魔物が強くなりすぎた世界

しろん

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魔物が強くなりすぎた世界 第5話

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魔物が強くなりすぎた世界 第5話
「フゥ・・・」

 

オルマ放出の反復練習で、先生のオルマが残っている間の出したり消したりは

大分スムーズになってきた。

 

オルマは生命エネルギーから生み出されるもの・・・

使えば疲労感が伴い、やがて枯渇し、一定の休息をしなければ使えなくなるようだ。

つまりマナと同じってわけか。

 

俺の場合は先生のオルマと、先生の施してくれた魔法の術式によってオルマを使ってるから、疲労感については感じない。

 

だけど、それが故に、オルマ残量が把握し辛いのが難点だな。

やっぱり早く自分自身のオルマを出せるようにならないと・・・

 

先生が言うには、この反復練習で、オルマを意識せずとも出すべきタイミングで

体が自然に出すレベルまでになれば、もしかすると自分のオルマも出てくるかもしれないらしい・・・

 

オルマを常に放出していては、あっという間に空になるらしいからな・・・

まさに反射的なオルマの放出・・・しかも部位限定となると、相当難易度が高いらしい。

 

加えて課題は他にもある。

オルマを体に纏わせるのは、まぁ当たり前に出来るが、

これを体から切り離す・・・つまり物や武器に伝わせるというのがまた技術がいるようで、結局これが出来なきゃ武器を強化できないわけだ。

 

防具に関しても、今のままじゃオルマで体は守れても、戦うたびに防具が破壊される。

ベストなのはオルマで防具を包む事だが・・・何とも難しい。

 

「はぁ・・・課題がありすぎて一向に外に出れる気がしねぇ」

 

その時だった!!

 

「!」

 

突如背後から感じた殺気!

ライルは咄嗟に身をかがめ、後頭部を狙った突きをかわした。

 

「へぇ・・・さすが勇者の息子。私の不意打ちをかわせるなんてやるじゃん」

 

振り向くと、そこには女が立っていた。

ここらじゃ見かけない女・・・一体何者!?

 

「そう警戒しないでいいよ」

「いきなり一撃かまそうとする奴の言葉を信じろってのか?

 一体お前誰なんだ!?」

 

「私はルエルナ。遠路はるばる君に会いに来た神官さ」

 

神官だって・・・?

確かに風体はそんな感じか。

 

「俺に会いに来た・・・って、俺アンタの事全然知らんのだが。

 人違いなんじゃないの?」

 

「え?君は勇者カインと神官レフィーナの息子・・・ライル君じゃないのかい?

 子供時代の写真しか見たことないけど、うん。間違いない。君だろ?」

 

「親父とお袋を知ってるのか?」

「私自身は知らないけど、ウチの親が仲間だったのさ。

 武神ゼファードと賢者セリス・・・聞いたことない?」

 

「!・・・ゼファードとセリスの娘・・・アンタが!?」

「うちの両親とは会った事あるんだっけ?」

 

「ああ・・・11年前の”あの日”にな・・・」

「そう・・・。まぁ思い出話もそこそこにして、本題に入ろうか!

 一緒に魔王をぶっ飛ばしに行こうぜ!」

 

「・・・はぁ?」

「え?反応薄っ!え?私はてっきり二つ返事でOKしてくれるかと思ったんだけど」

 

「いや・・・いきなりだったからさ。

 そりゃ俺もぶちのめせるモノならぶちのめしに行きたいけどさ」

 

「なに?自信がないわけ?私の不意打ちを避けるレベルなら、

 十分強いと思うよ?」

 

「いや・・・さ」

 

俺はルエルナに事情を話した。



「なるほどねぇ・・・オルマもマナも使えないんだ。

 すげーポンコツだね君」

 

ハッキリ言うな・・・この女。

 

「はぁ・・・ガッカリだぁ・・・こんな遠くまで遠路はるばるやってきたってのに」

「勝手にガッカリされてもな・・・ルエルナは何処から来たんだ?」

 

「このルーゼ大陸の東端にある小国・アストナからだよ。

 陸路でかれこれ1ヶ月もかかったんだぞ!」

 

「それはご苦労さん。でも言った通り、俺じゃ戦力にならねぇよ。

 悪いな」

 

「でも、その先生・・・あの天才魔法使いのリーナの術式で、

 オルマさえ供給できれば戦えるんだよね?」

 

「そりゃそうだけど、肝心の神官がいねぇんじゃどうにもならないだろ」

「いるじゃん。神官」

 

「はぁ?どこに」

「ここに。あれ?言ったよね?神官って」

 

「あぁ・・・わりぃ。優秀な!神官が必要なんだわ」

「なぁんかカチンと来る言い方だなぁ。

 まるで私が優秀じゃないみたいじゃん」

 

こいつスゲェ自信過剰だな。

 

「オルマ・・・ギフト!」

「!」

 

ルエルナが指で空に字をなぞり、呪文を唱えた。

すると、俺の術式が反応・・・これはオルマを取り込んだのか!?

 

「ヒールやキュアも上級者はオルマを織り交ぜる。

 ここまでなら割と使える神官も多い。

 

 だけど、今のように一度に一定量のオルマやマナを対称に分け与える”ギフト”は、

 結構レベルが高い高等魔術に分類されてる。

 なかなか使える奴はいないんだぞ。

 

 これで私が優秀だと理解した?」

 

「・・・すっげ・・・ルエルナ、アンタすっげぇよ!

 マジで優秀な神官じゃん」

「そ、そんな目輝かして褒めるとか、照れんじゃん」

 

いける・・・こいつとだったら!!

 

「ルエルナ!とりあえずウチに来てくれ!

 師匠や先生に会わせたい!」


・・・・
・・・


「はじめまして。ゼファードとセリスの娘・ルエルナです」

「・・・二人の面影があるな・・・どちらかというと母親似だな。

 こんなにデッカくなって・・・感慨深いぜ」

 

師匠が涙ぐんでやがる。

 

「実は私もアイザックも、はじめましてじゃないんだルエルナ。

 まぁ、君が私たちを覚えてないのも無理はない。

 まだ赤ん坊に毛が生えた程度のころあいだったからな」

 

「そうなんですか。それにしても、あの天才魔法使いリーナと、鬼のアイザックに

 こうして会えるとは・・・感激です」

 

「ライルよ。少しはルエルナの見習え。

 これが普通の反応だぞ。それをオバさんだのオッサンだのと」

 

「え・・・コイツそんな無礼な事を!?

 ライル、アンタ引くわ」

 

ゴミを見るような目で見るなよ。

 

「それはそうと・・・そうか君は神官なのか」

「ええ。自分で言うのもなんですが、そこそこ優秀です」

 

「・・・そのようだな」

「先生わかるのかよ?ルエルナが優秀だってさ」

 

「ここにたどり着いたのが、優秀さを物語ってる。

 考えても見ろ、外の世界は魔物たちがワンサカいるのだぞ。

 それをアストナからやってきたのであれば大したものだ」

 

確かにそうだ・・・

こいつ、外の世界で一ヶ月生き延びたって事なんだよな・・・

メチャクチャ強いんじゃなかろうか。

 

「ライルの事情は聞いたんですけど、私がライルのオルマの供給係として、

 旅に同行しようと思うんですが、リーナさんの意見はどうですか?」

 

「・・・ふーむ・・・まだ早いな。

 少なくとも剣や防具へのオルマの伝達など、最低限の基礎修行が終わるまでは

 旅立つ事は許可できない」

 

「・・・そうですね。確かにそんなレベルじゃ足手まといにしかならない」

 

相変わらずズバっと言ってくれるぜ・・・

 

「だが、ルエルナが来た事は素晴らしく幸運と言える。

 今まではオルマを供給するのに殴り合いが必要だったが、

 ルエルナのギフトがあれば、オルマのコントロールに集中できるからな。

 

 ということで、ルエルナよ。あとを任せていいか?」

 

「はい。私もさっさと旅に出たいんで、ビシバシしごいて鍛えます」

 

「いい答えだ。それじゃあ任せたぞ」

 

そう言って師匠は自分の家に帰っていった。

 

・・・・・

・・・

 

次の日からルエルナとの修行がはじまった。

 

「とりあえず、修行に入る前に、君の素のレベルを知っておきたい。

 どのくらいやれるのか、全力でかかってきて。

 あ、剣使っていいからね。君剣士なんだろ?」

 

「俺はオルマ抜き、アンタはオルマ使うってわけね」

 

「安心して、私から攻撃を仕掛けないからさ。

 どんくらいやれるか見たいだけだから」

 

はぁ・・・何かいつものパターン化してきたな。

 

「まぁいいや・・・一応峰打ちでやるけど、怪我するなよ」

「なんでもいいからさっさとおいで」

 

コイツの身のこなしは舐めてかからないほうがいい。

バカ正直に突っ込んでもかわされるだろ。

 

ダッ!

 

「・・・突っ込んでこないか。こっちからは何もしないっていってるのに」

 

ルエルナから一定距離を保ちつつ、ルエルナを中心に円を描くように周りを駆け回り、

徐々にスピードを上げつつ間合いを詰める!

 

「攻撃はしないけど、私も一応獲物(ロッド)で武器はガードさせてもらうからね。

 何処からでもかかって来い!」


くっそ、結構スピード出してるのに、完全に目で追われてるな・・・

オルマを使ったあの時みたいに、アイツには俺の動きも、見切れる速さってことなんだろ!

 

それにしても久々に剣を持ったが・・・

鍛錬の結果なのか、軽く感じるな・・・これならヤレるかもな!!

 

トップギア!!

 

ルエルナの背後に来たタイミングで、間合いに踏み込むライル!

 

突き!!

 

ライルの突きを上空に飛び上がりかわすルエルナ!

 

かわされるのはわかってたさ!!

ライルは突きの体勢から体をひねり上空のルエルナに向けて斬撃を放つ!

 

ガキンッ!

 

これも読まれていたようで、ロッドで防がれてしまった。

すぐさま体勢を整え、ルエルナの着地のタイミングで一気に距離をつめる!

 

「獲物が長いからな、間合いをつめりゃ振り回せないだろ!」

「だから、こっちは手を出さないって言ってるだろ」

 

ドガッ!!

 

「ぐふっ・・・!!」

「おっと、つい脚がでちゃったよ」

 

ルエルナの前蹴りがライルのどてっ腹を貫いた。

 

「やっぱり思った通り、動きは悪くないし、パワーもある。

 ライル、君は気付いてないかもしれないが、相当レベル高いよ」

 

「でも、魔物には通じないんだろ・・・げほっ・・・」

「いいやぁ。さっき君の部屋にあった剣・・・

 ありゃドワーフ製だね。あの剣を使えば、君はここらの魔物ならオルマ抜きでも

 十分に勝てるくらいの実力になってるよ」

 

そう・・・なのか?

 

「これでオルマのコントロールをマスターしたら、

 マジでソコソコイケるんじゃないかと私は思ってるよ。

 ま、あくまでソコソコだけどね」

 

なんだろう・・・

今まで相手が先生ばっかりだったし、自分がそんなに強くなってる実感がなかったんだよな・・・

 

「よし!さっそくオルマの特訓しようか。

 さっさとコントロールマスターして魔王ぶったおしに行こうぜ!」

 

 

次回に続く・・・!!
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