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Cadenza 花車 ③
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頼りになる先輩の指示通り言われた場所へ向かって廊下を進んでいくと後ろの方から「あら良い所に、はいこれ、私の机に置いといて」誰かに木箱を押し付けている声が聞こえてきた。
頼りになる先輩でもあるけれど、人使いが荒い先輩でもあった。
若い人達がNo2と大先輩は人使いが荒いって愚痴をこぼしているのを小耳に挟んだことがあるけれど、たぶん、さっきのように通りがかりに何かを頼まれることが多いから、思い返してみれば私もそうだった『あら後輩?いい所にいるじゃない、来なさい』肩を掴まれて色んな用事を押し付けられた、それもまた、良い思い出。
歩ている間、病棟の隅々まで見る様に目を凝らしていると思い出が次々と蘇っていく。
懐かしい記憶との対話は階段前に到着することで終わりとなる。
さて、ここに来たのだから準備をしないと。
姫様に巻き付けている布を丁寧にはぎ取って綺麗にたたんでいると
「お待たせ」
振り返ると担架を持たされた人達とNo2がいる。
担架を運んでくれた人物の顔を見ると昔からNo2と一緒に働き続けてくれている先輩方だった
「面会謝絶だったでしょう?リハビリ担当から外れた彼女達も一目、姫ちゃんを見ておきたかったのよ」
何も言わずとも理由を説明してくれる。
頷くと「姫様を包んでいるタオルですか?取るの手伝います」包んでいる布を剥がすのを手伝ってくれる。
彼女達であれば何も問題ないので私は担架を受け取り、準備をするために担架を広げ地面に設置する
姫様を運ぶための準備が終わるころにはお互いの準備が出来ており
「点滴は私が持ちますね」「なら、私と団長が姫ちゃんを運ぶとしましょう」
「では、私は姫様を包んでいた布を運びますね」
一斉に動き出すので皆に合わせる様に急いで此方も準備をする。
息の合った統率の取れた動きで姫様を担架へ移動し、合図を送ることなく息を合わせ病室まで姫様を運び、流れる様にベッドの上に姫様を寝かせてから、点滴を交換して部屋の外に出ると既に全員が各々の持ち場へと向かっていた。
各々が医療班として持ち場に戻ったのであれば、私も医療班の団長として…
現状を把握することに努めたり指示を出すのが仕事として正しいのだろうけれど。
姫様が寝ている病室を振り返ると、離れるのが怖いと感じてしまう。
何かあるわけでもない、何か起きるわけでもない、なのに、離れるのが怖い。
怖いのなら離れなければいい。
部屋に戻り、ベッドの横に椅子を置き、彼女の寝顔を眺め続ける。
ふと、時計を見ると思っていたよりも時間が流れていない。
姫様も起きる様子が無いので、姫様が搔き集めた資料を手に取り読んでいく。
内容の多くが、ご飯を食べている時や、研究が人段落ついた時に勝手に部屋に入ってきて自慢げに語ってくれた内容が多く、気になることは無く、寧ろ…
「懐かしい」
彼女と共に過ごした日々、男として振舞おうとしていた時期、彼女の記憶を垣間見て彼女の苦悩を知り、目覚めてから彼女と共に歩み続けた終焉の日々。
その全てが懐かしいと感じ、大切な、とても、大切な日々だと心が締め付けられてしまう。
姫様が用意したであろう、切り札。
先の説明を聞くまでも無く、何となく、こういうのを用意しているんじゃないかって予想してた。
姫様は、お姉ちゃんは、今回の戦いを最後として人生を終えるつもりでいる。
最後の聖女、最後の救世主、最後の…罪人になる。
お姉ちゃんは背負い過ぎている、私も、こんな私でも…少しでも背負えればいいんだけど、きっと背負わせてくれない。
だったら、私は…私も、この街の人達と同じく、姫様の願いを背負う。
何が有ろうと、この身が消えてしまっても、魂だけとなろうとも、人類の敵を討つ。
私達が居なくなった、その後の事は、スピカに任せればいい。
彼が、名も無き弟であれば、きっと大丈夫、全部、背負ってくれる。
不思議とそう感じてしまう、不思議と彼を信用してしまう。
彼の名前がそうさせるのかもしれない。
姉として、腹違いの、兄として…家族として
二人のお母さんのケアは弟に任せて、私は、家族を守る。
私の手には二つの槍がある、一つは妖精の槍、一つはメイドちゃんが造ってくれた人の槍…今はメイドちゃんが持っているけれど、決戦の時は一緒に戦場を駆け抜ける。
その二つの破魔の槍があれば、どんな敵でもどんな幻術でもどんな術式でも切り裂いて貫いて
姫様を怨敵へと導いて見せる
自然と指先に力が籠っていく
手に持った資料を傷つけないようにそっと元に戻す。
このままだと、握りしめてしまいそうだったから。
姫様の記憶と共に宿った火を鎮めるために瞳を閉じ意識を集中する。
No2直伝の魔力を練り体内に保存する術を実行する。
何かに集中すればおのずと精神は研ぎ澄まされ雑念は消える。
「ん?」
扉が開かれる様な音で目が覚め、良く知った天井がおはようと挨拶をしてくれる。
横に顔を向けると椅子に座った団長が額に汗を浮かべている。
言うまでも無い、魔力操作の訓練をしているんだろうね。
「・・・」
扉の方へと視線を向けるとドアが半分開かれその先にお爺ちゃんがどうしたものかと眉を顰め顎を触って此方を見ているので
腕を上げると直ぐに気が付いてくれるので手招きをすると中に入ってくる。
「・・・」
ベッドの近くに来ると小さく手を上げて挨拶をしてくれる。
「声出しても大丈夫だよ、お孫さんは、おっと、団長は集中してるだけで居眠りしてるわけじゃないよ」
「見てわかるわい、ここまで高めた集中力、僅かな雑音で邪魔をしては悪いからの」
団長が居る場所、その反対側のベッドの端にベッドを揺らさないようにゆっくりと座り
「調子は、どうじゃ?」
此方を見ることなく背中で語り掛けてくる。
ったくもう、話すのならこっちを見て話せってーの
つっても、私も体を起こすのがめんど…少々辛いからこのまま天井を眺めながら話させてもらおうかな?つっても、お爺ちゃんの背中は見える、手を伸ばせば触れれるほどに近いけどね。
「見てわかるでしょ、お爺ちゃんよりも長生きできないかもね」
「…そうか」
冗談なんだからそんな寂しそうに返さないでよ
「じょーだんじゃん、軽口を言えるくらい、命に問題はないよ」
「見栄を張るでないわ、歳よりわな、長く生きているだけあっての」
「見える?私の死期が」
背中が小さく跳ねる、相も変わらず腹芸が苦手だなぁ、本人は得意だっていうけど…長い付き合いだもんね、わかっちゃうよ。
「ああ、見えてしもうた」
お爺ちゃんも見抜かれていると思っているのか正直に答えてくれる。
多くの人を切り捨ててきた断罪者だからこそ、そういうのが見えちゃうのかな?
「単純に細くなって、血の気が通ってないように見えるだけでしょ?私はまだ死なないよ」
これは嘘偽りはない、今はまだ死なない、死ねない、何が有ろうと死ぬわけにはいかない、今この瞬間はね。
まだ、役目を終わらせていない、今代の私が託したバトン
終わらせてないからね。
「そうであってくれ、そうであってもらわんと、こま、困るわい、わしよりも長く、なが…」
背中が小さく震えている、泣かないで。
「ふふ、知ってるくせにさ」
私が先に死ぬって言う、覚悟何て私と出会った時から出来ていると思っていた。
彼が知らないわけがない、大罪人を捌き続けた彼がね教会の白き少女の短い人生を知らないわけ何て無い
指先を伸ばすと何とか彼の腰に届くのでちょんちょんっと先だけが触れる様にし彼を宥める。
「孫たちの前で情けない姿を見せたくないんじゃがのぅ、歳には勝てんわい」
小さく震える大きな背中が今回ばかりは小さく見えてしまう。
ちょんちょんっと指先で背中を叩き続け震える背中が落ち着くのを待ち続ける。
視界に映る、彼の後姿。
私の知ってる彼の姿と比べてしまう。
共に戦うと名が欲しいと言ってくれた私のもう一人の騎士様
でも、私の騎士様は…とても、小さく、弱々しく見えてしまう。
泣いてるからじゃない、そうじゃない、心の問題じゃない。
あの時と、私の時とは大きく違う…
理由は単純、時の流れのせい。
彼は、今代の彼は引退すると決め、荒事から遠のいていた。
今代の私は、彼に銀行の管理や、お金の護衛などをお願いしてたけど、黒い組織全て壊滅してから表立っての危険組織なんて皆無で、そう言う類が生まれる前に徹底的に芽も潰して、潰した押して…その結果、盗賊強盗の類は全部潰しちゃったから、今となっては護衛なんて大層な名前をした、ただの散歩だったものね。
筆頭騎士という立場から引退して、目につく悪を倒した結果、彼は自身を鍛える意味が無くなってしまった。
年齢の限界を超えるような激しくストイックなトレーニングを行わないで引退者として悠々自適に奥様達、孫達家族と共に老後を堪能していたんだもんね。
私の時とは違う…決意を込めてより高みへと昇る為に訓練をして欲しいと懇願した、彼の孫、私の愛する旦那を幼い時から徹底的に鍛えてくれた。
そして、その姿を見て彼もまた戦場へ戻る為に己を追い込み続けてきた…
今代の彼は、そんなストイックな人生を歩んでいない。
私が知っている背中はもっと筋肉が張り詰めていて、力が脈打つような、エネルギーが溢れ出るような力強さがあった。
今は、いまは…肋骨が見えるほどに薄い、筋肉が細くなっている。
この背中を見て、私の中で決まっちゃった、決めちゃった。
お爺ちゃんは砦の防衛に専念してもらおう、彼を前に出すのは、無理だよ、私達についてこれるとは思えれない。
決まった、誰にするのか。
団長の提案は妙案だし、それが正解だと思う。
後は、最後の試練
お母さんを説き伏せること!!
これが一番、難しいだろうなぁ…
どうやって彼女を説き伏せればいいのか、考えないといけない。
私の体がこんな状態じゃなかったら私と団長でNo2に黙って全部出来るんだけど、この状態だと先を見据えるのであれば私がメインとなって術式を行うのは良くない。
お爺ちゃんの背中に触れながら、どうやってNo2を説得しようかと考えていると、背中の震えが落ち着いてくる。
その後は、暫しの間、他愛の無い会話をして過ごした。
気が付けば、団長も会話に加わって、一時の安らぎを彼に与えれたんじゃないかなって思う。
貴方も、私が絶対に守って見せる。
私の大切な人だから。
守れなかったから、今度こそ、守って見せるからね。
■■■さん
頼りになる先輩でもあるけれど、人使いが荒い先輩でもあった。
若い人達がNo2と大先輩は人使いが荒いって愚痴をこぼしているのを小耳に挟んだことがあるけれど、たぶん、さっきのように通りがかりに何かを頼まれることが多いから、思い返してみれば私もそうだった『あら後輩?いい所にいるじゃない、来なさい』肩を掴まれて色んな用事を押し付けられた、それもまた、良い思い出。
歩ている間、病棟の隅々まで見る様に目を凝らしていると思い出が次々と蘇っていく。
懐かしい記憶との対話は階段前に到着することで終わりとなる。
さて、ここに来たのだから準備をしないと。
姫様に巻き付けている布を丁寧にはぎ取って綺麗にたたんでいると
「お待たせ」
振り返ると担架を持たされた人達とNo2がいる。
担架を運んでくれた人物の顔を見ると昔からNo2と一緒に働き続けてくれている先輩方だった
「面会謝絶だったでしょう?リハビリ担当から外れた彼女達も一目、姫ちゃんを見ておきたかったのよ」
何も言わずとも理由を説明してくれる。
頷くと「姫様を包んでいるタオルですか?取るの手伝います」包んでいる布を剥がすのを手伝ってくれる。
彼女達であれば何も問題ないので私は担架を受け取り、準備をするために担架を広げ地面に設置する
姫様を運ぶための準備が終わるころにはお互いの準備が出来ており
「点滴は私が持ちますね」「なら、私と団長が姫ちゃんを運ぶとしましょう」
「では、私は姫様を包んでいた布を運びますね」
一斉に動き出すので皆に合わせる様に急いで此方も準備をする。
息の合った統率の取れた動きで姫様を担架へ移動し、合図を送ることなく息を合わせ病室まで姫様を運び、流れる様にベッドの上に姫様を寝かせてから、点滴を交換して部屋の外に出ると既に全員が各々の持ち場へと向かっていた。
各々が医療班として持ち場に戻ったのであれば、私も医療班の団長として…
現状を把握することに努めたり指示を出すのが仕事として正しいのだろうけれど。
姫様が寝ている病室を振り返ると、離れるのが怖いと感じてしまう。
何かあるわけでもない、何か起きるわけでもない、なのに、離れるのが怖い。
怖いのなら離れなければいい。
部屋に戻り、ベッドの横に椅子を置き、彼女の寝顔を眺め続ける。
ふと、時計を見ると思っていたよりも時間が流れていない。
姫様も起きる様子が無いので、姫様が搔き集めた資料を手に取り読んでいく。
内容の多くが、ご飯を食べている時や、研究が人段落ついた時に勝手に部屋に入ってきて自慢げに語ってくれた内容が多く、気になることは無く、寧ろ…
「懐かしい」
彼女と共に過ごした日々、男として振舞おうとしていた時期、彼女の記憶を垣間見て彼女の苦悩を知り、目覚めてから彼女と共に歩み続けた終焉の日々。
その全てが懐かしいと感じ、大切な、とても、大切な日々だと心が締め付けられてしまう。
姫様が用意したであろう、切り札。
先の説明を聞くまでも無く、何となく、こういうのを用意しているんじゃないかって予想してた。
姫様は、お姉ちゃんは、今回の戦いを最後として人生を終えるつもりでいる。
最後の聖女、最後の救世主、最後の…罪人になる。
お姉ちゃんは背負い過ぎている、私も、こんな私でも…少しでも背負えればいいんだけど、きっと背負わせてくれない。
だったら、私は…私も、この街の人達と同じく、姫様の願いを背負う。
何が有ろうと、この身が消えてしまっても、魂だけとなろうとも、人類の敵を討つ。
私達が居なくなった、その後の事は、スピカに任せればいい。
彼が、名も無き弟であれば、きっと大丈夫、全部、背負ってくれる。
不思議とそう感じてしまう、不思議と彼を信用してしまう。
彼の名前がそうさせるのかもしれない。
姉として、腹違いの、兄として…家族として
二人のお母さんのケアは弟に任せて、私は、家族を守る。
私の手には二つの槍がある、一つは妖精の槍、一つはメイドちゃんが造ってくれた人の槍…今はメイドちゃんが持っているけれど、決戦の時は一緒に戦場を駆け抜ける。
その二つの破魔の槍があれば、どんな敵でもどんな幻術でもどんな術式でも切り裂いて貫いて
姫様を怨敵へと導いて見せる
自然と指先に力が籠っていく
手に持った資料を傷つけないようにそっと元に戻す。
このままだと、握りしめてしまいそうだったから。
姫様の記憶と共に宿った火を鎮めるために瞳を閉じ意識を集中する。
No2直伝の魔力を練り体内に保存する術を実行する。
何かに集中すればおのずと精神は研ぎ澄まされ雑念は消える。
「ん?」
扉が開かれる様な音で目が覚め、良く知った天井がおはようと挨拶をしてくれる。
横に顔を向けると椅子に座った団長が額に汗を浮かべている。
言うまでも無い、魔力操作の訓練をしているんだろうね。
「・・・」
扉の方へと視線を向けるとドアが半分開かれその先にお爺ちゃんがどうしたものかと眉を顰め顎を触って此方を見ているので
腕を上げると直ぐに気が付いてくれるので手招きをすると中に入ってくる。
「・・・」
ベッドの近くに来ると小さく手を上げて挨拶をしてくれる。
「声出しても大丈夫だよ、お孫さんは、おっと、団長は集中してるだけで居眠りしてるわけじゃないよ」
「見てわかるわい、ここまで高めた集中力、僅かな雑音で邪魔をしては悪いからの」
団長が居る場所、その反対側のベッドの端にベッドを揺らさないようにゆっくりと座り
「調子は、どうじゃ?」
此方を見ることなく背中で語り掛けてくる。
ったくもう、話すのならこっちを見て話せってーの
つっても、私も体を起こすのがめんど…少々辛いからこのまま天井を眺めながら話させてもらおうかな?つっても、お爺ちゃんの背中は見える、手を伸ばせば触れれるほどに近いけどね。
「見てわかるでしょ、お爺ちゃんよりも長生きできないかもね」
「…そうか」
冗談なんだからそんな寂しそうに返さないでよ
「じょーだんじゃん、軽口を言えるくらい、命に問題はないよ」
「見栄を張るでないわ、歳よりわな、長く生きているだけあっての」
「見える?私の死期が」
背中が小さく跳ねる、相も変わらず腹芸が苦手だなぁ、本人は得意だっていうけど…長い付き合いだもんね、わかっちゃうよ。
「ああ、見えてしもうた」
お爺ちゃんも見抜かれていると思っているのか正直に答えてくれる。
多くの人を切り捨ててきた断罪者だからこそ、そういうのが見えちゃうのかな?
「単純に細くなって、血の気が通ってないように見えるだけでしょ?私はまだ死なないよ」
これは嘘偽りはない、今はまだ死なない、死ねない、何が有ろうと死ぬわけにはいかない、今この瞬間はね。
まだ、役目を終わらせていない、今代の私が託したバトン
終わらせてないからね。
「そうであってくれ、そうであってもらわんと、こま、困るわい、わしよりも長く、なが…」
背中が小さく震えている、泣かないで。
「ふふ、知ってるくせにさ」
私が先に死ぬって言う、覚悟何て私と出会った時から出来ていると思っていた。
彼が知らないわけがない、大罪人を捌き続けた彼がね教会の白き少女の短い人生を知らないわけ何て無い
指先を伸ばすと何とか彼の腰に届くのでちょんちょんっと先だけが触れる様にし彼を宥める。
「孫たちの前で情けない姿を見せたくないんじゃがのぅ、歳には勝てんわい」
小さく震える大きな背中が今回ばかりは小さく見えてしまう。
ちょんちょんっと指先で背中を叩き続け震える背中が落ち着くのを待ち続ける。
視界に映る、彼の後姿。
私の知ってる彼の姿と比べてしまう。
共に戦うと名が欲しいと言ってくれた私のもう一人の騎士様
でも、私の騎士様は…とても、小さく、弱々しく見えてしまう。
泣いてるからじゃない、そうじゃない、心の問題じゃない。
あの時と、私の時とは大きく違う…
理由は単純、時の流れのせい。
彼は、今代の彼は引退すると決め、荒事から遠のいていた。
今代の私は、彼に銀行の管理や、お金の護衛などをお願いしてたけど、黒い組織全て壊滅してから表立っての危険組織なんて皆無で、そう言う類が生まれる前に徹底的に芽も潰して、潰した押して…その結果、盗賊強盗の類は全部潰しちゃったから、今となっては護衛なんて大層な名前をした、ただの散歩だったものね。
筆頭騎士という立場から引退して、目につく悪を倒した結果、彼は自身を鍛える意味が無くなってしまった。
年齢の限界を超えるような激しくストイックなトレーニングを行わないで引退者として悠々自適に奥様達、孫達家族と共に老後を堪能していたんだもんね。
私の時とは違う…決意を込めてより高みへと昇る為に訓練をして欲しいと懇願した、彼の孫、私の愛する旦那を幼い時から徹底的に鍛えてくれた。
そして、その姿を見て彼もまた戦場へ戻る為に己を追い込み続けてきた…
今代の彼は、そんなストイックな人生を歩んでいない。
私が知っている背中はもっと筋肉が張り詰めていて、力が脈打つような、エネルギーが溢れ出るような力強さがあった。
今は、いまは…肋骨が見えるほどに薄い、筋肉が細くなっている。
この背中を見て、私の中で決まっちゃった、決めちゃった。
お爺ちゃんは砦の防衛に専念してもらおう、彼を前に出すのは、無理だよ、私達についてこれるとは思えれない。
決まった、誰にするのか。
団長の提案は妙案だし、それが正解だと思う。
後は、最後の試練
お母さんを説き伏せること!!
これが一番、難しいだろうなぁ…
どうやって彼女を説き伏せればいいのか、考えないといけない。
私の体がこんな状態じゃなかったら私と団長でNo2に黙って全部出来るんだけど、この状態だと先を見据えるのであれば私がメインとなって術式を行うのは良くない。
お爺ちゃんの背中に触れながら、どうやってNo2を説得しようかと考えていると、背中の震えが落ち着いてくる。
その後は、暫しの間、他愛の無い会話をして過ごした。
気が付けば、団長も会話に加わって、一時の安らぎを彼に与えれたんじゃないかなって思う。
貴方も、私が絶対に守って見せる。
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守れなかったから、今度こそ、守って見せるからね。
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