魔物が強くなりすぎた世界

しろん

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魔物が強くなりすぎた世界 第1話

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魔物が強くなりすぎた世界 第1話
魔王が人間界を征服して10年が過ぎようとしていた。

勇者はじめ、人間界が誇る多数の強力な戦力は早々に敗れ去り、

結界に守られたいくつかの都市だけが今も存続し、残された人々は、そこで細々と生きている。

 

そんな生き残った人々は、大きくわけて二種類に分類される。

世界に絶望し、全てを諦め生きている者・・・

反撃のチャンスを狙い、日々鍛錬を続ける者・・・

 

もっとも、後者は少数派も少数派・・・大多数の人間が今のこの状況を受け入れ、

希望を持つ事無く日々を生きている。

 

俺はそんな生き方はごめんだ。

世界を救おうだなんて大それた事は思わないが、

このままやられっぱなしで人生を終えるなんてのは絶対に嫌だ。

 

「強くなって・・・必ずオヤジたちの仇をとってやる・・・ッ!!」

「意気込むのは結構だが、そんな調子じゃ何年先になるかわからんぞライル」

 

「わかってらい!クソ!一体どうすりゃ出るんだよ俺の”オルマ”はさぁ!

 オッサンの教え方が悪いんじゃねぇのか!?」

 

「オッサン言うなと言ってるだろ!師匠と呼べ師匠と!

 こればっかりはセンスがモノを言うからな。

 出来ない奴は一生出来ん。

 

 お前のオヤジは、まさに天才だった。

 お前の年頃には自在に使いこなしていたというのに・・・

 ハァ・・・本当にお前カインの息子なのかと疑いたくなるな」

 

「あーちくしょう!!

 剣術では合格点なのに、これじゃ外に出る事もできねぇ!」

 

結界の外をうろつく魔物たち・・・

どうやら下級レベルと呼ばれる雑魚ですら、今の俺では歯が立たないらしい。

 

人体に流れる生命エネルギーであるオルマと、魔法力の根源となるマナ・・・

マナを上手く使える人間は魔法使いとして十分戦う力を持てるそうだが、

俺はソッチのセンスがからっきしのようで、残るオルマの方で何とかしようとしているわけだが・・・どういうわけか、こっちもまるで上手くいかないときてる。

 

「何度も言うが、オルマが使えないと敵は倒せない。

 伝説の武具の類ならば、敵に傷を負わせられるだろうが、

 今の俺たちに、そんな強力な武器はない。

 

 オルマで武器を纏い、威力を底上げしなければダメージを与えられないだけでなく

 一発で武器がおしゃかになる。

 それほどまでに敵は硬い。

 

 それに防御面においても、並の防具じゃ、敵の攻撃に対して余りに無力。

 正直紙といっても過言じゃない。

 易々と貫かれて致命傷だ。

 

 攻撃面、防御面においてもオルマ、もしくはマナによる強化は必須。

 故に、これらをマスターできない内は外には出せん!」

 

「わーってるよ・・・!クソ・・・」

 

「ライル・・・お前の身体能力と剣術はオヤジ譲りの良いものを持ってる。

 オルマ抜きならこの都市の中でも1、2を争うレベルだ。

 そこは自信を持っていい」

 

「人間に勝ててもしょうがねぇよ・・・

 俺が倒したいのは魔物なんだからさ」


そもそも、本当に俺の今の実力は敵に通用しないのか?

師匠が大げさに言ってるだけなんじゃないのか?

 

「一度やってみっか・・・」

「さぁ休憩は終わりだ!さぁ修行の続きだ!」

 

「へいへい・・・」

 

・・・・

・・

 

その夜・・・

 

さすがに昼間っから外には出れないからな。

見張りもいるし。

でも、夜なら大丈夫だ。

 

都市を囲う壁・・・東西南北に扉があり、その扉を出て10mほどで結界は終わる。

昼間こそ門番がいて出入を監視しているが、夜間は監視もゆるい。

 

よく判らないが、いつの頃からか夜の方が魔物が辺りから消えるそうなんだ。

以前は逆に夜の方が魔物が活発になっていたんだがな・・・

 

ともかく、そういう理由から昼間より夜間の方が魔物に対する警戒心が緩んでいる。

今なら外にも簡単に出られそうだ。



外に出るのは本当に10年ぶりか。

オヤジが生きていた頃は一緒に外に出た事もあったな。

 

さて・・・万が一を考えて、結界からあまり離れないようにしないとだな。

しっかし、こっから先の平原・・・見える範囲じゃ魔物の姿なんて1匹も見当たらないな。

 

やっぱ、森まで入らなきゃ遭遇できそうもないか・・・

 

「森の入り口付近までなら・・・大丈夫だよな・・・?」

 

街から500mほどいった所にある深い森・・・

夜ということもあり漆黒の闇に包まれている。

月明かりも奥までは届きそうもないか。

 

「流石に・・・危険な雰囲気がビンビンするな」

 

集中しろ・・・感覚を研ぎ澄ませ・・・

魔物の息遣いを感じろ・・・

 

「!」

 

森の入り口を前、集中していたライルを何者かが背後から斬りかかった!

咄嗟にその場にしゃがみ込み、斬撃をかわすライル!

すかさず後ろに跳び、間合いを取るが、森へ踏み込んでしまった。

 

「っぶねぇ・・・!!」

「今のをかわすのか・・・驚きだな」

 

見た目はただのゴブリン・・・!?

なのに人語を話すのかよ・・・!

 

「久々の人間・・・邪魔されたくはないな。

 おい人間の小僧・・・一先ず森から出ろ」

 

「あぁ!?なんでお前に警告されなきゃなんねぇんだよ」

「ソッチは血に植えた連中のテリトリー。たちまち殺されるぞ」

 

「なんで魔物のお前に俺の命の心配されにゃならんのよ!」

「心配?オマエは俺が見つけた獲物なんだ。

 連中にお前を渡したくない。俺がオマエを殺して食う。

 それだけだが?」

 

「そうかい・・・!まぁ俺はオマエなんかに殺されないけどな。

 忠告だけは素直に受け取っておくぜ・・・」

 

確かにこの森はヤバそうだ。

一歩踏み入れただけで、殺気をビンビン感じる・・・

どう考えてもマズイ。


ゴブリンはライルに背を見せないように、少し後ずさりし、

ライルが森から出られるように配慮をする。

 

とりあえず警戒心を怠る事無く、ライルは森から出た。

 

「さぁ仕切りなおしと行こうか小僧」

「ゴブリン風情に情けをかけられる日が来るとはな」

 

だけど、さっきの不意打ち・・・

完全に気配を殺して接近したこいつの力量は本物。

油断は出来ない。

 

「来ないのであれば、こちらから行くぞ」

 

ドッ!!

 

「!!(速いッ・・・!?)」

 

真正面から一足跳びで間合いに飛び込み横一文字!

バックステップでこれを紙一重でかわしたけど・・・連撃でこられたらヤバイ!!

 

「いいぞ、最初の一撃もだったが、実にいい動きだ」

「!?(連撃でこない・・・?遊んでいるのか?)」

 

「一つ聞きたいのだが、いいか?」

「あぁ!?戦闘中になんだってんだよ」

 

「オマエは人間なのにオルマとやらを纏っていないが、

 それは様子見という事なのか?」

「・・・」

 

「もしそうなら、全力を出して欲しいのだが。

 このままでは勝負の結果は火を見るより明らかなんでな」

「勝ち誇りやがって・・・テメェなんざオルマを使うまでもないってんだよ」

 

「はぁ・・・無理だよ」

「あぁ!?」

 

「オマエの持ってるその剣・・・見たところ素材は鉄の普通の剣だ」

「だからなんだってんだよ」

 

「通らんよ。そんな武器では。

 我が肉体には傷一つつけられん」

「!・・・試してみようか?斬れないかどうかさ」

 

「いいだろう。試してみろ。

 好きに斬りこんでいいぞ」

 

「んじゃ、お言葉に甘えて・・・!!」

 

ダッ!!

 

「!(速いッ・・・!!先ほどまで以上)」

 

(さぁて、お前の股はそんなにカテェのか試してやんよ!!)

 

ライルは一瞬にしてゴブリンの間合いに入り込むと、ゴブリンの股下から頭へと剣を走らせた!

 

ガキンッ!! 

 

「な・・・」

 

剣が折れた・・・!?

 

「素晴らしい太刀筋ではある・・・狙いどころもよかった・・・が、

 結果は前言通りだ」

「クソッ・・・!!」

 

「さぁ、本気を出してくれ」

 

どうするよこれ・・・!!

 

次回に続く・・・!!
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