あの雨のように

浅村 英字

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五時間目

二日目

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 翌朝、昨日の疲れが若干残りつつも、同室の全員が起床時間に間に合う。

「おはよう辰矢。よく寝れた?」

「おう、蒼午か。おはよ。まぁまぁって感じかな」

 朝六時起床。六時十五分に集合し、朝礼と体操。合宿っぽいと言えばポイのだろう。周りは眠気にどうにか耐えている。

「辰矢って朝、強いのなぁ」

 あくびをしながら体を動かしている蒼午の頭は、いまだ髪がボサボサだ。

「まぁな、ってか蒼午はいつもより遅いんじゃないの?」

「あ、起きるの?」

 俺が頷くと、続きをしゃべりだした。

「まぁ、昨日はいつも以上に疲れたからな・・・。おかげで爆睡だけど」

 体操終了後、朝食をとり、再びゲームが始まろうとしていた。

「っさ、今日はどこから始めますか」

 俺がサッカーで少し本気を出した動画が昨日、各クラスで話題となった、それが嬉しかったらしく、今日は朝食前から明日薫の機嫌がいい。

「昨日の動画の人でしょ?あの人!」「さすが!明日薫くんって感じ、見る目あるね」「明日薫の知り合いだったのかな」

 周りの囁きが昨日みたいに俺に届く。

「デジャブってやつだな・・・」

「俺は、鼻が高いけど?」

 明日薫の言葉に笑いが出て、上を見る。空が青く、雲が白い。何度目の空だろう、時には生き抜きもいいのかも。今を生きるのは、今だけ出しな。歌の歌詞であったよな。俺は全力で学校の意志を探る。なぜ、直接対決形式のサッカーよりも登山はポイントが高かったのか。自己対決、間接対決に分類される登山や陸上のほうが高得点なのか。

「矛盾してる・・・?」

「なんて?」

「いや、矛盾してるんだよ・・・」

 学校のスローガンは『一致団結』『みんなで』のような『複数人で協力』的な感じだった。でも、自分との戦いのような競技に限って点が高い、それが妙だ。どうして、学校のスローガンとは、真逆とも言える個人技なのだろう。
 その時、一通のメールが一斉送信された。

『昨日の目標は、互いのことをより知りあうことだった』

 その言葉で俺と明日薫は、頭を傾けた。

「何だこれ?」「意味が分からん」「なら今日も何かを目標にしてるってこと?」

 周りの雑音の中、明日薫は俺をただ見ていた。

「何?」

「いや、とりあえずどっか行こうぜ」

 そう言われ、俺は明日薫と昨日のようにグラウンドに戻ってきた。

「やっぱ少ないな。昨日はあんなに多かったのに」

「まぁ、点が高いのをみんなしたがるからな」

 反対側は多くいの生徒が登山に向かっていた。学校の意志もそこにあるかもしれない。

「辰矢っ!」

 ボールを見つけた明日薫が今日もパスを出してきた。

「昨日から思ってたんだよ。こうやってただ遊ぶだけでも良かったのかもしれないって」

 確かに、こんな感じで二人の時間を作れば、明日薫の事をもっと知れたかもしれない。出していたパスをやめ、足元のボールに視線が向く。何かをつかんだ気がした。

「体育館行かないか?」

「何かしたいことでもあったか?」

 頷いた俺は、体育館で明日薫とともにいた二人で協力をするゲームをやりつくした。二人三脚や二対二のバスケ。他にもいくつかのゲームをこなした頃に、次のゲームが最後というアナウンスと通知が来た。

「辰矢、昨日といい今日といい、目立たないようにするんじゃなかったのか?」

 俺は、昨日のサッカー同様、軽く本気になっていた。体にかかっていた負担を考えるが、今朝はランニングをしていないから、まだマシな方のはず。

「あ?あぁ、大丈夫だよ。どうせサッカーで、ある程度目立ったし。それに明日薫の顔にドロをぬるのもな」

 笑顔を表にして、不安をかき消す。彼の笑顔も清々しくて、前のゲームに意識を向ける。

「それではゲームを始めます。ルールは・・・」

 先生が昨日と同じルールを告げ、開始する。終了後、ボールを持っていたのは、やはり明日薫だった。違うのは、彼の疲労度だろう。昨日と違ってほとんど息切れしていない。

「いやぁ、辰矢が本気出してくれると、楽で良いな」

「何だよその言い方」

 笑いながら荷物を取りに行くと、その姿勢が輝いているように見えた。申良さんが一目惚れするのも納得できる気がした。

「あぁ、終わったな」

「腹減ったな、昼飯行こ」

 明日薫の言う通り、俺たちは既に空腹だ。午前中の三時間に五つのゲームをクリアした。そりゃ腹も減る。

「俺、学校の出す弁当ってそんなに好きじゃないんだよね」

「辰矢にもそういうのあんのな」

「明日薫は俺をどう思ってんだよ。苦手なものならいくらでもあるぞ。病院、病院食だろ、あと不味い料理にチョコとホラー映画とか」

 最後の方で明日薫の目が笑いに変わった。

「何だよ」

「そりゃ笑うだろ。完璧だと思っていた辰矢にも多くの苦手なものがあるなんてな」

 俺はどれだけ上品なイメージを持たれてたんだ。

「なんでだよ!」

 俺たちは、アドレナリンで空腹を誤魔化し、昼食をとるために集合場所に向かう。そんなときに後ろから申良が彼氏とイチャつきに来た。

「明日薫!」「幸!」

 並ぶ二人の輝きは、俺にはかなり眩しかった。

「辰矢、お疲れ」

「っ!?・・・響空か、びっくりした」

「いや、普通に出たらつまらないじゃん?」

 彼女は俺の中で他の人とは違っていた。昨晩、その話をしても昨日の響空は変わっていなかった。

「別に普通でも良いよ」

「あれ?そう言えば、昨日響空、外出て行ったけどぉ。もしかして・・・?」

 少し前を歩く申良は、後ろでいつものように話している俺たちが、何か変化しているように見えたのかもしれない。

「は!?いや違うよ!バカ言わんで、幸!」

 隣を見ると、意味が分からないが赤面していた。

「響空、顔赤いよぉ?」「ちょっと幸ぃ!」

 女子二人が俺たちを置いて、先に走っていく。申良に忘れられた者は、俺の横で新しいおもちゃを手に入れたような目をする。今日何度目の台詞だろうか。

「何だよ」

「お前たち、付き合ったの?」

 高校生は、その話題が本当に好きなのかと、ため息が漏れる。

「残念ながら、付き合ってねえよ。まぁ、昨日は俺が呼び出したけど」

「へぇ、お似合いだと思うけどな・・・」

 そこからは、テレビや本の話をして、昼食をとった。その後はバスに乗り、自宅までの道を行く。
 バスで帰る中、周りはみんな寝ていた。運よく窓側の席に座れた俺は、窓の外に意識を取られていた。

「稲垣、大丈夫?」

 隣の生徒を起こさないように、それほど大きくない声で俺に声をかけたのは、担任の田杉先生だった。

「はい。まったく問題ないです」

 俺はそう言って、先生を返した後、もう一度景色に意識を向ける。流れる景色が一瞬だけのものであると思うと、俺はそこから目を離せなかった。なのに、一通のメールがそれを邪魔し始めた。

『そろそろ帰ってる頃かな?』

 メールの送信元は『Betal』となっていた、華巳先輩だった。

『今帰ってます』

『どうだった?』

 俺の返事は数分経って送ったはずだが、既読のマークはすぐにつき、次の質問が流れてきた。

『楽しかったですよ。意外な幼馴染とも話せましたし』

 自分でも彼女との会話でネタを作っているのが分かっている。でも、質問責めされるよりマシだ。

『え!?誰のこと?』

 やっぱり食いついてきた。

『サッカー部の奴なんですけど、昔病院で会ったことあったんすよ』

『そうなんだ』『疲れてるかもやけど、今夜電話で教えて!』

 その返事で先輩との会話が終わった。その後の景色はもう覚えてない。
 学校に到着して、あたりは保護者だらけだった。

「学校着いたよぉ、ほらみんな起きて~」

 先生の声で俺も目が覚めた。太陽が半分以上沈んでいて、午前中の暑さもほとんど消えていた。到着したクラスから解散していき、俺が下校するときは大半の生徒が下校していた。

「辰矢。帰り電車?良かったらうちが送ってくけど」

「まじ?ならお願いしようかな」

 優真の後ろにいた父親が優しい顔で立っていた。俺は二人に頭を下げ、優真の親の車に乗せてもらう。

「久しぶりだね、辰矢くん」

「そうですね。お久しぶりです」

 思い出せば、優真の父親と話すのは、中学生に上がる時以来だった。優真の家で発作が起こって病院に連れて行ってもらったことがあった。その一回の出来事で、俺の顔と名前を印象付けるには十二分だったらしい。

「最近は大丈夫なの?毎日学校に行ってるって聞いてるけど」

「はい。最近は結構調子が良くて」

 俺には、嘘をつく理由が必ずある。そう思いながら外を見ると、外は暗く何もなかった。

「そっか、何かあったら優真を頼って良いからな。辰矢くんの頼みならで手伝うから」

「もちろんです。優真は身近で一番信頼してますから」

 でも『家族総出』というのは気が重い。周りに迷惑をかけるのを避けたい俺は、その言葉が本当に嫌いだ。

「本当かよ・・・」

「あったりめぇよ」

 楽しい時間が過ぎて、俺は家に無事帰り着いた。

「ただいま・・・」

 返ってくる言葉で、やはり我が家が一番落ち着く場所だと思った。
 夜、疲れ果ててベッドで横になっていると、一件の響空からのメッセージに気がついた。

『今日はお疲れ様。明後日って暇?』

『暇だけど、何かあると?』

『見たい映画があるんだけど、一緒に行かん?』

『女子と行けば良いじゃん』

『聞いたけど、みんなバイトなんだもん』

 俺自身、この子に対する自分の感情がうまく分からない。ただ、俺が大丈夫と言うだけで笑顔になるなら、俺は彼女のためにとことん付き合うだろう。

『分かった。なら、一時に前と同じところで』

 そう送ると、彼女はただ『OK』とだけ返した。体は疲労で動きそうにないのに、頭の中は明後日のことでいっぱいだった。続きを考える間もなく、放した携帯から着信音が鳴り始める。

「もしもし?」

『あ、ごめんね。今大丈夫?』

「はい、大丈夫ですよ。どうしたんですか?」

 先輩の声は、以前会った時より元気そうだった。彼氏でも出来たのだろうか。

『もしかして、疲れてる?』

「そりゃ、そうですね」

 俺は少し笑った。別に先輩をバカにした訳ではなく、明日薫との二日間が楽しかったからだろう。

『そっか、なら単刀直入に言うね。明後日空いてる?』

「明後日はちょっと予定入れちゃったんですよね」

 と伝えると、先輩の元気が急激に下がった気がした。

「明日・・・なら空いてますけど・・・」

『本当!?あっ、でも大丈夫と?」

「まぁ、そんなに早くならければ・・・」

 先輩の喜んでいるのが電話越しでも分かる。

『なら、三時ごろとかどう?』

「それなら大丈夫ですよ。集合場所とかも連絡してもらったら、それに合わせます」

 そして、電話が切れた。発作が出たのは、それから間もなくだった。無理をした代償なのか、今までのものよりも苦痛に感じた。

「はぁ・・・、はぁ・・・、もう寝よう。さすがに疲れすぎてる。色々、面倒だ、し・・・」
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