背後の弾丸

浅村 英字

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一騎打ち

200万

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「ああ、金が欲しい・・・」

 おそらく、普通の学生が思っていることだろう。俺には今の環境が退屈で仕方がない。お金さえあれば、ある程度は現環境でも退屈が少しはまぎれるのでは。そう考えるも、宝くじにでもあたらない限り自分の平凡な人生は変化しないのだろうと、楽観する。

「お前さ、ほんと欲張りよな」

「人生欲張んないとダメだろ。それに和樹は欲がなさすぎるんだろ」

 いつもどうりの帰り道。昨日は一輪のスイレンを見つけられたが、偶然が重なるとは限らない。そう思うと今日がそれほど楽しくはない。

「昨日のかわいい子がまた見つかるといいな」

 もし今日もあのスイレンを見つけると、俺の人生はもう末にいるような気がする。俺の灰色の何も感じない世界で、あんなことがあるとしばらく何もなくてもいいと思う。俺の嗅覚と第六感に何か違和感を感じたのだ。

「何?本当にいた?」

「いや、なんか違和感を感じたんよ」

 灰色の世界で、一段と黒く体の外にまで広がっているオーラが見えた。

「ちょっと悪い。あとつけてみる」

 俺は、自分の第六感を異常に信じている。それで中高と難なく過ごしてきた。だから違和感を感じた後の彼への好奇心を抑えるつもりはない。
 俺は何で、見知らぬ男性の後をつける必要があるのだろう。黒いスーツに黒いブリーフケース、きちんとした格好をしているのに、彼からっ感じられる緊張は尋常じゃない。駅横の公園で携帯をいじりながらあたりをちらちらと見ている彼は、まるで誰かを探しているようだった。

「あの人、なんか見たことあるな・・・。確か・・・」

 俺は、彼との間に木を挟み、自分の記憶の中で彼の顔を探す。俺は確かに彼の顔を見たことある、そんな気がする。見たことあるけど、いつどこかで見たかまではよく覚えてない。

「お兄さん、何してるんですか?」

「え?あ、いやとくには」

「私、今日はもう予定なくて・・・」

 俺は腕時計で時間を確認して背後を見ると、彼も時計を見てあたりを詮索している。そして、俺の前には俺と同じくらいの女子が携帯片手に俺に話しかけてきていた。かなりモテそうな女子は、どうして俺に話しかけてきたのかよく分からない。

「そうなんですね・・・」

 彼女は俺の言葉の後にもう一度同じ言葉を繰り返した。彼女の考えは今の俺には読み取れない。しかし、今の俺の頭の中では、彼のことをどこで見たのかただただ探す。

「あのっ、よかったら一緒にカラオケ行きません?」

 彼女がさっきまでとは違って具体的な案を出してきた。しかし、俺の視線はその奥の青服の二人組に行ってしまっていた。

「ごめんなさい、お兄さんお仕事何されてるんですか?」

「警察・・・、たしかどこかで・・・」

「お兄さん?」

 俺の記憶の中で、彼を見つけられた。登校するときの駅のホームで彼の写真を見た。たしか、その下に記載されていた数字は二百。確か、彼の名前は・・・・・・、

「柊 真司郎、だったか」

「お兄さん、シンジロウって名前なの?」

「あ?あ、ごめん俺のことじゃない」

 俺は警察の方に足を運び、彼らに相談する。

「すいません、ちょっといいですか?」

 俺は彼のことを警察に報告し、その場を去ろうと考えていた。でも、何かが引っ掛かった。俺には何をどうしたらいいのかわからないが、それでも俺は彼のことが気になってしょうがない。

「お兄さん?」

「なんか今更なんだけど君、名前は?」

「あっ、私は『アンナ』って呼んでください」

 彼女は顔と似合っているかわいい名前で、俺が警戒する間合いにたやすく入ってきた。しかし、今の俺は彼女よりも向こうの男性が気になる。こう言うと変な風に聞こえるが、俺は同性愛に興味はない。気になる異性がいるわけでもないが。

「アンナさん、ちょっと付き合ってもらえる?」

 俺は彼の間合いに入るために彼女を利用することを決めた。彼女の手を取り、人混みのほうに進んで行く。俺が彼女の手を取り進むころ、彼は焦りが少し減っているように見えた。
 彼は軽く手を挙げ、別の男性を呼び止めた。その男性は黒いアタッチケースを持っていた。刑事ドラマでよくありそうな取引だった。でも、アタッチケースの中身を見るような仕草はない。

「ねぇ、どうかしたの?」

 男性たちは一度ベンチに腰を据える。アタッチケースは二人の間に置いて、彼は右手でジャケットの内ポケットから茶封筒を取り出す。その厚みはここから見ておおよそ、二センチ程度。中身が現金なら、二百万円程度。この情報化が進んでいる時代はとても厄介だ。どんなことでも電子化すれば誰かにばれる可能性が生まれる。でも、現金ならその可能性がほとんどない。
 すると、取引が成立した。
 警察は取引が成立したことを確認した途端に、彼らを取り押さえようと駆けつける。ついさっき知った取引を抑えようとするには、正直人数は足りない。警察官が二人、一人ずつしか対応できない人数なら、どちらも逃げることが可能な気がする。
 俺は彼女の手を放し、俺も参戦しようと距離を詰める。

「ちょっと、どうしたの?」

 俺は自分の考えをつい貫いてしまう。放された手をもう一度つながれて、俺は手首に視線が行く。警察の笛が鳴り、焦りと驚きから逃げ出している彼らの方に視線が戻る。

「ごめん、ここにいて」

 俺は真司郎の正面に立ち、彼の行く手を阻む。

「どけ!このガキ!」

 そう言って俺をどかそうとする彼の手を右手で返し、掴んだまま左手で彼の背中を前に押し倒す。

「おい!やめろ!放せガキ!」

 俺は彼に乗り、近くの交番から出てくる追手の警察官が来てくれるのを待つ。

「ごめんなさいね。警察の手伝いをするのは一般人としての責務じゃないですか?」

 俺は彼をあおり、腕を占める。その姿を彼女はすぐに追ってきて俺の横に座る。

「何で来てんの!?」

「あなたって本当にかっこいいんですね」

 彼女と話してしばらくすると、警察官が俺の代わりに真司郎の上に乗る。

「おい、お前『柊 真司郎』で間違いないな。十七時四十六分。麻薬取締法違反、殺人教唆および殺人未遂の容疑で逮捕する」

 警察官は彼の手首に手錠をかけて、周りの警察官に大きな声で今回のことを伝える。
 リラックスして立ち上がると、時間がゆっくりと流れていく。よくドラマで見るような幻想的な時間の中は、セミの鳴き声が小さくなり、床を叩く甲高い音が耳に入る。聞こえる音を探すと、昨日見た彼女の姿が見えた。

「なんで・・・」

 彼女の姿を見つけた後、声が漏れた。セミの鳴き声が大きくなるにつれ、彼女の姿が消えているように見えた。後を追おうとしても肩から圧力をかけられ、動きが取れなくなってしまった。

「君、ありがとね。悪いけど、事情聴取するから時間もらえる?」

 うなずいて、彼女と別れる。交番まであるいて二分足らず、俺は交番入り口で話を聞くのではなく、なぜか奥の取調室に連れていかれた。

「悪いね。とりあえず、君の名前と住所を聞いていいかな?」

「『羽藤 紡』です。住所は・・・」

 俺の情報を警察官に伝えきると、警察官はボードにメモを残して次の話題を出してきた。

「別の警察官の人に聞いたんだけど、君が彼をその警察官に教えたんだって?」

「はい・・・」

 彼の目が変わった気がした。その変化した目が俺に向けられると、俺が犯人なんじゃないかと自分でも思ってしまう。

「君は彼が『柊 真司郎』だとすぐに分かったそうだね」

「はい・・・」

「その理由を聞いていいかな?」

 俺は今日、彼を見た時の感想からすべてを伝えた。異様な緊張感やオーラ、戸惑い、雰囲気が俺には気になって仕方がなかった。その全てを彼に伝えると、俺には用などない。それが俺の考えだった。

「なるほど。取引があるから彼自身、どこか変にプレッシャーを感じていたのかもね・・・」

 俺にはどこか変に感じていたことを彼も予感してくれたようだ。

「まあ、とにかく。君が彼を見たことを覚えているだろうから話が早いけど、彼には懸賞金がかけられているんだ。その額がかなり高額なので、後日県庁に来てもらえるかな?その時はまた連絡するから」

 彼の懸賞金は二百万。その額を俺は手にすることになるらしい。
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