甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル赤銀*

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暗い自室に縄を吊るす。先端を輪にして括る。椅子に立つ。輪にした縄に頭を通す。

“父を追って、俺は死ぬ。”

遺書にはそれだけを書いた。完全にこの世への執着はなくなった。未練もない。椅子を蹴り飛ばし、首を吊った。筈だった。

「何してんのよ」

背後から声がした。その途端、首を絞める縄の拘束が一気に緩み、俺は床に崩れ落ちる。
ビイィンと壁に突き刺さるメスを一瞥してから声のした方を向いた。そこには銀髪を縦に巻き、いわゆるロリータ服を着た美女が立っていたのだ。

「あんたアタシの奴隷になりなさい」

そう言った美女は見た目に反して声があまりにも野太く、まず彼が男だということを先に諭ってしまった。

「……誰だよ」
「もっと早く聞くべきよそれは、アタシはイリヤ……あんたの父親の遺言通り、あんたを貰いに来たのよ」

やはり野太い男の声で女の喋りをする美女(明らかに男だが)の言うことの意味や、その他諸々が理解できず、彼の目をじっと見つめる。柔らかくふさふさと伸びる睫毛に囲まれた、サファイアを閉じ込めたようなブルーの瞳は鋭く光を跳ね返し、彼をより美しく見せている。不思議な魅力がある男だった。見た目の奇抜さと、発言の意味不明さもあいまって既に不思議どころではないのだが。

「……意味がわかんねーよ」
「遺書読んでないのアンタ」
「……読んだけどそんなこと書いてなかったよ」
「あらァ……じゃあアンタ偽物を読んだのね」
「は?」

この男はさらに意味のわからないことを言った。偽物の遺書?そんなものがあっていいはずがない。
父親は確かに俺に、遺書を遺した。そして、俺を置いて、首を吊って死んだのだ。
そんな父親は売れない小説家だった。どんな話を書いても鳴かず飛ばず、もはや才能がないとまで叩かれていたのだ。親戚からも冷たく当たられ、母親はそんな父親に愛想を尽かして何処かへと出て行ってしまった。
しかし、俺は父親の書く小説が好きだった。俺は幼い頃から父の書いた話を読んで育ったのだ。無愛想で傲慢だった父が書く話は人の感情、人の醜さ、そして儚さを鮮明に語っていた。しかし、父の話を世間はまったくもって認めはせず、ついに叩き始めた。父はそんな世の中に愛想を尽かしたと遺書に綴っていた。
父に似て傲慢に育った(それなりに自覚はある)俺は、彼の小説を認めない人間を徹底的に潰し、殺してやろうとすら思っていた。尤も、そうは思っても自分自身にその力はなかったため、彼を一心に愛したのだ。
しかし、そんな唯一の肉親である父親の突然の死には耐え難く、食べ物も喉を通らず、一日中部屋に篭り何度も遺書を読んだ。彼の遺した作品も全て読んだ。しかし彼の面影は既になく、虚無感と精神的苦痛の狭間で、自殺を決めた。
それを邪魔したあの男が父親の遺書を偽物呼ばわりし、自殺を止めたことが許せなくて、思わず壁に刺さるメスを手に取る。

「ッ……お前が父さんの何を知ってるんだよ!」
「知ってるわよアタシ、あんたの父さんの本のファンなのよ」
「……、え……」

手からするりとメスが落ち、床に当たり、硬い金属の音を響かせた。彼は胸倉を掴み、首に手を掛けたのだ。

「ッ……!」
「アンタほっそいわねェ、ご飯食べてる?」
「うっせーな!離せッうぐ……」
「奴隷が主人に刃物を向けるだなんて信じられないわ……」
「ッ誰が……奴隷、だ……ッ!」

首を強く掴む彼の手を必死に離そうとするが、何せ食べ物を摂ってない身体だ。大の男の力には敵うはずもなく、しおらしく腕を離し、仕方なく彼の言葉をおとなしく聞く羽目になったのである。

「……アンタは新しい主人を求めてる筈よ、アンタを犬のように従わせる、絶対的主君が欲しいのでしょう?」
「ッんなもん……いらね、ッ……」
「アンタは父親に対する態度をまさか愛情だなんて思ってないでしょうね?」
「……、」
「あんなもの愛情故だなんてイっちゃってるわ、頭が」
「ッ、んだと……!」
「アンタが殺したのよ、三条朱鷺……アンタが自分の父親を殺したのよ」
「……、!?」

一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。俺が、父さんを殺した……?

「ッ、ふざけるのも大概にしろよ!」
「ふざけてないわよ、アンタの父親……三条道明は精神を病んでいた……アンタのせいで!」
「、……!?」
「アンタが殺したようなもんよ……」

男は表情のなかった顔を突然歪め、ギッと歯を軋ませ、首を掴む手を緩める。俺は腰が抜け、その場にへたり込んでしまった。

「……、何で……」
「アタシの同僚は精神科医なのよ、道明先生は同僚の経営する病院に通い詰めていた……その話を訊いたアタシは憧れの先生に逢えてとても喜んだわ」
「……、」
「それなのに彼はずっと言っていた……『朱鷺は俺の自慢の息子だ』ってね……」
「……ッ、」
「……全く、ふざけるのもいい加減にしなさいよ……」
「っ、」

俺の頭を引っ掴んだ男は身体ごと俺を床に叩きつけ、突然ものすごい剣幕で叫ぶのだ。

「ッ、わけのわからない狂気を振りかざしてそれが愛情だなんて!愛する人間の変化にも気付けないクセに!ふざけてんじゃねぇよ!そんなに死にたいならアタシが殺してやるわよ……アンタを、嬲り殺してやるわ……」

彼はサファイアの瞳に涙を浮かべ、ギギッと歯軋りをする。間違いなく彼は父親、三条道明の死を悼んでいるのだ。美しい顔を歪ませて泣く姿は、人間離れした姿の彼の、何よりも人間らしい姿だった。

「……、殺せよ」
「……何よ、さっきまであんなに抵抗してたのに」
「いいから、殺せ」
「それはアタシの奴隷になるってことでイイのかしら」
「……、意外に優しいんだろ、変な見た目してる癖に」
「……うるさいわね」

彼はふいとそっぽを向いて鼻を啜った。突然現れたこの女装した男は、精神的に病み狂ってしまった俺を助けてくれるのかもしれない。そう思い彼の方に改めて目を向けた途端、突然俺が着ているジャージのファスナーを下ろし始めた。

「ッ何して……!?」
「奴隷なら大人しく抱かれなさい」
「意味がわからな、」
「アタシの名前はイリヤよ、イリヤ様と呼ばないと死ぬまで犯すわよ」
「……は?」
「あとアタシの前で俺だなんて言わないで頂戴、僕よ」
「え?」
「分かったら返事しなさい」
「……はいはい」
「違うわよ……『承知しましたイリヤ様』、言いなさい」
「……、承知しました……イリヤ様」









「アンタ拒食症の癖によく鳴くのねェ……」
「ッくぅ、んんっ、やァッ……!」

男は信じられない程の大きさの昂りを掲げ、臀部を掴み、割れ目の間の孔に指をグチャリと突っ込み拡げ、それを挿入した。まさか、女装した男にレイプまがいの事をされるなんて。必死の抵抗も敵わず、下腹部の圧迫感と痺れるような快感に身を委ねていた。耐え切れずに漏れる声を抑えられず、彼の思うがままに“嬲”られる。

「ひぅぅッ、も、やッ……」
「何よ、イきたいの?」
「ッ、はい……」
「飲み込みはイイのね、なら強請りなさい……イかせてくださいってね」
「ッイかせてください、!」
「言えって言われたことをそのまま言っちゃあねェ……」

ギチギチと握られるはち切れそうな昂りは、彼の指によって尚更嬲られ、襲いくる快楽によって透明の汁をトロトロと溢れさせていたのだ。自分自身も快楽に耐え切れず、閉じられない口からは唾液とはしたない嬌声が漏れるばかりである。

「ッ、イリヤさま……、イかせてくださいっ、イリヤさま……」
「やればできるじゃない、そのはしたない口に後でイイモノあげるわ……ほら、出しなさい」
「っん、くぅ……んんんッ……!」

彼が指を離した途端に噴き出す白濁色の液は、自身の腹部を斑に汚した。その時、彼自身の白濁も中に注がれ、力がくたりと抜け、彼の姿が霞む。はあはあと自分の荒い呼吸の音だけがこの空間に響いた。何というか、虚しい気分である。彼が自分の中からずるりと抜け、更なる虚無感に襲われたその時。腹部からぐぎゅるると胃の鳴く音がした。

「……、アンタねぇ……」
「ッ……」
「まぁいいわ、とりあえずアンタはアタシの奴隷だから」

そう言った彼の艶を帯びた低音は、身をぞくりと震わせ、自ずと従順にさせる。俺は、彼が腹に散らばる白濁を舌で舐め取る様子をぼんやりと眺め、呟いた。

「……、何してんですか」
「ゴミは出したくないのよ……苦い……」
「じゃあ何で舐めるんですか……綺麗なモンでもないのに」
「うるさいわね最近の奴隷は手入れしてやってんのも受け入れられないのかしら」
「最近の奴隷って……」
「奴隷を可愛がるのも生かすのも殺すのも全て主人の好きなようにやるものなのよ、ほら……服直しなさい」
「……、」

彼のサファイアの瞳が俺を射抜き、ふ、と細められる。下着を上げ、ジャージのファスナーをぐいと上げる。彼が部屋の扉を開き、俺を外へと連れ出し、こう言った。

「アンタが二度と此処には戻ることをアタシは許さない、主人の命令よ」
「……、何で」
「アンタに思い出を引き摺られちゃ迷惑なのよ、アタシが」
「……はあ、」
「ほら、ついてきなさい」

その低い声に導かれ、ロリータ服を着た美しくも世話好きであろう、俺の新しい“主人”との生活が始まりを迎えた。







「……、懐かしいわねェこれ」
「イリヤ様これは」
「アンタと初めて会った時に着てた服よ、久々ねぇまだ着れるかしら」
「今はちょっと無理があるのでは……髪ボサボサですし」
「それは関係ないわよ!……そういえば朱鷺」
「……?」
「そろそろ誕生日よね、アンタ欲しいものある?」
「……、別に無いですね……」
「つまんない奴ね……」
「今の経済状況で欲しいものを言えってのもどうかと思うのですが」
「それはアタシのせいじゃないわよ上が悪いのよ」
「……、イリヤ様といられるだけで充分です、僕は」
「…………、さっさとバイト行ってきなさい」
「はい、行ってきます」







-END-
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