甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル純愛

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「ッ、兄貴……近、い」
「しょうがないだろ……こうでもしないと見えないんだ……」
「、だからって……」
「何だ?」
「胸触ってんじゃねーよ!!」

現在、俺と兄貴はうさちゃんこと國弘に頼まれ、真理亜さんのデートを尾行している。國弘に頼まれた、というか國弘が兄と真理亜さんをくっつけたいらしくそれに協力する形で頼みを引き受けた。
しかし、そもそも物陰でコソコソと隠れながら男2人がカップル(?)を尾行しているという状況自体が既に怪しいのに、このガチホモ兄貴のせいで自分たちは余計怪しい2人組になっているのだ。とりあえず兄貴を引っぺがし、彼女と合コンで知り合ったという男性との二人組を目で追い続ける。

「別に悪くないと思うけどなぁ……」
「俺は好みじゃないがな」
「兄貴ちょっと黙って」
「すまない」

真理亜さんと一緒にいるのは、よく見る所謂少しチャラい系の男性で、髪はワックスで少し弄っており、伊達眼鏡を掛けている。顔は上の下ってところか。シャツはブランド物でズボンも相当の値段掛かるものだ、撮影で着たことがあるから何となく値段の察しはついている。アクセサリーも撮影で使用したことがあるが若干値の張るものだ。指を折り彼の服装に掛かった金額を計算していると、兄貴に肩を叩かれる。

「虎太郎、男の服装の分析をやめろ」
「あっバレた?でもアイツ相当金持ってるよ、シャツとかズボンとかアクセがいちいちブランド物だから」
「この日の為に買い揃えたのかもしれないぞ」
「いや……うーん、何というか……」
「どうした」
「何となくだけど、そのまま付き合ったとしても長続きはしないね」

俺はポケットから、國弘から貰ったメモを取り出す。そこに書かれた文面を目で追った。國弘が真理亜さん本人に聞いた大体のデートコースだ。彼女は異性とデートをすること自体初めてらしいので、完全に浮き足立っておりデートプラン、コース殆どを喋ってくれたらしい。それらのメモの下に汚い字で書かれた「阻止せよ」の文字がやたらに恐怖心を煽った。

「とにかく、映画館行くって書いてあるから俺らも行くぞ」
「あぁ」

二人組はメモの通り、市街地の映画館に吸い込まれるように入って行った。彼女らを追って自分達も映画館に向かう。

「映画館ってこんなものなんだな……」
「何観るんだろ……」
「ッな……!ま、真理亜そんな不埒なものを観るというのか!」
「え?」

兄貴の目の向く方に目をやると、真理亜さんは男と二人で現在流行している恋愛モノの映画を観るらしく、そこのポスターの貼ってある看板の前で仲睦まじく会話を交わしていた。どこが不埒だというのだ。

「いかん!あんなもの!セックスとかするんだろ!真理亜には見せられん!」
「兄貴!俺ら映画が目的じゃないから!」

このままじゃ発狂しかねないので、兄を映画館から引き摺り出し、物陰に連れ込む。

「な、何だ虎太郎」
「兄貴前からアホだと思ってたんだけど本当にアホだな……」
「アホだと!?」
「あれは別に卑猥な映画じゃないだろ!」
「いや……R15指定入ってたぞ」
「えっ」
「明らかにあの男は雰囲気を作って真理亜を抱く気だ」
「だからといってあんなに騒がなくても……」
「伏線はぶっ潰すに限る」

兄貴は腕を組んでふんと鼻を鳴らす。何だかんだで見ているところは見ているんだな、と思いつつも、伏線の潰し方が阿呆かつ馬鹿でしかなかったのでとても微妙な心持ちになった。

「とにかく、俺らは映画を観る目的はないから近くの店で時間を潰すぞ」
「……え?」
「え?」
「……観ないのか?」
「流石に映画観るのまでつけるのは」
「じゃなくて、アレを観たいのだが」

表情を変えずにそう言った兄は、映画館のポスターの一つを指差した。

「……」
「アレを観たい、金ならある」
「…………何だアレ、タイトルは……」
「『魔法少年にゃんたんのサクッと世界を救ってみました!』だ」
「…………」
「流石に一人で映画館に入るのは抵抗があってだな……100分だから十分に間に合うと思うのだが」
「……」
「どうした?あとこのアニメの主人公のパートナー、きゃんさまがとても虎太郎にそっくりで……アニメも名作だったから映画も……」
「今度行けばいいだろーーーーーー!!」

一瞬でも兄を見直そうとした自分が馬鹿だった。あと何だその映画のタイトルは。明らかにチープな萌えアニメじゃねーか。他様々言いたいこと且つツッコミが大量にあったが我慢して飲み込んだ。よくやった俺。

「す、すまん虎太郎、でもつい……」
「……つーか兄貴アニヲタだったの?」
「いや、霧夜に勧められて観たらどハマりしてしまった」
「…………いるよなそういう奴」
「それでだな虎太郎、今度きゃんさまのコスプレを」
「しねーよ!!!!」

目を輝かせてふざけたこと(本人は本気)を言い出す兄を一喝し、溜め息を吐く。映画館前で騒いでてもしょうがない。近くのファストフード店に入り、映画を観に行った二人を待つことにした。そこで軽食を頼み、メモを開き今後の予定を確かめた。國弘の文字の横に霧夜先生が綿密に考えた(本人談)というデートぶち壊しプランと言うのを今更見つけ、思わず噴き出す。

「霧夜先生どんだけデートぶち壊したいんだよ……何か爆薬とか書いてあって怖いんだけど」
「ところで虎太郎、冬コミに興味は」
「ない」
「…………同人誌……」
「とりあえず映画館から出たら外れの隠れ家的なカフェ……ってどこだよ」
「同人誌欲しい……」
「兄貴さっきからうるせーよ!!何だよ冬コミなら一人で行けよ!さみーし!じゃなくて!真理亜さんと付き合いたくないのかよ兄貴は!」
「虎太郎冬コミのこと知ってるのか!?」
「本題そっちじゃねーから!!」

俺は机に手を叩きつけ、兄を睨みつける。一瞬だけビクッとたじろいだ彼は気まずそうに口を噤み、暫く黙り込んでからこう応えたのだ。

「……、そりゃあ付き合いたいが」
「じゃあ何でふざけてんだよ!」
「…………駄目なんだ、俺と真理亜は一緒になるべきじゃない」
「え……」
「脳の出来が違う」
「いやそんなもん当然じゃねーの?」
「そういう意味じゃない」
「え……?」
「……、虎太郎にも話さなきゃいけないと思っていたが……」
「……、何だよ話さなきゃいけないことって」
「…………、それは」

兄が急に眉間に皺を寄せ、険しい表情で俺をじっと見つめた。深刻な話をするように、彼がゆっくりと口を開いたその途端、外が不穏な空気を漂わせる。ザワザワと人が盛り上がり出し、何処かで事故か何かが起こったかのような空気だ。

「……兄貴、外、何かあったのかな……」
「……、待て……何か聴こえる」

兄が席から立ち上がり、窓ガラスに近づく。暫くその様子をただ眺めていたら、また顔を顰めて、突然俺の腕を引っ掴んだ。

「真理亜が危ない!」
「え?は?」
「くっそ……!」
「どうしたんだよ兄貴!」
「後で説明する!とにかく今は真理亜が危ない!」
「ッちょ……!兄貴!」
「金払っとけ、真理亜を探してくる!」

千円札を押し付け、兄はそのまま店から飛び出したのだ。一体何があったというのだ。とりあえず兄を追う形で会計を済ませて外に飛び出す。

「兄……ッ!?」


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