。
顔は皺だらけで口を動かすだけで、さらに皺が刻まれる。
目はその立場からは考えられないほど透き通っていて、見つめられると自分がどれだけ卑しい人間かと相手に思わせるほど清らかな目をしている。
「感謝の言葉を言う必要はありませんよ。我々は当然のことをするだけです。この力はそのためにあるのですから」
だから気にする必要はない、と言われても気にすることなどできるわけない、と公爵は思わずにはいられなかった。
神殿のトップに立つ教皇自ら助けに来てくれるととは思っても見なかったが、彼がいれば安心だった。
勝っても、負けても、世界地図からこの国は無くなるだろうと公爵はわかっていたが、これ以上部下を失うことはない。
それが公爵の心を少しだけ軽くした。
「公爵に伝えなければいけない言葉があります」
突然、教皇がそう言うので柄にもなく公爵は緊張してしまった。
何を言われるのかと、教皇の口元に神経を主張させた。
「ご令嬢は神殿にいらっしゃいます。ご無事だと伝えて欲しい、と言伝を預かりました」
「……!」
正直に言うとエリカのことは諦めていた。
妻のヘイリーの死体を見たときに、エリカもどこかで殺されたはずだと。
考えないようにしていたためか、予想外の朗報に公爵は取り繕うこともできずに動揺した後、喜んだ。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
公爵は何度もお礼を伝えた。
声が震えて、貴族としては情けない姿を見せていたが、そんなことはどうでも良かった。
教皇は柔らかい表情を浮かべた後、公爵の後ろで重症の令嬢が目に入った。
「まずは彼女から治療をした方がいいですね」
教皇は穏やかな表情でありながら、凛とした声で言った。
公爵も確かに今はリナリアを助けるのが最優先だと思い、体を横にずらして道を開けた。
教皇はリナリアに近づくと神聖力で傷ついた体を治療していった。
折れていた骨は元通りになり、血が出ていた箇所の傷も塞がっていく。
ただ顔の傷だけはそのままだった。
公爵は何故顔の傷は治療しないのかと不思議に思い、教皇を見た。
非難するつもりはなかったが、結果的にそんな目を向けてしまった公爵をみて教皇は首を横に振ってから「私ではこの傷を治すことはできません」と言った。
教皇の力を持っても治せない傷は二つある。
一つは教皇よりも強い力を持った者が怪我を負わせた場合。
もう一つは呪いだ。それも、ただの呪いではない。相当強い恨みのこもった呪い。
ただ状況的にみて、可能性が高いのは前者だろう。
教皇でも治すことが無理なら、この時代、リナリアの顔の傷を治せるものは存在しない。
彼女は死ぬまでこの傷と付き合わなければいけなくなる。
可哀想に思うも公爵にはどうすることもできない。
リナリアの治療が終わると教皇と神官たちは公爵たちの治療へと移った。
神官たちが到着してからはあっという間に時が過ぎた。
途切れそうになっていた戦意を取り戻せたおかげで、そう感じているのがしれない。
生存者がいないとわかるや否や王都から立ち去り、魔族、魔物討伐へと向かった。
途中、ルークとサルシューア国の援軍も合流し討伐は無事に終わった。
だが、全て終わったときには国はもう取り返しのつかないところまできていた。
生き残った国民は七分の一程度。
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王族も貴族も失った今、国を立て直すことは不可能となり、一か月後にはサルシューア国に統治されることが決まった。
そして、同時にオルテル家の処刑が秘密裏に結構された日でもあった。
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