おまえの死体(ちゃば)でお紅茶を淹れてやりますわぁぁっっ!!

腎臓の猫

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 で、引っぱられていった先は京の本拠地だった。

「お嬢さま? どうしてここへ?」
「わたくし、気づいちまいましたの。悟りましたの。
 炎、ですわ」
「炎?」

 で、お嬢さまが懐から取りだしたのはダイナマイトだった。
Burningバーーニンッッッ!!!!」
「ちょちょちょちょちょ」
 さすがに、ダイナマイトに火をつけようとするお嬢さまの手を押さえた。

「いけません、お嬢さま!」
「止めないでくださいまし、セバスチャン!
 アイツがネット上でわたくしに火をつけたのですから、
 わたくしは現実リアルで燃やしてやりますの!」
「ですがダイナマイトは!
 お気もちはわかりますが!
 発破技師の資格をもたぬ状態でダイナマイトを扱うのは!!」

 グラインドコアなら三曲は演奏できそうなくらいの時間暴れたあと、
 お嬢さまはようやく落ちついてガックリと手を下ろした。

「いったいどうなさったのですか。聡明なお嬢さまらしからぬかと」
「すまねえですわ……わたくし焦っていましたの」
 なぜ? お嬢さまが焦る必要なんて、どこにあるというんだろう?

 お嬢さまは、そんな僕の疑問の視線から逃げるようにうつむきながら口を開いた。
「金が、ねえんですの」
「え……?」
 想像もしていなかった申告に、僕は面食らった。

「なにをおっしゃっているのですか。
 お嬢さまは〝お嬢さま〟なわけですし、あっそうだ、最初にアネさんからケースにみっちみちの万札だって見せられましたし……」
「アレは一番上に乗っているもの以外、すべてただの白い紙ですの。
 映画からアイデアを得ていますのよ。
 誰に似たのやら、お姉さまは映画に影響されやすいのですわ」
「そんな……」

「節電などもしましたけれど、焼け石に水でしたの。
 あと一週間としないうちに金は底をつきますわ。
 配信を始めたのも、そのためなんですの」
 けれどそれならば、ひとつ疑問が湧いてくる。
 どうしてお金がないのに、屋敷や大量のデバイスを手ばなさないのか。

 お嬢さまは顔を上げ、声を震わせながら答えた。
「嫌なのですわ……っっ!
 絶対に……っっ!
 このわたくしがっ愚民どもと同レベルの暮らしに堕ちるなど……っっ!
 耐えられっっませんのっ……っっ!!」
 僕を見つめる瞳から、その想いが静かにこぼれた。

 どうして僕は、お嬢さまが立ちなおったと思っていたのだろう。
 冗談じゃない、そんな早く立ちなおるなんて。
 お嬢さまだって人間だ。
 ずっと迷っているのだ。

 あたりまえの事実を理解すると同時に、僕はうれしさも感じていた。
「お嬢さま。わたくしめも同感でございます。
 いまの暮らしを捨てて施設に戻るなんて、とても考えられません」
 初めて、お嬢さまが自身の気もちを吐露するのを聞いた。

「だからなおさら、僕から言わせてもらいます。
 これは僕の主人の――お嬢さまの、
 貴族のプライドをかけた闘いに違いありません。そうですよね?
 日曜日にヤツのことを真正面からぶちのめして、
 理解らせなければ終わらないのです」
「セバスチャン……
 ですがわたくしは一度敗北した身……時間だってあと一日しか……」

 心配そうに視線をゆらすお嬢さまを、今度は僕が見すえて言った。
「一日も、です。
 心配いりませんよ、お嬢さま。お嬢さまは最強ですから。
 僕がどれだけお嬢さまのことを見てきたと思っているんですか」
「……まだ三週間と経っていませんわよ」
 おかしくなって、二人して小さく笑った。

「そう身構えなくても大丈夫です、お嬢さま。
 僕だってサポートします。
 あの京都女に、西には西がいると思いしらせてやりましょう」
 少しはお嬢さまの肩の力を抜くことができただろうか。
 それはわからないけれど、


「ありがとう、セバスチャン」


 お嬢さまから感謝の言葉を聞けただけでも、話してよかったと思った。


      ■ ■ ■


 で、帰ると、屋敷が燃えていた。

「??????」
 とりあえず目をこすった。頬をつねった。
 屋敷が燃えていた。
 それも、ちょっとしたボヤとかじゃなくて全体にオレンジ色が染みつくくらい。
 夢でも幻でもないらしい。

 ……いや、わかっていはいた。
 お嬢さまも、クソバカ味方AI兵士が救助した人質を撃ち殺す瞬間を目にした感じの顔してたし。
 思いっきり消防車止まってたし。

 ハテナマークが三つそろって確変を起こしたところで、
 ひとつの考えが浮かぶべくして浮かびあがってきた。

「お嬢さま、これってもしかして……」
「ええ……」
 それ以上、言葉にする必要はなかった。

 思えば、あれだけ落書きされていたのに、
 僕らがその現場に出くわすことはなかった。

『みンな余計な干渉しねェよう止められてンのよ』

 人殺しの一線だけは越えず、
 設置されたカメラで僕らの行動を観察し、
 いなくなったところを狙う。
 余計な手出しを防げるうえに、ここまでのことをしでかせる。
 敵ながら合理的な作戦だ。

 インナーサークルは〝誰が一番邪悪であるか〟を競う団体、か。
 ゼロイチの言葉を身に染みて実感しながら、僕は立ちつくしていた。

「すみません、ここの家の方ですよね? 近隣の方から通報を受けまして」
 すると、消防士のうちの一人に声をかけられた。

「中に誰か閉じこめられたりとかは?」
「それは大丈夫です。わかってたでしょうし」
「わかってた……?」
「すみません、こっちの話です」
「はあ、そうですか。
 で、どうも出火元はキッチンの可能性が高いみたいで、なにか心当たりは?」
「そうですね、それならこっちでわかって――」

 ……ん?
 キッチン?

 あっ。
 まさか、まさかだけど。
 消したっけ? 火。茶香炉の。僕。
 あっっれぇ??

「? どうかしました?」
 落ちつけ。一回整理しよう。
 いやまさか。まさかねえ?

 マッチで火をつけて、
 ロウが臭かったから一回消してアルミホイルを敷いて、
 もう一回火をつけて、
 それを置いたままダイニングにいって、
 そしたらお嬢さまが出てきて引っぱられて――…

 スウウウウゥゥゥ……。
「いっっやぁ、ちょーーっとわっかんないですねえ。
 どうして火ついちゃったのかなあ」

 ちなみにあとから調べたら、
 古い茶香炉の熱がこもりやすい形状と、
 熱伝導性に優れているアルミホイルが原因らしかった。

「たった一時間の外出だったのになぁ……」
 みんなは火を使うときは目を離さないようにしようね!

「あっ、そういえばダイナマイトを十キロほど置きっぱなしにしていましたわ」
「は?」

(四分休符)

「おほほほほっ!
 景気のよい大炎上ですわ~~~~~ぁぁっっっ!!!!」

(二回攻撃)
(伏線回収)
(爆発オチ)
特殊効果VFX:炎上する屋敷)

「ふうぅぅ……
 あんのやろ……!!
 ぶっっっ殺したりますわあぁっっっっっ!!!!!!」

 あーーー…………うん。
 ふっ。
「お嬢さま、必ずやあのものに制裁を!!!!」

 人間、心の中に秘めておいたほうがいいこともあるよね。



      ~Cパート~

 けっきょく、火が完全に消しとめられるまでには四、五時間を要した。

 さいわい、燃え跡はなんとか屋敷の形を保っていた。
 まっ黒になってはいるものの、普通に雨はしのげる。
 どんな造りしてるんだ?
 思いっきり初代バイオくらいの大爆発したのに。

 ただ、外側が無事(?)だとしても内側はそうもいかない。
 なんらかの芸術的価値がありそうな皿やテーブルは、ほぼ燃えカスと化した。
 せっかく綺麗に使っていたキッチン用品なんかも、ひとつ残らずダメになってしまった。
 かてて加えて、パソコンが逝ってしまったのは痛手だった。

 あーあ、クイッ○シルバーがいてくれたら……。
 嘆いてもいられないな。
 いうまでもなく、僕らはまたしても大ピンチに追いこまれているわけだし。

 それにいちおう、いくつか無事だったものだってある。
 あるにはあるんだけど――
「おっほほほほほっ! セバスチャン!
 けっこういけますわよコレ!
 ラグアーマーを着たわたくしは無敵ですわ~っ!」

 そのひとつが、いまお嬢さまが使っているコレ。
 〝高性能! 第3世代Corei3〟と赤色のふっといポップ体で書いたステッカーつきのノートパソコンである。

「お嬢さま、スマホのテザリングでFPSはいかがなものかと……」
「お黙りやがれですの!
 無線と有線で速度は変わらないうえにパンタグラフはFPSで有利だと、
 検索上位に出てきたまとめブログでもいっていましたの!
 SDDエッスデーデーだって外付けしていますのよ!」

 なんで無線LANすら内臓してないんだよ、このパソコン。
 してたとしてもアウトだけど。
 とにかく、こんなパソコンでまともに戦えるはずがない。

「あ……フリーズしちまいましたわ……
 だいたいなんなんですの、このおファッキンクソPC……
 内臓CPUの紙粘土みてえなグラ……
 トラックパパパパッドでFPS……」
 いわんこっちゃない。
 これは、唯一被害を受けなかった物置小屋の奥の奥から発掘してきたパソコンだ。
 化石PCなのだ。

「もうマヂ無――」
ァ!」
「ペロ……これはデ○ス錠5mg!!」
 もうひとつ無事だったのは、ゼロイチから託されたクスリである。
 これは僕が肌身離さず持っていた。

 とはいえ、どう考えてもこんな装備で京に挑みにいくのは無理がありすぎる。
 そしてこんな状況を打開する方法は、どうしてもひとつしかない。

「お嬢さま、僭越ながらやはり、資金を調達するほかにはないかと」
「ですわよねえ。わたくしだってわかってはいましてよ」

 金曜日はじきに終わる。準備に使えるのはあと一日だけ。
にっくヤツの顔面に右ストレートをかますには、
 あの手しか残っていませんのね」

 手段は選んでいられない。
「やるしかありませんわ、あの作戦を……!」

 次回。
作戦オペレーション水天の涙なきおとし・即日ナマポ受給〟

 貴族のプライドにかけて。
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