最前線

TF

文字の大きさ
631 / 657

おまけ 零れ話 ①

しおりを挟む
天井を見つめながら視界の片隅に映る背中に指先で触れながら
「戦場はどうだったー?」
彼との対話を始める。
恐らく…これが私と彼の最後の語らいになるだろうから。

最後くらい、さいごくらい、彼には私との思い出は、最後くらい、良いモノにしておきたい。

「っほ、正直に言えばの…内緒じゃぞ?」
「わぁってるよ」
弱音を吐ける相手は私かおばあ様…奥様連合だけでしょ?
「想定外に辛かったわい、小物どもであれば何も問題ないっとな、戦場に立つまでは下に見ておったわい、でもな、現場は違う物じゃのう、鼠じゃったか?あれはうっとおしいの!草に隠れて見つけにくいわい!」
「あー、そうだよね、個体によっては小さいのもいるからね、草に隠れられると見失いかねない、大きい奴だと猫よりも大きいんだけどね」
「そうじゃよ、小さい獣の癖に驚いたわい、あの小さき肉体問うのに牙が鋭くての、自慢の鎧に傷をつけられてしまったわい」
「でっしょー?何回も何回も戦士達の鎧を修理してるんだから」
そういった小競り合いはあの大地じゃ普通、日常茶飯事。
「姫ちゃんに頼まれて、意気揚々と戦場へ出て見れば、現実は厳しいモノじゃったっというわけじゃな、ここが死の大地と呼ばれる所以を何度も味わわせてもらったわい」
だろうね、獣と人じゃ勝手が違うからね。
「息子さんが大変だった理由が骨身にしみた?」
「っほ、良い表現じゃ、老骨に堪えたわい…息子が戦い続けれたのが不思議で仕方がないわい、若さかのー?」
「才能じゃないの?」
「才能で〆れるような簡単なもんじゃないわ、息子が居た時は姫ちゃんはおらんのだろ?」
少しだけ声がぶれた、プライドを刺激しちゃったかも?
「そうだよ、私が来る前、No2とベテランさん、女将と…あ、あとは、ベテランさんの奥様が主要メンバーだったかな?」
「かのような流刑の地によくもまぁ、良き粒がそろったもんじゃ、あいつが金欲しさに仕事をくれっと相談してきた時に、この地を管理する名目で王に頭を下げねじ込んでみたが、まさかのー、こうなるとは想像もしてなかったわ」
偉大なりし戦士長の話?そういえば、お爺ちゃんから当時の話は詳しく教えてもらってないかも?
「どんなの想像してたの?」
「決まっとるじゃろ、この地に来た監督者は皆、自身が見た現状を曲解させ己の都合が良い様に報告して監督者として日々の賃金を得る、そういう仕事しか出来ない貴族達が多かったわ。決して多くの日銭を稼げるっとは言わんが、当時であれば直ぐにでも生活費をある程度稼ぐのであれば、下手な仕事よりも実入りは良いじゃろうし、あやつにも学べる部分はあるじゃろう、とな、そう思ってな~、王へ頭を下げたんじゃが…そもそもじゃ、あやつがわしに愛に生きると頭を下げた時から常々感じておった、あいつは真っすぐ過ぎるとな。親心っというやつじゃ、あいつもここでそういった狡賢い事でも学んで任期を終えたら王都に戻り嫁と一緒に、ここで学んだ狡賢さを生かし商売に精を出せばよい、そう思っておったんじゃがなぁ…」
期待を込めて送り込んだら、違う方向で結果を残してしまった。
「そう思って送り込んでみたらまったくもって違う形になっちゃってわけだね」
「驚いたわい、あいつの真っすぐさと胆力がこの様な結果になるとはな、献身的に真っすぐな尽力によってな、貴族達からこの街が大きく変わって行っていると小耳に挟んだときは、ある意味頭を抱えたわい、あいつはそこまで馬鹿だったのかとな」
そのおかげで救われた命は数多く、お爺ちゃんの思惑から外れていたとしても結果としては良かったんじゃないの?かな?
「純情一途、性根が真っすぐなのはお爺ちゃんの教育の賜物じゃない?」
「はは、そんなわけあるわけなかろうが、このわしじゃぞ?相手の虚を突き、相手のペースを乱し、正攻法を織り交ぜた邪道、それがわしの剣じゃぞ?」
こういった心の部分を褒めるとすぐにはぐらかそうとする。
「なーにいってんだか、私知ってるよ?純粋な剣のみで王国最強になってるのを」
「誰から聞いたのやらじゃな、大方予想はつくけどの、わしと当時はりあっていたあの馬鹿達じゃろうてな」
それだけじゃないけどね。
「良い人達だよ?ここに誘ってきたいくらいだけど」
「あ奴らの体型を見たことがあるじゃろ?あ奴らはもう武器は握れんよ、当時の鎧も兜すら入らぬのではないか?っかっかっか」
邪悪に笑うんじゃないってーの、当時と今じゃ食事事情も違うんだから飽食故に太るんだよ。
かといって装備が着れたとしても…
「そうだね、みっちりと半年以上は鍛えなおしてもらわないと、兎にも勝てないかな」
「ほほ、言うのう、その検眼、御見それしましたというのじゃったか?よく見ておるわい、お主にかかれば全てを見透かされてしまいそうじゃな」
「全てを見通せれるのならこんな状態になってないってーの」
「見通すと見透かすは違うじゃろて…」
細かい言葉の表現はにがてー私、学校いってないしー?にへへ
「はぁ、あと少し、あと少し、っと何度、思った事か」
溜息で私の頭の悪さを突くなよ?それとも、自分に対してとか?もしくは、そっち方面か?孫が近くにいるって言うのに、困った人
「若ければってこと?それってさ、どっちでの意味?」
「ここで、そう言った下品な会話をする気はないわい!孫ちゃんが隣にいるんじゃぞ?姫ちゃんはそういった話題が苦手なくせに引き出そうとするのぅ」
「にしし」
どうやら違ったみたい、てひひ。
「そこなタイミングから引き抜いた言葉を妻達に報告しとるってのを、わし、知っとるからの?夜の蝶じゃったか?今の表現は。時代と共に言葉というのは変化するのぅ、確か、記憶が正しければ、わしらの時は月のない微笑みじゃったかな?隠語して微笑を拝みに行くじゃったっけ?年齢を重ねると忘れっぽくて仕方がないわい」
文学的だねー、貴族らしいじゃん。
月のない微笑みってことは、当時は灯りも碌にないから…
ああそっか、そういうことね、フードで顔全ては見えないけれど微笑みだけは薄っすらと見えたってことか、月が無いから微笑みすらも見えないってことは、蝋燭や松明などをもって移動して、そういう場所で待っている彼女達と出会うと、小さな灯りだけで見えた薄っすらと見える微笑みを拝みにいくってことね。
「新月の夜、街灯も無かった昔、誰と誰が出会っているのかわからない、暗い夜道に見知らぬ女を連れ込むときの表現でしょ?まったく、何人の女性を悲しませたの?」
「さぁての?悲しませた記憶はないがの?皆喜んでおったぞ?懐も潤うからのぅ」
「はいはい」
ったく、さらっとぶち込んでくるなってーの。
「あと少しっ、そう思う日々が多い、そう感じるのが、一つ、息子が少しでも長引かせれば」
たぶん、No2が悲しみの果て、生きる希望を失った戦い…
それを少しでも、作戦の開始を遅らせることが出来たのなら、戦いを長引かせる方針へと切り替えていたらってことかな?
「二つ、あの馬鹿が事を起こすのが後少しでも遅ければ」
馬鹿ってことは、宰相のことかな?
宰相も宰相で少しでも王族として結果を残さなければ殺されるかもしれない状況だったんじゃないのかな?
強引にねじ込まれた王族って立ち位置だったような?
彼の事をよく思わない人も多かったから敵がだらけだったんだから仕方がないよ
「三つ、あやつが馬鹿に剣先を向けなければ」
現王であるアレが宰相の事を気に食わないのは想像するのも易しってね。
「何度も思ったわい、ほんの僅かでいい、全部が少しでも、不必要に、全ての準備が時間を食い…開始の時間がずれてくれていたら、そう、姫ちゃんがこの街に来るまで何も起きていなかったらっと、何度も思ったわい」
たられば、ってやつ、かな?
もしも、何て無いんだよ…それにさ、当時の私の年齢を考えて欲しいかな?
「無理だよ、当時の私じゃ、この街に来ても何も結果何て残せないよ」
「その頭脳をもってしてもか?その地位を全力で活かしたとしてもか?」
ってか、当時の私は聖女としての自覚なんて無いよ、お母様の日記を読んだりして何となく、本当に何となく察してはいたって、程度じゃないかな?
この街に来てからお母様が残してくれた日誌を読む様になって自分のルーツを深く知ることになったんだから。
「当時の私って12歳とかだよ?知識も経験も…全部浅かったし、当時の私は術式以外の事なんて何一つ興味をもったりしなかった、そんな私がこの街で何かいざこざが起きたとしても我関せず、関る気なんて無かったよ?」
「っふ、わしは、わかってるぞ、そう冷たく言うが、いざそういう状況になったら、術式の為、自分の為と己に言い聞かせながら、立ち上がり、皆を導くのじゃろ?」
「それこそ、聖女としてっとでも言いたいの?買いかぶりすぎ、私は聖女じゃない、何処にでもいる…命短し恋せよ乙女だよ」
実際問題、過去の私が当時に状況に巻き込まれたとしても、遠巻きに見てるか、大人たちが関わらせないようにしてたと思う。
今の私、その全てが揃って居れば、話は変わってくるだろうけどね。
「はは、良いなその言葉、お主にピッタリじゃ、恋はわしにしとるんじゃろ?じゃろ?」
「してないってーの、奥様に言いつけるよ?手を出されたって」
…若い頃は恋なんてって思ってたけれど、今の私だったら当時に感じていた小さな感情に気が付いていたかもね?
「やめてくれ!姫ちゃんに手を出そうものなら息子の嫁さん達にも責められるわい!!」
「そうだね、息子の嫁さん達全員から怒られるだろうね?」
「まったくじゃ、この街にも、王都にも…あの二人だけは敵に回したくないわい」
特に、No2と団長のお母さんってことかな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】温かい食事

ここ
ファンタジー
ミリュオには大切な弟妹が3人いる。親はいない。どこかに消えてしまった。 8歳のミリュオは一生懸命、3人を育てようとするが。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

異世界ラーメン屋台~俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい~

橘まさと
ファンタジー
脱サラしてラーメンのキッチンカーをはじめたアラフォー、平和島剛士は夜の営業先に向けて移動していると霧につつまれて気づけばダンジョンの中に辿りついていた。 最下層攻略を目指していた女性だらけのAランク冒険者パーティ『夜鴉』にラーメンを奢る。 ラーメンを食べた夜鴉のメンバー達はいつも以上の力を発揮して、ダンジョンの最下層を攻略することができた。 このことが噂になり、異世界で空前絶後のラーメンブームが巻き起こるのだった。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

処理中です...