あの雨のように

浅村 英字

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七時間目

告白

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 期末考査前日、俺は響空にあるDMを送った。

『期末が終わったら、旧棟に来てほしい』

 輝度高校は、基本的な授業を行う本棟、体育や実験などの特殊授業を行う旧棟、芸術科目を行う芸術棟、一般公開している一般棟の四種類の建物から構成されている。旧棟の教室はテスト期間において使用が禁止されているわけではないが、あまり使われることのないため、教室の環境はかなり悪い。だから人気のない場所、少し遠いから休み時間に行き来する場所ではないけど。

『何で?』

『少し話したいことがある』

 面倒だと思うはずなのに、どうでもいいと思ってしまう。

『これか、電話じゃダメなの?』

『ダメ』

『分かった』

 ようやく許可が下りた。こうなったら、俺は少しだけ本気を出そうと勇気を振り絞る。そして、ほんの少しだけ今回のテストで高得点を取ってもいいと思えてきた。
 けど、翌日。期末考査一日目の夜、響空からDMが着た。

『ごめん、話やけど来週でもいい?』

 彼女に何かあったのは何となくわかった。会って話すことがほとんどなくなった今、俺はこのDMでも彼女のことを理解しようと思った。

『分かった。都合がいい日でいいよ』

 別にこの会話に俺は時に何も間違いはないと思う。だから、できるだけ気にしないでテストで九十点半ばをキープするように調整する。

 期末考査の翌週、今日からその結果が返却されるという日の朝。

『今日の放課後なら空いてる』

 響空からその言葉だけが送られてきた。俺はあらかじめ決めていた教室『二〇一教室』に彼女を招く。
 期末考査も終了し翌週の各授業で試験結果が返され始めた。そして、ある言葉が各授業で言われた。

「今回のテストでの最高得点は、!学年でも最高点だよ」

 今回の全試験で学年最高得点を獲得した。つまり、まごうことなき学年トップの成績を得たわけだ。学生でモテる要素の一つ『成績優秀』を手に入れた。林間学校で証明された『スポーツ万能』と合わせれば俺がフラれる要素はなくなっていく。未来から言われた『頭もいいならモテる』という言葉を実証させる。
 その結果、学校の至る人から賛辞をもらった。だからこそ、俺は試験結果の返却後の方が、響空に告白するのに都合がいい。

「何?話って」

 静かな教室。掃除も完了し、塵一つない綺麗な床が響空の落ち着いた声を反射させる。風に揺らされた窓の音、窓や壁を二枚以上挟んでいるのに誰か知らない者や先生の物音が聞こえる。雨粒は窓を叩く音が話している内容を誤魔化す。さらに、時計の秒針までも俺の鼓膜を音でたたく。

「前に響空が言ってたじゃん、『私たちって今、どうなってんの?』って」

 不思議だ。頭の中の感情面は落ち着いているのに、思考回路は止まっている。さらに、外の音が聞こえるのは微かになり、体内から聞こえる心臓の音が頭の中にまで聞こえる。発作とはまた違う心臓の音、感じる脈拍、大きな太鼓が体の中心から鳴り響いているのが分かる。体の隅々までがどこにあってどういう状態になるかが認識できる。
 これが緊張というやつか。今まで味わったことのない感情、状態に今までの記憶が一瞬で頭にフラッシュバックされた。

「うん。言った」

「あの時は友だちって言ったけど、今の俺は響空と友だちでいるのじゃ、満足できなくなった」

 思考回路が止まっているから、思っていることを上手く言葉として響空に伝えることができない。しかし、呼び出していた側が言葉に詰まるのも不思議に思われる。少なくとも、今はそういう自分の弱みを見せるのは俺の評価を下げかねない。

「そう・・・」

「だから・・・、いや。つまり、俺は。今まで響空に迷惑とか、混乱とかさせたけど、これからはそんなの全部なくしていきたい。こんな俺だけど、俺と

 俺は響空に対し、頭を下げ、右手を差し出す。さっきまで聞こえていた雑音が全て聞こえなくなった。

「ごめん、一旦顔上げて」

 意外だった。自分で言うのもあれだが、すぐに手を取ってもらえると思っていた。俺は顔を上げ、彼女からの言葉を待つ。

「・・・、なんで今かなぁ」

 その言葉に背筋が凍った。

「実はね、私。最近彼氏ができたの」

 俺は、動いていた感情面も止まった。何も言葉が出なくなり、感じていた脈拍が感じられなくなった。その苦しさから声が漏れた。

「一昨日、元カレとより戻したんだ。まだ、少しは思い残しがあったからね。だから、辰矢とは付き合えない。ごめん」

 俺は、ピースがすでにそろっているつもりだった。俺からの言葉はただの形式だけで、これからは事件が起こる前に戻るのだと思っていた。

「あの時に、ちゃんと話せばよかったね」

「そっか・・・」

「ごめんね。・・・私、先に行くから」

 そう言った彼女は、席を立ち、雑音の中に溶け込んでいく。

「はぁ、ダメだな。カラオケの時にちゃんと告白すればよかったのか?・・・」

 俺も椅子から立ち上がり、壁に体重を預けて上を見る。湿気のせいか、頬に水滴を感じた。言葉が出ずに、声が漏れる。膝を固定できなくなり、腰が抜ける。周りの雑音が、だんだん俺の声でかき消されていく。
 きっと、今日のことなんて響空もいずれ忘れるんだろうな。あの雨のように。
 うっすらと見えた時計の針は、五時を過ぎようとしていた。旧棟は五時半になると管理人が体育館と部室以外の鍵を閉める決まりになっている。なけなしの力で立ち上がり、俺の帰路につく。
 階段を前にして、緊張が抜けるはずが、脈拍は加速しいつもの発作が起きる。表面と体内の温度差が激しくなり、心臓が痛くなる。どうしてだろう、呼吸が難しくなり、壁がいつもより冷たく感じる。とにかく、薬を・・・。

「あっ・・・」

 視界が悪いせいだ。足を踏み外し、階段を勢いよく転げ落ちる。目が回りそうになるがそれ以上に頭が痛い。そして一階についたと思うが、その直後学校で一番冷たい扉にぶつかったのが分かった。

「ア’’ッ!ウゥゥ・・・」

 声が漏れる。薬を飲みたいのに、腕が動かない。心臓がさらに鼓動を大きくし、胸元が痛い。床に血が流れ始めたのが視界に入る。冷静さを保つことができない、焦りが出る。

「誰・・・、か。助・・・、けて」

 喉も正常に作動しない。声が出ないし、身動きも取れない。頭から血を出しているうえに、発作が始まり呼吸まで悪くなっていく。無理だ。俺の人生終わったな・・・。俺の終着点がこんなこととはな。今までの記憶が俺を助けようとフラッシュバックする。
 足音が聞こえて、女子の声がする。二人?速さからすれば、運動部か。旧棟でよかったかもな。

「大丈夫?!優里奈!こっち来て!」

「稲垣!?血が。咲楽お願い、岩先生呼んできて!」

「あ、さ、くら?」

「そうだよ、大丈夫。咲楽、早く!」

 また足音が聞こえた。今度は雨音の方が大きくなっていく。

「薬はどこ?悪いけど、バッグに入れてて私は今持ってないの」

 どうにか力を振り絞り、ポケットに視線を送る。

「ここね。あった!ほら、口開けて」

 どうにかこうにか薬を飲みこむことができた。でも、もう目を開けることすらままならない。無理だ。これ以上は、意識を・・・、保てない・・・。
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