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七時間目
爆弾
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翌朝、俺が教室に着くといきなり佐藤さんが腕を引っ張って、屋上前の階段まで連れてかれた。
「おい、放せって」
目的地に着くと、言葉通り放してくれたが、放し方が雑過ぎて少し腕が痛む。
「どういう事?!」
「何が?」
「弥生から聞いた。あんたが言った条件をのんだって。あの子にも問い詰めた訳?」
「は?んなことしてねぇよ。昨日あの後、駅で呼び止められたんだよ。それで『佐藤さ』」
「未来・・・」
俺が話しているのを止めた原因が、彼女の名前の呼び方かと思うと、俺も普通なのかとホッとする。
「『未来に話したことを私にも』って言ってきたのは、向こうだ」
頭を何度かかいて、何かを考えている姿を見て不思議に感じた。
「未来は納得しない感じか?」
「合意はした。でも、納得までは」
面倒な女。ため息が出る。
「・・・あんた、本当は何が目的なの?」
まぁ、普通はそう考えるわな。俺は下りとの壁に体を預け、方向性を変える。
「『何かあったら助ける』俺はそう伝えたな?」
未来は縦に首を振り、辺りの音から意識をはずした。
「その言葉に嘘はない、これは本当。ただ、それは俺の場合も同じだろ?
別に金をせびろうとか、欲求の発散って訳でもない。今、俺はいくつかの『爆弾』を抱えてるのは知ってるだろ?」
俺は響空の前で二人の女性と映画で会ったことがあり、その二人の現状を知っている。だからこそ、俺が口にした『爆弾』という単語を彼女は現在だと思うだろう。
「その爆弾がヤバくなったら身代わりになれってこと?」
同じという単語を使ったから、悪い印象を与えたのか。とりあえず、話を合わせる。
「その状態の二人に俺が何を言っても、聞く耳を持たないだろ?だから、身代わりというよりも鎮火剤の方が正しいかもな」
俺が考えていたことが理解できたのか、未来は辺りの音を入れだした。
「分かった、付き合ってあげる。ただし、誰にも言わず、学校じゃ基本的に関わらないこと。いい?」
未来の圧力にため息が出る。
「ドタン!」
後ろから登りそこねた足音が聞こえた。互いに瞳孔が開き、合わせて壁の向こう側を覗く。
「響空?!」「犬駒さん?!」
「ごめん、聞いちゃった。大丈夫!誰にも言わないし、辰矢のこと、忘れるから・・・」
ヤバい!やっちまった。話を聞かれた。
「響空!待って」
彼女の手を取り、足音を止めるも、響空は俺の方を見ようとはしなかった。
「どこから聞いてた?」
「『付き合ってあげる』ってとこ」
最初からじゃないのが不幸中の幸いだった。が今はそれより最悪の状況だから顔に出せない。その代わり、声が漏れる。
「『マジか』ってなに?!浮気がバレたこと?二股、いや三股しようとしてたの?」
顔を見なくも分かる。今響空の顔を見れば、顔を叩かれ泣きながら去っていく。何も言えない。
「違う、そんなことない!意味が違うんだ」
「何が違うのよ!私だけ?そんな言葉信じるんじゃなかった」
俺の手を振りほどいて、涙を流さずに去っていく。
「あぁあ。面倒なことになったね」
「他人事じゃないだろ。あいつには俺たちが付き合ってるって思われてるってことだぞ」
リラックスしている未来も事の重大さに気づいたようだ。
「なら分かるだろ?さっき話してた」
ため息を吐き、響空に追いつこうとしてない速度で進む。俺自身が今行っても、彼女に与える影響はなく、最悪未来の行動の邪魔をしかねない。となると・・・、後ろの赤い気配の持ち主と話すのがいいか。
「うあっ、先輩いたんですか?」
「ちょっと。三股ってどういうこと?」
先輩の怒りは思ってた以上に黒いな。
距離を詰める速さが異常で、俺の足が一歩下がる。顔も近い。
「誤解ですよ。ちゃんと話します」
俺の言葉で、黒鬼を落ち着かせて、少し汚い階段に腰を下ろす。
「ここでいいんですか?それか立って話しますか?」
「いやここでいい」
二人そろって階段に腰を下ろす。先輩に話す前に物語の構成を考える。どう話すか、どこまでを正直に話し、どこから誤魔化すか、頭を抱える。
「大丈夫?」
「はい。まず先に結論を話すと、あいつの言った浮気とかはしてないですから」
とりあえず、誤解を解く。それ以上の話をする時間もないな。未来がこの時間に連れ出してくれて助かった。そもそも学校で響空の近くで話さなかったらこうなることもなかったんだけど。
「でも、付き合うって」
「それは買い物にですよ。あと、少し面倒なことがあってそれの手伝いもお願いしたので」
こうあれば、少し苛ついて付き合うという単語を投げた理由になる。
「そっか・・・」
先輩も先輩なりに考えているのだろう。でもその沈黙で時間切れだ。
「それじゃ、俺は教室に戻りますね」
そう告げて俺は教室に戻る。そういえば、どうして先輩は三階にいたのだろう。
教室に戻ると、そこには懐かしい光景があった。
「おはよう辰矢。久しぶり」
一週間ぶりに見た蒼午のいる教室。一応クラスメイトには『携帯所持による一週間の停学』と伝えてある。本来の理由を知っているのは、俺と響空と当人たちだけ。他はきっとこうだろうという予想だけ。
「サボり過ぎたんだ、助けてやるからジュースおごれや」
それだけを言って席に着く。暇な授業を無難にこなし、小説のプロットを残す。
形態に届いた一通のメッセージと一枚の写真。
『こういう設定だとありがたい』
ため息が出る。斎藤さんもこれほど面倒な設定をよく思いついたものだ。
『私は嫌だ』
そりゃそうだ、俺も嫌だ。にしてもメッセージ上で漢字ということは本当に嫌なんだな。
『仲がいいくらいでいいじゃない。
なんでわざわざ付き合うなんて設定にしなきゃいけないの?』
そうだ。俺は今、誰かと付き合う訳にはいかない。
『そうだよ。俺も今誰かと付き合うと、その人に迷惑がかかるよ』
『いや、そこは大した問題じゃない』
未来・・・。
そんな会話をする授業中、画面越しに繰り返す。その結果、俺が未来に恋バナをして協力関係にあるという設定が完成した。にしても、直接話しているとするならこの二人はずっと喧嘩していそうだな。
「あのさ、しばらくは話しかけないほうがいいかもよ。私の話もあまり聞いてくれないし。あんたに対する信頼そのものがなくなった感じかも」
頭を抱えて息が漏れる。時間をかけて作った砂の城は何度かの波に当たっただけで崩れていった。
「どうしよっかな・・・」
「今引いても、ことわざみたいになる訳じゃないよ」
そんなこと、未来に言われなくても分かっている。でも、今の俺が響空に言えることなんてあるのか、あの時見た言いに手を払われるんじゃないのか。そんなんことばかりが頭の中を駆け回る。
「分かってるよ。大事なのは、どう押すか、だろ?」
「なんだ、分かってんじゃん」
そのニヤケ顔が不思議と安心した。俺が俺の人生を歩んできたからだろうか。
「何?何の話?」
蒼午との間に立つ聖馬が、俺たちと蒼午をつなげる。
「ってか、二人の組み合わせ珍しいな」
一週間。色恋沙汰と変化の多い高校一年生には、彼らの停学期間は長すぎた。
「うん。今日初めて見た」
聖馬の言葉に、いくつかの視線が動く。
「ちょっと色々あってな。少し前から話すようにはなってたよ」
まもなく始まるテスト週間。高校生になって初めて、授業が期末テストのために自習の時間になった。世界史の授業は特殊なグループ割をする教科。その特殊なグループ割は先生の個性を出しながら、不穏な空気を呼ぶ未来が俺の前にいた。
周りの生徒は教科書、参考書、資料集、ノートを必死に見て自習をしていた。それに対して俺は、自分のノートに今持っている爆弾の整理を始める。
何と言うか、処理するべきことが多すぎる。いや、増やしたのは俺自身か。
「なぁなぁ、辰矢。ここ分かる?」
「あ、そこ私も分からん」
俺のグループは、未来のほかに聖馬の三人グループ。授業が終わった直後でも勉強するようなまじめなグループに位置していた。
「そこは結構暗記にしてるかも。俺も無理くり覚えるしかなかった」
「マジか・・・」
『関わらないんじゃなかったのか』
隠れてワボを使って、未来に問いかける。今朝言っていたことと今が少し違う気がする。
『うるさい。授業に関することは例外!』
女子ってここまで面倒な生き物なのか。もしそうだとしても、響空からのこういった面倒は気にしない気がする。にしても、返ってくるのも隠れ具合も俺よりも何倍も上手いな。
授業も終わり、お昼ご飯をどうしようか考えていると、悠凛さんと会ってしまった。
「大丈夫?顔色、悪いよ」
言われた通り、顔色が優れないのは理解した。どこかおかしい気がした。自分の中で何かが欠けている、原因は恐らく響空とのすれ違いだろう。
「大丈夫だよ、ありがと。お昼食べた?」
「ううん。今から食堂に行こうかなって」
今が俺の弱みだと思った。俺が書いてきた小説の展開の始まりと、きっと変わらない。
「そっか・・・」
「どう?一緒に」
お腹空いた俺には、この言葉を断る理由が思いつかなかった。
「うん、行く」
彼女と歩く時間に彼女のことの情報収集をしていた。好きな食べ物に、将来の夢、どうしてこの学校に来たのか、そういうことを知ることで小説のキャラクターで使えれば、そう思った。自分が弱っている時でも、俺はきっと自分の人生に興味が生まれないのだろう。今が楽であればいい気がする。今の方がその感情が強い。
食堂についた俺たちは、食券を買うために列にならんでいた。
「あの人でしょ?」「かっこいい!」「ってか、中々イケメンじゃん」「横の人彼女?」「同じクラスの人と付き合ってるんじゃないの?」「え?私は華巳先輩と付き合ってるって聞いたけど」
面倒な会話がちょくちょく耳に入った。
「ごめんね、大丈夫?横にいて」
「何で?別に気にしてないけど」
首を傾けて、食券台の前に移動する。
彼女はどこか顔が赤くなっているような気もした。そういう反応をするのか、としか思わなかった。
「何食べる?」
何だかこの子といると、楽だな。そう思えた。
食券を買って提出すると、颯爽と席に着いた。
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど。聞いていい?」
この手の質問をする人に思うことがある。聞かないでと言ったらその回答を今後も求めないのか。俺だったら聞くという自信があるから、そんな質問をするつもりなんてあるわけがない。
「何?」
「響空のこと、どう思ってるの?」
周りに人がいるこの現状で、幸さんに問い詰められた時と同じ答え方をするのは、少しまずい気がした。だからこそ、隠さなくてはいけない気がした。
「別に?普通だよ」
普通、そう言っておけば無難な気がした。でもそれじゃ『獣を喰らう櫻』に出てくる『東雲 一』と変わらない。人気キャラではあるものの、そのキャラを語る際、常につくのが『あのクズさがなければ』だ。だから続きを変えるべきだと思った。
「でも、あいつだけは他の人とはちょっと違うように思えるよ」
君は違う。そう言うのが一でも、俺はそう言えない、言っちゃいけないと気がした。
「そっか・・・」
数少ない言葉から、俺の真意を読み取ったような顔をしていた。
「辰矢くんが勇気出せば、きっと上手くいくよ」
彼女の笑顔がどこかぎこちなく感じた。正直、どこかで感付いてはいた。彼女は俺に対して好意を抱いてくれている、かもしれない。そんな勘、あたるなんて思っていない。俺は東雲じゃないんだから。
「おい、放せって」
目的地に着くと、言葉通り放してくれたが、放し方が雑過ぎて少し腕が痛む。
「どういう事?!」
「何が?」
「弥生から聞いた。あんたが言った条件をのんだって。あの子にも問い詰めた訳?」
「は?んなことしてねぇよ。昨日あの後、駅で呼び止められたんだよ。それで『佐藤さ』」
「未来・・・」
俺が話しているのを止めた原因が、彼女の名前の呼び方かと思うと、俺も普通なのかとホッとする。
「『未来に話したことを私にも』って言ってきたのは、向こうだ」
頭を何度かかいて、何かを考えている姿を見て不思議に感じた。
「未来は納得しない感じか?」
「合意はした。でも、納得までは」
面倒な女。ため息が出る。
「・・・あんた、本当は何が目的なの?」
まぁ、普通はそう考えるわな。俺は下りとの壁に体を預け、方向性を変える。
「『何かあったら助ける』俺はそう伝えたな?」
未来は縦に首を振り、辺りの音から意識をはずした。
「その言葉に嘘はない、これは本当。ただ、それは俺の場合も同じだろ?
別に金をせびろうとか、欲求の発散って訳でもない。今、俺はいくつかの『爆弾』を抱えてるのは知ってるだろ?」
俺は響空の前で二人の女性と映画で会ったことがあり、その二人の現状を知っている。だからこそ、俺が口にした『爆弾』という単語を彼女は現在だと思うだろう。
「その爆弾がヤバくなったら身代わりになれってこと?」
同じという単語を使ったから、悪い印象を与えたのか。とりあえず、話を合わせる。
「その状態の二人に俺が何を言っても、聞く耳を持たないだろ?だから、身代わりというよりも鎮火剤の方が正しいかもな」
俺が考えていたことが理解できたのか、未来は辺りの音を入れだした。
「分かった、付き合ってあげる。ただし、誰にも言わず、学校じゃ基本的に関わらないこと。いい?」
未来の圧力にため息が出る。
「ドタン!」
後ろから登りそこねた足音が聞こえた。互いに瞳孔が開き、合わせて壁の向こう側を覗く。
「響空?!」「犬駒さん?!」
「ごめん、聞いちゃった。大丈夫!誰にも言わないし、辰矢のこと、忘れるから・・・」
ヤバい!やっちまった。話を聞かれた。
「響空!待って」
彼女の手を取り、足音を止めるも、響空は俺の方を見ようとはしなかった。
「どこから聞いてた?」
「『付き合ってあげる』ってとこ」
最初からじゃないのが不幸中の幸いだった。が今はそれより最悪の状況だから顔に出せない。その代わり、声が漏れる。
「『マジか』ってなに?!浮気がバレたこと?二股、いや三股しようとしてたの?」
顔を見なくも分かる。今響空の顔を見れば、顔を叩かれ泣きながら去っていく。何も言えない。
「違う、そんなことない!意味が違うんだ」
「何が違うのよ!私だけ?そんな言葉信じるんじゃなかった」
俺の手を振りほどいて、涙を流さずに去っていく。
「あぁあ。面倒なことになったね」
「他人事じゃないだろ。あいつには俺たちが付き合ってるって思われてるってことだぞ」
リラックスしている未来も事の重大さに気づいたようだ。
「なら分かるだろ?さっき話してた」
ため息を吐き、響空に追いつこうとしてない速度で進む。俺自身が今行っても、彼女に与える影響はなく、最悪未来の行動の邪魔をしかねない。となると・・・、後ろの赤い気配の持ち主と話すのがいいか。
「うあっ、先輩いたんですか?」
「ちょっと。三股ってどういうこと?」
先輩の怒りは思ってた以上に黒いな。
距離を詰める速さが異常で、俺の足が一歩下がる。顔も近い。
「誤解ですよ。ちゃんと話します」
俺の言葉で、黒鬼を落ち着かせて、少し汚い階段に腰を下ろす。
「ここでいいんですか?それか立って話しますか?」
「いやここでいい」
二人そろって階段に腰を下ろす。先輩に話す前に物語の構成を考える。どう話すか、どこまでを正直に話し、どこから誤魔化すか、頭を抱える。
「大丈夫?」
「はい。まず先に結論を話すと、あいつの言った浮気とかはしてないですから」
とりあえず、誤解を解く。それ以上の話をする時間もないな。未来がこの時間に連れ出してくれて助かった。そもそも学校で響空の近くで話さなかったらこうなることもなかったんだけど。
「でも、付き合うって」
「それは買い物にですよ。あと、少し面倒なことがあってそれの手伝いもお願いしたので」
こうあれば、少し苛ついて付き合うという単語を投げた理由になる。
「そっか・・・」
先輩も先輩なりに考えているのだろう。でもその沈黙で時間切れだ。
「それじゃ、俺は教室に戻りますね」
そう告げて俺は教室に戻る。そういえば、どうして先輩は三階にいたのだろう。
教室に戻ると、そこには懐かしい光景があった。
「おはよう辰矢。久しぶり」
一週間ぶりに見た蒼午のいる教室。一応クラスメイトには『携帯所持による一週間の停学』と伝えてある。本来の理由を知っているのは、俺と響空と当人たちだけ。他はきっとこうだろうという予想だけ。
「サボり過ぎたんだ、助けてやるからジュースおごれや」
それだけを言って席に着く。暇な授業を無難にこなし、小説のプロットを残す。
形態に届いた一通のメッセージと一枚の写真。
『こういう設定だとありがたい』
ため息が出る。斎藤さんもこれほど面倒な設定をよく思いついたものだ。
『私は嫌だ』
そりゃそうだ、俺も嫌だ。にしてもメッセージ上で漢字ということは本当に嫌なんだな。
『仲がいいくらいでいいじゃない。
なんでわざわざ付き合うなんて設定にしなきゃいけないの?』
そうだ。俺は今、誰かと付き合う訳にはいかない。
『そうだよ。俺も今誰かと付き合うと、その人に迷惑がかかるよ』
『いや、そこは大した問題じゃない』
未来・・・。
そんな会話をする授業中、画面越しに繰り返す。その結果、俺が未来に恋バナをして協力関係にあるという設定が完成した。にしても、直接話しているとするならこの二人はずっと喧嘩していそうだな。
「あのさ、しばらくは話しかけないほうがいいかもよ。私の話もあまり聞いてくれないし。あんたに対する信頼そのものがなくなった感じかも」
頭を抱えて息が漏れる。時間をかけて作った砂の城は何度かの波に当たっただけで崩れていった。
「どうしよっかな・・・」
「今引いても、ことわざみたいになる訳じゃないよ」
そんなこと、未来に言われなくても分かっている。でも、今の俺が響空に言えることなんてあるのか、あの時見た言いに手を払われるんじゃないのか。そんなんことばかりが頭の中を駆け回る。
「分かってるよ。大事なのは、どう押すか、だろ?」
「なんだ、分かってんじゃん」
そのニヤケ顔が不思議と安心した。俺が俺の人生を歩んできたからだろうか。
「何?何の話?」
蒼午との間に立つ聖馬が、俺たちと蒼午をつなげる。
「ってか、二人の組み合わせ珍しいな」
一週間。色恋沙汰と変化の多い高校一年生には、彼らの停学期間は長すぎた。
「うん。今日初めて見た」
聖馬の言葉に、いくつかの視線が動く。
「ちょっと色々あってな。少し前から話すようにはなってたよ」
まもなく始まるテスト週間。高校生になって初めて、授業が期末テストのために自習の時間になった。世界史の授業は特殊なグループ割をする教科。その特殊なグループ割は先生の個性を出しながら、不穏な空気を呼ぶ未来が俺の前にいた。
周りの生徒は教科書、参考書、資料集、ノートを必死に見て自習をしていた。それに対して俺は、自分のノートに今持っている爆弾の整理を始める。
何と言うか、処理するべきことが多すぎる。いや、増やしたのは俺自身か。
「なぁなぁ、辰矢。ここ分かる?」
「あ、そこ私も分からん」
俺のグループは、未来のほかに聖馬の三人グループ。授業が終わった直後でも勉強するようなまじめなグループに位置していた。
「そこは結構暗記にしてるかも。俺も無理くり覚えるしかなかった」
「マジか・・・」
『関わらないんじゃなかったのか』
隠れてワボを使って、未来に問いかける。今朝言っていたことと今が少し違う気がする。
『うるさい。授業に関することは例外!』
女子ってここまで面倒な生き物なのか。もしそうだとしても、響空からのこういった面倒は気にしない気がする。にしても、返ってくるのも隠れ具合も俺よりも何倍も上手いな。
授業も終わり、お昼ご飯をどうしようか考えていると、悠凛さんと会ってしまった。
「大丈夫?顔色、悪いよ」
言われた通り、顔色が優れないのは理解した。どこかおかしい気がした。自分の中で何かが欠けている、原因は恐らく響空とのすれ違いだろう。
「大丈夫だよ、ありがと。お昼食べた?」
「ううん。今から食堂に行こうかなって」
今が俺の弱みだと思った。俺が書いてきた小説の展開の始まりと、きっと変わらない。
「そっか・・・」
「どう?一緒に」
お腹空いた俺には、この言葉を断る理由が思いつかなかった。
「うん、行く」
彼女と歩く時間に彼女のことの情報収集をしていた。好きな食べ物に、将来の夢、どうしてこの学校に来たのか、そういうことを知ることで小説のキャラクターで使えれば、そう思った。自分が弱っている時でも、俺はきっと自分の人生に興味が生まれないのだろう。今が楽であればいい気がする。今の方がその感情が強い。
食堂についた俺たちは、食券を買うために列にならんでいた。
「あの人でしょ?」「かっこいい!」「ってか、中々イケメンじゃん」「横の人彼女?」「同じクラスの人と付き合ってるんじゃないの?」「え?私は華巳先輩と付き合ってるって聞いたけど」
面倒な会話がちょくちょく耳に入った。
「ごめんね、大丈夫?横にいて」
「何で?別に気にしてないけど」
首を傾けて、食券台の前に移動する。
彼女はどこか顔が赤くなっているような気もした。そういう反応をするのか、としか思わなかった。
「何食べる?」
何だかこの子といると、楽だな。そう思えた。
食券を買って提出すると、颯爽と席に着いた。
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど。聞いていい?」
この手の質問をする人に思うことがある。聞かないでと言ったらその回答を今後も求めないのか。俺だったら聞くという自信があるから、そんな質問をするつもりなんてあるわけがない。
「何?」
「響空のこと、どう思ってるの?」
周りに人がいるこの現状で、幸さんに問い詰められた時と同じ答え方をするのは、少しまずい気がした。だからこそ、隠さなくてはいけない気がした。
「別に?普通だよ」
普通、そう言っておけば無難な気がした。でもそれじゃ『獣を喰らう櫻』に出てくる『東雲 一』と変わらない。人気キャラではあるものの、そのキャラを語る際、常につくのが『あのクズさがなければ』だ。だから続きを変えるべきだと思った。
「でも、あいつだけは他の人とはちょっと違うように思えるよ」
君は違う。そう言うのが一でも、俺はそう言えない、言っちゃいけないと気がした。
「そっか・・・」
数少ない言葉から、俺の真意を読み取ったような顔をしていた。
「辰矢くんが勇気出せば、きっと上手くいくよ」
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