最前線

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Cadenza 花車 ⑰

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その一連の流れに覚えがある…
まさか、女将が私にしたように魔力の塊を彼におと、したってこ、と?

全身の皮膚から汗が飛び出す!その行為が危険だと私は知っているから!!
魔力譲渡法は加減を間違えると!魔力が外に流れ出ない様になっている弁の部分が破損するってーの!戦士としての寿命がこの瞬間終えちゃう!!

焦って腕を伸ばすが時はすでに遅く…
せめて!彼の命をすく「お?ぉぉ~?」戦士が目を開き変な声を出したので、彼の傍に駆け寄ろうと力強く握りしめた車輪から手の力を抜きゆっくりと車輪を回して寝ている戦士の顔色を確認するために近づこうと車輪を動かそうとしたら
「よっと、助かった、我が友よ」
「何、今の吾輩にとってこの程度造作も無いのである」
ガチャガチャと鎧が擦れる音を出しながら何事も無かったかのように軽快に立ち上がって床に置かれている先ほどまで握っていた鉄剣を手に取り此方に向かって歩いてくる?
近づいてくる戦士の顔を見ていると顔色は特に問題ないけど、なんだろう、苦虫を噛み潰したような表情で私の横を通り過ぎていく
「これは、俺には過ぎたるものか」
車輪を回し彼の後ろ姿を見つめると、鉄剣から魔道具を外して木箱に戻している、その背中がとても悲しそうに見える。
そんな彼を慰めるために
「魔力を飛ばすっていう感覚は掴めた?」
戦士として前へ進めたのではないかと悲しい背中に投げかけると
「…試しに一振りしてみるか」
剣を構え先ほどと同じように意識を集中し始めるのをみて
魔力を消耗したばかりだからそれ以上は危険だってーの!そういうつもりで言ったわけじゃないってーの!
慌てて止めようと手を伸ばすと
「いや、無理だな、体の中に流れる魔力を感じることが出来ない」
そっと手に持った剣を下ろし、切っ先が地面に触れ
「ここでもまた、才が無いと、現実を突きつけられるのか」
見えた横顔がとても悲しくとても寂しそうで、そして、何処か諦めついたような表情してるけど、彼の言葉は否定しないといけない。

いやいや、才はあるよ!!
才が無ければ長年、死の大地で戦い抜くことなんて出来ないし!
何よりも補助魔道具があったとしても魔力を飛ばすってのは簡単に出来るモノじゃない!
ベテランさんが簡単そうにやってのけたのも、魔石によって体内に魔力が満たされているのと、魔力を体外へと放出する器官を強引にこじ開けているからであって…普通は、補助するための魔道具があったとしても一目見て出来る物じゃない。

情けないっと呟き、項垂れる様にしている彼はまさに魔力欠乏症の症状。
魔力を大きく失ったから気持ちが奮起しないのだろう、これはよくない、少しでも心に活力を与えないとね!

「才が無いなんてことないよ、さっきのだって誰でも簡単にできる事じゃない、何よりも」「皆迄言わないでもらおう、慰め…」
言葉を遮りるように呟きながらも、視線が此方に向き
「ではないのか。その言葉が真であると姫様の表情が語ってくれている。そうか、そうなのか、真を見抜く目を持つ姫の言葉、だからこそ、俺は、心からその言葉を受け止めよう」
心配かけたと言わんばかりに一瞬だけ笑みを此方に向けてから、顔を上げ天を眺めている。
魔力欠乏症ってのはちゃんと対処しないと次の日にも影響出ちゃうからね。
「あと、魔力が体内から一気に消費された影響としてね、気持ちっていうか、心が良くない方向に向かっていくことがあるから、嫌だと思っても気持ちが向かなくても絶対に!早めに!魔力回復促進剤を飲んでね!病棟に行けば直ぐに処方してもらえるからね」
魔力回復促進剤っという言葉に一瞬だけ体が震えたのを私は見逃さない
戦士達一同誰しもが飲まなくてもいいのなら飲まない飲みたくない口に入れたくない品の一つだからね。逃げるなよ?
これ以上この場に居るとその場で飲まされるのではないかと背中を向けここから離れようと、逃げようとするので
「ダメだよ?絶対に飲んでね?逃げちゃだめだよ?」
天を見上げていた頭は念押しされたことにより地へと向けられ、小さく首を横に振っている。
「どうしても辛いのなら医療班の誰でもいいから、魔力を分けてもらってね」
一応、希望を示してあげると
「それを望みたいものだ」
溜息と共に歩み出そうとしている戦士の後姿に
「吾輩が魔力を渡しても構わぬのであるが?何か問題でもあるのであるか?」
悪友としては、大変ありがたい申し出かもしれないが!それを許すつもりは無いからね!危険な真似は止めて欲しいかな!
技術的な部分って事なら無茶をしないベテランさんの事を信用してないわけじゃないけど!

そういうのは専門の人がするべき!
ぶっつけ本番でさっきは出来たから次も問題なく出来ると思うな!
命にかかわることに関してはプロに任せるのが道理!

此方の意思が伝わったのか悪友はその申し出に対して首を横に振り
「友よ才ありし友よ、最も前、全てを終わらせれる資格を得た友よ。我らが幼き頃に憧れた英雄譚をその手で描くために」
ベテランさんの方へと体を向け腕を伸ばし
「最前線は、戦士一同の前へお前が歩め、俺の、俺達の想いを背負って…」
手に持っていた鉄剣を横向きにし、持ち手をベテランさんに渡す様に彼の前に突き出すとベテランさんも彼の想いを受けとめるように、厳かな雰囲気で鉄剣を受け取り。
「託したぞ」
「ああ、任せろ」
ベテランさんの言葉に満足したのか小さな笑みを浮かべ鎧が擦れる音を響かせながら静かに修練場を去って行った。

二人去っていく背中を見つめているとポツリと小さな声が聞こえてくる。
「この場所で古き戦士と共に居たからなのか、思い出したのである。戦士長が夢見ていた一節を…かつて、酒の席で一度だけ零した言葉があるのである」
遠く遠く見えなくなった背中に向けて静かで落ち着いた声が彼の積み重ねてきた年季と共に修練場に沁み込んでいくような、そんなトキの流れを感じるような雰囲気が伝わってくる
「それだけじゃない、どうして吾輩は、忘れていただろうか」
見えなくなってしまった背中から渡された鉄剣へと視線を移し
「この様な状況になってからでないと、戦士長の言葉を思い出せれなかった、吾輩は…いや、僕は、槍が得意だった、槍さえあればどんな敵でもどんな人でも勝てると思っていた。けど、それは違った、狭い場所だけの真実だった。広い場所に来て新たな真実を知った、見た、肌で感じた。新たな場所、この場所で戦士長の武を見て…憧れた」
彼の瞳には過去に起きた全てが思い出されているんだろうね。
私の知らない世界、私が関与できない世界…
「彼の背中に追い付きたくて槍ではなく剣を取った。あの日から何度も何度も彼の部を目指して剣を振った。その姿を見て戦士長は僕に得意な分野を伸ばすことを進めてくれた。その言葉を信じ剣だけではなく得意であった槍も振った。どんな日も、どんな時も、何度も何度も…気が付けばそれだけじゃなくなっていた、練習し続ける戦士長が色んな事を手取り足取り教えてくれた、その日々が今も、僕の中で輝き続けてくれている。戦士長が教えてくれる全てを僕は振り続けた」
静かに、静かに…憧れの人に恩を感じてる人に、今までの歴史を報告する様に真っすぐな声が修練場に溶け込んでいく。
そして、修練場には新たな影がやってくる。
幼き曇り亡き眼で語りを続けている人物に新たな影は正面から真っすぐに向かっていく。
そう、この修練場には、そう、偉大なりし戦士長が育てたのは彼だけじゃない、彼と共に切磋琢磨した人物が他にもいる、彼と共に歩んだ生涯のパートナーがいる。

彼の者の弟子が静かに愛する旦那に向かって歩み寄っている。
二人の物語を静かに見守り続ける。

「いつか、彼の隣に…立てると信じていた」
「貴方の武を見てきた私が保証します、隣に立てています」
愛する旦那の言葉に合わせるように
「僕の…俺の剣は貴方の背中に追い付けたと思えた日が無い」
「私達の愛の結晶である子供達の前で何度も披露してくれた演武、何時だって綺麗で無駄のない素晴らしいモノです、我らが敬愛する戦士長と同等なほどに洗練された動きでした」
彼の言葉を否定する様に近づいていき
「吾輩は、零した言葉に挑む勇気が無かったのである」
「でも、今は違います、私達は彼が零した言葉に挑みます」
今もなお、託して行った友の背中を見つめ続けようとする愛する旦那の隣に立ち、同じように遠くを見つめ静かに胸を張るように息を吸い込んでいき
「「我ら!敬愛する偉大なりし戦士長が言葉を」」
「ちょ!あたいを置いて宣言すんなってー!!」
二人が声を揃えて天に向かって叫んだ言葉に割って入ってくる大きな声。

この流れを見て私も遠い空を見て何処かで聞いているであろう先生に願いを込める、耳に栓をいれてもらえませんかとお願いしてみる。
この流れは、止められない、私では止めれない。

どう考えてもこれから行われるのって開戦宣言じゃん…
そういうのは止めて欲しいけど、しょうがない。

皆を鼓舞し士気を高めるためにこういったのをやる予定は無かったんだけどなぁ…

戦士達が自発的に行う、己との向き合う時間、そういうのを止める事なんて出来やしない
彼らには…未来を捧げてもらったんだもん。

天を見上げているとドスドスと大きな大きな足音が近づいてくる
視線を音のする方へと向けると涙が溢れ出てくる、だって、かれの…あの剣がまた、ここにきたんだもん、私だって、感極まることがあるってーの…
彼の魂、どんなことが有ろうと折れない、曲がらない、敵を断罪する、それを体現した鉄の塊が修練場にやってくる、愛する人達の意思を背負ってくれた人が、ドスドスと大きな大きな足音を出しながら背負いし者…女将が走ってくる。

不思議だね、彼女が持つと、あの大きな大剣が小さく見えてしまう。
…どんなことが有ろうと曲がることなく、どんなことが有ろうと砕けることが無い、私達の願いを具現化した■■■くんの大剣

大剣と共に駆けこんできた女将が二人の後ろに立ち私達の意思を示すかのように大剣を地面に突き刺し
「我ら!」
「敬愛する偉大なりし戦士長」
「その言葉を」

「「「背負いし者たち!彼の者の願いをここに!この大地を獣共から解放する!!」」」

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