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願い
しおりを挟む「ここはあの頃と何も変わらないな」
イフェイオンは目の前に見える光景と昔の光景を思い出し、振り絞るように呟いた。
古びた建物、色鮮やかな花が咲く花壇、建物を囲むように美しい緑の葉が生い茂る木々。
どこにでもあるようで、どこにもない。
イフェイオンはここ以上に美しい光景はないだろう、と信じて疑わなかった。
エニシダが何故ここで埋葬してほしいと言ったのかがわかる。
だが、建物のすぐ近くに埋葬すれば孤児院たちが嫌がるかもしれない。
墓というだけで怖いと感じてしまう人はいる。
エニシダも子供たちを怖がらせてまで、この場所で埋葬されたいと思わないだろう。
イフェイオンは建物を通り過ぎて、さらに奥へと足を進めた。
この場所でエニシダと再開することは叶わなかったが、戦争がないときイフェイオンはたまにここを訪れ子供たちと遊んだりした。
そのとき偶然薄いピンク色の花を咲かせる木を見つけた。
その木は他の木を寄せ付けないほど圧倒的な美しさを誇っていた。
その美しさに恐れたかのように、その木の周りには他の木は生えていなかった。
ここなら基本誰も来ないし、エニシダも気に入ってくれると思った。
イフェイオンはエニシダを埋葬するための墓をつくために土を掘ることにした。
その間、エニシダを抱えておくことはできないので、木に背中を預ける形で座らせた。
剣を抜き、木から少し離れた場所にしようと決め、剣を振り下ろすとイフェイオンのいる場所を含めて大きな穴があいた。
突然足場を失い、驚くがすぐに落下への衝撃を減らすため体勢を整えた。
すぐに落ちた穴の先の地面が見えた。
あまり高さがないことに安堵しつつ、無事に着地した。
イフェイオンは周囲を見渡し、何の場所かと確認すると、誰かが人工的に作った場所だとわかった。
誰が何の目的で作ったかはわからないが、なかなかいい場所だった。
穴の中の壁は土ではなくレンガを積み上げて作られている。
最近は手入れがされていないのか、レンガとレンガの隙間から草が生えていた。
後ろを振り返ると、階段があった。
入り口があったのか、それに気づけていたら落ちることもなかったのにな、と思ったが、知ったところで降りようと思ったかは微妙だった。
地面には白い花が咲いていた。
初めて見る花で名前は知らなかったが、小さくて可愛らしい花だ。
イフェイオンは白い花の中を歩きながら、教会で行われるときに見る棺に近づいた。
ただ、蓋はされてないので、中が空っぽなのは見ないでもわかった。
イフェイオンは棺を見て思った。
この棺にエニシダを入れて埋葬しよう、と。
もうこの場所は忘れ去られている。
誰も使わないのなら自分が使ってもいいのではないかと。
イフェイオンは改めて棺をじっくりと観察した。
色は白。それ以外の色はないが、花の模様が施されている。
複雑な模様は一目見て名のある職人が施したものだとわかる。
彼女に棺にこれほどピッタリなものはないと思った。
そう思うと、それ以外のことを考えることはできずイフェイオンは上へと向かって飛んだ。
背中を木に預けて座っているエニシダの顔を見てイフェイオンは胸が締め付けられた。
幸せそうに目を瞑っている。
それが生きている時ではなく、死ぬことができたからの喜びだとわかった。
自分は彼女を幸せにすることができなかった。
こんなことになるとわかっていたら、婚約なんて、幸せになりたいと願うこともしなかった。
ただ幸せになりたかっただけだった。
そのために死に物狂いで戦ってきた。
その結果がエニシダの死なら、最初から望みはしなかった。
イフェイオンはエニシダをそっと棺の中におろした。
もう二度見ることはできない彼女の顔をしっかりと目に焼き付けておくために。
「すまない」
壊れ物に触れるかのようにエニシダの頬を優しく撫でた。
「どうか、来世では幸せになってくれ」
自分の手で幸せにしたい、と願う資格は自分にはないとわかっていた。
イフェイオンは棺の蓋を閉めてから、我慢していた想いが目からそっと流れた。
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