おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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 地下室が意外と広かったのには驚いた。

 そこは白を基調としたタイル張りの空間で、
 棚にはよくわからない薬品の瓶とか、
 殺意しかない刃物とか、
 ダイナマイトとか物騒な物品が並んでいた。

 マッドサイエンティストの実験室さながらの趣で、
 屋敷とは雰囲気が違いすぎて驚かされた。
 ただ、長いあいだ使っていなかったらしく、薄暗くホコリをかぶっている。

 本当になんのための部屋なんだろう?
 そんな疑問をもってはいるものの、いまそれを知ることはできない。
 それを気にしている余裕もない。

「きょうも一日死体撃がんばるぞい!」
「煽っち~」
「はぁ。。。日常系アニメが唯一の癒しですの。。。」

 お嬢さま、そうとう病んでるなぁ……。
 見てわかるとおりだ。
 そういうアニメに没頭するとき、人間の心は疲れているのだ。

 まあ、こんな状況であればそうなってしまうのもしかたない。
 いま、お嬢さまはBB素材化、
 AA化、
 音声素材化、
 ヲチスレpart50超えの実績フルコンプを達成しているわけだし。

「よし、こういうときは……」
 まずはデ○スを用意します。
 紅茶に溶かす用の細粒ではなく、錠剤タイプを。
 一日六錠だから……十八錠。

 口に放りこみます。
 下あごを押さえないと嚥下できないので注意です。
「むむ、これは……!! これは……! これは。。。」

 ふぅ、これで大丈――
「無理マヂもぅ。。。」
「なっ……!」
 十八錠ですら復活しない……!?

「フューネラルドゥーム聴こ。。ですの。。。」

♪BGM
 Within the Insane Asylum
  ――Suicidal Nihilizm

 これは……日常系アニメを越えてデプレ系メタルまでいってしまうなんて……
 まずいな。
 重症も重症、かなりの重症だ。

「はぁぁぁ!?!? レミントンで角待ちしてやがるわアイツ!! ○ね!!!!」
「○ねっち~」

 こうなってしまっては、自然治癒に任せるほかない。
 僕でさえ、ここまでの状態は経験がないのだ。
 だからなにもない。僕にできることは。
 困ったな……。
 ……。

「お嬢さま、あさっての日曜日は大会の日でございます。
 それも、ことしの大会の最終日です。
 くわえて調べたところによれば、京はことしが高校最後の年であると」
 なにもできることはない。

「突貫するならば、あさってが最後のチャンスでございます」
 わかっていながら、僕はお嬢さまに声をかけた。

「。。。無理ですわぁ。。。」
 顔は伏せられて、その目は見えない。
 こう返ってくるのもわかっていた。
 それでも、僕は言葉を続けた。

「お嬢さま。
 わたくしめは――僕は理解したのです。
 あの京とかいうヤツに捕らえられ、洗脳されかけて初めて理解したのです。
 僕の主人は、ただひとりの女性以外にはありえません」
「。。。」

「僭越ながらお嬢さま――年下の使用人風情のざれ言ではございますが――
 現在のお嬢さまは、その……らしくないです。
 僕の主人は、絶対にこの程度でくじけたりなんかしません」
「。。。」

 生意気だ。内容だって、理想像の押しつけでしかない。
 言ったところでどうにかなるでもない。
 だけど、たとえそうだとしても――言ったところでどうしようもないとしても、
 それが言わない理由とイコールになるだろうか。

「僕はここまで帰ってきました。
 他人の手助けもありましたけれど、なにより自分の想いで、です。
 当然――僕が帰ってきたのですから、主人が帰ってくることも信じています。
 いまのお嬢さまではなく、自分の主人が、です」

 僕は戸を開いて、地下室から出た。


      ■ ■ ■


 言っちゃったなぁ。
 それもあんな強い言葉を。
 後悔しているわけではない。逆だ。

 きっと、お嬢さまはヤツを恐れている。
 かといって、いつまでもあの地下室に隠れているわけにはいかない。
 ここはお嬢さまの屋敷だ。
 チート使用なんてデマなんだし、どうどうとしていればいい。
 それで、日曜日にヤツのもとへ突貫して証明すればいい。
 僕はそう思っているのだ。

「よしっ」
 だから、いまは使用人としてできる仕事をするのみだ。

 ひとまずは、落書きだらけの壁や屋根をどうにかしよう。
 そう思いたち、大掃除に使えそうな道具を探しに離れの物置小屋へと向かった。

「うわぁ……」
 取りに、ではなく探しに、というのはあながち間違いではない。
 この屋敷の物置小屋は本当にゴチャゴチャしている。
 不用品を押しこんでいたのだろう。

 とくに多いのはマウスだ。
 黒いのから青いの、半分にぶった切られたのまで。
 何百個あるんだよコレ。米軍か? マウスで軍隊でも組むのか?

 そんなだから、初めてこの部屋をのぞいたとき、見なかったことにした。
 それ以来放置していたのだ。

 マウスの山を踏みこえ、奥を漁る。
 モップ、雑巾、古新聞、洗剤。
 掃除用具は奥のほうにまとまっていた。

「あとはバケツ……ん?」
 バケツもその近くにあった。
 しかしその中になにか、黒い塊が見えた。

 手に取ってみると、古そうな陶磁器だった。
 手のひらに載るくらいのサイズ。
 土台の板の上に、丸っこい本体。
 脇には円形の穴が開いていて、上は少しくぼんだ皿のようになっている。
「これってたしか……」

 少し考えて思いだした。
 これは茶香炉だ。
 中にロウソクを入れて火をつけ、上皿の部分に茶葉を乗せて使う。
 優しい香りと光のアロマテラピーでリラックスを……

 そこまで考えて、はっと思いついた。これ、いまのお嬢さまにピッタリなのでは?
 思うなり僕は、掃除用具と茶香炉を持って物置をあとにした。
 試しに焚いてみよう。

 キッチンへいき、茶葉の袋を取る。
 上皿に茶葉を広げ、マッチを擦ってロウソクに火をつけた。

「おっ」
 おお。
 これは……!

「いい匂…………い、か?」
 なんか、茶葉の匂いを余計な臭いが邪魔している気が。
 なにこの、なんか三日風呂入ってない中年ゲーマーの体臭みたいな……。
 この残念感。

 ああ、ロウの臭いか。
 中を見てみると、溶けたロウが土台の板の上に漏れていた。
 いったん火を消して、漏れたロウを拭く。
 ロウが漏れなければいいなら……
 と、手近にあったアルミホイルを器状にして、
 ロウソクの下に敷いてから火をつけてみた。

 うん、この香りだ。
 温められた茶葉から出た、朝を思いおこす香りがふわっと広がった。
 これならOKだ。さっそくお嬢さまにも――

 で、ダイニングの扉を開けると、地下室の戸が開いていた。
「ごきげんよう、セバスチャン。
 わたくしも帰ってきましたわよ。
 あら、この香り……
 デ○スを変えましたの? 昼下がりのデ○スの香りは別格ですわねえ」

 いや。
 いやいや。
 立ちなおるのいきなりすぎない?

「さあ、即刻出かけますわよ、セバスチャン」
「え? 出かけるってどこへ……」
「いいからゆきますわよ」
「あぁちょっとぉ~、お嬢さまぁ~」

 へへっ、まあこういうのもいいか。
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