おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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 人を探したいのなら、とるべき行動は決まっている。

 しょせん、僕一人の力には限界がある。
 かといって、力を貸してくれる仲間はいない。
 マホは連絡が途絶えてしまった。であれば、頼れるのは情報だけだ。

 お嬢さまのパソコンを開き、ブラウザを起動する。
 思うに、こういうとき頼りになる情報は、お嬢さまの味方だとかお嬢さまを心配してくれる人たちの情報ではない。
 躍起になってその人を探すのは、味方よりもむしろ、その逆の存在だろう。

 ツイッター、2ch、ザビビ……
 匿名で書きこめるものを片っ端から漁ることにした。


  ~  ~  ~


 コツ、コツ、コツ。
 足音が遠ざかっていき、つい我慢していた息をホッと吐きだす。

 ここは薄暗い。
 こんな場所にいると、お父さまのお顔を思いだしてしまいます。
 人のお顔を覚えるのは苦手なのに……
 わたくしを殴りつけていたときの、あのお顔だけは。

 いけない。お父さまのことを考えるのはやめにしましょう。
 きっと、今後お会いすることはないでしょうし。

 いま、お外はどうなっているのでしょうか。
 確かめるすべはありません。
 わたくしの力では、どうしようもないのです。

「セバスチャン。。。」
 その名前を口にすると、いまになって謝りたいことが出てきます。
 せめて、ひとつだけついてしまった嘘くらいは……。

 セバスチャン。
 過去、わたくしがその名をあげた者は二人。
 しかし、もう二人ともお会いすることはできぬのでしょう。

 手が震える。

 クスリを飲めていないからでしょうか。
 どうか、夢なら覚めてほしいものです。
 妄想なら、もっと明るい状況になってほしいものです。

 目を閉じる。


  ~  ~  ~


 なぜだ。
 どうして。
 直接的な目撃情報以外にも、
 ここ数日で撮られた写真や動画の映りこみ、
 あとはいつも着ているドレスの特徴なんかのワードでも探した。
 個人の書きこみは数百どころか、数千と漁った。

 にもかかわらず、有力な情報は見つからぬまま一日が過ぎていた。

「ここもほとんど〝死ね〟と〝殺す〟ばっかだなぁ」
〝もうスポォォンできそうな体だね〟
「二番煎じだし気色悪いしおもしろくもない……」
 ネットはダメだ。

 となると、残るは実地調査。聞きこみだ。
 ひとつ、よさそうな場所を見つけたんだけど――

「ふぁ……」
 思わずあくびが出そうになってかみ殺す。
 やっぱり徹夜は慣れない。
 って、泣きごとを言ってもいられないな。紅茶でも淹れるか。

 そう思いダイニングにいくと、
 なぜかテーブルの上にマグカップが置いてあった。

 コーヒー……?

 中に入っているこげ茶色の液体からは、湯気が立っていた。
 色は普通。
 おかしなにおいもしない。むしろいい匂いだ。
 おかしいのは、淹れたはずの人間が周囲にいないこと。

〝がんばって!〟
 横にメモが置いてあった。

 なにを思ったか、僕はおそるおそるカップに口をつけてみた。
 すると豊かな苦みが喉と鼻を駆けぬけ、酸味が静かに踊った。

 陰から味方してくれる人がいるのか。
 僕はそのコーヒーに感謝して飲みほし、カップを置いた。

 よし。こうしちゃいられない。
 お嬢さま探し再開だ。


      ■ ■ ■


 息まいて向かった先は、電車で二駅、徒歩三分。
 暗い路地裏にあるeスポーツカフェだった。

 ここはどの集団にも肩入れせず、究極の中立をうたっているらしい。
 さながらコン○タンティンの酒場だ。
 なんでもこのカフェは治外法権であり、
 この国で唯一の公権力が及ばない場所であるとか。
 証拠に、入口には〝この先、日本国憲法は通用せず〟の看板が七色に光っている。
 ゆえに煽り行為の一線を越えた犯罪、
 チート、
 極論人殺しをしても警察に捕まることはない。
 キ○の旅だ。
 要するに、いいPCや機材がそろっているネットカフェである。

「へへへ……そこの兄ちゃん、
 ぶっトんじまう〝スピード〟(滑りのいいマウスパッドの隠語)に興味ねぇかい?」
 あやしく光る治外法権eスポーツカフェの扉をくぐると、
 小太りで世紀末じみた風貌のおっさん店長が声をかけてきた。

「おっと、上物の〝エクスタシー〟(丸形セラミックソールの隠語)もあるぜ?」
 普段ならこんな売人じみたヤツは相手にしないのだが、
 いまはそう言ってもいられない。

「そういうのは大丈夫なんですけど、人を探してまして」
「んだよ、買わねえのか。でなに、人?
 まずはそれなりの〝お気もち〟をだな――」

 無言でお嬢さまの写真を見せる。
「おめえ、もしかして」
 店長の表情が露骨に険しくなる。

「なにか知ってるんですか?」
「……いったいった! 教えられることはなんもねえよ!」
 怪訝に思いつつも、諦めてほかの人をあたることにした。
 しかし結果は――

「すみません。この写真の人知りませんか?」
「あー、えっと、あー、写真の……え!?
 あいや、ああっと、ぼくなにもっ、なにも知らないんですけど!?!?
 あ、それじゃあぼく、あ、あ、あのアレ、用事があった気が……」
「クスクスッ」
 通りすがりのコミュ障にさけられ、ダウナーさんに陰から笑われ、

「うっ! うぅっ!」
「え、なに……?」
「こら、ウッちゃん! 知らない人に迷惑かけちゃいけないッスよ~!
 いやあ、すいませっ――あ」
「あの、僕のお嬢さまのことなにか――」
「……ほらいくッスよ、ウッちゃん」
 ウッちゃんに絡まれ、後輩ちゃんに無視されて終わった。

 おかしい。
 明らかに周りの人間全員が、僕と関わらないようにしている。
 誰に話しかけようとしても無視されるか、

「F*ck you!」
「ファックユーーーーーー!!!!!!!!(BBCのニュースキャスターみたいに)」

 殴りかからんばかりの勢いで、こんな反応を返されるだけで。
 ちくしょう。悔しい。
 なんだってこんな……
「Fワードは上流階級の特権なのに……」

 ちなみに、さっきの大声Fワード外国人は騒ぎすぎて店を追いだされていた。
 ともかく、ここに長居はできない。
 情報を聞きだすのは無理だ。
 それどころか、いまはまだ言葉や態度だけなものの、
 ヤツらの行為はエスカレートしていくに違いない。
 こうして異端は迫害されていくのか。

 引きかえして出入口へ歩くと、
 今度は誰かが店長に怒鳴りつける声が聞こえてきた。

「ッオォイ! あんちャンよォ!
 ちィとばッかしたッけンじャねえのォ、このマウスよォ!?」
「ひっ! そんなことは……」
「じャ飛んでみィよ!」
「えっ、飛ぶ?」
「ゥウォォイ! はよォせんかァァい!!」
「は、はい!」
「おうおうおう! カタカタ鳴ッてンねえ! ラトル音鳴ッちャッてんねえ!
 ンなビルドクオリティのモンに20k出させようなんてェええ商売してまんなァ!!」
「ひいいぃぃ……ご勘弁を……」
 治外法権で自分の首絞めてる……。

「あ? なに見てンだャァ?」
 ってヤバ、じっと見すぎた。
 30FPS無調整FOV激強モーションブラーでWater Hazardをプレイしてしまったときくらい慌てて目をそらしたものの、さすがに遅かった。

「人さまをジロジロ見ンなッてェママに習わんかったんかァ~?? あァ!?
 あんちャンもよォ、どっかの青髪キャラみッてェに振ッたらラトル音鳴る空ッぽ頭なんかァ~~??」

 こんなビルドクオリティヤンキーに絡まれるとは。
 きょうはとことんツイてないな。
 なんとか穏便に済ませられればいいんだけど。

 殴られることも覚悟していたが、
 ヤンキーはこちらへ何歩か歩みを進めたところでいきなり立ちどまって、

「ンあ? あんちャンどッかで……
 あッ思いだしたぜェ! こないだのイカした嬢ちャンとこの!」
 そんなことを言うもんだから、
 僕も再び顔を上げてソイツをよく見てみると、

「……あぁ、この前お屋敷に来てた人か」
 魔法少女と邂逅した日、
 お嬢さまに挑戦しにきていたうちの一人だった。

「ッ悪ィ、てッきりケンカ売られたンかと思ッたぜェ。
 ッてかよォ、よく生きてやがッたなあんちャん!」
 ヤンキーが豪快に笑って、僕の肩をバンバンたたく。
 どうやらコイツは違うらしい、と思った。
 ほかと違って、僕に対して普通に接してきている。

 だから、コイツになら訊けると思った。
「あの、ここの人たちの態度がおかしいのって……」
「ンああ。
 この店ッてか、みンな余計な干渉しねェようそれとなく止められてンのよ。京のネエちャんにな……ワイロ送られたッてェわけじゃねえけどよ。
 どッちにしろオレッちはおとなとしてそんなん嫌ェだし、
 嬢ちャんのこたァ信じてッからな」
 思ったとおり。
 根回しは完ぺきってことか。

「じゃあやっぱり……知ってるんですか、お嬢さまの居場所を」
 この感じ、京はお嬢さまの居場所を知っているのかもしれない。
 ともすればすでに捕まっていて、どこかに閉じこめられている可能性すらある。
 そうなったら最悪を超えて最悪だ。

 緊張感をもちつつ、僕は次の言葉が返ってくるのを待った。
 が、一方のヤンキーは驚いた様子で目を丸くしたあと、口を開いた。
「あんちャん、あの嬢ちャんと一緒じャあねェのかよ」

 それから僕がうなずき肯定するのを見て、その表情は、
 チームメイトAの凡ミスが原因で敗北してチームメイトBが舌打ちしたのを聞いてしまった瞬間のように、気まずいものに変わっていき、
「それがよォ……知らねェんだわ。オレッちだけじャねェぜ、全員がな。
 嬢ちャんがどこいッちまッたのか、誰も知らねんだ」

 金曜日の半分が終わろうとしていた。


      ■ ■ ■


 奈落に落とされた気分だった。
 誰も知らない。
 店長も、後輩ちゃんも、ヤンキーも。
 僕も。

 そもそも、だ。新聞に出ていたじゃないか。
 〝警察はチート使用の疑いで国際指名手配とし、包囲網を敷いて捜索中〟と。
 警察ですら、お嬢さまがどこにいるのかわからないんだ。

 徒労に終わってしまった事実を痛感しながら、僕は屋敷に帰りついた。
 気もちが沈む。
 ここまで見つからないなんて。
 ほかになにか、なにかいきそうな場所に心当たりは……?
 ない。
 どんなに思いだしてみてもない。
 国じゅうの誰にもわからないのに、僕にわかるのだろうか。

 わずかながら、それでいて根拠なくもっていた自信が折れてしまい、
 僕はダイニングの赤いカーペットの上にへなへなと座りこんだ。
 これも、お嬢さまがいたら叱ってくれるのかな。

 初めての気もちだった。
 やるせなさと悔しさと怒りが混ざった、
 汚い絵の具バケツみたいな感情があふれ出した。

「くそぉ!」
 そして人生で初めて、床をドンした。
 ……。


「――バ、スチャン。。。?」


 ドキリ、と心臓が鳴った。
 ひとしずく、澄んだ青色の絵の具が落ちる幻想を見た。
 え?
 聞き間違い? 幻聴?

「セバスチャン。。。」
 二度目の声は、先ほどよりもはっきりと聞こえた。
「お嬢さま? お嬢さま?」

♪BGM
 The Trooper
  ――Iron Maiden

 脳内感動BGMメタルが鳴りひびく。
 僕が何度も呼びかけると、カーペットがめくれあがった。
 カーペットの下に、戸が隠されていたのだ。

「!!」
 その青い瞳、白いドレス。

 どうして?
 どうやってここに?
 この戸はいったい?

 訊きたい事柄はいろいろあったけれど、どれもうまく言葉にならなかった。
「お嬢さま……!!」

 いろいろな感情を抑え、左手をお腹に当てて、右手はうしろに回して礼をした。
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