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とある人物が歩んできた道 ~未来を選べない~
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全員の溜息が溢れ出ている、ドアの前で女の子座りのまま、へたり込んでいると騎士様が手を差し伸べてくれる、今は、ちょっと、その、色んな意味で腰が抜けてしまって立てないの。
腰に力が入らないから、手を伸ばそうとしたけど、想定以上に伸ばせない、その為、差しだれた手が空を切り、掴めないでいる。
手が空を切った時点で、私の腰が抜けていて立てないのだろうなっと騎士様に伝わってしまう。
少し気まずい空気が流れている中、お互いの顔を見合わせた後、アハハっと乾いた笑いが虚しく会議室に響くと、騎士様が膝を下げて、腕を私の腰元にぐっと腕を入れ、私をぐっと胸元に引き寄せると、もう片方の腕をお尻側からすっと綺麗にいれて、膝裏に腕を持ってくる、そう、この世全ての女性が憧れる、お姫様抱っこ!その形で力強く抱きしめるようにぐっと持ち上げてくれる。
夢のよう、夢ならこのまま、ベッドまで運んでほしい…女の子の憧れだよね、お姫様抱っこでベッドINなんてね。
座り込んでしまったドアから椅子がある場所まで、ほんの一時、一呼吸で終わってしまうような距離。
それだけでも、頑張ってきた日々の努力が報われる気がする、ずっと、ずぅっと、この一瞬だけでも騎士様を独り占めしようと頭を胸板に当てながら刹那的なのに永遠にも感じ取れる至福の一時を人生の全てを噛み締めるように味わう。
こんなにも胸の高鳴りが高まって幸せを感じれるなんてきっと、生涯に二度もないだろう、せめて、この瞬間だけでも、心を乙女にして、心の中だけでも呟いておこう
「大好き」
すっと丁寧に、姫様のように、優しく丁寧に、椅子に降ろすと
「自分は、今後の対策を練る為に一旦、席を外しますね」っとそそくさとドアを開けて出ていく、騎士様と先ほどまでいた財務の方も一緒に出ていく…
去り際の騎士様の耳が赤かったような気がするけど、もしかして私、やらかした?声出てた?…そんな、ま、まさか、ねぇ?
きっと、女性の体をあちこち触ったせいで興奮しているだけよね?…よね!?
顔から火が出そうなほど、顔が熱い、私ってこんなに初心だったのかと自分自身でも、驚いている。
腰が抜けていたのも騎士様にあちこち触られたからで、緊張が抜けてっ、ってこと、じゃ、、、ないのよねぇ…
全身から抜け出ることのない恥ずかしさに、つい、目の前のテーブルにベシャっと突っ伏してしまう。
テーブルの冷たさが火照った顔に心地よく感じる。
本音は、何時だって触れて欲しかった、何時だって抱きしめて欲しかった、何時だって気持ちを伝えたかった、何時だって、振り向いて欲しかった…
その三つが今日、不本意ながら叶ってしまった。
違う、三つじゃない!二つ!あんな告白の仕方はノーカン!!ベッドで抱きしめられながら告白するのが夢なの!!
ぁーもうやだぁ、自分のこういう声が漏れちゃう体質、ほんっとやだぁ、時を戻してーー!!
気恥ずかしさから、その場から動く気が全く起きず、つい誰もいないことをいいことに、ずっと、テーブルに突っ伏していた。
テーブルの冷たさが心地よ過ぎて、いつの間にか寝てしまっていた。
話し声がどこかしらから聞こえるので、ふっと、目が覚める。
ゆっくりと、薄く目を開けて声の方向に視線を向けると、いつの間にか戻ってきた騎士様と財務担当が話し合っていた。
あんな出来事があったにもかかわらず、私なんかの隣に、騎士様が座ってくれているのが堪らなく嬉しく感じてしまう。
普通、あんなことがあった後だったら、自然と避けられてもおかしくないのに。
その優しさにね、溺れてもいいのかな?勘違いしてもいいですか?
騎士様が私の事を、意識してるって勘違いしてもいいのかな?
それにしても、あれから、どれくらい寝てたんだろう?
視線に映る、騎士様の髪の毛が濡れているので、たぶん、お風呂に入ってきたんだと思う…
んぅ?なんでお風呂入ってきたのだろう?…まさかねぇ?興奮が収まらなくて…ねぇ?そんな、ねぇ?ないない…
あったらいいなぁ‥
っさ、夢物語のお姫様気分も、恋焦がれる初心な乙女も心の奥においやって!さぁ、気持ちを切り替えていこう!
この状況で出来る最善手として、何食わぬ顔で背伸びをして起きよう。
んぅ~っと声を出しながら、全力で腕を真っすぐ天に向かって伸ばして背筋を少し仰け反るように身を起こして、今起きましたっという雰囲気を作る。
だが、これは悪手だと背筋を伸ばしてから気が付く、だって!この姿勢って!胸を大きくアピールすることになっちゃうの!
はっと、そのことに気が付いてしまい、つい、ちらっと騎士様を見ると、一瞬だけ視線がこっちを向いていた?しかも胸見てた?
見られていたのだと自覚した瞬間、奥にしまい込んだ乙女心が扉をこじ開けて、瞬間的に込み上げてくる初心な心のせいで一瞬で頬がぱっと赤く染まってしまい、つい初心な乙女心が体と口を動かす。
両腕で、さり気なく胸を隠しながら「…すけべ」っと小声で言うと「み、見てないですから」っと耳を赤くしながら反対方向に顔を向けている。
はぁあ、なんですか?これ?めっちゃくちゃ、いい雰囲気じゃん。
財務の人が居なかったら、確実に落とせる自信あるのになぁ…
なんて強がってみてるけど、今の私って駄目、もう、ダメだめなの…
何時もみたいにアグレッシブに行動できない自信があるの。
だってぇ、胸の高鳴りが、ね?その、抑えきれないの…
だから、ね?
頭が真っ白っていうか、うん、思考が定まらないの。
初心だなぁ、なんて人に言う癖に、一番の初心は私だったってことじゃないの、そんなの、わかっちゃったらね?尚更、今まで通り行動するのが恥ずかしいわけで…
ダメダメ!気持ちを切り替えるって決めたじゃないの!財務の人もニヤニヤとした顔でこっちをみないの!
心の中で、何度も何度も、深呼吸をして、意識を切り替えていく。
うん、よし、脈も落ち着いてきた。切り替えていこう!
騎士様の策はどういった策をお考えですか?と、先程の件を冷静に尋ねると、騎士様も先ほどの甘い空気から一変して、真剣な顔で真面目に答えてくれる。
これによって場の空気がピリっと張りつめ、真剣な空気へと切り替わっていく。
「先ほどは徹頭徹尾、機転を利かせていただきありがとうございます」
すっと、頭を下げてお礼を言われる、騎士様の意図を瞬時に汲み取るのは難易度が高い、でも、あのような動作をナチュラルに出来るのは、きっとこの街では、私しかいない。
「正直、僕では、どうしようもないと思っていました、これでも、過去に、王家と関りがあった為に、あの手の突拍子もない作戦を諫める手段を持ち合わせていませんでした。」
騎士としての立場では、王族からの命令に拒否権は無い、恐らくではあるが、この街に騎士様が居るから、自分の騎士に命じる様な感覚で気軽に無理難題を通そうとしてきたのだろう。
っていうか、もしかしたら、過去にそういったことがあったのかもしれない。
「再度、お礼を申し上げます、僕では、最悪の事態を招いていました」
私の左手を握ったその手は少し震えていて、頭を下げられてしまう、こんな弱々しい騎士様を見るのは初めてだった。
騎士様が見えた最悪の結末、それは一体どの様な内容なのか?
たぶん、だけど、私が思う最悪と一致していると思う。
王子と共に出発し、王子が集めた未熟な騎士共による未熟な編隊によって、遭遇してしまった二足歩行共に蹂躙されてしまい、全滅する。当然、王子もろとも。
大量のお荷物を守らないといけないので、こちら側の洗練された英傑部隊も足並みが揃わない可能性が非常に高くなってしまい、確実に死ぬ。
デッドラインに行くって時点で二足歩行と闘うのは必定。抗えない未来。
死ぬ未来しか選択できない。
正直、騎士様が連れていくメンバー全てが全滅したら、確実にこの街そのものが崩壊を意味する。
想像して欲しい、騎士様もいない、坊やもいない、乙女ちゃんもいない、巨躯の女性もいない、騎士様が鍛え上げた練度が大幅に向上し、王都の騎士部隊よりも練度が高く、個々の動きも素晴らしく、扱い切れていないが身体強化の術式も使え、歴戦の猛者になりつつある者たち。
その全てを一瞬で失ってしまう。
誰がこの街を守るの?非戦闘員ばかりの街に防衛力があると思いますか?あるわけないですよね。
そして、王子を失った責任を当然のように取らされるので、現責任者となる人達は全て責任を取らされる。
良くて処刑、悪くて拷問や人体実験の柱にされてしまうだろう…
今いる責任者の中で奥様だけは、処刑等の非道な事はされないと思う、家柄が家柄だからね。王族と言えど非道なことはできない。
それに比べて、私なんて何処にでもいる様な存在、王家にとって取るに足らない存在なのは確実なので、愁いもなく、流れ作業のようにサクッと処刑される未来しか見えない。
王族としての見栄とか威厳とかそういうのを大事にした結果、理不尽な処罰を受けたくないので誰だってこの街に近づきたくなくなるわけで、結果的にこの街に志願する人達が消える。
そうなってしまうと、優秀な人材が一切、入ってこなくなるので完全なる暗黒時代に突入する。
人手だけでいいのなら、以前と同じように、各街から居ても居なくてもどうとでもなる生贄の様な人ばかり送られてくるだろう。
そのような戦いの術を知らない人たちを誰が鍛えるの?誰もノウハウを持っていないのに…
そうなると、本当の意味で、人が死にまくる死の街へと変貌する、
最近になって漸く、その、不名誉な名前が払拭されてきているのに、死の街が本当に死んでしまう街という時代がやってきてしまう、獣の進行を人の命を持って止める未来がない街、未来への希望も死んでしまう街。
死の街
そんなのってさ、つまるところ、人類の最後ってことじゃないの…
たぶん、聡明な騎士様なら、ここまで予測できていると思う。
そこまで未来が予測出てきてしまったものだから、手が震えてしまったのだろう、聡明な方なので、思慮深くて、歴史書を熟読していて、王家とも繋がりがある人だからこそ、結末まで、読めてしまうのだろう。
だから、その状況を打破できる可能性がありそうな私に耳打ちをしたのだとおもう、騎士様が望む姿で会議室に来てくれると私の行動を読んだうえで、声をかけたのだと思う。
騎士様を守れるためなら私は道化でも何でもするけど、騎士様以外の人から辱めを受けるのはNOで!!そればっかりは譲れないからね!!純潔だけは守るの!
弱々しい騎士様を抱きしめて安心させてあげたいけれど、今はそれが許されない、だって二人きりじゃないから!!
今日はどうして、こんなにチャンスが多いのよ!!財務の人がいなければどうとでもなるのに!!!
今、この瞬間、私に与えられた選択肢は一つしかない、騎士様を鼓舞すること、良い女はね、男を導くものなのよ!!
空いている右手を騎士様の手のひらに重ねしっかりと握る。
「大丈夫、猶予が生まれたのだから、この期間にやれることをしましょう、どんな不安でも私達、最前線の街で活躍する精鋭達なら、どんな困難だって乗り越えれると信じましょう」
真っ直ぐに騎士様を見つめる、貴方の輝きはこの程度で曇りはしないでしょう?どんなに辛くても厳しくても不安になっても、貴方はこの街で最良の騎士様なの。
輝いて、天に輝くお月様よりも!輝いて見せて!!この大地、全てに希望という輝きを与えることが出来るのは貴方だけなの。
「…」
不安そうな瞳を一度閉じる
「…はい、そうですね、僕達なら超えれる、どんな困難であっても」
ゆっくりと開かれる
「超えて見せる」
その目は輝きに満ちていて、誰もが憧れる魂が高い眼(まなこ)、その心は全ての人を遍く照らし、皆の憧れであり希望の象徴…
それでこそ、私が愛した騎士様(私にとっての始まりの人)です。
それから先は不安なんて微塵も感じさせずに、誇り高き、戦士長としての顔になり、話を進めていく。
現状で、デッドラインに到達することは可能なのか?
王子と、そのお付きの人がどの程度の腕前なのか、練度がどの程度なのか、未知数なので確証たる判断は出来ないが、確実に言えることは、100%絶望的に全滅する未来しかない。
つまるところ、答えはNO、デッドラインにすら到着できないだろう、王子の願いは叶わない。
では、私達だけであれば可能なのか?
答えはYES
お荷物がいないのであれば、100%辿り着ける。
だが!それは、デッドライン付近に辿り着ける話であって、
デッドラインを超える、それは別の話で、デッドラインを超えて帰還できる可能性はない!生きて帰れる人数は現実的に考えて、ゼロだ。
デッドラインを超えて、デッドラインの先に絶対にいると思われる、出会えば死闘となる人類の怨敵、
二足歩行
その集団と、戦闘を繰り広げて、仮に!生き残ったとしても、苛烈極まる戦闘で、疲弊した兵たちが安全地帯であるこの街まで、帰ってこれるとは到底思えない。
帰り道に敵が居ないわけがない、雑魚といえど、疲弊したり怪我した状態で戦うのは無謀というもの…
では、どのようにすれば生存率が上がるのか?
デッドラインまで向かうのに僕達と同じレベルの部隊を用意する。
疲弊しきった兵達ではデッドラインを超えたところで、満足に戦えれるほどの余力は無いだろう。
仮に、完璧なる護衛によって、体力を温存することができて、気力も体力も魔力も、全てに置いて満たされていれば!
届くだろう!あの大穴に!だけど、大穴までいくのであれば、帰りを諦めてもらわないといけない。
デッドラインからも大穴までは距離があり、その間は死線がずっと続く、届くだけでいいのなら可能だけれど、帰還は絶望的
これが現状である。
夢物語であり、現実的に実現不可能であるが、絶対的に襲われない安全地帯を、随所に設置することが出来るのであれば、デッドライン攻略が現実味を帯びてくる。
だが、そんな都合の良い場所なんて無いし、作れない。
この街ですら、かなりギリギリのラインで作られている、ほんの少しでも前に出れば、獣との遭遇率も上がるし、下がり過ぎれば、敵の勢力圏を増やしてしまう
先人が、この場所を定めた時は相当、考えに考え抜いて絶妙なポジションを築いたとわかる。
では、私達の生存率を上げるには何をするべきか?現時点での問題点から上げていこう。
1・戦闘が出来る人数の確保
現状では、圧倒的に人手が足りない、この街の全勢力を使ってしまうと、誰がこの街を守るのだという事になる。
2・人数を確保したとしても武具が無い
大多数の命を守る為の装備が乏しいのが現状、今いる部隊だけなら、問題ないがそれ以上となると、予算が厳しくなる。
3・新しく迎え入れた人達、過去に戦闘経験が無い可能性が非常に高いので連携練度・個々の鍛錬・戦闘経験を得る時間が必要となる。
指導する人が足りていない現状で、新兵を育てる時間が絶望的に足りない、デッドラインまで遠征するのであれば、最低でも、3年は欲しい。
神がかった逸材であれば1年もあれば問題はないだろうが、そんな人材を送ってくれるとは到底思えない。
4・遠征で必要な道具や、資材などの物資が必要
現状用意できる栄養を固めただけの丸薬、味に難ありのため、遠征する人数分を用意したとしても、それで士気を保てるとは到底思えない。
では、現地で新鮮な食材を得る方法はあるのか?
現地で捕れる食料は皆無、大穴から生まれ出る獣は食用に向いていない、更に、あの大地にある食べれそうな木の実や、草などを食してはいけない。
何かしら、汚染されているので、良くて食中毒、悪くて即死。危険極まりない、現地調達はリスクしかない。
探せば食せる野草もあるとは思うが、探す為に必要な労力と得られるエネルギーが釣り合わない。
5・現地で手当てをする為に医療班からも人数を出してもらい、命懸けの前線勤務となる。
遠征であれば、衛生兵は必須、兵士一人が死ねば、それだけでも、全ての部隊に一人分の仕事量が増えるのでいつかは連鎖的に瓦解する。
それを防ぐために怪我人をすぐにでも適切な処置が出来る衛生兵は必須。
問題点を挙げれるだけ挙げると、その場にいる三人が絶望的な感情に包まれていく。希望なぞとうに滅びたのだと言わんばかりの内容に誰もが沈黙する。
「ふぅ、わかっては、いましたけれど、不可能に近いですね、一時は、僕も夢見たものですけど、こうやって現実を突きつけられる度に、心が折れますね。」
天を仰ぐように背もたれにもたれ掛り遥か上空を見る様な遠い眼で溜息をもらす騎士様。
「財務を管理している者としては、現状、寄付などで逆算して得られる金額を計算すると、どうしても、武具防具が量産品になるため、命を預けるにしては心もとない物しか用意できないと断言できてしまう」
俯きながら悲しそうな声で聞きたくもない世知辛い未来を語られても…
「医療班でデッドラインまで行きますっていう人は、たぶん、誰も居ないと思います」
医療班にいる人はこの街では、比較的、安全な場所だから、志願しましたって人が多い。
戦闘訓練なんて一生縁がない人達で構成されています。
取り合えず!今は前向きに改善策を講じましょう!!
嗚呼、何処かに戦略眼も優れていて、お金も王様以上に持っていて、戦闘も医療も術式も全てに置いて完璧にこなせれる超人はいないの?
居たら、こんな場所に来ないで王都で実入りの良い仕事してますわよね~…
はぁ、本当に始祖様伝説にすがりたくなりますねこりゃぁ…
腰に力が入らないから、手を伸ばそうとしたけど、想定以上に伸ばせない、その為、差しだれた手が空を切り、掴めないでいる。
手が空を切った時点で、私の腰が抜けていて立てないのだろうなっと騎士様に伝わってしまう。
少し気まずい空気が流れている中、お互いの顔を見合わせた後、アハハっと乾いた笑いが虚しく会議室に響くと、騎士様が膝を下げて、腕を私の腰元にぐっと腕を入れ、私をぐっと胸元に引き寄せると、もう片方の腕をお尻側からすっと綺麗にいれて、膝裏に腕を持ってくる、そう、この世全ての女性が憧れる、お姫様抱っこ!その形で力強く抱きしめるようにぐっと持ち上げてくれる。
夢のよう、夢ならこのまま、ベッドまで運んでほしい…女の子の憧れだよね、お姫様抱っこでベッドINなんてね。
座り込んでしまったドアから椅子がある場所まで、ほんの一時、一呼吸で終わってしまうような距離。
それだけでも、頑張ってきた日々の努力が報われる気がする、ずっと、ずぅっと、この一瞬だけでも騎士様を独り占めしようと頭を胸板に当てながら刹那的なのに永遠にも感じ取れる至福の一時を人生の全てを噛み締めるように味わう。
こんなにも胸の高鳴りが高まって幸せを感じれるなんてきっと、生涯に二度もないだろう、せめて、この瞬間だけでも、心を乙女にして、心の中だけでも呟いておこう
「大好き」
すっと丁寧に、姫様のように、優しく丁寧に、椅子に降ろすと
「自分は、今後の対策を練る為に一旦、席を外しますね」っとそそくさとドアを開けて出ていく、騎士様と先ほどまでいた財務の方も一緒に出ていく…
去り際の騎士様の耳が赤かったような気がするけど、もしかして私、やらかした?声出てた?…そんな、ま、まさか、ねぇ?
きっと、女性の体をあちこち触ったせいで興奮しているだけよね?…よね!?
顔から火が出そうなほど、顔が熱い、私ってこんなに初心だったのかと自分自身でも、驚いている。
腰が抜けていたのも騎士様にあちこち触られたからで、緊張が抜けてっ、ってこと、じゃ、、、ないのよねぇ…
全身から抜け出ることのない恥ずかしさに、つい、目の前のテーブルにベシャっと突っ伏してしまう。
テーブルの冷たさが火照った顔に心地よく感じる。
本音は、何時だって触れて欲しかった、何時だって抱きしめて欲しかった、何時だって気持ちを伝えたかった、何時だって、振り向いて欲しかった…
その三つが今日、不本意ながら叶ってしまった。
違う、三つじゃない!二つ!あんな告白の仕方はノーカン!!ベッドで抱きしめられながら告白するのが夢なの!!
ぁーもうやだぁ、自分のこういう声が漏れちゃう体質、ほんっとやだぁ、時を戻してーー!!
気恥ずかしさから、その場から動く気が全く起きず、つい誰もいないことをいいことに、ずっと、テーブルに突っ伏していた。
テーブルの冷たさが心地よ過ぎて、いつの間にか寝てしまっていた。
話し声がどこかしらから聞こえるので、ふっと、目が覚める。
ゆっくりと、薄く目を開けて声の方向に視線を向けると、いつの間にか戻ってきた騎士様と財務担当が話し合っていた。
あんな出来事があったにもかかわらず、私なんかの隣に、騎士様が座ってくれているのが堪らなく嬉しく感じてしまう。
普通、あんなことがあった後だったら、自然と避けられてもおかしくないのに。
その優しさにね、溺れてもいいのかな?勘違いしてもいいですか?
騎士様が私の事を、意識してるって勘違いしてもいいのかな?
それにしても、あれから、どれくらい寝てたんだろう?
視線に映る、騎士様の髪の毛が濡れているので、たぶん、お風呂に入ってきたんだと思う…
んぅ?なんでお風呂入ってきたのだろう?…まさかねぇ?興奮が収まらなくて…ねぇ?そんな、ねぇ?ないない…
あったらいいなぁ‥
っさ、夢物語のお姫様気分も、恋焦がれる初心な乙女も心の奥においやって!さぁ、気持ちを切り替えていこう!
この状況で出来る最善手として、何食わぬ顔で背伸びをして起きよう。
んぅ~っと声を出しながら、全力で腕を真っすぐ天に向かって伸ばして背筋を少し仰け反るように身を起こして、今起きましたっという雰囲気を作る。
だが、これは悪手だと背筋を伸ばしてから気が付く、だって!この姿勢って!胸を大きくアピールすることになっちゃうの!
はっと、そのことに気が付いてしまい、つい、ちらっと騎士様を見ると、一瞬だけ視線がこっちを向いていた?しかも胸見てた?
見られていたのだと自覚した瞬間、奥にしまい込んだ乙女心が扉をこじ開けて、瞬間的に込み上げてくる初心な心のせいで一瞬で頬がぱっと赤く染まってしまい、つい初心な乙女心が体と口を動かす。
両腕で、さり気なく胸を隠しながら「…すけべ」っと小声で言うと「み、見てないですから」っと耳を赤くしながら反対方向に顔を向けている。
はぁあ、なんですか?これ?めっちゃくちゃ、いい雰囲気じゃん。
財務の人が居なかったら、確実に落とせる自信あるのになぁ…
なんて強がってみてるけど、今の私って駄目、もう、ダメだめなの…
何時もみたいにアグレッシブに行動できない自信があるの。
だってぇ、胸の高鳴りが、ね?その、抑えきれないの…
だから、ね?
頭が真っ白っていうか、うん、思考が定まらないの。
初心だなぁ、なんて人に言う癖に、一番の初心は私だったってことじゃないの、そんなの、わかっちゃったらね?尚更、今まで通り行動するのが恥ずかしいわけで…
ダメダメ!気持ちを切り替えるって決めたじゃないの!財務の人もニヤニヤとした顔でこっちをみないの!
心の中で、何度も何度も、深呼吸をして、意識を切り替えていく。
うん、よし、脈も落ち着いてきた。切り替えていこう!
騎士様の策はどういった策をお考えですか?と、先程の件を冷静に尋ねると、騎士様も先ほどの甘い空気から一変して、真剣な顔で真面目に答えてくれる。
これによって場の空気がピリっと張りつめ、真剣な空気へと切り替わっていく。
「先ほどは徹頭徹尾、機転を利かせていただきありがとうございます」
すっと、頭を下げてお礼を言われる、騎士様の意図を瞬時に汲み取るのは難易度が高い、でも、あのような動作をナチュラルに出来るのは、きっとこの街では、私しかいない。
「正直、僕では、どうしようもないと思っていました、これでも、過去に、王家と関りがあった為に、あの手の突拍子もない作戦を諫める手段を持ち合わせていませんでした。」
騎士としての立場では、王族からの命令に拒否権は無い、恐らくではあるが、この街に騎士様が居るから、自分の騎士に命じる様な感覚で気軽に無理難題を通そうとしてきたのだろう。
っていうか、もしかしたら、過去にそういったことがあったのかもしれない。
「再度、お礼を申し上げます、僕では、最悪の事態を招いていました」
私の左手を握ったその手は少し震えていて、頭を下げられてしまう、こんな弱々しい騎士様を見るのは初めてだった。
騎士様が見えた最悪の結末、それは一体どの様な内容なのか?
たぶん、だけど、私が思う最悪と一致していると思う。
王子と共に出発し、王子が集めた未熟な騎士共による未熟な編隊によって、遭遇してしまった二足歩行共に蹂躙されてしまい、全滅する。当然、王子もろとも。
大量のお荷物を守らないといけないので、こちら側の洗練された英傑部隊も足並みが揃わない可能性が非常に高くなってしまい、確実に死ぬ。
デッドラインに行くって時点で二足歩行と闘うのは必定。抗えない未来。
死ぬ未来しか選択できない。
正直、騎士様が連れていくメンバー全てが全滅したら、確実にこの街そのものが崩壊を意味する。
想像して欲しい、騎士様もいない、坊やもいない、乙女ちゃんもいない、巨躯の女性もいない、騎士様が鍛え上げた練度が大幅に向上し、王都の騎士部隊よりも練度が高く、個々の動きも素晴らしく、扱い切れていないが身体強化の術式も使え、歴戦の猛者になりつつある者たち。
その全てを一瞬で失ってしまう。
誰がこの街を守るの?非戦闘員ばかりの街に防衛力があると思いますか?あるわけないですよね。
そして、王子を失った責任を当然のように取らされるので、現責任者となる人達は全て責任を取らされる。
良くて処刑、悪くて拷問や人体実験の柱にされてしまうだろう…
今いる責任者の中で奥様だけは、処刑等の非道な事はされないと思う、家柄が家柄だからね。王族と言えど非道なことはできない。
それに比べて、私なんて何処にでもいる様な存在、王家にとって取るに足らない存在なのは確実なので、愁いもなく、流れ作業のようにサクッと処刑される未来しか見えない。
王族としての見栄とか威厳とかそういうのを大事にした結果、理不尽な処罰を受けたくないので誰だってこの街に近づきたくなくなるわけで、結果的にこの街に志願する人達が消える。
そうなってしまうと、優秀な人材が一切、入ってこなくなるので完全なる暗黒時代に突入する。
人手だけでいいのなら、以前と同じように、各街から居ても居なくてもどうとでもなる生贄の様な人ばかり送られてくるだろう。
そのような戦いの術を知らない人たちを誰が鍛えるの?誰もノウハウを持っていないのに…
そうなると、本当の意味で、人が死にまくる死の街へと変貌する、
最近になって漸く、その、不名誉な名前が払拭されてきているのに、死の街が本当に死んでしまう街という時代がやってきてしまう、獣の進行を人の命を持って止める未来がない街、未来への希望も死んでしまう街。
死の街
そんなのってさ、つまるところ、人類の最後ってことじゃないの…
たぶん、聡明な騎士様なら、ここまで予測できていると思う。
そこまで未来が予測出てきてしまったものだから、手が震えてしまったのだろう、聡明な方なので、思慮深くて、歴史書を熟読していて、王家とも繋がりがある人だからこそ、結末まで、読めてしまうのだろう。
だから、その状況を打破できる可能性がありそうな私に耳打ちをしたのだとおもう、騎士様が望む姿で会議室に来てくれると私の行動を読んだうえで、声をかけたのだと思う。
騎士様を守れるためなら私は道化でも何でもするけど、騎士様以外の人から辱めを受けるのはNOで!!そればっかりは譲れないからね!!純潔だけは守るの!
弱々しい騎士様を抱きしめて安心させてあげたいけれど、今はそれが許されない、だって二人きりじゃないから!!
今日はどうして、こんなにチャンスが多いのよ!!財務の人がいなければどうとでもなるのに!!!
今、この瞬間、私に与えられた選択肢は一つしかない、騎士様を鼓舞すること、良い女はね、男を導くものなのよ!!
空いている右手を騎士様の手のひらに重ねしっかりと握る。
「大丈夫、猶予が生まれたのだから、この期間にやれることをしましょう、どんな不安でも私達、最前線の街で活躍する精鋭達なら、どんな困難だって乗り越えれると信じましょう」
真っ直ぐに騎士様を見つめる、貴方の輝きはこの程度で曇りはしないでしょう?どんなに辛くても厳しくても不安になっても、貴方はこの街で最良の騎士様なの。
輝いて、天に輝くお月様よりも!輝いて見せて!!この大地、全てに希望という輝きを与えることが出来るのは貴方だけなの。
「…」
不安そうな瞳を一度閉じる
「…はい、そうですね、僕達なら超えれる、どんな困難であっても」
ゆっくりと開かれる
「超えて見せる」
その目は輝きに満ちていて、誰もが憧れる魂が高い眼(まなこ)、その心は全ての人を遍く照らし、皆の憧れであり希望の象徴…
それでこそ、私が愛した騎士様(私にとっての始まりの人)です。
それから先は不安なんて微塵も感じさせずに、誇り高き、戦士長としての顔になり、話を進めていく。
現状で、デッドラインに到達することは可能なのか?
王子と、そのお付きの人がどの程度の腕前なのか、練度がどの程度なのか、未知数なので確証たる判断は出来ないが、確実に言えることは、100%絶望的に全滅する未来しかない。
つまるところ、答えはNO、デッドラインにすら到着できないだろう、王子の願いは叶わない。
では、私達だけであれば可能なのか?
答えはYES
お荷物がいないのであれば、100%辿り着ける。
だが!それは、デッドライン付近に辿り着ける話であって、
デッドラインを超える、それは別の話で、デッドラインを超えて帰還できる可能性はない!生きて帰れる人数は現実的に考えて、ゼロだ。
デッドラインを超えて、デッドラインの先に絶対にいると思われる、出会えば死闘となる人類の怨敵、
二足歩行
その集団と、戦闘を繰り広げて、仮に!生き残ったとしても、苛烈極まる戦闘で、疲弊した兵たちが安全地帯であるこの街まで、帰ってこれるとは到底思えない。
帰り道に敵が居ないわけがない、雑魚といえど、疲弊したり怪我した状態で戦うのは無謀というもの…
では、どのようにすれば生存率が上がるのか?
デッドラインまで向かうのに僕達と同じレベルの部隊を用意する。
疲弊しきった兵達ではデッドラインを超えたところで、満足に戦えれるほどの余力は無いだろう。
仮に、完璧なる護衛によって、体力を温存することができて、気力も体力も魔力も、全てに置いて満たされていれば!
届くだろう!あの大穴に!だけど、大穴までいくのであれば、帰りを諦めてもらわないといけない。
デッドラインからも大穴までは距離があり、その間は死線がずっと続く、届くだけでいいのなら可能だけれど、帰還は絶望的
これが現状である。
夢物語であり、現実的に実現不可能であるが、絶対的に襲われない安全地帯を、随所に設置することが出来るのであれば、デッドライン攻略が現実味を帯びてくる。
だが、そんな都合の良い場所なんて無いし、作れない。
この街ですら、かなりギリギリのラインで作られている、ほんの少しでも前に出れば、獣との遭遇率も上がるし、下がり過ぎれば、敵の勢力圏を増やしてしまう
先人が、この場所を定めた時は相当、考えに考え抜いて絶妙なポジションを築いたとわかる。
では、私達の生存率を上げるには何をするべきか?現時点での問題点から上げていこう。
1・戦闘が出来る人数の確保
現状では、圧倒的に人手が足りない、この街の全勢力を使ってしまうと、誰がこの街を守るのだという事になる。
2・人数を確保したとしても武具が無い
大多数の命を守る為の装備が乏しいのが現状、今いる部隊だけなら、問題ないがそれ以上となると、予算が厳しくなる。
3・新しく迎え入れた人達、過去に戦闘経験が無い可能性が非常に高いので連携練度・個々の鍛錬・戦闘経験を得る時間が必要となる。
指導する人が足りていない現状で、新兵を育てる時間が絶望的に足りない、デッドラインまで遠征するのであれば、最低でも、3年は欲しい。
神がかった逸材であれば1年もあれば問題はないだろうが、そんな人材を送ってくれるとは到底思えない。
4・遠征で必要な道具や、資材などの物資が必要
現状用意できる栄養を固めただけの丸薬、味に難ありのため、遠征する人数分を用意したとしても、それで士気を保てるとは到底思えない。
では、現地で新鮮な食材を得る方法はあるのか?
現地で捕れる食料は皆無、大穴から生まれ出る獣は食用に向いていない、更に、あの大地にある食べれそうな木の実や、草などを食してはいけない。
何かしら、汚染されているので、良くて食中毒、悪くて即死。危険極まりない、現地調達はリスクしかない。
探せば食せる野草もあるとは思うが、探す為に必要な労力と得られるエネルギーが釣り合わない。
5・現地で手当てをする為に医療班からも人数を出してもらい、命懸けの前線勤務となる。
遠征であれば、衛生兵は必須、兵士一人が死ねば、それだけでも、全ての部隊に一人分の仕事量が増えるのでいつかは連鎖的に瓦解する。
それを防ぐために怪我人をすぐにでも適切な処置が出来る衛生兵は必須。
問題点を挙げれるだけ挙げると、その場にいる三人が絶望的な感情に包まれていく。希望なぞとうに滅びたのだと言わんばかりの内容に誰もが沈黙する。
「ふぅ、わかっては、いましたけれど、不可能に近いですね、一時は、僕も夢見たものですけど、こうやって現実を突きつけられる度に、心が折れますね。」
天を仰ぐように背もたれにもたれ掛り遥か上空を見る様な遠い眼で溜息をもらす騎士様。
「財務を管理している者としては、現状、寄付などで逆算して得られる金額を計算すると、どうしても、武具防具が量産品になるため、命を預けるにしては心もとない物しか用意できないと断言できてしまう」
俯きながら悲しそうな声で聞きたくもない世知辛い未来を語られても…
「医療班でデッドラインまで行きますっていう人は、たぶん、誰も居ないと思います」
医療班にいる人はこの街では、比較的、安全な場所だから、志願しましたって人が多い。
戦闘訓練なんて一生縁がない人達で構成されています。
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