水魔法しか使えない最強の魔法使い

アリス

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出発

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「おい。あれ見ろよ」

誰かの発した言葉に3年生、全員が反応し、ある一点に視線が集中した。

その先には、呑気に地面に寝転がり欠伸をしているアキレアがいた。

「おいおい。まじかよ」

「あいつ、もう諦めてるじゃん」

「せめて、やるそぶりとかしろよ。もしかしたら、先生たちがそのやる気に心を打たれて残してくれるかもしれねーのにな」

そんなことはあり得ないし、絶対に許さないと心の中では思っているのに、彼らはわざと「頑張れば希望はある」と言う。

彼らは自分たちが最下位になることはないと確信しているので、試験がもう少しで始まるというのに、一切緊張した様子がない。

アキレア以外の3年生がスタート地点に全員並ぶと、ちょうど開始時間になり、副校長が開始の合図を宣言した。

『これより3年生の魔法実技試験を開始する』

そう宣言したのと同時にパーンッと大きな音が出た。

前の2学年と違い、ゆっくりと生徒たちは進んでいく。

アキレアはそんな彼らを眺めた後、5年生と4年生の進行状況を確認した。

見たところ、戦闘が白熱しているせいか4分の1も進んでいない。

これは当分進まないだろうな、と思った。

その予想通り、15分後に2年生が出発しても、さらにその15分後に1年生が出発しても、最初に出発した5年生の先頭集団は半分も超えていなかった。

唯一、戦闘がない3年生は先頭集団がもうすぐ4年生の先頭集団に追いつきそうだった。





「彼女は既に諦めているのでしょうか?」

今年赴任したばかりの、新米教師のダミアンは厚底眼鏡をクイッと持ち上げながら、先輩教師に問いかける。

「当然そうでしょう。彼女は無能ですからね」

4年生の学年主任のエリックが冷たい口調で吐き捨てるように言う。

「確かに彼女は無能ですね。魔法省が定めた魔法実技試験では毎回最下位ですし、なにより使える魔法が水魔法だけですからね」

賛同するように、2年生の学年主任のジャネットが淡々と話す。

「え?そうなんですか?」

ダミアンは驚く。

「ダミアン先生、知らなかったんですか?あの子が無能だということは有名ですよ」

私、着任したその日には知ってましたよ、と同じ新米教師のドルシラがキャハハッと小馬鹿にしたように笑う。

(知らなかったわ。それは……)

ダミアンは寧ろ、アキレアを優秀な子だと思っていた。

そう思ったのは、彼女の筆記試験の結果をみたからだ。

アキレアは毎回の筆記試験を1点も落とすことなく満点を取り続けていた。

ダミアンが、それでアキレアを優秀だと勘違いしてもおかしくはなかった。

「頭だけはいいですけどね」

学園一、オズワルト国の7賢人の1人、シモンが淡々と言う。

「頭がよくても、魔法が使えなければ意味ありませんよ」

エカルトがすぐに反論する。

エカルトはシモンのことを目の敵にしていた。

魔法の実力では絶対に叶うはずない相手だが、アイリーンに対する思い出は負けたくなかった。

エカルトと違いシモンは口数も少なく、無表情。

だが、顔が整っているので女子生徒からは人気だし、実力もあるので男子生徒からは羨望の眼差しを向けられている。

アイリーンが彼に少なからずの好意を寄せていることに気づいていたエカルトは、毎回彼にだけ突っかかっていた。

「その通りです。ですが、頭が悪ければ魔法を使うこともできません」

魔法を使うにはその魔法を理解する必要がある。

難しい魔法ほど、方程式が難しくなっていく。

極まれに頭が悪くても本能で理解し、使えるものもいたと歴史に名を刻んだ12使徒がいたとされているが、それらは一言であらわすなら「天才」と称される者たちだ。

平凡な魔法使いには、その芸当はできない。

7賢人であるシモンもその一人だ。

だからこそ、頭のいいアキレアが水魔法しか使えないことを非常に残念に思っていた。

この試験で退学になるのも仕方ない、と。

魔法は弱肉強食。

自分の身の丈に合ったところにいなければ死ぬことになる。



5年生が最初に出発してから1時間が経過したが、アキレアは未だに動く気配すらない。

3年生の先頭集団が5年生を抜かし、そこから10分が経過してようやくアキレアは立ち上がった。

軽く体をほぐす。

んー、といいながら腕を上に伸ばすと何とも言えない気持ちよさに包まれた。

「さてと、そろそろ行きますか」

アキレアがこれまで動かなかったのには理由がある。

1つ、全学年の進行状況の確認をしたかったこと。

2つ、戦闘による困憊。

3つ、試験会場のコンデイションを整えること。

この3つがアキレアの立てた計画を成功させるためには必要な条件で、それが整うまでは動くことができなかった。

アキレアは右手に魔力を集中させ水を操り、建物に立てかけられていた一本の箒を手繰り寄せる。

「うそっ!?」

アイリーンは驚いて机をたたきながら椅子から立ち上がる。

他の先生たちもアキレアの魔法をみて目を見開く。

水魔法しか使えないはずの無能が箒を自分のところまで手繰り寄せたのだから。

当然の反応だ。

だが、ただ1人、シモンだけはいまのが物を動かす魔法ではなく、水を操った魔法だということに気づいていた。

微量な水で箒を包み動かしたのか。

(大した発想力だな)

水魔法しか使えないなら、その水魔法をどう使うか。

普通の魔法使いなら才能がないと諦めているだろうが、彼女は違った。

一体、これから何をするつもりなのかーーとシモンは彼女に期待せざるを得なかった。

シモンは自身の中にまだ、誰かに期待するという感情があることに驚きながらも、騒がしい先生たちに目をくれず、静かにアキレアの行動を眺めた。

「よし、行くか」

アキレアは箒の上に飛び乗り、水を操って、空を飛ぶ。





「は!?なんで……なんで、空を飛べるのよ!」

アイリーンの甲高い声が響く。

それに続くように、学園長も、副校長も「ほんと……なんで、飛べるんだ」と小さな声で呟いた。
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