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1. 口座残高482円
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口座には482円ある。
でも残念ながら、その小銭はおろせない。
つまり、今の私が使えるお金は、財布の中の6円だけだった。
「うまい棒一本も買えないや笑」
思わず、小さく笑ってしまう。
1月の夜はとても寒い。
風が吹くたび、耳と頬がピキピキと痛んだ。
いつもの古びた雑居ビル。
エレベーターで五階まで上がる。
白いドアを開けた瞬間、
消臭剤と甘い香水の匂いが混ざって、私を包み込んだ。
ここは、私が身体を売って生きている場所だ。
「おはようございます♪今日待機場何番ですか~?」
「「雪乃ちゃん!おはよー!今日は12番で!!」」
「分かりました~!」
いつも通りのやり取り。
いつも通りの声のトーン。
何もおかしくないみたいに、顔の肉を持ち上げて私は笑う。
待機場のソファに腰を下ろして、スマホを取り出す。
画面に映るのは、さっき見たばかりの口座残高。
482円。
ここで働いている間、私は「雪乃 ほのか」という名前になる。
本当の私の名前も、過去も、借金も、
この部屋の外に置いてきたことにしている。
そうしないと、どちらが本当の自分か分からなくなるからだ。
待機場では、小さな机と鏡の前で、メイクを少しだけ直す。
それから、下着姿の写真を何枚か角度を変えて撮り、1番いい写りのものを加工してサイトに上げる。
「出勤しました」という合図代わりの写メ日記。私の中では生存日記。
写真は1日5本まで。1本100円。
動画は3本まで。1本300円。
ちゃんと全部やれば、1400円になる。
心を削ればお金になる。
でも、お金にしてしまった心は、二度と元には戻らない。
私が初めてお金と引き換えに大人の都合に使われたのは、13歳のときだった。
何をされたかより、
あの時「自分は安い」と思ってしまったことのほうが、今でも残っている。
あの夜から、誰かに求められることと、
自分の価値が結びついてしまった。
ここで詳しくは書けないが、私が夜の世界の人間になったきっかけは、きっとここにあった。
そうやって適当に生きていたら気づけば
私は、高校に上がった。
何かが変わると思っていた。
制服を着れば、名前で呼ばれる場所に行けば、ちゃんとした人生が始まる気がしていた。
でも、何も変わらなかった。
変わったのは、連絡をくれる相手の年齢と、受け取る金額の桁くらいだった。
人間そう簡単に変われない。
でも残念ながら、その小銭はおろせない。
つまり、今の私が使えるお金は、財布の中の6円だけだった。
「うまい棒一本も買えないや笑」
思わず、小さく笑ってしまう。
1月の夜はとても寒い。
風が吹くたび、耳と頬がピキピキと痛んだ。
いつもの古びた雑居ビル。
エレベーターで五階まで上がる。
白いドアを開けた瞬間、
消臭剤と甘い香水の匂いが混ざって、私を包み込んだ。
ここは、私が身体を売って生きている場所だ。
「おはようございます♪今日待機場何番ですか~?」
「「雪乃ちゃん!おはよー!今日は12番で!!」」
「分かりました~!」
いつも通りのやり取り。
いつも通りの声のトーン。
何もおかしくないみたいに、顔の肉を持ち上げて私は笑う。
待機場のソファに腰を下ろして、スマホを取り出す。
画面に映るのは、さっき見たばかりの口座残高。
482円。
ここで働いている間、私は「雪乃 ほのか」という名前になる。
本当の私の名前も、過去も、借金も、
この部屋の外に置いてきたことにしている。
そうしないと、どちらが本当の自分か分からなくなるからだ。
待機場では、小さな机と鏡の前で、メイクを少しだけ直す。
それから、下着姿の写真を何枚か角度を変えて撮り、1番いい写りのものを加工してサイトに上げる。
「出勤しました」という合図代わりの写メ日記。私の中では生存日記。
写真は1日5本まで。1本100円。
動画は3本まで。1本300円。
ちゃんと全部やれば、1400円になる。
心を削ればお金になる。
でも、お金にしてしまった心は、二度と元には戻らない。
私が初めてお金と引き換えに大人の都合に使われたのは、13歳のときだった。
何をされたかより、
あの時「自分は安い」と思ってしまったことのほうが、今でも残っている。
あの夜から、誰かに求められることと、
自分の価値が結びついてしまった。
ここで詳しくは書けないが、私が夜の世界の人間になったきっかけは、きっとここにあった。
そうやって適当に生きていたら気づけば
私は、高校に上がった。
何かが変わると思っていた。
制服を着れば、名前で呼ばれる場所に行けば、ちゃんとした人生が始まる気がしていた。
でも、何も変わらなかった。
変わったのは、連絡をくれる相手の年齢と、受け取る金額の桁くらいだった。
人間そう簡単に変われない。
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