あの雨のように

浅村 英字

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二時間目

テストからの解放感

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 授業は中間テストまではほとんど中学校の内容をレベルを上げて、授業されてた。最後の方には高校生らしい内容の授業だった。成績の付け方も言われ、基本的なことがあらわになった。
 そんな中の中間テスト。ほとんどの生徒が『難しい』『分からない』などと言っている。俺は・・・普通と思うけど。
 五月二十日、中間テスト最終日の最後のテスト終了後、驚くほど肩が軽くなり、今まで追い込んでいたのが分かった。

「ねぇ、ちょっと辰矢!」

 テストからの開放感の直後、俺を呼びつけた響空の声がした。

「辰矢ぁ、数学が壊滅的だったんだけど・・・、普通にむずくなかった?」

 ここ一ヶ月、周りが女子ばかりで孤立しそうな時にずっと話してくれるおかげで、彼女とは友達以上恋人未満の関係になる。

「そう?別にそこまで難しいとは思わなかったけど・・・」

「え?!意外にも辰矢って頭良い感じ?」

 この子は今俺を馬鹿にしてきてるんだよな?

「いや、普通だよ。響空が数学苦手なだけやないと?」

「そりゃ、岩先生が気にいられてるような辰矢よりは苦手だよ」

 岩先生とは、数学の担任兼学年主任の先生で、色が焦げ茶色で少し丸い体型をしている。見た目から愛称は『黒ダヌキ』と自分で言って大滑りしたことで印象深い。目をつけられた理由は今いち分かっていない。普通に授業を受けていただけなんだが・・・。

「あまり関係ないだろ・・・」

「いや、それだけ頭いいってことじゃない?良さそうだから気に入ったんでしょ」

 そんなものなんだろうか。

「なぁ、辰矢、お前今日なんか用事ある?」

 突然、後ろから蒼午の声がしたと思えば俺の肩に腕を組んできた。

「別に要はないよ」

「久道君こそ暇なの?部活あるんじゃないの?」

 少し目付きの悪くなった響空と蒼午。どうして敵対するような雰囲気になる

「今日は部活もないんだよ、終わったらどっか遊び行こうぜ」

「別にいいけど?」

 俺が蒼午との予定を入れると何故か響空は下を向いているようだった。

「響空!早く行こ!」

 彼女の後ろから『申良 幸』が学年集会の場所まで行こうと誘う。

「お前のこと、好きなんじゃないのあの子」

 俺らも行こうと言わんばかりに置いていた肩から前に進める蒼午。その道中言った言葉は俺にとって赤面の笑みを浮かべるものだった。

「何でだよ。バカじゃないと?」

「いや、ってかお前らもう出来てんの?」

 こいつはテリトリーとかデリカシーとか知っているのだろうか。火を見るより明らかな答えなのに何で考えたんだろうか。自分を馬鹿みたいに思ってしまう。

「いや、真面目にそんなのじゃないよ。それにあいつ確か彼氏いるよ」

 俺のセリフの後に蒼午は足を止めた。その時蒼午の顔は失恋したような顔をしていた。こいつも・・・?

「おい?蒼午?」

「あ、何?」

 俺の声にようやく反応し、歩き出す。

「どうしたんだよ。ボーッとしてたけど・・・響空に彼氏がいたことがそんなにショックだった?」

「ちげえよバカ、お前達が付き合って無かったことにショックだったんだよ」

 学年集会の場所は体育館下の柔道場で、各クラス四列で並ぶ。

「それでは全クラス集まったようなので学年集会を始めます」

 三組の授業を持っている先生でないので名前は知らないが顔はよく見るような先生が、開会の言葉を言うと、全員が礼をした。学年集会の内容は一週間後の木曜日、金曜日の二日間にわたって行われる合宿の事だった。
 持っていく物、持って行ってはいけない物、禁止事項、やる事、順番がまるでバラバラで読みづらい資料なんだ。それでも資料に書いてある内容が終わるとある程度、頭に入っていた。

「以上で説明を終わります、何か質問はありますか?」

 上を見ると開会の挨拶をした人が別の人が立っていた。その人は確か英語科の『近藤先生』だったはず。

「ないようですので、これで終わります」

 近藤先生の話が終わると集会は流れが急に早くなったように進んだ。
 しかし、俺の心臓は止まりかけた。体内の激痛を感じると、右のポケットから薬を一粒取り出し、あくびをする口を塞ぐようにみせかけ、薬を飲む。周りには気づかれないように・・・、こっそりと。

「それでは最後にこの集会はホームルームと一緒に扱いますので、このあとは放課後となります」

 出口に近いクラスから解散していく。
 三組のメンバーで教室に戻るなか、ある女子の姿が俺の視線をとった。確か五組の『未山 悠凛』だったか、とても小柄なのに勇気があって男らしいと学年内で有名だったっけ。とは言っても特に縁もないし、気にせず、俺は彼女の横を通り過ぎようとすると響空が未山さんを呼ぶ声がした。その声に一瞬足が止まりかけた。後ろを向こうか考えてしまった。

「ユウリ!待っててくれたの?!」

「うん!一緒に帰ろ?」

 噂とは少し違った印象であの子が少し気になった。

「辰矢、あの子の事知ってる?」

「また惚れたん?」

「ちげぇわ!他のクラスの子のことしらないだろうから気になったんじゃないかなって」

 それはお前なりの心配のようなものなのだろうか。そう思うと、適当にしか相槌をうつしかなかった。

「まぁ、一応知ってはいるよ」

「え!?」

 大声を出す彼に少々苛立ちを思い始めてる。

未山みやまさんだろ?女子なのに勇ましい、って噂でなら聞いたことあるよ」

 今思えば、俺は蒼午の口から女子の話しか聞いたことない気がする。

「そうそう。もっと髪伸ばせば可愛いと思うのになぁ、もったいないねぇ」

「どうせお前は、髪が長い女子はみんな可愛く見えるんやろ」

「うざっ、そんなわけないやろ?好きな子ならショートでも可愛いです」

「知るか」

 俺が冷めた台詞で彼に返すと、突然出てきた聖馬が俺の所に寄って来た。

「まぁ、そう言うなって。蒼午もそう悪気があって言ってるわけじゃないからさ。今のうちは・・・」

 大事なところを小声で言った聖馬だったが、その声は俺と蒼午に届くも、互いの顔を見て反応に困っている。

「「どう言うこと?」」

 先月からの付き合いで、よくここまで仲良くなれた物だと思った。最近はよく蒼午のことが理解できるようになっていた。こいつを短時間で理解できた自分を褒めてやりたい。

「だって蒼午、ロリコンだからさ。同級生に手を出してる分、まだマシってこと」

 蒼午のフォローを一切することなく罵倒し続ける聖馬に関心のようなものを持った。俺は正直、一月経っても蒼午の力には恐怖を感じる。彼の周りとの関係性、裏のリーダーのような立ち位置。彼の物申す気力はない。だから今でも彼からの提案には同意以外の選択肢がない。

「うるさ・・・」

 笑いながら言う蒼午に俺はうなずくことしか出来なかった。もちろんある程度は笑っている。

「ってか、聖馬も辰矢も早く帰ろうぜ」

 彼の言葉にはどうしてか、強制力があって心を支配されていく。

「おう、にしても合宿が来週なんて、あっという間だったなぁ」

 そこからは雑談をしながら最寄の駅に向かった。昇降口で下足に履き替えている時に聞いたこともない女性の声がした。

「蒼午君!」

「木下先輩、じゃないですか。どうかしました?」

 『先輩』と言われる立場の人を個人として見るのは初めてで、少しだけではあったけど、興味が湧いた。その人は俺にも知られているほど、有名な人だった。
 確か、名前は『木下 華巳はなみ』だったか。以前、蒼午から誘われた彼女を見に行く集団には入るほど興味は持てなかったけど。
 
「今から帰るの?出来たら少しだけ時間もらえるかな?」

「ええっと、聖馬どれくらい時間ある?」

 彼女からの質問に返す言葉を見るけるために俺に問いかえけた。

「あと、十五分くらいかな」

「行ってくれば?俺と聖馬はコンビニ寄って来るから」

 聖馬の答えた後、俺は二人の時間を設けようとした。この一ヶ月間で思ったけど、聖馬は、ある意味蒼午の心の支えのようなものなのだろう。

「十五分ね、了解。駅で待っといて、そっちに向かう」

「分かった。なら行こうぜ辰矢」

「うん。」

 俺は彼女の右手の妙な動きに気を取られていた。常に左手の指を温めているように触っている。人は緊張すると体内が温まる分、体の恥の方は冷え始める。彼女も緊張しているのか?まぁ、いいだろう。関係ない。
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