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七時間目
小ネタ
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金曜日、六限目。林間学校での成績発表がまだなのに、学年全体で講習のような授業を受けることになった。その授業内容は『同性愛について』ようは、LGBTQだ。当日朝から知らされていたものの、正直なところ、面倒だと思う生徒しかいなかった。そんな講義の中、注目を浴びたのは柔道場出入口付近にいた停学中の二人だった。彼らに送られた冷たい視線は、講義開始を持って別のもとへ移動した。
「こんにちは。今回は『性的マイノリティ』通称『LGBTQ』についてお話させてください」
その挨拶以降、次々と生徒の顔が下を向き、力が抜けてゆく人が続出した。その人たちに注意する先生が皆無であることに疑問を持って、周りを見ると、そこにいる成人は講師の女性のみだった。
前半で一度視線を落としていた俺は、小説のネタに使えるかもと、後半だけでもと頭を上げた。
「正直、私も今のパートナーに打ち明けてもらうまで、全く気付かなかったんです。そして、打ち明けられた時も驚きを隠すことが出来ませんでした」
その言葉に、一か所だけ動きがあった。きっと無意識だろう。これを意識的にうなずく人なんていない。
「そして、話してくれた彼女もその時には人生の大勝負というくらいの覚悟を決めていたそうです」
その言葉に、また別の所だけが動く。確か、彼女とどこかで会った気が・・・。思い出そうとしていると、小説のネタになりそうな物語が頭に浮かび、少しだけ膨らませようと記憶に残す。
気が付けば、講義が終わり先生たちと蒼午たちが入れ替わっていた。柔道場から解放され、誰もが背を伸ばしていると、ふと今の時間が静かに思えた。
「なんか、寂しいな」
聖馬も同じ感覚を持っていたもたいで、少し安心した。そもそも、俺より聖馬の方が一緒にいる時間が長いからこそ、より感じているかもしれない。
「だな。月曜から戻ってくるんだろ?寂しい思いをさせた罪として、ジュースの一本や二本、奢ってもらわないとな!」
このセリフで、俺が本当に気にしていないことが分かった。聖馬は、嬉しいのか肩を組んできた。その行動に男子の中学生のようなヤジが聞こえた。それでも、俺のセリフがの方が気に入った聖馬は、そんなヤジに耳をかすことがなかった。
「稲垣!」
「はい、田杉先生。どうかしたんですか?」
少し遠いところから声を出して、小走りしてきた先生は、きっと今回の最後の処理をしてきたのだろう。一応邪魔にならないように少し二人で歩く。
「あのさ、少しでいいから時間もらえる?二人が謝りたいって言ってて、出来れば会わせてあげたいんだけど」
個人的に反省したなら、お咎めなしってしたいんだけど、学校的に難しそうだな。拒否したら他の時に面倒なことになるかも・・・、そう思うと首が縦に動いて声が出た。
「良かった。なら今からいい?ホームルームは出なくてもいいから」
「分かりました。どこに行けばいいですか?」
先生は、俺たち未成年とは違う。省いてもいい所を省くことで帰る時間のことを考えてあるとよく分かる。
二人の謝罪を受け流すと、佐藤さんが一人で携帯を扱っているのが容易に見えた。
「携帯使うならもうちょっと上手く隠しなよ」
「ッバカ!もうちょっとマシな声のかけ方ないの?」
携帯を扱っている人に言われるセリフじゃないな・・・。暇だし、ちょっと話すか。
「この前はデート邪魔してごめんね」
「別に?楽しかった・・・」
意外にも軽く口をすべらせたな。まぁ、予想してた通りだったけど。無意識に体が動く人は口も軽いのか・・・。
「そんな目で見なくても話さないよ」
「いや、これは違くて。ホラッ!今日の講義もさ」
慌てる彼女をよそに帰り支度を進める。何かを叩く音が聞こえて、正面に彼女がいるのはすぐに分かった。
「だから、誰にも言わないって。何かあったら俺も手伝う」
「そうじゃなく、えっ?」
「俺は寝れてなくて話聞いてたけど、あまりオープンにしたくないんだろ?」
佐藤さんは開いた口が閉じなくなっているように見えた。誰かにバレたのも、味方になると言われたのも初めてなのだろう。それもそのはず、俺も小説書いてなかったら、こんなこと言わずに傍観者を貫き通したのだろう。
「基本的に暇だから、俺を身代わりに使うといいよ。一言くれれば話合わせるし」
「何で?」
「は?」
「何でそこまでしてくれるの?」
まぁ、出会って数か月、話した回数も片手分あるかないか。そんな人のことをすぐに信用できる訳もないか。
「別に、特に理由はないよ。強いて言うなら、俺がそれだけ優しい人間だからだよ」
俺の言葉は嘘くさかっただろうか。一歩、俺との距離を詰め、圧をかけてきた。
「分かった、分かった。実は、漫画家目指しててさ?そういう関係を話に混ぜられたらなって。だから、少し話を聞けたらないいかなって感じ?あっ、もちろん返事は今度でいいよ。断られたら、今回のことは忘れる」
俺の言葉がそれだけ信用ないのだろう。
「もちろん、このことを表に出すつもりもないよ」
「分かった。信じるよ」
どれだけの間があったか、俺が他人の言葉を信じるのに時間を要しないから、他の人が俺の言葉を信用するのにかける時間がストレスになる。
「でも!私たちのことであなたに伝えることは何もない。それに、あなたに頼むこともない」
「分かった。なら、俺の心の中にしまっておくよ」
そう言って俺は学校を後にする。駅で一応携帯に簡単にメモを残す。頭に残っている時間なんて極めて短いはずだし。
「面白くなると思ったんだけどな・・・」
そうつぶやくと、一通のメールが届いた。ワボを開くと未登録者からのものだった。
「あ、いた!あの・・・」
ホーム全体に聞こえる大声に、誰しも正面を切り替えた。その目に映るのは、今日何度も頷いていた名前も知らない同級生だった。彼女は俺のところに駆け寄り、長めのスカートを抑えてた。
「あの、稲垣さんですよね・・・?」
「はい。大丈夫ですか?かなり息上がってるけど」
「実は・・・、その・・・」
さすがに、立ちっぱなしで話すのは彼女にも大変そうに思えた。
「僕の電車が来るまで時間がありますから、座って話しましょ?」
彼女が俺に接触してきたタイミング的に、おおよその内容は把握できる。
「それより、少しでいいので私に付き合ってもらえますか?」
首を一度傾けるが、俺の勘が当たっているとするなら、これを断ると彼女的に少しきつい場面になるかもしれない。
「いいですよ。なら・・・」
「それじゃあ、来てください」
そう言われて、反対側を見ると上りの電車が扉を開いて待っていた。腕を引かれ乗車すると、すぐにほとんど無意味な自己紹介が始まった。
「改めまして。五組の『斎藤 弥生』です」
「三組の『稲垣 辰矢』です」
「知ってます。あなたはかなり有名にですから」
微妙だ。学年いや、学校中で名が知れ渡っているのは予想がついているけど、かなりは付いて欲しくない。外の景色を見ながら知らない世界に酔いしれる。
「あまり人前で話したくないので、私の家に来てください」
「え!?」
驚きつつも、すぐに家に着いた。どうりで定期じゃないわけだ。
「どうぞ」
「お邪魔しまぁす」
「二階の手前が私の部屋です。そこで待っててください。飲み物持っていきます」
そう言って、斎藤さんは一階の扉を開けた。
「女子の部屋なんて入ったことないから、どうすればいいのか分かんねぇ」
思ったことを口にしつつ、座れずにいると後ろの扉が開いて、斎藤さんが顔を出すのに心臓が飛び出るかと思った。
「どうぞ、座ってください。飲み物は麦茶しかなかったんですけど、良かったですか?」
初めての女子の部屋で、緊張しすぎて喉カラカラの俺に、麦茶は最高の飲み物だった。でもさすがに、つがれて早々飲み干すわけにはいかないから、一口だけで体に染み渡らせる。
「それで、僕になにか?」
「未来から聞きました。私たちの関係に気が付いたそうですね」
テーブルを挟み、真剣な顔をする斎藤さんに『鎌を掛けてみたら、ボロを出しました』なんて言えない。
「はい。今日の講義の態度でなんとなく・・・」
「そうですか。でも、誰にも言わないと言ってくれたそうですね」
「えぇ。第三者にはこの事を伝えても、僕に得はありませんからね」
「では、得が生まれるような事があれば、話すということですか?」
鋭い目つき、トーンの低い声、膝まで真っすぐに伸びた腕。俺って信用ないなぁ。
「まぁ、それが本当に得なら、話すかもしれないですね」
目を開きなおす彼女には、俺が翼の生えた悪魔にでも見えるのか。どうせここで『何があっても言わない』と否定しても信じないくせに。
「それじゃあ、未来に言った条件を教えてください。いくら渡せばいいですか?」
物怖じしない彼女には、きっとこれ以上の秘密はないのだろう。でも、条件の種類が違うんだよな・・・。
「生憎、お金には困ってないんですよね」
「それじゃあ、何が目的なんですか?」
あまりにもひどい言い方に少し笑いそうになる。
「『二人の話』を聞きたい、それだけですよ」
相手に自分の公開しにくい所をつく。そのやり口は人間として最低な事ということはすでに知っている。でも、俺は目的のためにやってるし、それにそこまで重要視していない。だから今日の事はお蔵入りでも問題ないのに。そこまで信用がないのか、なら別に仕方ない。
開き直した目で何を読み取ったのか、ずっと頭の中で何かを考えているように見えた。
周りを見ると、大方同じものが複数あった。写真立て、時計、枕に眼鏡。よく見るとコンタクトケースの横には未開封の一ヵ月用コンタクト。
「『二人の話』って、どういうことを聞きたいんですか?」
なるほど。彼女は俺を信用するかという基準を探っているわけじゃない。俺が何も言わないという確信が欲しいのか、いや正確には、俺が誰かに言うという不安を消したいのだろう。
「どういうことと聞かれても、その時にならないと分からないですね。それと、前提として話す分には黙秘してもらっても大丈夫ですよ?」
「は?それじゃ、ほぼ無条件じゃないですか?!」
「佐藤さんにどう言われたかは知りませんし、斎藤さんが名前だけは知ってる僕をどう思ってるかなんて興味ないですけど、今ここにいる俺はこういう人間です」
冗談半分で言ったあの臭い台詞をもう一度言うなんて思わなかった。それに、その目を俺は見たくない。
「不安なら誓約書でも書きましょうか?」
「いいえ。そこまでしなくても十分です。私が考えすぎてました。ごめんなさい」
「あの、頭を下げなくても・・・」
謝罪とはいえ、本当に頭を下げられると、罪悪感を感じる。
「それと、二人の関係に何かあれば、僕の名前を使ってもらっても大丈夫です。ですので、そのためにも少しだけでも話聞ければいいので」
きっとこう言えば、彼女たちは俺に多少の相談はするだろう。それに付け込む俺は、きっとかなりの悪役のはず。
「いえ、そこまでは・・・」
「いいじゃないですか。俺に秘密がバレた時点で、今のままだと危ないってことでしょ。異性の協力があれば、きっと大丈夫でしょ」
「・・・よろしくお願いします。未来には私から伝えます」
今の笑みは、きっと苦しみを忘れられている。彼女のように。
「こんにちは。今回は『性的マイノリティ』通称『LGBTQ』についてお話させてください」
その挨拶以降、次々と生徒の顔が下を向き、力が抜けてゆく人が続出した。その人たちに注意する先生が皆無であることに疑問を持って、周りを見ると、そこにいる成人は講師の女性のみだった。
前半で一度視線を落としていた俺は、小説のネタに使えるかもと、後半だけでもと頭を上げた。
「正直、私も今のパートナーに打ち明けてもらうまで、全く気付かなかったんです。そして、打ち明けられた時も驚きを隠すことが出来ませんでした」
その言葉に、一か所だけ動きがあった。きっと無意識だろう。これを意識的にうなずく人なんていない。
「そして、話してくれた彼女もその時には人生の大勝負というくらいの覚悟を決めていたそうです」
その言葉に、また別の所だけが動く。確か、彼女とどこかで会った気が・・・。思い出そうとしていると、小説のネタになりそうな物語が頭に浮かび、少しだけ膨らませようと記憶に残す。
気が付けば、講義が終わり先生たちと蒼午たちが入れ替わっていた。柔道場から解放され、誰もが背を伸ばしていると、ふと今の時間が静かに思えた。
「なんか、寂しいな」
聖馬も同じ感覚を持っていたもたいで、少し安心した。そもそも、俺より聖馬の方が一緒にいる時間が長いからこそ、より感じているかもしれない。
「だな。月曜から戻ってくるんだろ?寂しい思いをさせた罪として、ジュースの一本や二本、奢ってもらわないとな!」
このセリフで、俺が本当に気にしていないことが分かった。聖馬は、嬉しいのか肩を組んできた。その行動に男子の中学生のようなヤジが聞こえた。それでも、俺のセリフがの方が気に入った聖馬は、そんなヤジに耳をかすことがなかった。
「稲垣!」
「はい、田杉先生。どうかしたんですか?」
少し遠いところから声を出して、小走りしてきた先生は、きっと今回の最後の処理をしてきたのだろう。一応邪魔にならないように少し二人で歩く。
「あのさ、少しでいいから時間もらえる?二人が謝りたいって言ってて、出来れば会わせてあげたいんだけど」
個人的に反省したなら、お咎めなしってしたいんだけど、学校的に難しそうだな。拒否したら他の時に面倒なことになるかも・・・、そう思うと首が縦に動いて声が出た。
「良かった。なら今からいい?ホームルームは出なくてもいいから」
「分かりました。どこに行けばいいですか?」
先生は、俺たち未成年とは違う。省いてもいい所を省くことで帰る時間のことを考えてあるとよく分かる。
二人の謝罪を受け流すと、佐藤さんが一人で携帯を扱っているのが容易に見えた。
「携帯使うならもうちょっと上手く隠しなよ」
「ッバカ!もうちょっとマシな声のかけ方ないの?」
携帯を扱っている人に言われるセリフじゃないな・・・。暇だし、ちょっと話すか。
「この前はデート邪魔してごめんね」
「別に?楽しかった・・・」
意外にも軽く口をすべらせたな。まぁ、予想してた通りだったけど。無意識に体が動く人は口も軽いのか・・・。
「そんな目で見なくても話さないよ」
「いや、これは違くて。ホラッ!今日の講義もさ」
慌てる彼女をよそに帰り支度を進める。何かを叩く音が聞こえて、正面に彼女がいるのはすぐに分かった。
「だから、誰にも言わないって。何かあったら俺も手伝う」
「そうじゃなく、えっ?」
「俺は寝れてなくて話聞いてたけど、あまりオープンにしたくないんだろ?」
佐藤さんは開いた口が閉じなくなっているように見えた。誰かにバレたのも、味方になると言われたのも初めてなのだろう。それもそのはず、俺も小説書いてなかったら、こんなこと言わずに傍観者を貫き通したのだろう。
「基本的に暇だから、俺を身代わりに使うといいよ。一言くれれば話合わせるし」
「何で?」
「は?」
「何でそこまでしてくれるの?」
まぁ、出会って数か月、話した回数も片手分あるかないか。そんな人のことをすぐに信用できる訳もないか。
「別に、特に理由はないよ。強いて言うなら、俺がそれだけ優しい人間だからだよ」
俺の言葉は嘘くさかっただろうか。一歩、俺との距離を詰め、圧をかけてきた。
「分かった、分かった。実は、漫画家目指しててさ?そういう関係を話に混ぜられたらなって。だから、少し話を聞けたらないいかなって感じ?あっ、もちろん返事は今度でいいよ。断られたら、今回のことは忘れる」
俺の言葉がそれだけ信用ないのだろう。
「もちろん、このことを表に出すつもりもないよ」
「分かった。信じるよ」
どれだけの間があったか、俺が他人の言葉を信じるのに時間を要しないから、他の人が俺の言葉を信用するのにかける時間がストレスになる。
「でも!私たちのことであなたに伝えることは何もない。それに、あなたに頼むこともない」
「分かった。なら、俺の心の中にしまっておくよ」
そう言って俺は学校を後にする。駅で一応携帯に簡単にメモを残す。頭に残っている時間なんて極めて短いはずだし。
「面白くなると思ったんだけどな・・・」
そうつぶやくと、一通のメールが届いた。ワボを開くと未登録者からのものだった。
「あ、いた!あの・・・」
ホーム全体に聞こえる大声に、誰しも正面を切り替えた。その目に映るのは、今日何度も頷いていた名前も知らない同級生だった。彼女は俺のところに駆け寄り、長めのスカートを抑えてた。
「あの、稲垣さんですよね・・・?」
「はい。大丈夫ですか?かなり息上がってるけど」
「実は・・・、その・・・」
さすがに、立ちっぱなしで話すのは彼女にも大変そうに思えた。
「僕の電車が来るまで時間がありますから、座って話しましょ?」
彼女が俺に接触してきたタイミング的に、おおよその内容は把握できる。
「それより、少しでいいので私に付き合ってもらえますか?」
首を一度傾けるが、俺の勘が当たっているとするなら、これを断ると彼女的に少しきつい場面になるかもしれない。
「いいですよ。なら・・・」
「それじゃあ、来てください」
そう言われて、反対側を見ると上りの電車が扉を開いて待っていた。腕を引かれ乗車すると、すぐにほとんど無意味な自己紹介が始まった。
「改めまして。五組の『斎藤 弥生』です」
「三組の『稲垣 辰矢』です」
「知ってます。あなたはかなり有名にですから」
微妙だ。学年いや、学校中で名が知れ渡っているのは予想がついているけど、かなりは付いて欲しくない。外の景色を見ながら知らない世界に酔いしれる。
「あまり人前で話したくないので、私の家に来てください」
「え!?」
驚きつつも、すぐに家に着いた。どうりで定期じゃないわけだ。
「どうぞ」
「お邪魔しまぁす」
「二階の手前が私の部屋です。そこで待っててください。飲み物持っていきます」
そう言って、斎藤さんは一階の扉を開けた。
「女子の部屋なんて入ったことないから、どうすればいいのか分かんねぇ」
思ったことを口にしつつ、座れずにいると後ろの扉が開いて、斎藤さんが顔を出すのに心臓が飛び出るかと思った。
「どうぞ、座ってください。飲み物は麦茶しかなかったんですけど、良かったですか?」
初めての女子の部屋で、緊張しすぎて喉カラカラの俺に、麦茶は最高の飲み物だった。でもさすがに、つがれて早々飲み干すわけにはいかないから、一口だけで体に染み渡らせる。
「それで、僕になにか?」
「未来から聞きました。私たちの関係に気が付いたそうですね」
テーブルを挟み、真剣な顔をする斎藤さんに『鎌を掛けてみたら、ボロを出しました』なんて言えない。
「はい。今日の講義の態度でなんとなく・・・」
「そうですか。でも、誰にも言わないと言ってくれたそうですね」
「えぇ。第三者にはこの事を伝えても、僕に得はありませんからね」
「では、得が生まれるような事があれば、話すということですか?」
鋭い目つき、トーンの低い声、膝まで真っすぐに伸びた腕。俺って信用ないなぁ。
「まぁ、それが本当に得なら、話すかもしれないですね」
目を開きなおす彼女には、俺が翼の生えた悪魔にでも見えるのか。どうせここで『何があっても言わない』と否定しても信じないくせに。
「それじゃあ、未来に言った条件を教えてください。いくら渡せばいいですか?」
物怖じしない彼女には、きっとこれ以上の秘密はないのだろう。でも、条件の種類が違うんだよな・・・。
「生憎、お金には困ってないんですよね」
「それじゃあ、何が目的なんですか?」
あまりにもひどい言い方に少し笑いそうになる。
「『二人の話』を聞きたい、それだけですよ」
相手に自分の公開しにくい所をつく。そのやり口は人間として最低な事ということはすでに知っている。でも、俺は目的のためにやってるし、それにそこまで重要視していない。だから今日の事はお蔵入りでも問題ないのに。そこまで信用がないのか、なら別に仕方ない。
開き直した目で何を読み取ったのか、ずっと頭の中で何かを考えているように見えた。
周りを見ると、大方同じものが複数あった。写真立て、時計、枕に眼鏡。よく見るとコンタクトケースの横には未開封の一ヵ月用コンタクト。
「『二人の話』って、どういうことを聞きたいんですか?」
なるほど。彼女は俺を信用するかという基準を探っているわけじゃない。俺が何も言わないという確信が欲しいのか、いや正確には、俺が誰かに言うという不安を消したいのだろう。
「どういうことと聞かれても、その時にならないと分からないですね。それと、前提として話す分には黙秘してもらっても大丈夫ですよ?」
「は?それじゃ、ほぼ無条件じゃないですか?!」
「佐藤さんにどう言われたかは知りませんし、斎藤さんが名前だけは知ってる僕をどう思ってるかなんて興味ないですけど、今ここにいる俺はこういう人間です」
冗談半分で言ったあの臭い台詞をもう一度言うなんて思わなかった。それに、その目を俺は見たくない。
「不安なら誓約書でも書きましょうか?」
「いいえ。そこまでしなくても十分です。私が考えすぎてました。ごめんなさい」
「あの、頭を下げなくても・・・」
謝罪とはいえ、本当に頭を下げられると、罪悪感を感じる。
「それと、二人の関係に何かあれば、僕の名前を使ってもらっても大丈夫です。ですので、そのためにも少しだけでも話聞ければいいので」
きっとこう言えば、彼女たちは俺に多少の相談はするだろう。それに付け込む俺は、きっとかなりの悪役のはず。
「いえ、そこまでは・・・」
「いいじゃないですか。俺に秘密がバレた時点で、今のままだと危ないってことでしょ。異性の協力があれば、きっと大丈夫でしょ」
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