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まさ

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亀裂

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朝目が覚めて 外は眩しいくらいいい天気で部屋の中にいても外の明るさがわかった。長男の慎平はガソリンスタンドにアルバイトに行って不在だった。iPhoneを買うために数ヶ月前から土日だけアルバイトをしている。次男の雅也は空手の稽古に行って不在。6歳の千夏は毎週末はおばあちゃんの家にお泊まりしている。千夏は親戚の子供達の中でも 歳が離れて小さいので 親戚一同に可愛がられている。可愛がられる分にはうれしいのだが あまりお菓子や甘い物などは買い与えて欲しくないというのが親としての僕の本心だ。
妻は2階で足を広げて死んだように眠っている。妻は眠っている時完全には目を閉じることができないので本当に死んだように見える。その上 がりがり がりがりと歯ぎしりもすることがあるので その時は まさにホラー映画の一部分だ。

僕が目を覚まして周りを見回すと部屋が散らかっていること以外に もう一つあることに気付いた。

僕のものがなかった。一つもなかった。正確に言うと 僕が選んで買ったものが一つもなかった。ソファーは妻と妻の家族が選んで買ったものだ。テレビも。ソファーの前のテーブルも。本棚も。息子達の勉強机も。外に置いてある新車も。そして 今住んでいる家さえも僕は何も選んでいない。妻と妻の家族が選んで買ったものだ。

別に家具やテレビや車が気に入らないわけではないが、自分の意見が尊重されないというのは 本当に辛い。

妻が言うには僕のセンスは当てにならないらしい。 これには僕にも意見がある。センスがいいものを買っても 部屋が散らかっていたら 全て台無しだ。妻の実家も僕たち家族が住んでいる家もセンスがいいものがたくさんあるかもしれない。でも 僕に言わせれば妻の実家も今住んでいる家もゴミ屋敷だ。掃除を担当している僕の身としては家にはものがなければないほど掃除しやすい。妻も妻の家族も ものを捨てられないという大きな欠点がある。僕はその反対に何でも捨てる。使わないもの 要らないもの 掃除の邪魔になるものは何でも捨てる。
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