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六時間目
いつも通り
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「いや、本買おうと思って」
そう言って鞄から一冊の本を取り出した。
「私好きなの『オサダ ヤジュ』」
見覚えのある表紙と、先輩の笑顔。それに俺も連られ頬が上がる。でも、間違いは間違いだ。
「それ、多分違いますよ」
「えっ?!」
「『オサダ ヤジュ』じゃなくて、『長田 八樹』ですよ」
『長田 八樹』顔出ししていない、一般的に覆面作家といわれる存在。二年前に小説投稿サイトでデビュー作『獣を喰らう桜』で賞を受賞し、多くの希望を受け、書籍化。大ヒットの末、昨年出した作品『黒い月見草』も大ヒット。僅か二年という歳月で有名作家の仲間入りを果たした、とネットには書いてある。
「え!?そうなの?」
題名と共に作家の名前を先輩は見返していた。その手にある『長田 八樹』の新作『柏槙の走者』も順調にヒットへの道を進んでいる。
「日本人ですからね」
響空の姿が見えなくなって五分、先輩と歩いて大体十五分くらい経つだろうか。今なら響空が急に態度を変えたり理由が分かる気がする。女子の世界は恐ろしいという事だろう。あとこの手にある広い世界もか。
「どうしたの?携帯ばかり見ちゃって。少しは私も見てよ・・・」
わざわざ俺の前で、顔を覗き込むのは、きっと先輩がそれほど俺と付き合いたいと思ってくれているのだろう。
草木が揺れる音がする。先輩の髪が揺れ、光が輝かせる。
「何度も言うけど、私はあなたが好き。辰矢くんとの時間が私にとって一番幸せなの」
マドンナが俺の事を好きであるという事実から、俺は逃れられないのだろう。分かってるけど、俺にはそれに頷く事が出来ない理由がある。
先輩の姿勢が戻り、影に入る。
「私と付き合えないのって、あの子がいるから?」
影の下になったからか、目のハイライトが消えていた。話の内容もピンとこない。
「それとも、私と付き合うと病気がバレる。そんな根拠もない予想で?」
今の先輩を見て、何となくではあるが答えが出た気がした。どっちでもあって、どっちでもない。それが答えだ。
「何とか言ってよ・・・」
「俺は、先輩と付き合う事は出来ません」
木下先輩はもう声に力を持っていなかった。
「何で?」
「俺が先輩と付き合いたい理由を俺は持ってないんです。正直、申し訳ないですけど・・・今の先輩、怖いですよ?」
先輩の左足が一歩下がるのが分かる。顔を隠し、泣き出しそうな声を耐えようとしている。
「俺は先輩と同じ時間を過ごすことは出来ません。今までの道も違えば、俺との好みも違う。
先輩の隣にいるべき人は、少なくとも今は俺じゃありません」
そう言って俺は歩き出す。先輩の横を通り振り返ることなく前を向く。
「待って!」
目の腫れを少し気にする先輩も年上だからと言っても、周りに煽てられてたんだ。弱音を吐ける数少ない友人に離れて欲しくないのだろう。
「でも、俺の近くにはいてください。いつでも先輩を頼れるように」
下を向く先輩は、時計を進めるつもりがないだろう。涙ぬぐう先輩を隠すように抱きしめ、頭の上を軽く二、三度叩いて、ない距離をさらに詰める。
「俺も少しは先輩との時間好きでしたし」
しばらくすると、急に先輩は俺を突き離した。
「ごめん、参考書・・・買い忘れてた。・・・先帰ってて」
告白を断ったからか、先輩は俺と同じ電車に乗るのを嫌がったように思えた。
分かったと伝えると、俺たちは互いに背を向けて正面を進みだした。久しぶりのこの感覚、季節を忘れさせる寒気が自分は孤独である、と現実を突きつける。先輩を断った理由を頭の中でもう一度口にする。
この寒気が『まだ明日もある』そう教えてくれている気もする。明日も平和だと、きっとまだ大丈夫、そう冷たい声援をくれる。いつもと同じ道のりを今日も進む。電車の揺れが、俺がいなくなっても大丈夫、そう告げてる気がした。
いつも通りの悲しい現実。
そう言って鞄から一冊の本を取り出した。
「私好きなの『オサダ ヤジュ』」
見覚えのある表紙と、先輩の笑顔。それに俺も連られ頬が上がる。でも、間違いは間違いだ。
「それ、多分違いますよ」
「えっ?!」
「『オサダ ヤジュ』じゃなくて、『長田 八樹』ですよ」
『長田 八樹』顔出ししていない、一般的に覆面作家といわれる存在。二年前に小説投稿サイトでデビュー作『獣を喰らう桜』で賞を受賞し、多くの希望を受け、書籍化。大ヒットの末、昨年出した作品『黒い月見草』も大ヒット。僅か二年という歳月で有名作家の仲間入りを果たした、とネットには書いてある。
「え!?そうなの?」
題名と共に作家の名前を先輩は見返していた。その手にある『長田 八樹』の新作『柏槙の走者』も順調にヒットへの道を進んでいる。
「日本人ですからね」
響空の姿が見えなくなって五分、先輩と歩いて大体十五分くらい経つだろうか。今なら響空が急に態度を変えたり理由が分かる気がする。女子の世界は恐ろしいという事だろう。あとこの手にある広い世界もか。
「どうしたの?携帯ばかり見ちゃって。少しは私も見てよ・・・」
わざわざ俺の前で、顔を覗き込むのは、きっと先輩がそれほど俺と付き合いたいと思ってくれているのだろう。
草木が揺れる音がする。先輩の髪が揺れ、光が輝かせる。
「何度も言うけど、私はあなたが好き。辰矢くんとの時間が私にとって一番幸せなの」
マドンナが俺の事を好きであるという事実から、俺は逃れられないのだろう。分かってるけど、俺にはそれに頷く事が出来ない理由がある。
先輩の姿勢が戻り、影に入る。
「私と付き合えないのって、あの子がいるから?」
影の下になったからか、目のハイライトが消えていた。話の内容もピンとこない。
「それとも、私と付き合うと病気がバレる。そんな根拠もない予想で?」
今の先輩を見て、何となくではあるが答えが出た気がした。どっちでもあって、どっちでもない。それが答えだ。
「何とか言ってよ・・・」
「俺は、先輩と付き合う事は出来ません」
木下先輩はもう声に力を持っていなかった。
「何で?」
「俺が先輩と付き合いたい理由を俺は持ってないんです。正直、申し訳ないですけど・・・今の先輩、怖いですよ?」
先輩の左足が一歩下がるのが分かる。顔を隠し、泣き出しそうな声を耐えようとしている。
「俺は先輩と同じ時間を過ごすことは出来ません。今までの道も違えば、俺との好みも違う。
先輩の隣にいるべき人は、少なくとも今は俺じゃありません」
そう言って俺は歩き出す。先輩の横を通り振り返ることなく前を向く。
「待って!」
目の腫れを少し気にする先輩も年上だからと言っても、周りに煽てられてたんだ。弱音を吐ける数少ない友人に離れて欲しくないのだろう。
「でも、俺の近くにはいてください。いつでも先輩を頼れるように」
下を向く先輩は、時計を進めるつもりがないだろう。涙ぬぐう先輩を隠すように抱きしめ、頭の上を軽く二、三度叩いて、ない距離をさらに詰める。
「俺も少しは先輩との時間好きでしたし」
しばらくすると、急に先輩は俺を突き離した。
「ごめん、参考書・・・買い忘れてた。・・・先帰ってて」
告白を断ったからか、先輩は俺と同じ電車に乗るのを嫌がったように思えた。
分かったと伝えると、俺たちは互いに背を向けて正面を進みだした。久しぶりのこの感覚、季節を忘れさせる寒気が自分は孤独である、と現実を突きつける。先輩を断った理由を頭の中でもう一度口にする。
この寒気が『まだ明日もある』そう教えてくれている気もする。明日も平和だと、きっとまだ大丈夫、そう冷たい声援をくれる。いつもと同じ道のりを今日も進む。電車の揺れが、俺がいなくなっても大丈夫、そう告げてる気がした。
いつも通りの悲しい現実。
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