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- side A - 砦で勤務する極普通の兵士

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命からがら砦に帰ってくると、それはもう、盛大なお祭りが開始されていた

後ろを振り返る、つい先ほどの出来事だというのに遠い遠い過去の思い出だと思えるくらい辛く、いつ心が折れてしまっても誰も責めることがない、他人を思いやれる余裕なんて何一つ出てこない、そんな地獄だった日々が脳裏をよぎっていく…

あんな、見たことも、聞いたこともない、戦ったこともない、不可思議な生き物たちと闘って倒せ!だなんて、なんて無茶で投げやりな作戦なのだと、命を捨てに行くようなものだと一緒に出発した先輩はため息とともに愚痴を漏らしていた。

部隊長から渡された作戦なんて無いも同然、実際に一緒に出撃した兵士達の7割くらいは…死んでしまったと、思う。

ある者は、避難してくる村人の一団から獣の気を村人たちから逸らす為に突撃して死んだ
ある者は、大きな大きな、耳なのか?長い長い、鼻なのか?俺たちの何倍もありそうな体躯で駆け回る獣に勇敢にも向かって行く、その大きく長い鼻のようなものでなぎ倒され、吹き飛ばされ、大きな足で踏まれたり、足と鼻で弄ばれる様に蹂躙され、死んだ
ある者は、軍勢から外れた少数の獣に集団で挑むがあっさりと返り討ちにあい全滅した
ある者は、鹿なのに左右にある角が鹿の眉間のような顔の中央で重なり捻じれるように重なって、一本の尖った槍の様な形になっている、あの角で多くの人が喉や太ももを貫かれて死んだ。
ある者は、野営中に後ろから音もなく襲われて死んだ
ある者は、来るはずのない伝令係の声が聞こえたような気がして伝令係がいる方を向いた瞬間に死んだ、獣の声を伝令の声だと聴き間違えたのだろう
ある者は・・・・

思い返せば思い返すほど、死が身近にありすぎて背筋が凍りそうになる
やめよう、死者を思い返してばかりだと気が滅入ってしまう。違うことを思い出そう、少しでも死んでしまった者たちのことを忘れずに後世に伝える為に

出撃するときは、余りにも投げやりな作戦だったので、俺たち全員が死ぬ覚悟をしていた、実際、現場の状況を思い返してみても、いつ死んでもおかしくなかった、それでも、俺たちはこのエリアを守護するために働いている砦の兵士なのだと心を奮い立たせ、避難してくる村人たちを守るために奮闘した。

砦から次々と俺たち以外にもしっかりと、後続の兵士達も出てきては次々と、持ち場に向かって駆けていく

ずっと戦い続けるなんて芸当、人間が出来るわけがない、定期的に後続の部隊と交代し、前線から砦に近い場合は、砦の中で休憩をする、休憩と言っても飯を食って寝るだけだ、寝ていると部隊長に叩き起こされて出撃する、出撃するたびに作戦を確認するが、突撃しろしか、言ってこない。
俺たちが出撃するたびに、獣の軍勢は徐々に徐々に、緩やかに確実に砦に近づいてくる、俺たちが幾ら抵抗を重ねようと罠を張ろうと、確実に近づいてくる

これが絶望の滅亡のカウントダウンだと言われたら皆が納得する光景だろう。
この軍勢が砦に到着した時、俺たちは全滅する、そんなのは子供でも分かる、それくらいわかりやすい死と破滅と絶望を運ぶ軍勢だった。

それだけじゃない、この砦が落ちるということは王都が危険に晒される、何故なら、この砦から王都までの間にあるのは荒野だけ、他の砦は無い。
つまり、ここが落ちれば次に攻められてしまうのは我らが心の拠り所、この大地が秘宝、王族が待つ王都が蹂躙されることになる。

それだけは避けないといけない。

王族が死んでしまったらこの大地を統率する人が居なくなる、人類の敗北が決まってしまう。
言わばここが、この戦いが人類相続を賭けた大一番だと、俺は心の底から感じている。
だからこそ、無謀なことはしない、俺一人で戦況を覆せれるなんて思わない、幼き頃に絵本で聞いた始祖みたいに、英雄に成れるなんて思っちゃいない、俺が出来ることは少しでも生きて、泥臭くてもいいから、生きて生き抜いて、少しでも長く現場で敵を足止めすることだ。

俺が1秒でも稼げば、その分、王都から優秀な騎士団が来てくれる、王都騎士団ならこんな獣たちなんて一瞬で蹴散らしてくれるはずだ。
希望を捨てるな。

泥をすすってでも命を繋いで明日へとつなげるんだ、策なんて何もない最悪な指揮官だけれど、それに応えて見せるのが優秀な兵士だ
あの場所に行って敵を倒せと言われれば倒すしかない、どんな方法で倒せとかそういう具体的な策なんてない。

でも、大丈夫だ!噂では最近、王都騎士団が獣に襲われた街を救ったと小耳にはさんだことがある、なら!王都騎士団の優秀な指揮官が駆けつけてくれれば、きっと、きっと!!
希望をすてるな

出撃するときに長年、共に野をかけぬけた先輩が死んだ
きぼうをすてるな

伝令係が何もしない、それはそう、でんれいすることがないから、砦の司令官は機能していない
きぼ…す…


だめだ、後世に伝える内容が絶望の俺物語になってしまう。

そう、あの時の俺は、全てに絶望して、俺も時期に死ぬのだろうと思っていた、死の気配をずっと肌に感じて目の当たりにして、おかしくなりそうだった、いや、もう気が狂っていると思う。
今自分が何をしているのかわからなかった、手に握ったものが槍なのか棒なのか、それすらもわからなくなっていた。

呼吸をしてるのかも、心臓が動いているのかも、音が聞こえているのかも、何もかもがわからなくなっていた
ぐちゃぐちゃと色んな音が聞こえてこないといけないのに、何も聞こえなかったし目の前に何があるのかもわからなかった。

体力も底をつきそうで今にも大地に膝をついて頭を垂れてその場で野垂れ死にしそうなくらい、心も体も疲弊しきっていた
ああ、もう死ぬのか、俺は、頑張ったよな?長生きしたよな?だって先輩よりも長生きしたんだ、稼いだよな?値千金の時間を?
辞世の句でも読んで、祈りを天に捧げようと上空を見上げても月は出ていなかった、最後くらい大いなる神、信仰の対象、始祖って夢物語の人物に抱きしめてもらってから死にたかったな

目を瞑って膝をついた瞬間だった

「伝令がきたぞ!!!」

初めての伝令という言葉に閉じてしまった目を開き、最後の力を振り絞って後方へ下がる、ぎりぎり、本当にギリギリだった、あの一言が無かったら俺は、間に合っていなかった明日を突き放していたんだ、その後すぐに、俺が居た場所に猪みたいな獣達が走り去って行った、あのまま膝をついて目を瞑っていたらあの集団に巻き込まれ死んでいた。

急いで、声のした方向に逃げ込み伝令を確認する、光の瞬く回数によって何か伝える方法で伝令係と一部の兵がその暗号を熟知している。
幸いにも伝令係は生き残ることだけを考えて見つからないように穴を掘って身を隠したり死んだ人の下に隠れたりしてやり過ごしたりと絶対に生きるという信念のもと行動していたおかげで、こうやって死を覚悟していた部隊全員に希望をという明日を照らす明かりを灯すことが出来る。

まだまだ余力のある部隊が近寄ってくる獣と相対して時間を稼いでくれる、俺も一呼吸し足の震えが収まってきているので、あと少ししたら、助けに行くべきだろう
伝令係だけでも絶対に生きて全部隊に希望を伝えてもらうために、命をかけるつもりで飛び出そうとしたその瞬間
「希望だ!希望がきたぞ!」伝令が叫ぶ
「救世主が降臨したぞ!!俺らは生きて帰れる!いいか今からいうとおりに動け!!」全員が固唾を飲みながら希望の光を口から出てくるのを待ちわびる

「俺たち左翼部隊はこのまま後退!今から向かうポイントに敵を引き付けること!戦闘はするな!中止だ中止!生きて帰るぞ!!」
その言葉に全員の士気が回復する、今まで何時心が折れて、その場で倒れてしまってもおかしくなかった連中の目に命がともる、明日への希望という光が宿る。

そこからはもう、鎧を脱いで鎧の腹と胸を繋いでいるつなぎ目を切り裂いて、鎧と体を繋げている紐を使って腕に結んで盾代わりにする、槍は向かってくる敵に投げて少しでも時間を稼ぎながら距離をとっていく。
俺たちのような下級兵士が使う鎧なんて腹と胸しか守っていないからな、後ろなんてがら空き、服の上に来ている鎖帷子だけが主な生命線、鎧を腕につけて盾代わりにする知恵を先輩に教えてもらって助かった、兜と、足だけはしっかりとした作りになっているっていっても太ももなんて何もついていない。

もっといい装備を寄こせよ!っと恨みがましく部隊長に文句を言ってすまない、今となっては反省している
だって、あんな重たい甲冑を着て、こんな長丁場の戦いなんて体力が持たないし、逃げるときに足の速い獣から少しでも距離を取りたいときにあんな重たい甲冑を着ていたら逃げきれない。

軽装だからこそ長期戦が出来る、軽装だからこそ、最後まで走り続けることが出来る!!今俺はランナーだ!!風になるんだ!生きる為に走れはしれはしれ!!

走っていると後ろから聞こえてくる獣たちの足音がふと、静かになった、走りながらも後ろを振り返ると多くの獣たちがゆっくりと走れなくなりその場に次々と倒れこんでいく

その異常な光景に俺は足がもつれ転んでしまう、俺が派手に転んだせいで一緒に走っていた仲間も振り返り、足を止める
奇跡を目の当たりにしたのだと驚いている



その光景も束の間だった、倒れた獣を踏みながら進んでくる後続の獣の軍勢を見て、俺らはすぐに目標のポイントに向かって駆け出す。

その後も伝令があるたびに走り続けた、ある程度、走ると俺らを追いかけてくる獣の軍勢が徐々に群れになり、徐々に個になっていき、最後には何も動かなくなる。
砦まですごく距離がある、砦からだいぶ離れた位置まで走ったものだと、自分の脚力に驚きを感じているがそれ以上に
一体どうやって、このような神の御業を起こしたのか気になってしょうがない。

伝令係に砦に戻った方がいいのではと、確認すると、ある伝令が飛んでいて一定の範囲の場所に絶対に近寄るなというよくわからない指示があると教えてくれた。

幸いにもここは、そのポイントから離れているので問題は無い、無いのだが、いったい何が起こるというのだろうか?
逃げ回って走り続けた兵士全員が、ずっとずっと前に、限界を迎えている、獣の脅威がなくなった今、つい、その場に座り込んでしまう、立ち上がってくる獣はいないだろうと思っていたが、目のいい奴が叫ぶ
「うわ!?死骸の中から猿みてぇのが立ち上がって雄たけびを上げてやがる!?」その言葉を聞いた伝令係が叫ぶ

「そいつに絶対に見つかるな!!命がけで隠れろ!」

その言葉に全員が元鎧だった胸の部分で穴を掘り土の中に隠れる。

無駄に穴を掘って、掘った穴を埋めるというよくわからない訓練が、まさか、こんな場面で役に立つなんて誰も思っていなかっただろう。
部隊長、生意気言った俺に、こんな生死にかかわる罰という名の訓練を施してくれるなんて、無事帰ったら絶対にお酒を奢ろう、絶対に。

目のいい奴が「大丈夫だ!出てきてもいいんじゃないか?猿のやつ真っすぐに砦に向かって走って行ったぞ!」その言葉で全員が穴から頭だけを出すと
確かに、猿みたいなのが、この世のものとは思えない地獄の底から聞こえてくるような音で叫びながら走っていくのが見えたが、その後ろからまだまだ大量の獣が一緒に砦に向かって走っていくじゃないか!?

すまない部隊長…あんたの墓の上でいいかな?あんたの大好きな王都で流行っているビールってやつを王都まで買いに行ってふるまってやるからな。

俺たちは穴から出て少しでも砦に近づこうと匍匐前進で進んでいく、目のいい奴が叫ぶ「猿が大きく飛んだ!砦に張り付くつもりじゃないのか!?」
さようなら部隊長に司令官、貴方達は…いい人でしたよ。
敬礼して、砦からの叫び声が届いてくるのを目を瞑って待つ、悲鳴が聞こえる…ああ、終わった、人類最南端の砦は陥落した

「うおおおおおお!!!」目のいい奴が狂ってしまった、大声をあげながら立ち上がった、気のいい奴だったよ。
「お前たち!猿が一筋の光で死んだぞ!!」ほら、意味の解らない言葉を口から解き放っていやがる狂人め

「いいから立ち上がれって!!いま、この瞬間しか、絶対に見れないぞ!神の御業だぞ!!」余りにも煩いので目を開けると

砦から一筋の光が放たれた、その光の先を見ると、獣の軍勢がいる、いるが、光に当たった瞬間に消えていく

正に神が使いたもうた浄化の光
人類の脅威を、不浄を打ち滅ぼすかの如く、神聖なる光!!

おお?おお!!??おおおおおおおお!!!!

全員が立ち上がり歓声をあげる!!!!俺たちは奇跡を見た!!不浄なるものを焼き払う神の身柱をこの世で見ることが出来たのだと!!
神から解き放たれた光は獣を消していき、時には遠く離れた森を焼き、地面を清浄なる炎で包み込む

俺たち全員、その場で膝をつき、指をでこに当て教会で行う祈りを捧げる姿勢になり神に感謝の言葉を一斉に述べ始める。

その美しき光景を後世に伝える為に俺は目に焼き付ける。
いつかきっと、この光景を絵にして本にして後世に神が居るのだと伝えねばなるまい。
奇跡を目撃した一人として…

神が振り下ろす光の一撃によって、あの絶望的な、地獄絵図を生み出していた獣たちが消滅した…
我々の完全、ではないか、多大な犠牲が出てしまったのだから、でも、あのような人類の生存が左右されるような未曽有の大災害を乗り越えたのだ。

大勝利だ、誰が何と言おうが、人類の大勝利なんだよ!先輩!俺、生きてる!!

その後は危機を脱した為、緊張感が抜けどっと疲れが押し寄せてくる、全員で支えあいながら命からがら、砦に戻ってきたってわけで
今はどうしてるかって?

決まってるじゃないか、砦の中に居て、我らが救世主様の姿を目に焼き付けているのさ

大きな大きな巨人かと見紛う程の巨体の漢、白髪の美少女、その周りにいる可憐な乙女たち

そしてその中央に居る、黒髪に前髪の一部だけ白い髪の色をした始祖様の肖像画に雰囲気が凄く似ている美女

あれが噂に聞く、最前線の姫なのだと俺は直感でわかってしまった、幼き頃に見た大教会に飾られている始祖様の肖像画に凄く似ているのだから。



神よ、この地に再び、始祖様を降臨させていただき、真に感謝を、祈りを捧げさせてください。
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