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六時間目
覚悟
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いつも通りの時間に目が覚めた。体を少し動かそうと外に出ると、朝が以外にも寒いことを思い出した。この感覚で自分はまだ生きているのだと、改めて確認できた。
「ただいま、って誰もいないよな」
起きて一時間。外で汗を流しいつものように洗い流す。
「朝ごはん、何しよ」
独り言で冷蔵庫を開けると、我が家が充実していることが良く分かる。朝食にでもと、卵と玉葱、ついでに鮭の切り身を手にとる。鮭をコンロに入れてゆっくり火を入れている間に玉葱を切って玉子丼を作る。
匂いに連れられ、雪菜が目を覚ました。
「おはよう、兄ちゃん」
目を覚ましたばかりの妹は、挨拶するなりすぐに座る。
「お腹すいているのか?」
無言で頷く妹にため息をついて、自分用だった玉子丼を妹に分けて鮭を取り出す。
「おいしそう!」
妹の声を片耳に、冷蔵庫からもう一人分を取り出して料理しなおす。
「兄ちゃん、今日何すると?」
俺は林間学校の振り替え休日で今日は休み。一日フリーな訳だが、世間は普通の月曜日だからな。
「友だちと映画観に行くけど、何かあると?」
「いや、別に。聞いただけ」
朝食を食べ終えた雪菜はすぐさま学校に向かった。
携帯に残っている一通の通知。先輩からの一言に俺は何も返すことが出来ずにいた。
「行ってきます!」
雪菜が学校に向かう声が聞こえて、時間が流れているのに気が付いた。約束の時間まであと一時間。まだ何もしていない。
集合時間十分前。いつもと違う感情に戸惑いながら映画館の扉を開ける。
「人いねぇ・・・」
来るときは、いつも人だかりで大変な思いをするのに、今日は店員さん以外だと数人しか人がいない。数少ない人の顔を確認して響空を探す。
「ごめん、お待たせ」
「いや、全然待ってないよ。それより、今日は下のカフェには行かなくて良かったの?」
簡単に見つけた彼女は、携帯で読書をしているように思えた。
「あぁ、昨日用事があって。来たついでに寄ったから大丈夫」
俺の用事という単語が彼女の何かを刺激したのか、携帯を置いて、両手で頬杖をついて首を傾けた。
「用事って?」
よく見ると、今日の響空はいつもより、キレイだった。ただまとめてある髪が、今はアイロンでキレイに巻かれてあって、目尻や瞼には色が付いていた。それに、唇がいつもより赤い。服装も大人っぽい。
「別に。大した事じゃないよ」
「そ?」
前かがみだった体勢を戻して、背伸びをする彼女は少し疑問が残っているように思えた。聞き出そうか考えていると、彼女は自ら話してくれた。
「木下先輩とのデートって大したことじゃないんだ?」
座ろうと椅子を引く手が止まった。
「何でそれを?」
「ダメだよ?情報化社会をナメたら。ほらっ」
携帯を手にして、その記事に目が飛び出るかと思った。
『学校のマドンナ 年下とのデートに猛熱心』
「それで何で俺が・・・」
記事にある年下というのが俺であると、言い切る証拠がないと思っていた。
「これ、辰矢でしょ?むしろ、辰矢以外信じられないんだよね・・・。デートも私の知る限りでも二回目だしね」
「あぁ・・・、うん・・・、そう、だね」
教室で先輩が大きな声で『デート』という単語を発したのを忘れていた。
「それに、木下先輩のストーリーにも辰矢の携帯、出てるよ?・・・『臭わせ投稿』ってやつ?」
響空に言われ俺は携帯を取り出し、ワボを開いて、『臭わせ投稿』を確認しようとする。確認・・・確認・・・。
「ねぇ、どうやったらそれ見れると?」
「え?・・・あんたねぇ」
そうため息をつきながら響空は、俺にワボの機能を一部教えてくれた。
「へぇ、こんなものが・・・」
普段、公式のネット記事しか見てこなかった俺は、一個人の感想投稿や、写真とコメント等を二十四時間限定で載せてあるものを見てこなかった。小さな画面には、まだまだ俺の知らないことがたくさんあるみたいだ。
「辰矢さぁ。彼女がいるなら、私帰るよ」
「いないけど。何でそうなるの?」
「付き合ってないのに、華巳先輩とどこか行くの?」
俺は、響空の言葉を半分ほど流して、この記事を書いた人の正体について考え続ける。
「辰矢?」
「あぁ、悪い。俺からすれば、響空以外の女子はさほど、変わらないんだよ」
「・・・そ・・・」
どうして顔が赤くなった?まあ、どうでもいい。
「あれ?稲垣くん?」
「佐藤さん?!」「サトミちゃん!」
響空の顔がさらに赤くなるのが分かった。俺はどこかで彼女を守らなければと思った。その流れで言葉が出た。
「どうしてここに?」
流れ出た言葉の誤りに、俺は気が付かなかった。映画館の中で会ったんだ。映画を観に来た以外ないだろ。現に佐藤さんの後ろにはもう一人女子がいた。
「映画観に来たに決まってんじゃん!そっちは?」
「どうも」
後ろの人を見てると、不思議と挨拶してきた。
「いや、私たちは・・・」
「佐藤さんの想ってる通りだったら?」
メガネザルのような響空をよそに、佐藤さんは俺の耳に口を近づける。そっと肩に手を乗せて。
「辰矢って、意外と悪い男だね」
その言葉を言われて、面白い返しが頭に浮かんだ訳ではないが、俺も佐藤さんのように小声でなんとなか届く距離で言い返す。でも、座っている俺が耳に届けるために仕方なく、佐藤さんの肩を優しく掴み、口元まで彼女の耳を持ってくる。
「俺は未来も好きだよ?」
ちょっとからかいを含めて笑い、彼女との距離を戻す。
「何て言ったの?」
「ん?あぁ、秘密」
別に隠す必要がないのは理解している。でも、俺の中の何かが、今回のことは隠せと言った気がした。
「映画、何見るの?」
「これ見よ!」
今時の女子はみんなこの映画を見るのか。女子の中で話題の作品なのか、少女マンガの実写化か・・・。
昨日とまったく同じ映画を見た。今後、映画を見るときは先に何見るか聞いておこう、感想に困る。
「いやぁ、面白かったねぇ」
「そうだな。なんかドキドキした」
彼女にばれないように昨日の感想を伝える。さも、今回の感想のように。
「でしょ?原作持ってるんだけど、何回読んでもドキドキするの!」
元気な彼女は、周りのことを考えているように見えた。
「危ない」
「「すいません」」
彼女の腕を掴み、邪魔になってた人に二人そろって声を出す。そして、笑う。
「気をつけろよ」
「ごめんって・・・」
傍から見れば、カップルになれてるだろうか。俺は俺のことを隠しながら、どこまでいけるだろうか。頭の中でこの時間が少しだけ嫌になる。
「二人って本当に仲良いよね。恋人超えて夫婦って感じ?」
横から割り込んだ佐藤さんと連れは、何かを隠しているのか少しぎこちなく感じた。
「いや、そんな事ないし」
響空との距離が少しだけなのに、かなり遠くになった気がした。もう一度、この手を取る・・・のは今じゃないか。
「そうだよ。俺たち付き合ってないし」
いずれ付き合うかなんて、今の俺はそこまで考える余裕は、なかった。冷静にポケットからこっそりと薬を運ぶ。
「流石!マドンナともデートする人は違うね」
「おいっ!ってもうみんなも知ってんのか」
「そうそう。ネットに流れたらもう終わりだよ」
俺と佐藤さんが話していると、他の二人はトイレに行っていた。
「佐藤さんはいいの?」
残った唯一の女子にも、マナーとして聞いてみた。彼女は笑顔で顔を傾ける。
「あのさ、未来でいいよ。さっきもそう言ってたじゃん」
あの時は面白半分で行ったに過ぎない。
「キスだってしたし、間接だけど・・・」
言われた頃で、昨日の一描写が映る。ガッツリと間接キスをしていた・・・。
「それより・・・」
「私じゃないよ?」
佐藤さんは俺の言葉を先読みしたみたいだった。まぁ、声のトーンが下がっていたからある程度予測していたのだろう。
「あの記事。書いたの私じゃないし、書いた人に教えてもない」
下を向く佐藤さんは、片足で何かを蹴って拗ねてるように見えた。
「そ。分かった」
「マジ?!信じるの?」
「だって、違うんでしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
大きく開いた目を戻すとき、なんだか不安を残しているようにも見えた。
「二人長くない?」
「女子はこんなもん!それより、ここ最近デートばっかりしてるね」
俺の正面でジャンプする佐藤さんは、何を聞きたいの分からなかった。
「何が言いたいの?」
「バイトしてる感じもないし」
「あぁ、親が裕福なのと、ちょっと貯金がね、すごいの」
俺の偽名をじっと見る。それに釣られて、佐藤さんが視線の先の映画を指差す。
「あの映画、気になるの?」
「違うよ」
「ってか、昨日何見たの?」
女子の話の展開力ってすごいな。そう思うと佐藤さんとの距離が近くなっている。彼女に嘘をついたら、平和であることが予測できる。でもこれ以上、自分の中のモヤモヤを増やすことはしたくない。
「今日と同じだったけど?」
今日は何回目のメガネザルを見ればいいのだろう。驚く佐藤さんに、次は俺から距離をつめる。
「何?!」
「昨日から思ってたんだけどさ。メイク、濃くない?」
「いや、そんなこと・・・」
今度は距離をとられた。
「俺は学校のときの方が好きだけど」
別人のような佐藤さんは、学校とのギャップが悪いように作用しているように思えた。
「え?」
「今は暗いから間違いないけど、明るい所で見るとちょっと・・・」
その日、それ以降彼女の顔を見れなかった。ともかく、映画館から徒歩数分。大型ショッピングモールの一階のカフェで飲む、カフェオレはなかなかの味だった。
「辰矢って意外とコーヒー、ダメ系?」
「響空は俺よりダメだろ?」
「え?うん」
「ブラックは好きだけど、臭いが気になるんだよ」
目を点にする響空は、自分の持っているコップに視線を落とす。何かを考え続けて、口にするかどうかをモジモジとしている。
「何?どうかした?」
「いやさ、ちょっと気になったんだけど」
考える響空に、少し申し訳なく思うところが頭に浮かぶ。
「私たちって今、どうなってんの?」
付き合ってる訳ではないし、俺の中でもこれが恋愛感情と言い切れるものはない。
「普通に・・・?友だちじゃないの」
「そうだね、そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」
何かに絶望したかのように、表情を買えた響空を俺は蚊帳の外に思えてむなしくなった。
「何があった?」
「ううん。ちょっときになっただけ」
変な事を聞かされて、響空と俺の時間の流れに違和感があった。小説のストーリーじゃないんだし、損あんこと、ある訳ないよな・・・。
「話せよ。気になるだろ」
「いや、何となく気になっただけだよ」
何も言えずにいる響空の姿を見て、気持ち悪くいやモヤモヤと言った方がいいのか、その感じまで残った。
「ごめん、今日は帰る」
そう言って颯爽と店を出る響空に、俺は何とか追いつこうと走る。とめる声も聞いていない。歩く早さが変わらない、むしろ早くなっている気がする。何とか追いついて、力づくで彼女を止める。
「いい加減待てって。何でそんなに急ぐんだよ。別にそこまで急がなくても良いだろ」
俺の声を聞きたくない。そう言ってるように思えた。これ以上追うと今より距離を詰めるのはおろか、保つことすら難しくなる、そう直感した。
「ったく。俺が何したってんだよ」
周りの視線が痛い。あたりを通る人は何かを察して俺の近くをよけ続ける。
「辰矢くん?」
若干下を向く俺は、横から声をかけられたのに焦りを表した。その時、猿のようになってしまった俺は、相手が木下先輩だと瞬時に気づけなかった。
「先輩、どうしてここに?」
後ろを見ても、連れがいない事が不思議に感じた。マドンナともあろう先輩が一人でここに来るのに少し違和感が残った。
「いや、本買おうと思って」
「ただいま、って誰もいないよな」
起きて一時間。外で汗を流しいつものように洗い流す。
「朝ごはん、何しよ」
独り言で冷蔵庫を開けると、我が家が充実していることが良く分かる。朝食にでもと、卵と玉葱、ついでに鮭の切り身を手にとる。鮭をコンロに入れてゆっくり火を入れている間に玉葱を切って玉子丼を作る。
匂いに連れられ、雪菜が目を覚ました。
「おはよう、兄ちゃん」
目を覚ましたばかりの妹は、挨拶するなりすぐに座る。
「お腹すいているのか?」
無言で頷く妹にため息をついて、自分用だった玉子丼を妹に分けて鮭を取り出す。
「おいしそう!」
妹の声を片耳に、冷蔵庫からもう一人分を取り出して料理しなおす。
「兄ちゃん、今日何すると?」
俺は林間学校の振り替え休日で今日は休み。一日フリーな訳だが、世間は普通の月曜日だからな。
「友だちと映画観に行くけど、何かあると?」
「いや、別に。聞いただけ」
朝食を食べ終えた雪菜はすぐさま学校に向かった。
携帯に残っている一通の通知。先輩からの一言に俺は何も返すことが出来ずにいた。
「行ってきます!」
雪菜が学校に向かう声が聞こえて、時間が流れているのに気が付いた。約束の時間まであと一時間。まだ何もしていない。
集合時間十分前。いつもと違う感情に戸惑いながら映画館の扉を開ける。
「人いねぇ・・・」
来るときは、いつも人だかりで大変な思いをするのに、今日は店員さん以外だと数人しか人がいない。数少ない人の顔を確認して響空を探す。
「ごめん、お待たせ」
「いや、全然待ってないよ。それより、今日は下のカフェには行かなくて良かったの?」
簡単に見つけた彼女は、携帯で読書をしているように思えた。
「あぁ、昨日用事があって。来たついでに寄ったから大丈夫」
俺の用事という単語が彼女の何かを刺激したのか、携帯を置いて、両手で頬杖をついて首を傾けた。
「用事って?」
よく見ると、今日の響空はいつもより、キレイだった。ただまとめてある髪が、今はアイロンでキレイに巻かれてあって、目尻や瞼には色が付いていた。それに、唇がいつもより赤い。服装も大人っぽい。
「別に。大した事じゃないよ」
「そ?」
前かがみだった体勢を戻して、背伸びをする彼女は少し疑問が残っているように思えた。聞き出そうか考えていると、彼女は自ら話してくれた。
「木下先輩とのデートって大したことじゃないんだ?」
座ろうと椅子を引く手が止まった。
「何でそれを?」
「ダメだよ?情報化社会をナメたら。ほらっ」
携帯を手にして、その記事に目が飛び出るかと思った。
『学校のマドンナ 年下とのデートに猛熱心』
「それで何で俺が・・・」
記事にある年下というのが俺であると、言い切る証拠がないと思っていた。
「これ、辰矢でしょ?むしろ、辰矢以外信じられないんだよね・・・。デートも私の知る限りでも二回目だしね」
「あぁ・・・、うん・・・、そう、だね」
教室で先輩が大きな声で『デート』という単語を発したのを忘れていた。
「それに、木下先輩のストーリーにも辰矢の携帯、出てるよ?・・・『臭わせ投稿』ってやつ?」
響空に言われ俺は携帯を取り出し、ワボを開いて、『臭わせ投稿』を確認しようとする。確認・・・確認・・・。
「ねぇ、どうやったらそれ見れると?」
「え?・・・あんたねぇ」
そうため息をつきながら響空は、俺にワボの機能を一部教えてくれた。
「へぇ、こんなものが・・・」
普段、公式のネット記事しか見てこなかった俺は、一個人の感想投稿や、写真とコメント等を二十四時間限定で載せてあるものを見てこなかった。小さな画面には、まだまだ俺の知らないことがたくさんあるみたいだ。
「辰矢さぁ。彼女がいるなら、私帰るよ」
「いないけど。何でそうなるの?」
「付き合ってないのに、華巳先輩とどこか行くの?」
俺は、響空の言葉を半分ほど流して、この記事を書いた人の正体について考え続ける。
「辰矢?」
「あぁ、悪い。俺からすれば、響空以外の女子はさほど、変わらないんだよ」
「・・・そ・・・」
どうして顔が赤くなった?まあ、どうでもいい。
「あれ?稲垣くん?」
「佐藤さん?!」「サトミちゃん!」
響空の顔がさらに赤くなるのが分かった。俺はどこかで彼女を守らなければと思った。その流れで言葉が出た。
「どうしてここに?」
流れ出た言葉の誤りに、俺は気が付かなかった。映画館の中で会ったんだ。映画を観に来た以外ないだろ。現に佐藤さんの後ろにはもう一人女子がいた。
「映画観に来たに決まってんじゃん!そっちは?」
「どうも」
後ろの人を見てると、不思議と挨拶してきた。
「いや、私たちは・・・」
「佐藤さんの想ってる通りだったら?」
メガネザルのような響空をよそに、佐藤さんは俺の耳に口を近づける。そっと肩に手を乗せて。
「辰矢って、意外と悪い男だね」
その言葉を言われて、面白い返しが頭に浮かんだ訳ではないが、俺も佐藤さんのように小声でなんとなか届く距離で言い返す。でも、座っている俺が耳に届けるために仕方なく、佐藤さんの肩を優しく掴み、口元まで彼女の耳を持ってくる。
「俺は未来も好きだよ?」
ちょっとからかいを含めて笑い、彼女との距離を戻す。
「何て言ったの?」
「ん?あぁ、秘密」
別に隠す必要がないのは理解している。でも、俺の中の何かが、今回のことは隠せと言った気がした。
「映画、何見るの?」
「これ見よ!」
今時の女子はみんなこの映画を見るのか。女子の中で話題の作品なのか、少女マンガの実写化か・・・。
昨日とまったく同じ映画を見た。今後、映画を見るときは先に何見るか聞いておこう、感想に困る。
「いやぁ、面白かったねぇ」
「そうだな。なんかドキドキした」
彼女にばれないように昨日の感想を伝える。さも、今回の感想のように。
「でしょ?原作持ってるんだけど、何回読んでもドキドキするの!」
元気な彼女は、周りのことを考えているように見えた。
「危ない」
「「すいません」」
彼女の腕を掴み、邪魔になってた人に二人そろって声を出す。そして、笑う。
「気をつけろよ」
「ごめんって・・・」
傍から見れば、カップルになれてるだろうか。俺は俺のことを隠しながら、どこまでいけるだろうか。頭の中でこの時間が少しだけ嫌になる。
「二人って本当に仲良いよね。恋人超えて夫婦って感じ?」
横から割り込んだ佐藤さんと連れは、何かを隠しているのか少しぎこちなく感じた。
「いや、そんな事ないし」
響空との距離が少しだけなのに、かなり遠くになった気がした。もう一度、この手を取る・・・のは今じゃないか。
「そうだよ。俺たち付き合ってないし」
いずれ付き合うかなんて、今の俺はそこまで考える余裕は、なかった。冷静にポケットからこっそりと薬を運ぶ。
「流石!マドンナともデートする人は違うね」
「おいっ!ってもうみんなも知ってんのか」
「そうそう。ネットに流れたらもう終わりだよ」
俺と佐藤さんが話していると、他の二人はトイレに行っていた。
「佐藤さんはいいの?」
残った唯一の女子にも、マナーとして聞いてみた。彼女は笑顔で顔を傾ける。
「あのさ、未来でいいよ。さっきもそう言ってたじゃん」
あの時は面白半分で行ったに過ぎない。
「キスだってしたし、間接だけど・・・」
言われた頃で、昨日の一描写が映る。ガッツリと間接キスをしていた・・・。
「それより・・・」
「私じゃないよ?」
佐藤さんは俺の言葉を先読みしたみたいだった。まぁ、声のトーンが下がっていたからある程度予測していたのだろう。
「あの記事。書いたの私じゃないし、書いた人に教えてもない」
下を向く佐藤さんは、片足で何かを蹴って拗ねてるように見えた。
「そ。分かった」
「マジ?!信じるの?」
「だって、違うんでしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
大きく開いた目を戻すとき、なんだか不安を残しているようにも見えた。
「二人長くない?」
「女子はこんなもん!それより、ここ最近デートばっかりしてるね」
俺の正面でジャンプする佐藤さんは、何を聞きたいの分からなかった。
「何が言いたいの?」
「バイトしてる感じもないし」
「あぁ、親が裕福なのと、ちょっと貯金がね、すごいの」
俺の偽名をじっと見る。それに釣られて、佐藤さんが視線の先の映画を指差す。
「あの映画、気になるの?」
「違うよ」
「ってか、昨日何見たの?」
女子の話の展開力ってすごいな。そう思うと佐藤さんとの距離が近くなっている。彼女に嘘をついたら、平和であることが予測できる。でもこれ以上、自分の中のモヤモヤを増やすことはしたくない。
「今日と同じだったけど?」
今日は何回目のメガネザルを見ればいいのだろう。驚く佐藤さんに、次は俺から距離をつめる。
「何?!」
「昨日から思ってたんだけどさ。メイク、濃くない?」
「いや、そんなこと・・・」
今度は距離をとられた。
「俺は学校のときの方が好きだけど」
別人のような佐藤さんは、学校とのギャップが悪いように作用しているように思えた。
「え?」
「今は暗いから間違いないけど、明るい所で見るとちょっと・・・」
その日、それ以降彼女の顔を見れなかった。ともかく、映画館から徒歩数分。大型ショッピングモールの一階のカフェで飲む、カフェオレはなかなかの味だった。
「辰矢って意外とコーヒー、ダメ系?」
「響空は俺よりダメだろ?」
「え?うん」
「ブラックは好きだけど、臭いが気になるんだよ」
目を点にする響空は、自分の持っているコップに視線を落とす。何かを考え続けて、口にするかどうかをモジモジとしている。
「何?どうかした?」
「いやさ、ちょっと気になったんだけど」
考える響空に、少し申し訳なく思うところが頭に浮かぶ。
「私たちって今、どうなってんの?」
付き合ってる訳ではないし、俺の中でもこれが恋愛感情と言い切れるものはない。
「普通に・・・?友だちじゃないの」
「そうだね、そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」
何かに絶望したかのように、表情を買えた響空を俺は蚊帳の外に思えてむなしくなった。
「何があった?」
「ううん。ちょっときになっただけ」
変な事を聞かされて、響空と俺の時間の流れに違和感があった。小説のストーリーじゃないんだし、損あんこと、ある訳ないよな・・・。
「話せよ。気になるだろ」
「いや、何となく気になっただけだよ」
何も言えずにいる響空の姿を見て、気持ち悪くいやモヤモヤと言った方がいいのか、その感じまで残った。
「ごめん、今日は帰る」
そう言って颯爽と店を出る響空に、俺は何とか追いつこうと走る。とめる声も聞いていない。歩く早さが変わらない、むしろ早くなっている気がする。何とか追いついて、力づくで彼女を止める。
「いい加減待てって。何でそんなに急ぐんだよ。別にそこまで急がなくても良いだろ」
俺の声を聞きたくない。そう言ってるように思えた。これ以上追うと今より距離を詰めるのはおろか、保つことすら難しくなる、そう直感した。
「ったく。俺が何したってんだよ」
周りの視線が痛い。あたりを通る人は何かを察して俺の近くをよけ続ける。
「辰矢くん?」
若干下を向く俺は、横から声をかけられたのに焦りを表した。その時、猿のようになってしまった俺は、相手が木下先輩だと瞬時に気づけなかった。
「先輩、どうしてここに?」
後ろを見ても、連れがいない事が不思議に感じた。マドンナともあろう先輩が一人でここに来るのに少し違和感が残った。
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