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絶望の中にも希望はある 1
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誰もが、その後の発言を躊躇う、踏み込めない、前に進む勇気が出ない、恐怖が心を束縛するに至る。それ程までに聞きたくない絶望の言葉を聞いてしまったから
誰も絶望の未来を聞き出す為に、踏み出す勇気が出てこない、この先に待ち受ける恐怖と絶望にどうやって向き合えばいいのか、覚悟もできないし、受け止め方もわからない。
女将ですら、言葉を発することが出来ていない、何度も何度も言葉を出そうと口を開き手を動かそうとするが、開いた口からは何も音が出てくることは無く、伸ばした手は空を切り、動かす前の最初の位置に戻る。
この流れを、この空気を、換える為にも、何か、何でもいいので、発言しないと…思い出すのは作戦に使用した非人道的殺戮道具、毒、そうだよ、毒を使えば!
「で、でもさ、あの毒をまた散布すれば」
そう、どれだけ数を揃えようと、次々と走る足を止め、ゆっくりと絶命させた強力な毒。あの毒を散布し続ければ、軍勢なんて
自分の中に生まれた希望、きっと、姫様なら共感してくれるはず!
淡い期待を込めて反応を待ち続けるが、既に反応がよろしくない。こちらが感じた希望を欠片も感じてくれていない。
この言葉に姫様は俯いたまま、ぽつりと呟くように希望の言葉ではなく絶望を揶揄する言葉を紡いでいく
「そうだね、何もない状況で毒を散布すれば、ね」
この言い淀む感じ、間違っているっと、その考えは安易だと否定してくるのが伝わってくる。
何を間違えたのだろうか?敵を倒したあの現状に何の間違いがあるの?いくら考えても答えが出てこない。
「ねぇ?団長、毒が有効だったらさ」
有効だからこそ、多くの敵は上空から散布された毒によって死に絶えたじゃない
「どうして、あの時の人型は、渦巻く毒の中から抜け出てこっちまで全速力で走ってこれたの?」
その言葉にはっと、するような感覚で気付きを得てしまった。
そうだよ、いくら人型と言えども、相手は同じく獣。
今までの人型だって、毒は有効な場合が多かったとベテランさんからもNo2からも教えてもらったじゃない、海辺の村を襲った人型でさえ、自身が魔道具で発生させる毒から守るために、気流を発生させているだろうと思われる魔道具を持っていたじゃない?
毒は有効、ゆうこうのはずじゃ?
今までの常識が覆されるような状況に脳内がパニックを起こしかけている、そんな混乱の渦中から抜け出せない私を抜け出させるために言葉が続いていく
「どんな生き物が、持ってる、生きる為の機能で、抗体っていう言葉、知ってる…よね?」
抗体、うん、聞き覚えがありますとも、医療人ですからね、体内に入ってしまった毒を自身の体にある免疫細胞が反応して毒から命を守るために自身の力で作り出す物質
それじゃ、まさか、あの短時間で抗体を生み出したの?
「ぇ、ぇぇ、それが?」そんな瞬時に抗体を生み出せるってこと?
人型がそれだけ、毒を分解解析する能力が高いのだったら、おかしいよね?
だって、それだったらさ、海辺の人型は…毒を防ぐための魔道具を持つ必要性はないよね?
憶測が答えを導き出せずにもがき苦しみ答えを求めて、水面を浮上しては新しい情報に引っ張られて思考の海に引きずり込まれていく。
「…抗体ってね、野生の野に居る獣達でもね、毒に侵されて死んでしまった死体の中にはね、ある一定量の抗体が残されていることがあるの、毒によって死んだ死体から抗体を摂取することも。出来るんだよ?…今、あの平原はどうなっている?」
毒で死んだ獣だら、け…ぇ、それじゃあの人型って
思考の海から出ることが出来なかった、憶測が答えを得、重りから解き放たれ思考の海から出た瞬間に感じる爽快感と同時に襲い掛かってくる毒に対して耐性を得たという事実に戦慄する
言葉を失いさまよう視線を感じ取りながらも会話を続けていく
「正解、こっちに向かってくる過程で、毒で死んだ獣から抗体を摂取し、毒に対する耐性を得てから突撃して来たってことになるよね。使用した毒は…もう、効果は期待できない、たぶん、もう既に手遅れになってしまってるんじゃないのかな~、私達が砦で色々としている間に、敵だって馬鹿じゃない、地面に落ちてる毒で死んだ獣の遺体をサンプルとして手に入れているはずだよ、ほーりーばーすとで、残された敵の死体全て、燃えてくれていれば、よかったんだけどね、あの数だもの、そこまで上手くはいかなかったかな…」
姫様の言葉に解を得たが、疑問が尽きない、
だって、そんな簡単に抗体なんて出来ないよ?だって、あれって長い間、その手の病とか毒に浸されて、浸されて、何度も何度も仲間や家族が毒に抗い代を重ねていく過程で得られるものじゃないの?毒から生き抜けるように仲間同士で支えあって、耐え抜いた生き物同士が出会った結果、その毒や、病から生き抜いたモノだけが、生み出せるものじゃないの?
答えを得ているのに釈然としないでいると姫様の言葉で脳がさらに解を得る。
「団長、私達が戦っている獣たちは、普通じゃない、自然の生き物じゃない」
その冷酷で冷静な言葉に、自身が抱いている一般的な常識は捨てろと忠告され、思い返す、理不尽の塊であるあいつ等の事を…
長い戦いの上で、あの街で戦い抜いてきた戦士達が、どんなに煮え湯を飲まされてきたのか・・・失ってばかりだというのに、未だに理解していないのか?と自分の愚鈍さに苛立ちが生まれてくる。
毒がダメなら他の方法があるじゃない!短絡思考と罵ってもらっても構わない!
だったら、焼き払えばいい!!始祖様の秘術を再現できる今なら敵はいないはず!!あの驚異的な威力で起死回生となった魔道具を使おうと進言しようとすると
「だったら、あの、魔道具を使って殲滅すればよいのではないのですか?」誰もが思っていることを戦乙女ちゃんの口からも自然と零れ出てくる。
誰しもが、その提案に淡い期待を寄せていると
姫様の顔は俯いたままで正解ではないと、表情や仕草で伝わってくる。
「アレは、使えれるけど、使うわけにはいかないの…砲身が焼けてしまって、連続使用に耐えられない、今のまま修理しないで使用すると、根本的に壊れる。あの魔道具は、あれしかないの、現状替えがきかないの。いま、あの魔道具を精製するのは…時間が無い、だから絶対に、壊すわけにはいかないの」
つまり、この先待ち受けるであろう未来でアレを使う局面が待ち構えていてそれを突破するために必要ってことなのだろう。
なので、失うわけにはいかないってこと?でもさ、今を乗り越えない限り明日は無いのでは?来るかどうかわからない事態を想定して切り札を残すっていうのは、違うと思う。
今を乗り越えるのが先決じゃないの?
全員が姫様の言葉に納得できず、車の中によろしくない空気が充満していく、姫様もそれを感じ取っている。
「皆が言いたいことはわかるよ、今の困難を乗り越えない限り朝日は、私達を祝福しないって、でもね、アレが必要になるときは確実に来るの、今壊したら、間に合わなくなる、使いたくても、許可は絶対に出せません。あの強力な力に縋りたくても、縋れないの…」
私達では計り知れない盤上の何かがあるのだろう。ここまで首を縦に振らないっていうことは、本当にしてはいけない理由があるのだと察する。
攻撃手段がなくなっていく、そうなるとさ、逃げるのが一番だって考えるのが普通じゃないの?
だってさ、手持ちの武器で一番強力な武器が使えない、毒だって耐性を得ている可能性があって使うだけ無駄になる、つまりは無意味に魔力を消費することになる。
八歩塞がりだよね?そう考えると撤退して街の皆総出で、対策を練ってから再度、闘いに挑むのが正解じゃないの?
言葉にしたくない言葉を出すのは勇気がいる、だって私達が撤退するってことは…
「残された手段は撤退のみってこと?」
撤退するということは、南から攻めてくる軍勢をこの砦では、受け止め切れない、必然的に王都まで侵略されることになる、そうなると、王都近辺で襲い掛かる獣の軍勢を対処しないといけなくなる。
あれ?ちょっとまって、今ってもしかしなくても非常に危険な状況じゃない?だってさ、もしもさ、北にあるあの大穴が、こちらの状況を見抜いて軍勢を率いて攻めてきたらどうなるの?南からも北からも同時に攻めてくる、それって、対処…不可能じゃないの?
自分一人だけが気がついてはいけない恐怖に気が付いてしまい、心穏やかでいられないが、今は、平静を装わないと…
タイミングを見計らってこの危険な状況をどうすればいいのか質問しよう。
姫様からも重く認めたくない現実である一言が零れ出る
「うん、撤退できれば…それが一番だよね、出来れば…ね」
そう、できれば誰だって逃げたくなるような状況。逃げるのは簡単だけど、逃げた後に待ち構える困難の方が今よりもきつくなって結果的に逃げる場所もなくなってしまう。
逃げた先に待ち受けている困難をどうするのかって、問題にも発展してしまう。
逃げた先に、逃げる前よりも状況が悪化する、逃げて失ってを繰り返した先に待つのは破滅のみ…
逃げれない状況を理解しているからこそ、全員が言葉を失う、だけど、歴戦の猛者である女将は違う、常に前を見続ける。
「姫ちゃん、流石に完全に無策ってわけじゃ~ないだろ?」
前を見続ける女将だからこそ、出てくる信頼という言葉。
言いたいことも凄くわかるよ、あの姫様が完全無策でこの場所に来るとは思っていない、無策で突き進むような浅い考えの人じゃない
女将の期待のこもった言葉に、姫様はずっと俯いたままで言葉を、喉の奥から捻り出すように出していく
「実は、想定外の出来事が多すぎて…今のところ想定していた、最悪のシナリオってところなの…あのね、色々なケースを想定して臨んだけど、ね?その、聞いてもらえるかな?想定していたシナリオを…」
悲しそうな顔で今回の作戦の全容っというか、狙いを教えてくれた。
まず、姫様が思い描いたシナリオの中で一番の最良は、敵の軍勢は今回の毒だけで制圧できるのが想定していた中での最上のシナリオになるのだけれど
想定外だったのが、毒に適応する個体が出てきたことが想定外、いずれ出てくるとしても襲い掛かってくる軍勢の第一弾で適応する個体が出てくるのが、想定外でよりによって攻撃力の高い人型が毒に対する耐性を得てしまったのも最悪のシナリオ。
その為、本来は、毒を克服した、あの敵に使用する予定じゃなかった、切り札であるホーリーバーストを使用してしまった。
あの魔道具セットは、本来であればあそこで使用する予定ではなかった。
予定では、多くの獣の軍勢を毒で仕留め切って、獣の軍勢を率いている敵のカードが完全に毒殺するまで削り切るのを想定していて
海に住まう始祖様が取り逃がしたとされる、北の大穴から獣の軍勢を受け取り、海中を進んで、南の端から獣の軍勢を率いて人類殲滅を企む、未知なる獣が手札を失った焦りから、自ら出撃してくるのを、待って、確実にホーリーバーストで倒しきる予定だった。
そうすることで、敵が海を渡る術を失い、この砦から南はまた、最も安全な区域へと戻すことが出来る、せっかく発見できない敵を発見できて尚且つ殺すチャンスだと思っていたのだけれど、姿を現す前に此方の手札が尽きようとしている。
敵の大将首を取る為にも、あの魔道具は温存すべきだった。
ホーリーバーストを発動するために必要な道具、その殆どを消費してしまった。
仮に、もう一度、使用する事は可能なのか?可能ではあるが、本来であれば交換してから使用するのが正解なのだが、現状では交換するための予備のパーツが手元にない。
なので、疲弊したパーツで使用する事となり、大元である魔道具が壊れてしまい、最悪、二度と使えないことになる恐れがある。
海の未知なる獣と想定通りに事が運び、面と向かって戦いになり、切り札であるホーリーバーストを使って、殺しきれなくても敵の姿を知ることだけでも次回に備えることが出来る。
だが、今の状況でそいつと面と向かって戦うだけの手札が乏しい。消耗している魔道具で倒しきれる可能性はゼロに近い。
現状では撃退すら難しい状況となる。今、海の未知なる獣が他にも控えている可能性がある、獣の軍勢、第二陣、第三陣と、未知数の敵の数と共に出撃してきたら
我々の手札では、倒すことは出来ない。
「・・・・・」
誰も質問することなく、ただただ、姫様の言葉を受け止め何か方法が無いか頭の中で模索しているが出てこない、己の無力さを噛み締めている
ふと、疑問に思ったのがパーツさえあれば、ホーリーバーストは再使用できるのだろうか?気になったので質問をすると
可能ではあるが、予備パーツはまだ精製できていない、想定よりも長く照射してしまったので、現段階で、ここまで疲弊するのは想定外
きっと、精製するのが難しい特殊なパーツなのだろう、あれ程の出力に耐えうるのだから、貴重な素材を使ってたり精製が困難を極めたりするのだろう
誰も絶望の未来を聞き出す為に、踏み出す勇気が出てこない、この先に待ち受ける恐怖と絶望にどうやって向き合えばいいのか、覚悟もできないし、受け止め方もわからない。
女将ですら、言葉を発することが出来ていない、何度も何度も言葉を出そうと口を開き手を動かそうとするが、開いた口からは何も音が出てくることは無く、伸ばした手は空を切り、動かす前の最初の位置に戻る。
この流れを、この空気を、換える為にも、何か、何でもいいので、発言しないと…思い出すのは作戦に使用した非人道的殺戮道具、毒、そうだよ、毒を使えば!
「で、でもさ、あの毒をまた散布すれば」
そう、どれだけ数を揃えようと、次々と走る足を止め、ゆっくりと絶命させた強力な毒。あの毒を散布し続ければ、軍勢なんて
自分の中に生まれた希望、きっと、姫様なら共感してくれるはず!
淡い期待を込めて反応を待ち続けるが、既に反応がよろしくない。こちらが感じた希望を欠片も感じてくれていない。
この言葉に姫様は俯いたまま、ぽつりと呟くように希望の言葉ではなく絶望を揶揄する言葉を紡いでいく
「そうだね、何もない状況で毒を散布すれば、ね」
この言い淀む感じ、間違っているっと、その考えは安易だと否定してくるのが伝わってくる。
何を間違えたのだろうか?敵を倒したあの現状に何の間違いがあるの?いくら考えても答えが出てこない。
「ねぇ?団長、毒が有効だったらさ」
有効だからこそ、多くの敵は上空から散布された毒によって死に絶えたじゃない
「どうして、あの時の人型は、渦巻く毒の中から抜け出てこっちまで全速力で走ってこれたの?」
その言葉にはっと、するような感覚で気付きを得てしまった。
そうだよ、いくら人型と言えども、相手は同じく獣。
今までの人型だって、毒は有効な場合が多かったとベテランさんからもNo2からも教えてもらったじゃない、海辺の村を襲った人型でさえ、自身が魔道具で発生させる毒から守るために、気流を発生させているだろうと思われる魔道具を持っていたじゃない?
毒は有効、ゆうこうのはずじゃ?
今までの常識が覆されるような状況に脳内がパニックを起こしかけている、そんな混乱の渦中から抜け出せない私を抜け出させるために言葉が続いていく
「どんな生き物が、持ってる、生きる為の機能で、抗体っていう言葉、知ってる…よね?」
抗体、うん、聞き覚えがありますとも、医療人ですからね、体内に入ってしまった毒を自身の体にある免疫細胞が反応して毒から命を守るために自身の力で作り出す物質
それじゃ、まさか、あの短時間で抗体を生み出したの?
「ぇ、ぇぇ、それが?」そんな瞬時に抗体を生み出せるってこと?
人型がそれだけ、毒を分解解析する能力が高いのだったら、おかしいよね?
だって、それだったらさ、海辺の人型は…毒を防ぐための魔道具を持つ必要性はないよね?
憶測が答えを導き出せずにもがき苦しみ答えを求めて、水面を浮上しては新しい情報に引っ張られて思考の海に引きずり込まれていく。
「…抗体ってね、野生の野に居る獣達でもね、毒に侵されて死んでしまった死体の中にはね、ある一定量の抗体が残されていることがあるの、毒によって死んだ死体から抗体を摂取することも。出来るんだよ?…今、あの平原はどうなっている?」
毒で死んだ獣だら、け…ぇ、それじゃあの人型って
思考の海から出ることが出来なかった、憶測が答えを得、重りから解き放たれ思考の海から出た瞬間に感じる爽快感と同時に襲い掛かってくる毒に対して耐性を得たという事実に戦慄する
言葉を失いさまよう視線を感じ取りながらも会話を続けていく
「正解、こっちに向かってくる過程で、毒で死んだ獣から抗体を摂取し、毒に対する耐性を得てから突撃して来たってことになるよね。使用した毒は…もう、効果は期待できない、たぶん、もう既に手遅れになってしまってるんじゃないのかな~、私達が砦で色々としている間に、敵だって馬鹿じゃない、地面に落ちてる毒で死んだ獣の遺体をサンプルとして手に入れているはずだよ、ほーりーばーすとで、残された敵の死体全て、燃えてくれていれば、よかったんだけどね、あの数だもの、そこまで上手くはいかなかったかな…」
姫様の言葉に解を得たが、疑問が尽きない、
だって、そんな簡単に抗体なんて出来ないよ?だって、あれって長い間、その手の病とか毒に浸されて、浸されて、何度も何度も仲間や家族が毒に抗い代を重ねていく過程で得られるものじゃないの?毒から生き抜けるように仲間同士で支えあって、耐え抜いた生き物同士が出会った結果、その毒や、病から生き抜いたモノだけが、生み出せるものじゃないの?
答えを得ているのに釈然としないでいると姫様の言葉で脳がさらに解を得る。
「団長、私達が戦っている獣たちは、普通じゃない、自然の生き物じゃない」
その冷酷で冷静な言葉に、自身が抱いている一般的な常識は捨てろと忠告され、思い返す、理不尽の塊であるあいつ等の事を…
長い戦いの上で、あの街で戦い抜いてきた戦士達が、どんなに煮え湯を飲まされてきたのか・・・失ってばかりだというのに、未だに理解していないのか?と自分の愚鈍さに苛立ちが生まれてくる。
毒がダメなら他の方法があるじゃない!短絡思考と罵ってもらっても構わない!
だったら、焼き払えばいい!!始祖様の秘術を再現できる今なら敵はいないはず!!あの驚異的な威力で起死回生となった魔道具を使おうと進言しようとすると
「だったら、あの、魔道具を使って殲滅すればよいのではないのですか?」誰もが思っていることを戦乙女ちゃんの口からも自然と零れ出てくる。
誰しもが、その提案に淡い期待を寄せていると
姫様の顔は俯いたままで正解ではないと、表情や仕草で伝わってくる。
「アレは、使えれるけど、使うわけにはいかないの…砲身が焼けてしまって、連続使用に耐えられない、今のまま修理しないで使用すると、根本的に壊れる。あの魔道具は、あれしかないの、現状替えがきかないの。いま、あの魔道具を精製するのは…時間が無い、だから絶対に、壊すわけにはいかないの」
つまり、この先待ち受けるであろう未来でアレを使う局面が待ち構えていてそれを突破するために必要ってことなのだろう。
なので、失うわけにはいかないってこと?でもさ、今を乗り越えない限り明日は無いのでは?来るかどうかわからない事態を想定して切り札を残すっていうのは、違うと思う。
今を乗り越えるのが先決じゃないの?
全員が姫様の言葉に納得できず、車の中によろしくない空気が充満していく、姫様もそれを感じ取っている。
「皆が言いたいことはわかるよ、今の困難を乗り越えない限り朝日は、私達を祝福しないって、でもね、アレが必要になるときは確実に来るの、今壊したら、間に合わなくなる、使いたくても、許可は絶対に出せません。あの強力な力に縋りたくても、縋れないの…」
私達では計り知れない盤上の何かがあるのだろう。ここまで首を縦に振らないっていうことは、本当にしてはいけない理由があるのだと察する。
攻撃手段がなくなっていく、そうなるとさ、逃げるのが一番だって考えるのが普通じゃないの?
だってさ、手持ちの武器で一番強力な武器が使えない、毒だって耐性を得ている可能性があって使うだけ無駄になる、つまりは無意味に魔力を消費することになる。
八歩塞がりだよね?そう考えると撤退して街の皆総出で、対策を練ってから再度、闘いに挑むのが正解じゃないの?
言葉にしたくない言葉を出すのは勇気がいる、だって私達が撤退するってことは…
「残された手段は撤退のみってこと?」
撤退するということは、南から攻めてくる軍勢をこの砦では、受け止め切れない、必然的に王都まで侵略されることになる、そうなると、王都近辺で襲い掛かる獣の軍勢を対処しないといけなくなる。
あれ?ちょっとまって、今ってもしかしなくても非常に危険な状況じゃない?だってさ、もしもさ、北にあるあの大穴が、こちらの状況を見抜いて軍勢を率いて攻めてきたらどうなるの?南からも北からも同時に攻めてくる、それって、対処…不可能じゃないの?
自分一人だけが気がついてはいけない恐怖に気が付いてしまい、心穏やかでいられないが、今は、平静を装わないと…
タイミングを見計らってこの危険な状況をどうすればいいのか質問しよう。
姫様からも重く認めたくない現実である一言が零れ出る
「うん、撤退できれば…それが一番だよね、出来れば…ね」
そう、できれば誰だって逃げたくなるような状況。逃げるのは簡単だけど、逃げた後に待ち構える困難の方が今よりもきつくなって結果的に逃げる場所もなくなってしまう。
逃げた先に待ち受けている困難をどうするのかって、問題にも発展してしまう。
逃げた先に、逃げる前よりも状況が悪化する、逃げて失ってを繰り返した先に待つのは破滅のみ…
逃げれない状況を理解しているからこそ、全員が言葉を失う、だけど、歴戦の猛者である女将は違う、常に前を見続ける。
「姫ちゃん、流石に完全に無策ってわけじゃ~ないだろ?」
前を見続ける女将だからこそ、出てくる信頼という言葉。
言いたいことも凄くわかるよ、あの姫様が完全無策でこの場所に来るとは思っていない、無策で突き進むような浅い考えの人じゃない
女将の期待のこもった言葉に、姫様はずっと俯いたままで言葉を、喉の奥から捻り出すように出していく
「実は、想定外の出来事が多すぎて…今のところ想定していた、最悪のシナリオってところなの…あのね、色々なケースを想定して臨んだけど、ね?その、聞いてもらえるかな?想定していたシナリオを…」
悲しそうな顔で今回の作戦の全容っというか、狙いを教えてくれた。
まず、姫様が思い描いたシナリオの中で一番の最良は、敵の軍勢は今回の毒だけで制圧できるのが想定していた中での最上のシナリオになるのだけれど
想定外だったのが、毒に適応する個体が出てきたことが想定外、いずれ出てくるとしても襲い掛かってくる軍勢の第一弾で適応する個体が出てくるのが、想定外でよりによって攻撃力の高い人型が毒に対する耐性を得てしまったのも最悪のシナリオ。
その為、本来は、毒を克服した、あの敵に使用する予定じゃなかった、切り札であるホーリーバーストを使用してしまった。
あの魔道具セットは、本来であればあそこで使用する予定ではなかった。
予定では、多くの獣の軍勢を毒で仕留め切って、獣の軍勢を率いている敵のカードが完全に毒殺するまで削り切るのを想定していて
海に住まう始祖様が取り逃がしたとされる、北の大穴から獣の軍勢を受け取り、海中を進んで、南の端から獣の軍勢を率いて人類殲滅を企む、未知なる獣が手札を失った焦りから、自ら出撃してくるのを、待って、確実にホーリーバーストで倒しきる予定だった。
そうすることで、敵が海を渡る術を失い、この砦から南はまた、最も安全な区域へと戻すことが出来る、せっかく発見できない敵を発見できて尚且つ殺すチャンスだと思っていたのだけれど、姿を現す前に此方の手札が尽きようとしている。
敵の大将首を取る為にも、あの魔道具は温存すべきだった。
ホーリーバーストを発動するために必要な道具、その殆どを消費してしまった。
仮に、もう一度、使用する事は可能なのか?可能ではあるが、本来であれば交換してから使用するのが正解なのだが、現状では交換するための予備のパーツが手元にない。
なので、疲弊したパーツで使用する事となり、大元である魔道具が壊れてしまい、最悪、二度と使えないことになる恐れがある。
海の未知なる獣と想定通りに事が運び、面と向かって戦いになり、切り札であるホーリーバーストを使って、殺しきれなくても敵の姿を知ることだけでも次回に備えることが出来る。
だが、今の状況でそいつと面と向かって戦うだけの手札が乏しい。消耗している魔道具で倒しきれる可能性はゼロに近い。
現状では撃退すら難しい状況となる。今、海の未知なる獣が他にも控えている可能性がある、獣の軍勢、第二陣、第三陣と、未知数の敵の数と共に出撃してきたら
我々の手札では、倒すことは出来ない。
「・・・・・」
誰も質問することなく、ただただ、姫様の言葉を受け止め何か方法が無いか頭の中で模索しているが出てこない、己の無力さを噛み締めている
ふと、疑問に思ったのがパーツさえあれば、ホーリーバーストは再使用できるのだろうか?気になったので質問をすると
可能ではあるが、予備パーツはまだ精製できていない、想定よりも長く照射してしまったので、現段階で、ここまで疲弊するのは想定外
きっと、精製するのが難しい特殊なパーツなのだろう、あれ程の出力に耐えうるのだから、貴重な素材を使ってたり精製が困難を極めたりするのだろう
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