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偉大なる戦士長に捧げ!乾杯!

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人の過去の話をきくと、ふと、自分の過去を思い返してしまう。
こうやって、冷静に、今と昔の自分を比較が出来て、達観して分析できるくらい心に余裕が生まれるようになったのも。

その大部分が姫様のおかげだと思っている、多分、だけど、私の体を疑似的とはいえ女性らしくしたのも、自分の中にある永遠と取れない違和感をなくして、誰の目も気にしなくてもいいようにして、その結果、心の余裕を与えることによって、自分を含め周りを冷静に見渡せるくらいの余力を持ってほしかったのだと思う。

それによって、改めてしっかりと周りを見渡して、貴女をどれだけの人達が気を使ってくれていたのかを認識しなさい、そして、できれば、その全てを理解してほしいという願いがあるんじゃないかって、今ならわかる。

本当に、いろんな、いろんな人が気を使ってくれていたのだと、心から身に染みてきて、出会う人たちから、大事に大事されてきたんだと実感する。

前々からちょっと疑問に思っていたんだけど、私が王都に行くのを、何かと理由をつけてダメだよって釘刺されていたのはこういう背景があったんだね。
実家に帰るのはいいけれど、王城近く、ひいてはお爺ちゃんの家に行かないように言葉巧みに誘導されていたと思う。

でも、今回は違った、ついてくるのを見守るように、少し前を歩きながら守ってくれていたんだと感じる。本当に叶わないなぁ。

守るつもりでいたんだけど、本当は、守られていたなんて思わないよ。


一人で感傷に浸っていると、軍務大臣が、慌てて駆け出して、ある方向に向かって頭を下げ始めたので、誰か偉い人が来たのだと身構える。
見える範囲に来た人物は、姫様だった。ほっとして、警戒を解く…

っは!ほっとしてないで、私も駈け寄らないと!護衛!なんかいろいろとあったけど!当初の目的は護衛じゃん!ここで、何かあったら元の子もないじゃん!

ドレスが汚れない程度に、乱れない程度に慌てて駆け寄るけれど、姫様の横にはしっかりと親戚の近衛騎士が傍にいるし、いつの間にか後ろにはお爺ちゃんがいて、がっちりと警護していた。

その完璧なフォーメーションを見て、私がすべきことを考える。
うん、間近では、やることないので、警戒範囲を広げて、ソナーの役割を担おう、術式で鼓膜を強化、拾う音域を調整、うん、こんな感じ、近くの音を拾うのはこっち側の耳でして、反対の耳はやや距離のある音を拾うようにする、苦手だけど、やれないことはない。

軍務大臣が、涙を流しながら姫様に感謝の言葉を述べていた。
やり直すきっかけをいただけて心からの感謝を述べている。
貴女には多大な迷惑をかけてしまって申し訳ない、どんなことがあっても貴女を守れるようにします。っとか、そんな感じの内容、などなど…

たぶんだけど、話の流れから、察するに、ずっとずっと心の蟠りが残ってて、この人も、停滞していて、心から前に進めなかったんだと思う。
職位や、地位だけは、当初の目的通り進めたけれど、

自分の一番欲しいものが、欲しかった世界が遠のいてしまって心と現実が乖離していく感じがして、目的を見失いかけていたんだと思う。

まぁ、だからといって今更、お爺ちゃんです!って言われても、正直に言うと困る。
何一つ思い入れがないし、関りが無かった人だから受け入れがたいし!どう接すればいいのかわかんない!いきなり家族面してこられたらどうしよう?どう、接すればいいのかわかんないよね?

きっと、刻が解決してくれるさ、きっと、ね?…べ、別に逃げてないんだから。ね?

姫様も、軍務大臣の様子から丸く収まったのだと察したみたいで、良いんですよっとか、これからは、人類の為に一丸となりましょうっとかさらっと、洗脳めいたセリフが聞こえたけれど、聞こえないようにしよう。

考えたくないけれど、もしかすると、ね?…敵の一派に通じてる可能性があったんじゃないの?軍務大臣っという名のお爺ちゃん…

一瞬浮かんだ自分の言葉に脳内に電流が走る!

ん?え、ちょっとまって、冴えわたる私の迷推理!?

…王様と通じていて、姫様が潰したくても潰しにくかった人物
…うわぁ…全部の条件、あてはまってんじゃん…

ぁ、もしかしてお母さん、それも知ってる?だから、尚更、怒りをあらわにしてる?家の問題だけじゃないから?
ってことは、お爺ちゃんがすかさず、姫様の護衛に後ろに回ったのも、軍務大臣が乱心したときに備えての可能性高い?

…うっっわ、気づきたくなかったぁあ!!!!

いっつも、迷推理で察しが悪いって言われる私でも、たどり着いちゃったじゃん!お願い!この推理は迷推理であって、ほしいよぉ!!

さらに、気が付きたくない部分にも意識が向かっていくのがわかる!そして、気が付く!服の意図ってこれで確定じゃない?
姫様の身内、つまるところ、お母さん!その人の形見に近い、っていうか、形見でしょそれ?そして、今は、もう作り手のいない遺作…
姫様の家庭は確実に上流貴族、王家との繋がりはありそう、つまりは、姫様のお母さんの姿とか服装は知られている…

それを着て、王都入りする、絶対的に通る道がある、当然、何処かでその道は監視しているであろう。
敵の目線からみて、確実に、そんな大事な服装を着ているのは、姫様の身内にしか見えない?
うん、普通に考えれば、姫様の親族って思うよね?だって、普通に考えたら、姫様の大事なお母様の服を赤の他人が着るとは思わないじゃん?

つまり、私という存在を隠すためだ…うん、これは私を使って王国に対する一揆を防ぐためで、尚且つ、軍務大臣からの攻撃対象を見誤せる為か!
姫様の顔はわかるけれど、遠目から見てみると顔の細部までは見えないから、大まかな服装で判断しないといけない場合もある。
その場合だと、対象が二つになってしまう、であれば狙撃はしにくい?うん、普通に考えれば形見に近い服装を親族にも着せるかな?って思う部分もあるから、迷うよね?

思い返してみれば!そして姫様の服装はどこにでもいるような普通の服装だった!いつも通り過ぎて気にも留めていなかったけど、貴族の好む服装じゃない!!
私のほうが貴族のご令嬢にしかみえない!!

あ、だから盾なのか、意識をそらす、惑わすためか…

何か他にも意図がありそうな気がするけれど、帰り道にでも聞いてみよう

ちらっと姫様のほうを見ると、
軍務大臣との話も終わって、軍務大臣は晴れやかな顔をしている。よかったね、憑き物が落ちて、出会ったときは眉間に皺を寄せて、怖そうな人だなぁって思ったけど、こんな数十分で人って変われるんだ、すごい好印象なお爺ちゃんにしか見えなくなってる…

神経を尖らせて術式も使って狙撃などを警戒していたけれど、何も反応がないので、警戒を緩める。
ぇ?考え事していて大丈夫なのかって?
考え事をしていたって、何か音があれば即座に反応できるくらいは私だって、できますー!

あーもう、ほんっと、いろいろとありすぎて頭がこんがらがるぅ…

何事もなく、来賓室にはいって、、来賓室に入った時の服装に着替えて、外に出ると軍務大臣が待ってて、お母さんとに「今度会いに行ってもいいのか」って聞いていたけれど、
お母さんが「私服でなら、いいですよ、ちゃんとお母さんにもあってあげてね?」って、私たちに向けて言うような優しい、いつもの笑顔で返してあげると軍務大臣がまた泣きそうになっていたので、面倒だと判断したのかそそくさと「またね」っと言いながら王城の玄関へと歩を進めていった。

出る時も軽く持ち物のチェックをするけれど、帰りは入るよりも簡素にさらっとチェックも終わる。
まぁ、このメンバーで盗みなんて働く心配なんてないし、さらっと全荷物をチェックして終わりだよね。

歩いて、お爺ちゃんの家に到着したら姫様も、ようやく気が抜けたのか大股を開いてドカっと「ああぁぁぁ」っと声を漏らしながらソファーに座るっとうか身を投げ出す、その姿を見て、取り合えず、開いた足をささっと閉じる、人の家!恥じらいをもって!

「もう、疲れたぁ、二度と行きたくないぃー」

全力で心の疲れを漏らしていると、それを聞いたお爺ちゃんが困り顔でどうしたらいいのかと悩んでいると、お祖母ちゃん連合がささっとテーブルの上に王族御用達の極上のケーキを置いて、香り高い紅茶をセットしてくれた。

すっと、姫様の隣にメイドちゃんが座って、ケーキをフォークで綺麗に切ってすくって、姫様の口に運んでいる…自分で食べなさいよ、もう、恥ずかしいなぁ…

姫様の心が落ち着いたのか、紅茶が飲みたかったのかは知らないけど、ソファーに投げ出した体をゆっくりと起こして、紅茶を一口飲んだ後
「そういえば、謁見の間であり、玉座の間でもある出来事、話してなかったよね?」聞く?っとこちらに視線を向けて聞いてくるけれど、それはあれかな?聞くと後に引けないやつ?巻き込まれるやつ?確認が必要ってことはそうだよね?

「ん、あ!大丈夫、世間話だから」

こっちが、返答に悩んでいたらすぐに私が考えていることがわかったみたいで訂正してくれる。
世間話程度なら聞いてもいいかなって思ってると、お爺ちゃんが困った顔をしている、なんで困ってるのかなって一瞬思ったけど、立場を考えたら納得、王族が正式な場である謁見での会話を世間話ってレベルと捉えてしまって、更には、あっけらかんと言うものではないっていうのがわかった。心中お察ししますよ。

姫様が語った謁見での会話を簡潔に言うと

褒美として領土を押し付けられました
場所は、毒猿によって汚染された湾岸地域
それに伴い、貴君に爵位を授けるのが習わしではあるが、既に爵位を断っているので、最前線の街が管理している管轄エリアが増えたと思って統治せよ

以上

これをさらに、一般市民である団長用に嚙み砕くと

毒によって使えなくなった街が、最近、うまれたんだよね~。
それってさぁ、君が、戦闘指揮を執った結果じゃないの?だから、責任をもって解毒してね、わかるよね?言ってる意味。
再度、人が住める大地、人と共に歩める生き物達が住めるようにしろってこと。

援助?はぁ?しないよ?するわけないじゃん、だってさ君、お金持ちじゃん。
君がやったんだから、君が治すのは当たり前じゃない?敵がやった?そんなん知らんわ。

あと、君ってさ、いっぱい人類の為に功績作ってくれて、国としてはありがたいけど、責任ある地位には来たくないんだよね?
爵位いらないって言ってたからさ、爵位はあげないよ?永遠に、君が断るのがいけないんだからね?
君個人じゃなくて、あの街、限定の特別な!自治区として認めてあげてるんだから、それぐらいやってよね?

これに懲りたらちゃんと、これからは「はい」ってだけ返事してね?

だって

あ、お爺ちゃんの眉間に特大な皺ができてる、握っている拳から殺意が湧いて出てるよ?いいの、相手は守るべき王族だよ?宥めてもらえるようにお祖母ちゃん連合に視線を移すと全員から殺気が漏れていた

「あんの糞ガキがぁ、未だに王族とは、どういうものなのかわかってないのぅ」
お爺ちゃん?相手は王族だよ?その発言は不敬罪にならない?

「あいつは、一度懲らしめてあげないとダメだねぇ」
お祖母ちゃん連合からも不穏な声が聞こえるけれど

あれだね、今の王様、人望ゼロなんじゃない?そりゃ、一揆されても文句はいえないねぇ…いや、しないけどさ。

うん、それだけの内容をクドクドと、ねちっこく30分以上もかけて言われたらそりゃ疲れるわな。

お勤めご苦労様です…

それにしても、たった、本当にたったの、これだけの内容を聞くだけで理解したよ、こんな奴の為に戦いたくねぇって思っちゃう人がでてくるのが。

もしかしなくても、最前線の街に志願する貴族の一族ってこいつと関わりたくない人が流れてきてるのかもしれないねぇ。
帰ったら後輩に美味しい薫り高いお茶に、高級なお茶請けでも用意して労ってあげよう。

そのあとは、護衛に来てた戦乙女チームも一仕事を終えて、休憩時間ってことで、何か買い物をしに街のほうに出ているので帰ってくるのを待ちながらゆったりと過ごす。

帰るのが遅くなるとしても、あの大きな車だったら全員、乗ろうと思えば乗れるから、まぁ大丈夫だろうと思っていたけれど、お爺ちゃんとお母さんが送っていくと提案してくれた。
提案してくれたのは嬉しいけれど、お爺ちゃん年でしょ?明日の仕事に影響でない?大丈夫なの?ほぼ引退したようなものだから、問題はない、お母さんも納期が近い仕事は軒並み連絡を貰った瞬間に大急ぎで終わらしたので、一週間くらいは仕事しなくても平気。

でも、遅くなると帰りは大変だよ?あ、そっか、向こうの街で一泊してから帰るっていう選択肢もあるのか、私の部屋に泊まる?お爺ちゃんはちゃんと来賓室があるのでそこで寝てね♪
それを聞いた、お爺ちゃんはウキウキと軍服を脱いで私服に着替えてから、車の準備をしようと向かったので、何か手伝えることあるかな?っと後を追うことに。

魔道車の構造や原理は詳しくないけれど、魔石に魔力を溜め込んで動力にしているのは知ってるので、体内を満ちて循環している魔力量を目を閉じて確認する、うん、余力十分、魔力も余裕をもって余ってるし、魔石のチャージ手伝おうか?って聞くと、ガバっと魔石が詰められている魔石タンクのある場所を開いて確認すると、すでに満タンだった。

「大丈夫、すでに使用人がチャージしてくれとる」だって、優秀すぎる。

程なくして、ただいま戻りましたー!っとキャイキャイと高い声の三人衆が嬉しそうに帰ってくる、お目当ての品物が見つかったみたいで上機嫌だった。
私も何か買いに行きたかったけれど、また今度でいいかな、時間を見つけて、お母さんと一緒にお買い物に行こう。

…そう考えると車を購入するのもいいよね?最新モデルみたいなやつじゃなくても安くて魔力消費が抑えれられたいいやつあるよね?今度、車に詳しい人に聞いてみよう。

戦乙女チームも装備を外して、車に積んでいく、車の屋根の部分に乗せれるものは載せて運ぶようで、結構、買い物を楽しんだみたいでかなりの量が積まれている。

帰り道は休憩をすると時間が掛かりすぎてしまうので、途中の休憩は、なしで!緊急事態が無い限り、ノンストップで最前線の街に向かうことに。
帰りの車はみんな疲れたのか話そうとしない、静かだし、姫様に、色々と疑問に思ったことや、今後のことで先に聞いておいていい話があれば聞きたいと出発前から思っていたので聞こうかとおもっていたんだけど、ウトウトとしている、戦乙女達も装備を外していたし、帰り道は本当に安全なのだと、思う、色々と気を張り続けたから気が抜けたから眠くなってしまったのだろう。
姫様の肩をたたいて、自分の太ももをポンポンと叩いて使っていいよっと合図を送ってあげると、すっと頭を預けてきたので、後はずっと、太ももの上に頭を置いて静かに眠っていた。

お爺ちゃんもお母さんも、姫様を起こさないように大きな声で話さないで、静かに、静かに、闇夜を走っていく。
先ほどまでいた、騒がしいっていうよりも、何処を見ても、何処に意識を向けても、何処に耳を傾けても、人の気配がする喧噪な街と違って、舗装された道路を対向車もなく、車に乗った私たちだけしか気配を感じない…こんな静寂なら悪くない、心地いいくらい。

到着した頃には、とっぷりと日も暮れて、お月さまも綺麗に輝いている。今から帰るとお月様もお隠れになる時間になるから、どうせなら、一泊して、少し落ち着いてから帰りなよ、と提案をしてみると、お爺ちゃんとお母さんが一晩泊まっていくことに。

折角、来たのだから二人にこの街を案内してあげたいな、私は詳しくないけれど、お父さんの思い出がいっぱい残っているから。二人に知ってもらいたいな。

女将さえよかったら、女将の酒場に連れて行ってあげたいな、だって、今いる人たちで一番、お父さんと長く行動してたのって女将じゃないかな?
うん、それがいいよね、お母さんにね、お父さんの思い出がいっぱい詰まった女将の酒場に案内してあげたいな。

そうと決まれば、到着してからも熟睡していて起きる気配がない姫様を私室のベッドに寝かせてこようと、背負おうとしたら、
お爺ちゃんが「力仕事は頼りなさい」っと上腕二頭筋に力を入れて城のような力こぶを見せてくるので、お願いすることに。

お爺ちゃんが両膝を地面について、姫様を背負おうとしたら、お母さんが低めの声で「変な部分に意識向けたらわかっていますね」っとどすの効いた声を囁くと、すっと立ち上がって、お姫様抱っこで抱えながら姫様の私室へと運んでくれた。

私が先頭に立って、道案内をする、後ろにはお姫様抱っこをしているお爺ちゃん、その隣にお母さん、その後ろに姫様の私物を運んでいるメイドちゃんに戦乙女ちゃん、他の二人は車に残った荷物を各所に届けていていない、メイドちゃんと戦乙女ちゃんに荷物もつよ?って一応、確認をしたんだけど、やっぱり断られてしまった。

ドアの前に到着するとメイドちゃんが鍵を取り出して開けてくれる、ベッドに寝かしつけると、メイドちゃんが
「私が子守りをしていますので、せっかくの家族水入らずなのですから、楽しんできてください、ここであれば、安心して俗世を忘れてお過ごしいただけますよ騎士様」
と気を使わせてしまったので、お言葉に甘えようと思う。

部屋を出るときにメイドちゃんに手を振って部屋を出て、何処に連れて行こうか、ある程度の目星を道中に考えていたので、連れていこう、見せたい場所があるのでそこに向かっていく。
お父さんが、この街で残した軌跡を、二人には見てほしい、私が直接見てきたわけじゃないけれど、お父さんを知る人から教えてもらった思い出話を添えて、案内しよう。

後は、女将が話をしてくれるかなぁってところだけど、まぁ、大丈夫だと思う。
だって、女将といえど、この二人の前では話してくれると思う、実の息子には聞かせにくい話でも、今まで聞きたくても聞けなかった、お父さんと女将の師弟関係の思い出話を聞かせてほしいな。
お父さんが月の裏側に行ってしまった事件の詳細とか、詳しくは教えてくれなかった。
過去の心が未熟だった私だとあまり、聞きたいと思わなかったし、女将も話すのが辛そうだったから、詳しくは聞かなかった。

でもね、一人だったら辛い話でも、四人だったら笑い話には出来なくても、悲しみは分けあえる、女将も、言い淀んで話しにくい部分も、あれから年月も経ったし、今なら大丈夫だと思う。

まぁ、当時の私って正直ね、あまり興味がないって部分もあったから、それを女将が今は語るときじゃないって察した可能性があるけどね!
だって、めったに帰ってこないし、帰ってきてもお母さんにべったりだしー?構ってくれなかったもん…
あれから、色んな経験を積んで、王都での出来事を得て多少はお父さんに興味も沸いたし、今なら知る必要もあるんじゃないかなって思える。

お父さんの残した意思や思いは受け継いだと思うけれど、何か、まだ足りていない気がずっとするし、それが何か、知るきっかけになるといいなって考えも少なからずあるけれど、メインはこの二人だよね、お爺ちゃんとお母さんにしっかりとお父さんの陽炎を感じてほしい。

まずは、あそこに連れていきたい、昼間だと人が多いから、夜のほうがゆっくりと見えるから夜のほうがいいよね。

お母さんとお爺ちゃんにお腹が空いているか確認すると、まだ大丈夫だよってことで、連れまわしても大丈夫ってことだけど、その前にお二人のリクエストを確認していなかったので、確認すると、やっぱり見ておきたい場所があるみたいで、その場所を聞くと、納得の場所だった。

二人を連れて、まずは、お母さんが行きたかった場所、私も連れて行きたかった場所へ案内する。

戦士達の修練場

ベテランさんがね、私がこの街に初めて来たときに、まっすぐ正面を向いて語ってくれたんだ、
ここで師匠に攻撃、防御、生き残るために必要なもの全てを教わったって、だから、息子でもある貴方には、全てを伝えたいって、
そんな熱意たっぷりで言われたものだから、医療班志望ですって訂正しずらかった…後でちゃんと訂正したけどさぁ…

華奢な貴方でも大丈夫!立派な戦士にしてみせます!じゃないよ!もう!ベテランさんのせいであの時、体重すっごい増えたんだからね!!

それ以来ここに来ると、どうしても、滅茶苦茶、きついウェイトトレーニングメインの筋肉増強目的の超絶厳しいトレーニングを思い出しちゃうから、個人的にできれば近寄りたくない場所の一つなんだよねぇ…ベテランさんが言うにはたまにでいいから顔を出してほしいっていうけど、適度に運動してるから大丈夫ですーって言って断ってるんだよね。

そんな苦い思い出が詰まっている場所でも、お母さんからすると感慨深いみたいで、遠い遠い悲しい目をしてる、きっとお父さんを思い出してるんだと思う。
だってここには、お父さんが残していった色々な想いが繋がっていってるからね、私ではわからない部分でお父さんを連想させる何かがあるのだと思う。
お爺ちゃんはというと、「道具の手入れが行き届いて素晴らしい、この理念を王国の若い騎士見習いに理解していただきものだ」って、呟きながら目を輝かせていた。
流石、お爺ちゃんだね、その見ていた部分

道具の手入れ、訓練場の掃除、それら全てを意味する言葉として後輩に送った言葉があって今も語り継がれてる言葉。

【礼に始まり、礼に終わる】

道具にも、鍛えくれる場所にも、全てにおいて、未来の自分の糧になる場所に、道具に、感謝を捧げましょう。
大事にしましょう。
自分を育て上げてくれる全てに感謝をもって接するっていう、理念を植え付けたのが偉大なる戦士長、
うん、お父さんが始めた理念なんだよ、お爺ちゃん、先ほど、貴方が褒めた場所、その全てが、自慢の息子が始めたことだよ。

なんてことを教えてあげると、目を潤ませ泣きそうになり、年を取ると涙腺が脆くなっていかんなぁって呟いていた。

お母さんが何気なく長いことじっと、見てる椅子があるけれど、何かを感じるのかな?そこは訓練する人を指導するための監督席
戦士長であるお父さんがいっつもそこに座って全体を見渡してて、気になる動きや訂正しないといけない部分があれば、その椅子から立ち上がって指導しに行く。
その風習が受け継がれて、そこの椅子は戦士長の椅子って名前が付けられている。

それを知っている人は、その椅子を見て、戦士長ならどのように考えどのように指導するのか悩み考える、因みにベテランさんはその椅子に座る勇気がないっていって絶対に座らないで立ちながら指導をしている。

それなのに、いつも丁寧に磨かれていて埃がかぶってたり蜘蛛の巣が貼られたりすることはない、いつも、誰かが丁寧に掃除をしている。
その誰か、っていうのも、特定の人物って意味じゃない、本当に誰かなんだ、不特定多数の大勢が椅子が汚れていないかチェックして磨いている。

街の先輩たちが騎士だろうと、戦士だろうと、研究メンバーだろうと、医療班だろうと関係なく、ふらっと立ち寄ってきて掃除をしている。
その姿を見て、後輩たちも、あの椅子は何か特別なものなのだろうと感じ取り、大事に大事に扱われている。

かといって、誰かが座っても咎めたりはしない。

椅子の本来の役目は何か?誰もが知っている、座ってもらってこそ、椅子なのだから、誰も座らない椅子なんて道具として役目を全うしていない、だからこそ、道具は使うことで道具として誇りを持っていつかは、道具も満足して役目を終えれるのだと戦士長が生きていたら言うのだろうと、みんな理解しているから咎めない。

どんな思い入れのある道具であろうと、道具は道具、使ってこそ、真価を発揮する、使わない道具は、道具じゃない、生み出された際に作り手の思いを汲み取りしっかりと役目を終えて皆にアレはとても良い物だったと記憶にも記録にも残せるような品物をまた、生み出してもらうためにも消費するということは大事だという教えも広めていた。

っていう、言葉をえっと、これは誰に教えてもらったんだっけ?
色んな人から本当に、お父さんの話を耳にびっしりと刺青を掘られるかの如く聞かされてきたから、それはそれでおなか一杯胸いっぱいになる。

なので、お父さんが残してきた軌跡はこの街にいる人たちに大きな大きな影響を与えて受け継がれている。
歴代で、貢献度だけを見たら姫様がダントツで一番だと思うけれど、この街の心を育て、月の裏側に隠れられた後も、その心は育まれて、大きく大きく育ち街全体を包み込んでいると私は感じている。

戦士長の椅子、その背もたれをゆっくりとさすった後「行きますしょう」どこか消え入りそうな儚い顔で何かに捧げるような、そんな声だった、お爺ちゃんも何も言わずに頷いて、次の場所に。

お爺ちゃんからのリクエストは、昼間じゃないと開いていない場所なので、明日行くと約束し、女将のいる酒場に向かって歩いていく。
酒場の前に到着したけれど、一応、確認したほうが良いと判断し、先に中に入って許可を取ると女将は快諾してくれた。

二人を手招きして中に呼ぶと、お爺ちゃんとお母さんが女将の店の中に入ってくる
「師匠のお父さんに奥さん!久しぶりだね!」
女将が両手を広げてガバっと出迎えてくれた、ぁ、そうか、女将は王都に何度か出向いたことがあるから、この二人には会ってはいるのか。

「久しいの、粉砕姫」
ガバっと広げた女将の懐に勢いよくハグ、いや、あれはぶつかり稽古の音だバッシーンっとけたたましい音が店の中に響いていた、その音で何かあったのだろうかと、飲んでいる人たちが一斉にこちらを見ている。

「お久しぶりです、息災で何よりです」
ペコリと頭を下げて挨拶をしている、女将のお店でご飯食べてると不思議なことに、この街以外の人も結構見かけることがある、話をしたことがないけれど、たぶん、女将と何処かで知り合った人なのだと接し方がでわかる。
歴戦の猛者といわれる人は交友関係も広いのだなって改めて思う、いや、これが歴戦とか、No1ってこの街でも外でも畏怖される称号の持ち主が持つ交友関係の幅なのではないのかな?
…私の交友関係って、この街だけ…

もしかしなくても、私って知り合い少ないのでは?医療班の団長だったら、もっと交友関係を広げないといけないのでは?…全てが片付いてからでいいか、めんどくさい。

カウンターが空いていたので、いつもの場所でご飯を食べることに、お酒は…いいや、明日起きれなくなりそうだし。
お酒を断るとお爺ちゃんが文句を言う、孫ちゃんとお酒を飲める日を楽しみにしていたのに!って言うので、度数の軽くて、飲みやすい爽やかな味のお酒を入荷したからそれならどうだい?って女将に勧められたので飲むことに。
お母さんも、私と同じでお酒は強くないし、普段から飲まない、味が苦手なのだそうだ…私がお酒強くないのは、お母さんに似たのだと思う。お父さんは酒豪ってきいたし。

女将が、こんな珍しい客人が来てるのに飲まないわけにゃいかんよなぁ!って言いながら何故か知らないけどベルをチーンと豪快に鳴らしていた、何かの合図かな?

とりあえず、適当な摘みを頼み、料理が出てくるまでの間、お爺ちゃんとお母さんは店に飾られているお父さんの遺物を見て回っている、お店で飲んでいた人たちも戦士長の身内なのだと察したのか何人か挨拶に来たりしていた。

ぐるっと見て回って席に戻ってくる頃には料理とお酒も用意できていたので、王都、祝勝会が無事に何事もなく終わったのと、お父さんに乾杯を捧げた。

お酒も程よく体内を廻ってきてお爺ちゃんも少し酔ってきたころに、子供のころのお父さんってどんな感じだったのか話を振ってみたりしていると、酒場の門が開くと同時におっかみー!っと女将に向かって飛びつく姫様。

起きてきた姫様も何も言わずに隣に座る、そしていつの間にか珍しく私服姿のメイドちゃんも座っていた、飲み会は大いに盛り上がった。

お父さんの子供のころの失敗談も聞けたし、お母さんとお父さんのなりそめもいっぱい聞けたっていうかお母さんもいつの間にか酔っていた、だからこそ、色々な惚気を話してくれた。

宴の席は長いこと続いた、いつの間にか、ベテランさんも加わっていた何処から嗅ぎ付けたのか不思議だった。

お父さんをよく知っている人たちが増えてきたら女将が突然
偉大なる戦士長に!捧げーー!っと叫ぶと店中の人達が同時に

「「かんぱーーーい」」っと叫んでいた。

そこからはもう、飲んでいた人たちが遠慮せずに絡みに来た
人数も増えたので丸いテーブルに移動しようかって話をしたけれど、全員がカウンターがいいと言っていた、なんでだろう?まぁいいか。

この場所に、No2がいないのが寂しいって思ってしまったけれど、妊婦さんにお酒はご法度だから、街にいたとしても誘えない…
ご実家でゆっくりと胎児共に過ごしてくれていることを願うばかり。


こんな日々が毎日、毎日続いたらいいのにって心の底から思えれる、もう王都の様な人に対してひりつくような世界はご免こうむりたい。

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