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Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 6

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─ 月の光が届かない木陰の中、一人、何も考えず揺れていた。
「…」
涙を流すことなく一人の女性がハンモックに揺られ、自身の腕を胸の前で揃え何かを抱きしめるような形でを上半身を丸めている

彼女の中を通り過ぎていく、彼との思い出。
楽しかった日々、辛かった日々、色んな思い出がある。
その一つ一つを大切にしまい込む様に少女は、大人へと生まれ変わろうとしていた。
さながら
ひとつの繭の中にいるように体を丸めて。


「不思議」
自分で言葉にする、してしまう。
それくらい、自分の心が、あの時みたいに波打ち荒れ狂う事が無い。
私にとって彼という存在はそんなにも小さなものだったのだろうか?

ううん、そんなことない。

初めて会った時から、どうしてかわからないけれど、目が離せなかった。
自然と彼の事を目で追ってしまっていた。
それが恋の始まりだと、私はわかっていた、でも、すぐに受け止めれなかった。

うん。
初めてみた時は周りの環境が変わりすぎて運動量が多すぎて、それどころじゃなかった。
少し落ち着いてから、彼に恋心を抱いて目が離せないのだと分かった。

日を重ね月日を重ねて彼を見かける度に目で追っていた、ある日、気が付いた。
彼の姿を見ていると何処か見覚えがある、そんな不思議な感覚がして気がついちゃった。

私の初恋、っと思う人。
彼は似ている、似ていた。

小さなころに、私が、子供の頃。
ご近所さんの大人達に誘われて教会の掃除に参加した時
そこで私は、出会った…初恋の人。

彼は、少しだけ、ううん、他の人達と違っていた、雰囲気も顔も何もかも他と違っていた。
彼は、私達じゃ触らせてくれない教会の楽器を特別に触らせてもらっていた、教会からも特別な男の子。
私達が掃除する場所は椅子とか床とか窓を掃除したりするけれど、彼だけは違っていた。
彼だけは教会の楽器を掃除させてもらえてた。

特に、羨ましいとか彼だけが特別なんだっとか、ずるいっとか、そういうのは思った事も無かった。
だって、私達は楽器に興味なんて無かったから、むしろ、掃除するのが難しそうで触りたくなかった。

そう、私達は楽器には誰も興味を抱くことが無かった。

うん、あの時は確か…大人たちは連れてきた私達を教会に放り込んで何処かに行ってた。
一緒に連れてこられた男の子たちは掃除が嫌いだから基本的に掃除には参加しない
怒られたら掃除をするって感じだけど、司祭様以外、誰も怒らない。
だから、男の子たちは外で遊んでることが多かった。
他にも、一緒に連れてこられた女の子たちは掃除を手早く終わらせてから、シスター達と色んな相談をしていた。

私は…外で遊んでいる男の子たちと遊ぶことも無く、彼女たちの会話に参加することなく、ただただ、聞き耳を立てていただけ。

ううん、違う。

本当は楽器を掃除している男の子の近くに居たかったから。
楽器の掃除が終わった後は、彼は楽しそうに楽器を演奏、ってわけでもないのかな?
今にして思い返すとあれは演奏ではなく、楽器から音を出してるだけ

演奏ではない、そうだとしても、私は…彼が楽しそうに楽器に触れている姿を見るのが好きだった。
掃除をしている姿を見るのも、終わった後に楽器から音を出している時を見るのが、好きだった。

今にして思えば、私って、何かに夢中になれる人が好きだったのかも?

うん、やっぱり、あの男の子が私の初恋だとおもう。
その、私って色んな人を好きになることが多かったから、どれが初恋なのかちょっと自信がない。

あの男の子が私の初恋だとしたら、幼き頃の僕が憧れていた恋物語…私の、恋は終わった。
初恋の人に似た人、だから、彼に恋したのかもしれない。
幼き頃の僕が、引きずっていた淡い恋心、恋の物語を彼に重ねてしまったのかもしれない。

だとしたら…この恋は実ってはいけなかったのかもしれない。
だって、私は彼に初恋の人を重ねてしまっていただけだから、彼を、ティーチャーを見ていなかったことになってしまう。
…そんな事ないって、思うけれど、彼にとって見知らぬ誰かと重ねられてしまうのは不本意だと思う。

彼の心を私は尊重したい。

彼という人がらを知っているからこそ、我儘を言ってはいけない。
私の願いを強引に彼が納得するまで強く言えば、彼は悩み受け入れてくれるかもしれない
でも、それは…違う。

お互いが好きになったからこそ支えあう、それが恋を経て愛になる物語。
私はまだ、恋をしているだけ、愛へと紡がれる物語には辿り着けていない。
でも、彼はもうそのステージに立っている…

私は、そのステージにはいない、そう、私は、彼が演奏する音楽を見る観客
私は、彼の物語に引き寄せられた観客。
うん、それでいい。恋しか知らない私は、彼の恋物語に触れれただけで満足。
私と違って彼には紡がなければいけない物語がある、想いを紡いでいかないといけない相手が居る。

…彼だけでも生き残ってくれると嬉しいな、ううん、頑張ろう、そういう未来を掴まないと

気持ちの整理も完全についた終わった。
ここに居ても…もう、ここにくることはない。
ハンモックから下りて背筋を伸ばす
月の光が此方に微笑んでくれたような気がした

「っさぁ~てっと…うん、お姉ちゃんのお世話にいこうかな」
両の指を後ろで組み、空を見上げるようにし地面を小さく蹴る。
ここに、全部置いていく、私の気持ちは…

不思議と足は軽かった、不思議と涙は零れなかった、不思議と

心は澄み渡る空のように晴れやかだった。

今日は月が綺麗、何時もよりも輝いて見える。
月の灯りが足元を照らしてくれる、何時だったか忘れた、でも、覚えてる言葉がある

月が私達の道を照らし未来へと続いてく

何処だったろうか?覚えていない。
月は私達にとって神聖な存在、何時からそういう風に言わてるか何て、わからない、どうしてなのかも知らない。
でも、伝えられているってことは、何か伝承やきっかけがあるのだと、思う。

過去があるから未来がある。
そういうのって良いよね、私も過去があったから、夢を見ることが出来た。

きっと、お月様の事をそう感じた人が居たんだと思う。
どんな人がそんな事を考えたのだろうかと、うーんっと、腕を組んで考えてみても学が無い私には何故そうなったのかも、誰がそんな事を考えそうなのかも、思い浮かぶことが無い。

こんな些細でどうでもいい事を考えれるくらい、気持ちが切り替えれている、私の心は彼との一件に引っ張られていない。
ただ、こんなにも気持ちが晴れやかになるなんて思っていなかった。

ここ数日、胸の奥に、心の…何処かでずっと暗い気持ちが住み着いていた。

原因は言わなくても解ってる、教えてもらわなくても知ってる。
私が…この先で死ぬ…避けることが出来ない未来。

そんな未来が目の前に迫ってきていた。
目の前に抗うことが出来ない怪物が居たら誰だって怖くて震えてしまう。
でも、もう、何も怖く感じない。

これが、悔いを残さないってことなのだろうか?
だとしたら、お姉ちゃんの言う通り、動いてよかった。
心に靄がある状態で命を燃やす事なんて出来るとは思えれないから。

…お姉ちゃんも、そう言う気持ちでお兄ちゃんの部屋に行ったのかな?勇気を出して。

お姉ちゃんとお兄ちゃんの事を思い出して、少し体が熱くなってしまい、頬が熱くなる。
木々の下から出ると眩しい程に輝く月明りと共に風が通り、熱くなってしまった体を優しく通り抜けていき冷たい風を心地よく感じてしまう。

鼻から大きく息を吸い込むと冷たい空気が肺の中に満たされ体の内側から冷やされる、そんな心地よさを感じ、腹式呼吸もついでにすると
「お腹空いた」
お腹が小さく鳴る。
お姉ちゃんは寝てるだろうから急いで向かう必要もないし
食堂でご飯でも食べてから、いこうかな

月の光に包まれながら何度も何度も歩いた道を歩こうと
足を前に出すと
「団長!!」
メイドちゃんの声が聞こえ、建物の影から駆け寄ってくるので足を止める。
何かあったのだろうか?
彼女の声から緊張が伝わってきた
もしもに備えて身構えると
「探しましたよー!」
両腕を伸ばして飛び込んでくるので優しく腰に手を添え飛び込んでくる彼女を抱きしめる
「んもう!もっとわかりやすい場所にいてください!」
胸元におでこを擦り付けるように何度も何度も小さく頭を振られてしまう。

この感じだと、何かあったわけでもない、ただ、私を探していた、だけど、見つからなくて怒ってる?って感じ、かな?

探させてごめんねっと彼女の背中を撫で続ける。
もしかしたら、メイドちゃんは私が直ぐに戻ってくるのかと思っていたのかな?
振られるの、わかってるから。
彼が私の気持ちに想いに応えてくれないとわかっていたから。

失恋した私が直ぐに戻ってこなくて心配して探してくれたってこと、かな?
「はぁ…いい匂いですぅ」
「お風呂入ってないから嗅がないで!」
彼女の肩を掴み、もう!っと小さく文句を言いながら体を引きはがすと
「泣いてたの?」
彼女の瞳が潤んでいるし鼻の先が赤くなってる。
「はい…泣いてました」
何があったのだろうかと、滅多に涙を流さない彼女が涙を流したのだとすると、もしかしたら、私が離れている間に怪我でもしたのではないかと、顔を近づけて診察をすると

彼女の顔が近づき頬にキスをされてしまう。
「隙ありです」
「ふふ、くすぐったい」
親愛の証しだっけ?挨拶だっけ?何処かの国ではそういう挨拶をする。
きっと、メイドちゃんもしてみたくなったのだろう。

だって、今夜は月が何時もよりも輝いているから。

「ねぇ、団長」
また抱き着く様に顔を埋めてくる
「結果、聞きたいんでしょ?」
顔を見て話すのが、辛いからこの方が話しやすい
「ダメだった、彼は、他の人達みたいに多くを愛せない、だって」
「そう、ですか」
自然と彼女を強く抱きしめてしまう。
彼女が苦しいかもしれない、そんな事を考える余裕がなくなってしまう。
思い出してしまうと胸が締め付けられてしまったから。
「団長の気持ち、私、わかります」
振動と共に伝わってくる吐息が熱く、冷たい空気と共に冷えてきた私の体にもう一度、熱が籠っていく。
「ありがとう、慰めてくれて、メイドちゃんは私にとって」
「友達ですか?」
友達だよって言おうと思ったんだけど、先に言われてしまう
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