最前線

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困難はまだ終わりを告げない

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隣には、女将が正座をして、背中を丸くして頭を垂れる様に座っている、その顔は悪戯が見つかってしかられている子供の様だった。
勿論

私もです…頭を垂れる様に背中を丸めて正座をして、女将と同じようにお説教を受けています。足がしびれてきてて辛い。

前をちらりと見ると口を大きくあけて仁王立ちで両腕は腰に添えて
「ねぇ!?ちゃんと聞いてる!?反省してますか!!」
姫様の可愛らしい顔が烈火の如く、医療の父を彷彿させる怒り心頭で、人様に見せれない程の表情をしながら顔を真っ赤にして怒ってます。

ちらりと女将を見ると、今まで見たことのない程のしょんぼりと、やるせない表情で反省している女将がいる。
女将程の誰からも尊敬されていて、誰からも羨望の眼差しで褒め称えられる、屈強なる猛者でも、姫様の前では形無しになってしまう。

お説教が長引く影響もあって、私の足が本当に限界が近い…
あいたたた、私も女将と全く同じ内容で怒られているのだけれど、足が痛い、痺れてきて痛い…
「だってよぉ、姫ちゃん」
女将がおろおろと今まで聞いたこともない程の情けない声で、時折、言葉を挟もうするが
「だっても!へちまもないの!!」ガっと!勢いよく言葉を制止させられて、その都度、しょんぼりと頭を垂れて俯いてしまう。
へちまって何だろう?何時になったら解放されるのだろうか?姫様を宥める立場の人がいないと、本当に終わる気配がない…

少しでも気を紛らわせたいので、どうして姫様がこうなったのか、経緯を思い出していく…

大宴会が終わって、砦の中にいる村人達が楽しそうに談話して過ごしていたり、兵士の皆様は、宴会の後処理をしている。
私も片づけを手伝ったりしながら、ちらりと姫様の方を見ると、砦のお偉いさんとの会話などで、忙しそうにしている。

片付けが終わった後は、私達、最前線チームは、自分達が使った魔道具の片づけを中心に活動し、全ての片づけが終わると、手持ち無沙汰になったので
姫様が戻ってくるまでの間、何かすることがないのかと兵士の人達に仕事ありませんか?っと聞くと色々と手伝ってほしいことがあるみたいなので、それらを手伝う流れになる。

内容は、最前線でも多くの被害者が出た時にするケースと一緒だった。
砦の人達や保護された村人たちと一緒に、戦いで亡くなられた兵士さんたちの遺品を整理するのを手伝ってあげたり、村人達では見るのも耐えがたい惨状の兵士さんを埋葬したり、誰でもできることをしていると、ついつい医療人として気になってしまうというか、目につくのが、

色んな人が怪我をしているのに碌な手当をしていないのが気になって仕方がなかったので、砦の兵士にメディカルスタッフはいないのかと声を掛けると、殆どの衛生兵は…っと言いにくそうに口淀むので、内情を察してあげ、自分が最前線の街では、医療班として活動しているっと伝えると驚きの表情と共に怪我人や病人を見て欲しいと瞳を潤ませながら懇願されたので診察をしていくことになる。

砦の兵士さんから使えるだけの治療道具や、診察道具を借りて、怪我人の手当てをしたり、酷いケガをしている人がいれば、簡易的な怪我をした細胞の回復を促したりする陣をその場で創る。
魔力を流すのは誰でも出来るように考慮され生み出された姫様直伝の陣なので、誰でも起動することが出来る。
なので、村人たちで手が空いていて人助けがしたいと言う人を兵士さんに探してもらうと、結構、多くの人から申し出を受け、こんな非常時でも誰かの為に何かしたいと思っている人は多くいるのだと、人の心の温かさにふれ少しだけ目頭が熱くなった。
魔力を流してくれる村人たちに陣に魔力を流してもらい、怪我した人を少しでお早く回復するための手伝いをしてもらった。

各々が出来ることを皆で一丸となって協力して助け合っていると

にっこりとした笑顔だけれど、確実に何かに対してお怒りだと察することが出来るほど大股で、急ぎ足で、だけれど、周りからの視線があるので優雅に気品ある歩き方を上半身だけでも心がけながら、此方に向かってくる姫様…

何か、あったのかな?ここの砦の人もめたとか?…
それは考えにくいよね。姫様だったら華麗に綺麗に優雅に気品あふれる対処でさらっと流すと思うし、あの王族との対談でも怒らず呆れるだけだった、その姫様が、対談ごときでご立腹?ありえないよね。

普段見ない怒りが全身から迸っているなんて、珍しい、これは何かあったのだろうと判断していると、姫様から手招きをされる。
やっぱり、何か非常事態でも発生したのだろうと、その手招きに頷いて、切の良いところで、治療を中断して姫様の近くに向かおうとすると、明後日の方向を向かって指を指すので視線を移すと、乗ってきた大型の車の方向を指さしている

ってことはだ、帰る、または、他の人に聞かれたくない内容を話すのだろう、いったい何があったのだろうか?
一抹の不安を胸に抱きながら、急いで車のドアを開けて車の中に入ると、普段、あまり見ることのできない光景を見て、これから先に待ち受けてる苦難と苦痛が待っているのだと現状を見て察してしまう。ぁ、これ私達に怒ってるパターンだと

ゆっくりと中に入って女将の状況をじっくりと観察してしまう。
女将が正座させられて待機している…この硬い床で正座?…まって、いつから?女将はいつからここにいるの?
私は恐る恐る、心の底では理解しているし頭でもわかっているけれども!確認したい!
女将に何事なのか話を聞こうとすると「はい、団長も正座」後ろから怒りを押し殺しきれていないほどの鬼気迫る圧を感じ、心と頭、両方で想像していた通りの出来事にこれからくるしっせきを甘んじて受ける為に、無言で女将の隣で同じように正座をする。

あーもう、そっからは、もう、本当にもう、耳が頭が心が痛くなるほどの怒涛のお説教の嵐…

どうして、簡単に命を投げ出そうとするのか
二人とも非戦闘員なのに人型とまた戦おうとしないの!過去の事、反省してないでしょ!っとか
ちゃんと、こっちの指示を待ってとか
私って信頼ないの!?この大陸の歴史上で最も偉業を成し遂げ続けていると思ってるけど!?っとか
非戦闘員だけど、女将の気持ちを察して、本当は参加させたくなかったけれど、少しでも気持ちを晴らしてあげたいって思って、連れてきたのに!!っとか
敢えて、女将専用に昔からある自前の装備を、事前に外させて、置いてきた意図をくみ取ってよ!!っとか
団長も団長だから!!団長は医療班でしょ!!闘うのが仕事じゃないでしょ!!命を投げ捨てる人じゃないでしょ!!命を救う立場の人でしょ!!っとか

お説教の内容が内容だけに絶対に反論してはいけないので、私は黙って聞き続ける。

永遠と、この内容がループしていく、隣で大きな大きな体を小さくして、普段から怒られ慣れていない、いい大人の女性が何度も口をはさむせいで!!!終わらないの!ループ地獄から抜け出せないの!!

そう、私 は!! 黙って聞き続けている、いるのだけれど、女将はちょいちょい口を挟もうとするから、それがダメ!してはいけない行為!怒っている人に口を挟む行為はダメ絶対!!だって、姫様の怒りを再燃させてしまうから、そのせいで怒りが永遠に収まらない…

女将は怒られ慣れてないから知らないのだと思うから、しょうがないけれど、怒りってね、ずっとずっと怒り続けるのって難しいんだよ?今みたいに言葉にして怒りを表現して発散すれば5分もすれば少しずつだけれど、落ち着くんだからね?

だからね、お願いだから、火に油を注がないで…ぅぅぅ、足が痛い

お怒りになるのも、凄くわかる、至極当然だよね、怒る理由もこちらを心配しての発言だし、しょうがないよね。
だって、私たち二人が発動しようとしたものが何か、言わなくても姫様はわかっているから

死の一撃

極致に至った人が全てを投げ売って発動する術式…
文字通り、狂う程の恋焦がられる、今の自分では絶対に叶わない願いを体現するために、自分の持てる全て、または、未来の人生を売って魔力に変換する

命を売ればたったの、一度だけ使える、奇跡のような術式

この間、説明を受けたからこそ、発動の仕方を仕組みを何となく理解して、知ってしまったから、私のような未熟者でまだまだ、全てのおいて極致に至れていない、そんな私でも見ることが出来た、心の奥底に眠る、押してはいけない希望と『  』のスイッチ

あそこまで、はっきりと見えるとは思わなかった、極致の至り、どうしようもない状況に陥ったときに、スイッチを押す資格を持った人が、無意識にあのスイッチを押してしまうのだろう。
だって、まだ希望が残されているにも拘らず、押そうとしたときに体の細胞全てが発動を阻止しようと持てる全ての能力を使って押させないようにしてくれた。

今だからこそ、ある人の言葉を思い返してしまう。
昔、まだまだ医療人として未熟だった私に色々と教えてくれた、No2が教えてくれた経験談
死を間近にした人が夢のような時間を過ごすことがある、色んな人を看取ってきた、傍で手を握って看取ってきた、その時にうわ言の様に話す言葉の内容が様々だったと、
教えてくれたことがある。

それは、いったいどうして起こるのか、医療の父に質問したことがある、その時に医療の父から言葉を頂いた、父曰く

人生でどうしてもやり残した悔いのあることや、未来でしたいことがあるとすれば、人ってのはいや、生き物全てがそうだな、根本的に生きたいんだ。
だから、後悔や、希望などを糧にして絶望の中にいる自身に少しでも生存させようと発破をかけてくるんだよ、そうやって、まだ生きたいと願わせようと魂からの生きたいと願う叫びを生み出させるとな、生まれてくるんだよエネルギーが、その生まれたエネルギーを生命力に変換して、体の細胞に働きかけんだよ。

生きろってな、命じる様にな、これが、どんな生命体でも持つと言われている生存本能という名前の呪われた術式だ

だそうで、その言葉を語る雰囲気や、重みのある苦痛に満ちた表情、それを肌で感じた当時の私は納得せざるを得なかった。
その当時から、医療の父が歩んできた、時代が本当に悲惨な時代と聞いているから、その言葉の重みを安易に否定してはいけない。

呪われた術式じゃない、生きようと願う心は純粋に希望だって、苦しむような表情をして語る医療の父の手を取って一緒に涙して語り掛けたかった。

なので、私が体験した、あの夢のような一時が、瞬時に脳内で再生され死にたくないと思わせるのが、きっと、生存本能なのだろう、それを跳ね除けてまで押せる勇気があるのか?ってことになる。

躊躇いがなかった、どうしてか知らないが、私は躊躇いなく押せると思ってしまった。

いや違う、お前の中にある憎しみが躊躇いなく押させようとする、蟠りがなくなったわけじゃないだろう?今だって憎いのだろう?
父親を殺したやつらが、その結果、訪れた悲しみの日々、その絶大なる絶望を生み出した存在が憎いのだろう?

復讐がしたいからお前は軽々しく命を捨ててもいいと思えれる狂人なのだと

いい加減認めてはどうだ?

…男の私が語り掛けてくる、うん、認めるよ、認めないと前に進めない。
だからこそ、無謀なことはしないと決める、あれらを滅ぼす機会がこの先、未来にあるのであれば、自分のこの手で全てを終わらせたい。

それでいい、死を覚悟するのは良いことだが、アレを使うのはまだ先だ、一度しか使えない切り札を使うタイミングを間違うなよ?

一通り、忠告をして満足したのか男の私が奥底に去っていく。
いつからだろうか?今までは混ざり合っていた意識が分離し、時折、ああやって顔を出すようになったのは?

・・・わかりきっている、女性の体に近づいたからだと思う、今まで男性の体だったものが女性の体に大きく近づき、女としての私が強く出てくるようになった

それに伴って私の中にある男性だった部分
男性としての考え方とか、立ち振る舞いの仕方とか、例えば、裸を見られても何も思わなかったり、大股で歩いても気にしなかったり、男性と何気なくスキンシップを取ったり、男性らしく大雑把な思考や、細かいことを気にしない考え方。
体が変化した影響で、今まで存在しなかった女性としての羞恥心とかが大きく出るようになった、それがきっかけとなって

過去と今で考え方に大きな違いが生まれた

いわば、男性の私は過去の私、女性の私は今の私

そういう風に認識している、だから、男性の私が語り掛けてくるのは過去に起きた出来事で根っこの部分でしこりとなる部分とかを指摘してくれるのでありがたい。
なので、彼とは不仲にする理由がない、どんな発言であろうと、ある程度は受け止める気では、いる。

「こら!話聞いてないでしょ!!」
いきなり両側の頬を手のひらで包み込むように触れられたと思ったら目の前に頬を膨らませている姫様がいる

しまった、上の空だったのがばれてしまったのかも
そう、思った瞬間には「いひゃいいひゃいよ、ひめさまーはんせいしてるぅー」手のひらで包まれていた私のほっぺたをぐいーっと引っ張られてしまう。

一頻り満足したのかぱっと、手を放して「うん、反省したのなら良し!」一瞬だけ眉間に力が入って皺になっていたけれど
すぐにいつも通りのにぱっとした笑顔で「っさ!大反省会も終わったことだし!片付けの続きをしましょう!」少し急ぎ足で車の外に出ようとすると、がしっと女将に腕を掴まれている

「ここからは、あたしの番だね」

ぁ、怒りが伝播した?それとも腹に抱えていたのかな~?
何か思い当たる節があるのか姫様が冷や汗をかいて、何処かに逃げ道が無いか辺り一面を探している、こちらをちらりと見るが…

ごめんね?

っとジェスチャーで謝りながら車を出ていく…
車から出るときに見えた姫様の絶望的な顔に少し尾を引かれたが、怒っている内容も説明不足とか、そういうやつだと思うので、それはもうちゃんと説明しなかった姫様の失敗だから反省してくだ さ い!!

バンっと力いっぱいドアを閉めて車から離れていく

…お前も怒っているのだろう?自覚しろ

はい、自覚してます!!女将と一緒に怒りたかった!!けれど!!そこは、年長者である女将の方が適役なので、お任せします!!
…それで、満足するのか?
私の怒りは仕事で発散するからいいの!!満足はしない!…でも、いいの。姫様をしっかりと親目線でしかられるのは、もう、女将しかいないから。

外に出ると戦乙女ちゃんが待っていて、声を掛けてくれる、向こうで怪我をした人の手当てをしてほしいと言われてしまったら、そりゃもう駆けつけるのが医療班!!
任せて!医療道具はあの街に比べたら化石みたいな古い道具しかない砦でも!しっかりと手当てしてみせるよ!!

医療の父から、No2からもしっかりと鍛え上げられた医療班のTOPとしてしっかりと職務を全うするからね!!




仕事に専念していると気が付けば夕暮れになる、けれども…私達の持ち場である最前線の街に撤退しないのかな?
そんなことを考えながらも治療を終えると、砦の兵士の皆さんから呼ばれるので付いて行くとご飯を用意してくれたので遠慮せずにいただこう

もぐもぐと、砦の人達が用意してくれたご飯に及ばされながら、何時帰るのだろうか?と、ぼんやりと考えていると
女将と一緒に姫様がこっちに向かってくる、けど…まさか、夕方になる、今の今ままで怒られてたりしないよね?

全員が席につくと、瞬時に帽子を被って偉そうにしてた人がエプロンを着て食事を運んでくる、何時の間に…
姫様も給仕の人がこの砦の偉いさんなものだから、わざわざ、椅子から立ち上がって丁寧にお辞儀して少しの間、意味のない高貴な会話をヲホホホっと交わし、食事のお礼を述べてから席に座って食事を始めていく、女将も黙々と食べ続けているけれど…なんだろう?雰囲気が悪い?喧嘩でもしたの?

二人とも険しい顔をしているけれど?

ん~食事のときくらい眉間に皺をよせないで食事を楽しんでもらいたいんだけど、何があったのかな?聞きたいけれど、今聞く時ではないと、こんなに大多数の人がいて、誰が聞き耳を立てているか知らない場所で身内の恥部を披露するわけにはいかないものね。

もぐもぐと食べていると、やっぱりここの野菜は美味しい、特に葉野菜が美味しい!!
しゃきしゃきした歯ごたえがいいなぁ、瑞々しい、この辺りの土地が肥沃で非常に野菜を育てるのに適しているのかな?
あの街で育つ野菜とは違った美味しさ、たぶん、同じ品種だと思うんだけど、どこが違うのかな?これをサンドイッチにはチーズとか、卵とかと一緒にはさんで食べたいなぁ。

用意された食事を食べ終えた後は二人が食べ終わるまで待つのだけれど、会話しようしないので、正直にいうと暇。

なので、暇を持て余している姿が周りに伝わってしまったみたいで、色んな兵士の人や村人たちが声を掛けてくる
丁寧に診察していただきありがとうございますっとか、今度、食事にいきませんかっとか、おでの村さ遊びに来て、よがっだら嫁にきてくんろっとか、色々と声を掛けてくれるので一人一人対応していると
「…サークルの姫って感じ、もってもて」ぼそりと姫様の声が聞こえてきたけど、サークル?円?の姫?…丸い?円?ふむ、客観的に見て
自分の周りに人だかりができている、その中央で煽てられまくっているいるから、まるで何処かのお姫様みたいってことかな?

なるほど、確かに、言われてみれば、円状に人が集まってそれを生み出した姫って表現、適してる!今回の姫様の呟きは意味が理解できたよ!

私だって姫様みたいな事したくないけれど…見知らぬ男性に、こんなにもお近づきになりたいですってストレートに来てくれるのは、悪くないね…気持ちがいい。

ちらりと二人を見ると、どうやら食事を終えたみたいだけど…どうしてジト目でこっちを見つめ続けているのかな?用事があるならこの人だかりから助けてくれてもいいんじゃないの?

呆れた顔でため息と共に、風に消え入りそうな小声で二人がつぶやいている
「姫ちゃん、そろそろ助けてやってもいいんじゃないのかい?」
「う~ん、そうだね、これを機に団長は自分がめちゃくちゃモテるってことをもっと自覚して欲しいから自覚するまで放置したい、けど、変な欲を周りに出されても困るし助けようかな~」
二人ともー?聞こえてるよー?私がモテる?モテてるなら一度くらい惚れた人に振り向いて欲しいけ・ど・ね!!!
全戦全敗なんですけど!!恋が実ったことないんですけどぉ!!モテてません!!!

膨れっ面になり、ジト目で二人を睨み返すと
「聞こえてるみたいだねぇ」
「そうねー、ほんっとあの様子じゃ理解してないよね~、助けようと思ったけれど~もう少し様子見る?」
「そうさぁねぇ、どうしようかねぇ…まったく罪づくりな人さぁねぇ…」
どうして二人そろってより一層呆れた顔するのかな?いいよ、もう助けてもらわなくても!自分でどうにかします!
「ごめんなさいね、皆さんからの申し出は嬉しいのですけど、仲間が私に用事があるみたいなので」
丁寧に、断ろうと二人がいる場所に指を指すと、女将を見た瞬間に砦の兵士が
「やっぱり、貴女様はあの大男の伴侶、なのですか?」
素っ頓狂なことを口走ると同時に、久しぶりに聞いた危険なワード…

やばい血の雨が降る、ゆっくりと女将の方に視線を向けると、ぁ、キレてるわ、姫様も顔を真っ青にして手を震わせて女将を見てる

ダンっと大きな音がすると木の机が叩かれたところを起点に撓み、机の脚からなのか、足元からベキィっと割れる音が聞こえ
「誰が男だってぇ!!あたしゃ女だよ!!!」
握った拳から血管が浮き出て見える…
私達からすると見慣れたやり取り、だってね?新人が作業服を着ているときの女将を見て、毎回のように男性だと見間違えるものだから、その都度、女将は激怒するの。
怒らせた相手が男だったら確実に殴られてる、女性だったら言葉でおしまい。そんな、最前線の街で発生するある意味、風物詩だから、私達は慣れたものだけれどこの衝撃に慣れていない人達はというと・・・・

兵士たちは蜘蛛の子を散らすように瞬時に逃げ、恐怖に慣れていない村人たちは腰を抜かしてその場に涙目で座り込んでしまうので両脇の下から手を差し入れ幼子を持ち上げるように上半身を持ち上げ椅子に座らせてあげる。

もう一度、振り返ると姫様が女将をどうどうと宥めている、それは馬を宥めたり牛を宥めたりする言葉じゃないの?
鼻息を荒くしていた女将はふんっと鼻から豪快な息を出した後は「失礼な人さぁねぇ!」っと大股でのっしのっしと車を停車している方に向かって歩いていく
そりゃ、ねぇ?そんな大股で歩いて、髪型も短くて筋骨隆々で隊服着てる人ってねぇ?知らない人からすれば何処をどう見ても男性にしか見えないよね?

はぁ、女将には、お化粧っていうものを徹底的に身につけさせないといけないなぁ…
作業とか料理するときに邪魔だからあたしゃしないよ!って嫌がって覚えようとしないんだよなぁ、簡単なやつなら旦那と遊びに行くときはするんだけどなぁ…

周りの人達にごめんねっと謝りながら女将の後に姫様と一緒についていく。
ざわざわと、女性だったのか、男にしか見えないっとか色んな声が聞こえてくる。

当たり前のざわめきを背中に一身に背負いながら進んでいく、あの逞しい背中、失礼なのはわかる、わかるけど!旦那さんすげぇなぁ…俺じゃアレは抱けんわ…

同意したいが、女将に失礼なので同意できない…

車の中に入ってもプリプリと怒っている女将を宥めるのに凄く時間が掛かってしまいました。旦那さんがいればすぐに機嫌がなおるのになぁ…

宥め終わるころに車のドアがノックされるので開けると戦乙女ちゃん達が勢揃いしているので狭いけれどなんとか運転席、助手席を駆使して全員入ってもらう。
姫様が念のために音が漏れにくくする術式を展開する。

やっぱり、聞かれたくない話が控えていたんだね。

「さて、今回の異変、お疲れさまでした!」
ペコリを頭を下げて、全員にお勤めご苦労様ですと労ってくれる
「では、大反省会も各々終わったことですし!!」
パンっと手を叩いて次にする行動を口にするのだろう、決まっている、撤退、ここでの仕事は終わったのだから
「ボスと闘う準備をしましょう!」

…ボス?

頭に思う浮かんだのが光の柱で上半身が溶ける様に吹き飛んだ人型じゃないの?

その言葉の意味が理解できない
ボス?大穴のいるやつのこと?今回の魔道具があれば戦えるってこと?デッドラインを超えて攻め込むってこと?決戦?

血が騒めく、時が来たのかと、だが、姫様は私の高揚する表情を見てすぐさま、否定してくる

「団長、違うよ、そっちじゃない、これから相手取るのは」

獣の軍勢を運び率いたやつだよ

その言葉に理解が追い付かない、だって、倒したじゃない?獣の軍勢から出てきた人型を…
先ほどの姫様から出た言葉を思い出す。

いや、違う、運びってことは、もしかしなくても

「あれで全部じゃない?」
眩暈がする、あの軍勢がほんの一部だったのだと考えてしまい、絶望の波に心が狂気に浸透させられ、今すぐにでも狂いそうになる。

絶望する現実に、姫様は静かに頷く…

その場にいる全員から伝わってくる、もう一度、あれらと闘えるのかと?更に、それらを運び連れてきた、そう、獣の軍勢を率いるナニカと闘わないといけない?
ここにいる練度も何もない一般人に毛が生えた程度の兵士と共に?

瞬間に頭に思い浮かぶ砦全てが蹂躙され死屍累々となる映像が…

震える右手を支える様に左手で抱き寄せる。その恐怖が全身を包み込ませるわけにはいかない

絶望という名のフィアーに浸かるわけにはいかない。

「と、当然、策はあるのですよね?」
声を震わせながら戦乙女ちゃんが質問を投げかける、そう、誰しもが姫様ならっという希望を投げかけると
「…ない」

その瞬間、この場居る全員の心臓が止まったのではないかと錯覚するくらい音が無くなったように感じた。


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