あの雨のように

浅村 英字

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十二限目

休日

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 テスト期間の休日、明後日から中間テストが行われる。その対策として、俺と咲楽は学校の図書館に来ていた。一般用出入口を使えば、私服で来れるし、休日に学校の図書館で勉強しようとなんて普通は思わないだろう。と言いながら俺たちは校内で昼食を食べたいからと、制服で学校に来た。

「ここさ、どうしたらいい?」

「そこは暗記しかないね。触媒として使えるのは、規則性は俺もつかんでないから難しいと思う」

 化学において基本となる知識は、どうしても暗記になってしまう。それの応用をしていくのが化学の醍醐味なんだけど。

「そうだよね、頑張るしかないか」

 午前十一時半、もう少ししたらお昼時。今日は咲楽が弁当を作ってくれると言っていたから、朝食をいつもより減らして、スパイスを追加しておいた。

「辰矢って勉強しながら関係ない話出来るよね」

「まあ、大半は別のことを考えてるからね。マルチタスクってやつだよ」

「すごいね。辰矢とずっといるからかな、私も少しずつマルチタスクになってきた気がする」

 別に一緒にいるだけじゃ、そういうのはうつらないと思うんだけど。

「そっか。そう言えば、俺言わなきゃいけないことがあったわ」

「何?」

「テスト終わったら、入院する」

「え?!」

 咲楽は俺の病気を知っているから、軽く流されると思っていた。でも反応が大きいってことは意外だったのだろう。

「いつからいつまで?」

「テスト終わってすぐから、一応一か月って感じかな」

「長いね」

「いや長くて一か月って感じかな。俺が飲んでる薬が試験薬なんだ。だから大きな検査と製薬会社のフィードバックのための入院だから、速く済むかもしれないんだよね」

「そうなんだ。頑張ってね」

 俺たちは、黙々と勉強するときと会話しながら勉強するのを挟みながら過ごしていると、咲楽のお腹が鳴った。

「お昼にしようか」

「うん、お腹空いた」

 俺たちは勉強道具を閉まって、学校側の出入口から中庭に向かう。
 整理された芝生の上に俺たちは腰を下ろして、咲楽の手作り弁当を食べることにした。

「口に合えばいいんだけど」

「大丈夫じゃない?いただきます」

「どうぞ」

 弁当箱を開けると、キレイという印象があった。卵サンド、ピーナッツバターサンド、ハムサンドにツナサンド。食パン有り余ってたのかな。そして上の段にから揚げにタコさんウィンナー、プチトマトなど野菜が入っていた。
 俺は、食べたことないピーナッツバターサンドに興味が湧きながらも、咲楽が一から手作りしたであろう卵サンドを手にする。

「美味っ」

「本当?!良かった」

 咲楽が作った卵サンド、正直驚いた。コンビニの卵サンドとそれほど遜色ない味だった。でも、もし俺が作るとするなら・・・・・・、

「でもなんか気に食わないんだよね。一味足りないと思うんだけど、何が足りないと思う?」

 まさか、俺と同じことを考えていたとは思ってみなかった。

「俺はマスタードだと思う」

「あぁ、確かに。これにすこしだけピリッとした味が加わったらちょうどいいかも」

 俺は病院食がまずいことをきっかけに料理をして味覚が研ぎ澄まされていった。でも咲楽はそういうのじゃないよな。
 変なことを考えるのはやめよう。咲楽は俺のことを疑ってないんだし、俺も疑いを持つのはやめよう。
 
「ねぇねぇ」

「何?」

 俺は最後の卵サンドを食べながら、咲楽の顔を見る。

「いや、卵付いてる」

 咲楽は俺の唇から卵を拭った。そして、それを口にした。

「私と賭けしない?」

「別にいいけど、何を賭けると?」

 正直、そこまでして何を願うのか分からないけど、俺が咲楽との学力勝負に負けるわけがない。

「勝った方の願いを負けた方が聞く」

「いいよ。それじゃあ」

「待って!私とテストの点数で勝負しようってのならお断り」

 俺の狙いがバレたか。まぁ最近は毎日俺との時間を共有してきたからな。

「そりゃそうでしょ。平均点が九十点超える人とまともに勝負できる訳ないじゃん」

「まぁ、確かに」

「だから、こうしよ。私の平均点を十点上げる。どう?」

「学年末は何点だったと?」

 この賭けはどちらが優位になれるか、分かる。

「七十四点」

 ちょうどいい塩梅だな。別に八十四点なら取れない点数じゃない。今までで苦手な教科は克服できた。そして今日の勉強を兼ねれば全体的に十点上げるのはそれほど難しいことじゃないだろう。

「ってことは、八十四点か。いいよ」

「なら、八十四点いったら私の価値ね」

 まあ、俺の努力に関わらず、その成績を残せたとしたらそれは、自分の勉強の成果ともいえるだろう。なら、咲楽の勝ちと言ってもいいのかもしれない。ここは譲ろう、咲楽の願いを聞きたいとも思えるからな。

「分かった。頑張って勝てたらいいね」

 俺は素直にそう思えた。咲楽の願いなら、俺が叶えられることなら、嬉しいと思えた。

「お互いに願いは最後まで秘密ね」

 立ち上がった咲楽と一緒に俺も図書館に戻った。そこからは勉強をただひたすら続けた。咲楽の願いを叶えるため、咲楽の願いを彼女の口からききたいと思えたから。
 午後八時四十五分、図書館が閉館のする合図が流れた。

「そろそろ帰るか」

「うん」

 俺は勉強中、咲楽が不安をかき消そうとしているのがよく分かった。やけに勉強し集中していた。マルチタスクになって会話しながら勉強できるようになったのは、もしかしたら嘘だったのかもしれない。
 家に帰っても咲楽が送られてくれるのは、勉強についての事ばかりだった。最近は、勉強以外のことも話せてたのに。
 翌日、俺は入院の手続きを済ませに向かった。

「はい、確かに預かりました。これであとは入院の日を待つだけだね」

「よろしくお願いします。では」

 最後の資料を渡して俺は手続きを終えた。診察室を出ようと、手すりに手をかけたとき、先生の声が聞こえた。

「辰矢くん、変わったね」

 変わったのだろうか。

「そうですか?」

「変わったよ。昔に戻った気がする」

「それ、変わりました?」

 あの頃の様にまた暗くなったのだろうか。確かに、去年は何事も新しくて好奇心で満ち溢れていた。でも現実は小説よりも普通で、面白くなるためには自分から行動する必要があるのだと知って、少し落胆した。

「うん。ここに戻ってくるのに恐怖を覚えてる」

「そりゃ、そうでしょ」

 俺は振り返り、先生の顔を見る。先生は一体何を思っているのか、俺も気になった。

「そうかな。ここを退院した時は、ワクワクがここでも収まっていない感じだった。でも今は、ちゃんと落ち着いてるって感じ。一段と大人になったね」

 落ち着いてる、か。俺は大人になったんだろうか、残りの時間が目視できないのは、俺の人生で最大の利点だったのかもしれない。

「そうですかね」

「うん、彼女でもできた?」

 この答え、今までは難しく考えていた。でも、今の俺はこの答に自信をもって笑顔になれた。

「それは、もう少しです」

「そっか。楽しみだな。出来たら、僕にも紹介してね」

 病院を後にするとき、俺は迷いなんてなかったし、後悔もしなかった。今の俺なら自信をもって口にできるし、記録にもできる。大丈夫、俺は変わらない。
 俺がやるべきことはただ一つ。口にするか、受け入れるだけ。

『賭けに勝った時の願い、決めといてね』

 俺の願い、もしかすると咲楽はその賭けを使って俺に告白して、受け入れてもらうことなのだろうか。いや、もしかしたら、俺から告白させるのが狙いなのだろうか。だとしたら、俺の選択はそれじゃなくてもいいのかもしれない。咲楽に別の機会で告白しよう。だとすると、俺が伝える願いは俺の秘密の厳守が必要なのだろう。
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