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人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに 3
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ベルが三回鳴る音、その音で目が覚めると同時に、耳に神経を集中する「新しい人型が出てきたと同時に爆発しましたー!!被害甚大です!!」最悪の報告だった。
うっわ、最悪、自爆タイプの強襲されたってことは、被害が多そうじゃないの、まだ睡魔が飛びきっていないので直ぐに反応が出来なかった
直ぐに動かない私の代わりに、起きていた女将が直ぐに返事をする
「被害の規模はどうだい?」「ぇ、あ、確認したところ五つに分かれた部隊の一部隊が壊滅規模の被害が出てます」
ぇ?壊滅?
その言葉に一瞬にして微睡んでいた思考が一気にクリアになり意識が覚醒する
「死者は!?」全身が凍り付く様な報告に勢いよく体を起こして状況確認をする
「部隊の7割が損傷して…死者は、でてます…」最悪の事態じゃないの!!指揮していたやつは何してたの!!
「直ぐに退避して!移動の陣は持ってるの!?」「はい!持っていて、部隊の中で損傷が激しく怪我した人たちは全員帰還して医療班に担ぎ込まれました!!」
くそ!医療の父は前線に出ているから、頼りになる人が…
「ネクストは?」No3が前線に出ていないことを祈るばかり「…前線に出ています」
最悪の最悪じゃないの!!なんで、なんで!!医療の主軸になる人を全員外に出すのよ!!
「なんとか街に残っている医療スタッフで対処していますー!」「誰がいる?」メンバーによっては救えない!!
「昔からこの街で医療班として働いている人達が全員、病棟に残って対処に当たってくれていますー!」
その答えから考えられる病棟にいるメンバーは、No2や、医療の父と共に働いてきたベテランスタッフの可能性が高い、彼らが居るのであれば、命を繋ぐ為に最善手を尽くしてくれるだろう…だけれど
…技術力がロートルすぎる、最新の術式は出来ない、医療の父と同じ時代のことしかできない、なんで、なんで!主軸を外にだしたのよ!!No2も私もいないのに!!
「ごめんなさい、私が、全力で止めればよかったんですよね、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私が長い間、沈黙しているのでメイドちゃんが私が怒っていると思ったのだろう、実際に怒りは湧いてきているけれど、怒りの矛先はメイドちゃんに向けてはいけない。
メイドちゃんが悪いわけじゃない、通話の向こうにいるメイドちゃんが涙を流しながら懺悔する声が聞こえる
「いいのよ、貴女が悪いわけじゃないわ、あの人をとめれる人なんて私か」…No2しかいないもの
「っでも!ネクストは何やってんのよ!勝手してんじゃないわよ!!」あんの馬鹿!!状況をよみなさいよ!向こう見ずなとこがダメなのよ!!
私の怒号に「ごめんなさぃぃぃ」メイドちゃんからは悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる帰ったら辛い立場を任せてしまったことを詫びて甘やかしてあげないといけないね
フォローは帰ってから!今なすべきことは「どっちでもいいから前線から下がらせることはできそう?」
少しでも早く多くの命を救うことを考えないと
「それが、現場で損傷した人たちが多すぎて二人体制じゃないと命が救えない状況って報告があがっていますです~」
ああ、なるほど、状況を理解した、爆破があって多くの被害者が担ぎ込まれた場所、それは襲撃が発生する前から、前線で展開している医療テントに医療の父とネクストが待機しているのね。
そこで受け入れれる人達と、街で治療したほうがいい人達を選定して救える患者を先に現地で治療している可能性が高い
ってことは、街に運ばれてきた人は…見捨てた可能性がたかいな
惨状が脳に再生される、どうしようもない人達を看取り続ける悲しい現場が、その光景に胸が痛くなる…
どうして、私はそこにいないのだろうか?私がいればまだ、救える命があるはずなのに…
くやしさに気が付けば椅子を何度も何度も叩いていた
叩いていた手の上にそっと手が添えられる大きくてごつい手が
「あんたが悪いわけじゃないさ、憎むべきはあいつらだ、自分を責めるんじゃぁないさぁね、メイドちゃんもだよ」
その声に一筋の涙を流し「街の人達で手が空いてる人たちが居れば、医療室に向かってもらって治癒の陣に魔力を通してもらって!」「はい!!」
あと、考えないといけないのが、一つの部隊が壊滅状況、その分の負担が他の部隊にのしかかる、それだけじゃない、厄介な魔道具持ちの人型とも戦っている部隊がいる
部隊を再編成しないといけないのだろうけれど、どう再編成したらいいのか皆目見当がつかない…
次の指示を悩んでいたら、先にメイドちゃんから提案が飛んでくる
「部隊の編成はなんとかティーチャーさんに丸投げします!」うん、それが現状では最適解ってことだよね
「お願い、なんとか、生きて、死なないで」「…はい、あの、姫様はご無事ですか?」うん、気になるよね、司令官の声がいきなり途絶えたのだから
「限界がきて今は、横になってる、起きる気配がないから、かなり無理をしていたみたい」「です、よね…出来る限り私達でも踏ん張って見せます!!」
通話が終わると静寂の刻が流れていく…万全の状態であれば、恐らく被害も少なく冷静に対処できているのだと思う、どうして、こうも的確に攻めてくるの?タイミングを完全に理解している、此方の嫌がるタイミングを…
脳裏に思い浮かぶ言葉
『指揮をするやつが敵にいる』
この言葉が心の隅々にまで染み渡る程に理解すると同時に気が付くと同時に、奥歯が割れそうな程、歯を食いしばり拳を握りこんでいた
姫様だけが、この状況になると何年も前から予測しており、結果的に最悪の状況に向かいつつある
もっと、もっと…私もこの状況を想定して動けなかったのだろうか?
自分の無知に腹が立つ、自分の境遇に腹が立つ、自分本位で生きてきたことに腹が立つ…
苦しそうにしている姫様の服を脱がしていく、自分が来ている戦闘服も脱ぐ
魔力なんて無い!でも、何処かにあるでしょ!捻り出しなさいよ!!
姫様を抱きしめる様に魔力を放出しようとするが、全然出てこない、でてこない・・・でてこいよ!!
あるだろうが!…何を犠牲にすればいい?何を魔力に換えればいい?
目の前にスイッチが見える、押せばきっと魔力を生み出せるのだろう、だけどそれを押せば命が消える
それじゃダメ、私にはまだすることがある、命に影響のない場所から魔力を生み出す方法が無いのか探る
ある、まだ、命に影響のない箇所で魔力を生み出せる箇所はある…
臓器を、死なない程度に臓器を供物へと捧げる・・・
見える、どの臓器を供物に捧げてもいいのか、感じる、全ての細胞に魔力は宿る、死の一撃に必要な魔力を生み出す為に臓器を差し出す、それを選択することが可能であるのであれば、死なない程度に臓器を捧げれればいい
暫くは、塩分控えめになるかな…押そうスイッチを、臓器を捧げるスイッチを
「ダメ、それはダメ」腎臓を魔力に変換しようとした瞬間に姫様の声で制止させられ、腕を振るえる手で握りしめてくる
「魔力変換で亡くした臓器は培養できない、適合しなくなるの…永遠に失うの、だから、お願い、それはしないで、お願い」
ぎゅっと力を籠めるのも辛そうに震えている、握られた手を包み込むように握り返す
「でも、こうでもしないと、魔力が」魔力が無いの…
「ぃいの、いいの、団長はしなくていいの、お願いだから、感情的にならないで、大丈夫、計算上で敵が動くのなら大丈夫だから、焦らないで皆ならきっと大丈夫、大丈夫、きっと立て直す、信じて、犠牲が出たのは悲しいことよ?でもね、今焦って私に魔力を注いでも状況はすぐに好転しないわ、死んだ人は帰ってこないの、犠牲を受け止めて、前にすすもう?ね?」
大粒の涙を流しながら誰よりも悲しみ、悔み、苦しいのに必死に声を殺しながら泣いて、私の愚かな判断をとめてくれる。
姫様を抱きしめて自分の愚かさ、短絡さ、くやしさ、仲間が死んだ悲しみ、色んな感情が渦巻き、自然と涙があふれ出る。
…仕方がねぇな、貸、一つだ
声が聞こえた、男の私の声が聞こえた、その直後に体内に廻る魔力を感じ取れる、微弱だけれどゼロじゃない
少しでも湧き上がってきた魔力を放出し、ロスを完全になくすようイメージして姫様に流し込み続ける
「無理、しないで」悲願するような懇願するような悲しい声で姫様が注意をしてくれる
その声に応えるように優しく子供をあやす様に
「大丈夫よ、無理なんてしないわ」優しく抱きしめ頭を撫でながら寝かしつけるように子守唄を唄う
「…うん、ごめんね、無理ばかりさせちゃって」「いいのよ私達は姉妹でしょ」
その言葉に笑顔を見せた後、ゆっくりと眠りにつく、愛しく感じるこの人を支えるために出来ることをしよう
目を閉じて魔力を渡すことに集中していく…
魔力を流し続ける、長い時間流し続ける、何処からこれ程の魔力が生み出されているのかわからない、貸一つ、きっと男の私が何かをしてくれたのだと思う、それが何かは、落ち着いたら問い詰めよう、凡その予想はついているけれど、そんな細かい魔力操作なんて私じゃ出来ないもの、こうやって魔力を放出しながら別のことを同時でするなんて出来ない。
きっと、男の私がそれの処理を担当してくれてるのだと思う、これが終わったら居なくなっているような気がするけれど…
あれもまた私の一部だもの、受け止めるよ君の考え方、生き方を。
そこからはずっと静かだった、半日以上、何も音が無かった、戦線が安定しているのか膠着しているのか、現状では何とかなっているのかもしれない、もしくは
報告する間もない程、自分たちの判断で動き続けないといけないほどの連戦連続の襲撃にあっているのかもしれない、遠い場所に居る私達が何が出来るかなんてわからない。
何も出来ない、特に戦士部隊の象徴でもある女将にとっては助言なんてするよりも、自分が前線に立って敵を殲滅する方が成果を上げれる。
私だって、後方で待機していないで、前線近くで医療テントを出して、怪我した人を全力で治療して前線に送り返すことで前線を安定させる方が成果を上げれる。
姫様だってそう、姫様の真骨頂は魔道具の扱い、様々な魔道具を駆使して私達では考えもつかない方法で敵を倒す。
姫様だって何度か前線に出て戦ったことがある、その殆どが魔道具や術式を駆使して敵を翻弄し策に嵌め込むように敵の動きを崩して敵の自由を奪って殺す
全員が得意とする場所から遠い場所にいる、私達が現場にいるだけで士気は高揚し、怪我人も減る…
私達の戦う場所は、真に活躍できる場所はここじゃないとわかっているけれど、私達、ううん、姫様にしか出来ないことが多すぎるのが一番の問題なのだと、痛感する。
「ありがとう、少し、楽になったよ」胸の上で眠り続けていた人から声が聞こえてくる
「…よかった、何か食べる?」頭を撫でながら声を掛けると
「うん、皆、休憩にしましょう、車を止めて外で食べましょう、それくらいの時間はあるから」消え入りそうな小さな声で指示を出すので、周りに聞こえるように
復唱するように声を出すと運転席からわかりましたっと返事が返ってくるとゆっくりと車が停車するので、自分の上半身を起こすように姫様の上半身を起こすと女将が手早く姫様の服を着せていく
手慣れてるねって声を掛けると「これでも母親だからねぇ、子供の着せかえなんて慣れっこさ」っと、戦士の表情ではなく母親の表情と声でテキパキと着せてくれるので、私も自身の服を着ていく
外は明け方に近いためか風が強く肌寒い、もう一日が経とうと、している、時間が経つのが早く感じるのは意識が途切れ途切れだからかな?
外に出ると戦乙女ちゃん達が椅子などをセッティングしてくれていて、車の上に載せてある道具を取り出し火を起こす
この辺りのいるであろう野生にいる従来の獣が居たとしても女将を見たら尻尾を丸めて逃げ帰るかお腹を出して媚びるだろう
野生ではないあいつらがここに出てくるとは思えない、南と北に戦力を集中させているはずだろうから、こんな場所に獣の軍勢を送り込んでいるとは思えない
姫様が椅子に座りながら白湯を飲んでいる、手には地図が握られていて戦乙女ちゃんが現在のおおよその位置を教えている
私も白湯を頂きながら椅子に座って空を眺めながら休憩する
女将がちらちらとこちらを見ているのでどうしたのか話を聞くと
「いや、その、無理するんじゃ、ないよ?」どうやら、魔力を流し続けてきたことに心配をさせてしまっているみたい
「うん、ありがとう大丈夫、まだいけるよ、不思議とね、いける気がするの」
本当に不思議だった、魔力の流れを感じないのに、必要な時に魔力を感じる、何処から魔力が湧いて出てくるのかわからないけれど、まだ大丈夫
まだ死なない
私の言葉を聞いた女将の下あごの皮膚がしわしわになっている、どんな表情よ、口角が下がってるわよ?
「…どうして、あたいには、魔力が少ないんだろうねぇ…」
その呟きは、全人類が思ってることだよ、私が人よりもほんの少しだけ魔力保有量が多いだけ、過去を、出自を知ったからこそ、そうじゃないのかなって思うのが
王家の血筋に、古くから王族の傍で戦い続けてきた血筋、その二つが混ざることで、先祖がえりをしたのじゃないかなって、だって、王家は始祖様の血が濃いと思うのよね
姫様の言葉を思い返す、ずっと引っかかっていた、気になっていた、あの50年で失われた始祖様の血が濃く始祖様から産まれた第一世代人達。
その多くが争い、争いの果てに多くの人が死んだ話、多くの始祖様の直系が亡くなってしまった、けれども、王族はその戦いに表立って戦っていない
つまり、始祖様の濃い血筋が残っているってことだよね?だから、彼らが自分でも名乗る時に良く語るワードがある、王都が 秘宝 って、王族の事を表現しているのだから。
その秘宝と、その秘宝を守り続けてきた一族の血
どう考えても、他の人達よりも始祖様の血が濃いと思われる…
だから、私の髪の色は黒くて、魔力保有量が人よりも多いのだと
どうせだったら、第一世代の様に強く生まれて欲しかったなぁ、そうしたら、世界を救う勇者にでも成れたのに…ね。
姫様にこんな苦しい思いをさせなくても、よかった
お父さんが死ななくても、よかった
No2が悲しまなくても、よかった
女将が自分の弱さに嘆かなくても、よかった
世界中の人々が死ななくても、よかった
私の心が…魂が女性じゃなかったら、反発することなく、第一世代のような肉体へと至れたのかな?強者へと…
「ダメだよ、魔力枯渇症からくるネガティブ思考に囚われないでね」
その言葉に、現実世界へと引き戻される、だめだなぁ、魔力枯渇症になると直ぐにネガティブ思考に結びついて行っちゃう。
「説明したいけれどもまずは、腹ごしらえだよね、食べよう食べよう」
姫様のその言葉で全員が一斉にご飯を食べていく、よくよく考えれると出発してから何も食べてない気がする。
「ごめんね、休憩が遅くなっちゃって」
モグモグと口の中にパンを含みながら姫様が申し訳なさそうに謝ると戦乙女ちゃんが直ぐに返事を返している
「大丈夫ですよ!丸薬をちょっとずつ食べたりしていたので、お腹はすきましたけれど、栄養的に問題ないはずです。いつもの外での任務に比べたら余裕ですよ!」
元気な返事が返ってくる、長い時間、交代交代で、運転していたと言っても、疲れはあるだろうし、魔力だって消耗するだろうに、心配になったので魔力回復促進剤を飲むように勧めると
「はい、出発前に飲みました!ご飯食べ終わったらもう一本飲むつもりです」
うげぇっと苦虫を嚙み潰したような表情に舌を出してお道化て見せる辺り、気を使って場を和ませようとしているのだろう、駄目だなぁ、気を遣わせてばっかり。
「うふふ、そうね、私もご飯を食べた後は飲まないとね」
同じように苦虫を嚙み潰したような表情をして舌をだしてお道化る
二人を見た皆がクスクスと笑いながらも、食事を楽しんでいく。
全員が食事を終えると姫様が声を出す「お手洗いなどの休憩が終わり次第、出発するからね」まだまだ力を感じ取れない弱々しく感じるその一言の後、各々が出発する準備を進めていく
ふと視線を水平線に向けると、太陽の光が少しだけ覗かせている、ここの風は冷たい、あの大地とは違うのだなっと肌で感じる
太陽の光を眺めていると「ここの土地って肌寒いよね…懐かしいな」隣から姫様の声が聞こえる
そういえば、確か
「姫様の故郷ってこっちの方だよね?」
確か、王都から見て東側にあると聞いたことがある
「そうだよ、王都から見て東のやや南、えっとね、あっちの方に光が見えるのわかる?」
指を指された方を見ると、点々とした光が薄っすらと見える、あの大地から見える光がきっと姫様の故郷なのだろう
「昔はね、もっともっと小さかった辺境の村だったの、今となっては結構大きな街になったんだよ」
遠い遠い目をしている、故郷を懐かしく感じているのだと思う、やっぱり育った街だからこそ帰りたいって思うのかな?
「帰りたい?」「絶対にヤダ、死んでも帰りたくない、会いたくも見たくもない!お父様なんて嫌い!!」
間髪入れずに怒気を含んだ声で返事が返ってくるのは予想外だった、ちらりとみると一瞬だけ頬を膨らませていたけど、直ぐに表情が変わる
「…でもね、全てが終わったら、帰ってもいいかなって思ってる、全てが…終わったら」
その表情は悲しそうで切なそうで、遠い遠い未来を見つめている…
「守るって決めたから、私の大事な綺羅星を…」
最後の方に聞こえた言葉に私はなんて返せばいいのかわからなかった聞こえないふりをするしか出来なかった
私の残された時間までに
薄々感じていた、感じていたけれど誰もその話を振ることが出来ない…
短命だったお母さん、お母さんと同じように白髪…姫様の命は何処まで続くのか?何処まで生きていけるのか?
姫様に近い人であればある程、知りたくても聞けない情報、免れることのない死の運命…
私達は姫様に何を残してあげれた?姫様は私達に多くを残し導き、授けてくれたのに…
感謝の言葉しか私達はプレゼントすることが出来ていない、だから、だからこそ、姫様が生きている間は絶対に支えようと心に誓っている。
…打算的な部分もあるのが悲しい所だよね、だって、姫様を支えることで人類生存の道に繋がるのだから、生きたい、明日を願う気持ちで姫様を利用しているのじゃないかって断罪されるのならしょうがないと思う、断罪して欲しいくらい。
こんなにも弱々しくて、辛そうにしているか弱き乙女を酷使し続けて、死が近い彼女に無理ばかりさせている、これが罪に問われないのだとしたら…
人類は傲慢すぎる…そんな人類を救う価値はあるのかな?
ないよ、犠牲を強いるような人間性に救いなんていらない、滅んでいいよ。
だからか、うん、だからなんだね、私自身の命が軽いような気がするのは、そうだよ。
人類にとって最も価値ある命であり生命体である彼女が生きている方が絶対に世界の為になる、その彼女の命を利用し続けてきたのだから、その償いとして命を捧げるなんて軽いことじゃない…
嗚呼、そうか、そうなんだ、贖罪だったのかな?私と姫様の関係って?ううん、私達弱者である人類と姫様との関係…かな。
気が付くと姫様を抱きしめていた
姫様は驚いた顔を一瞬したけれど私の胸の中に顔を埋めてくれる
「…私の為に泣いてくれてありがとう、大好きだよ」「うん、私も大好き」
決意が漲る
この人だけは死なせない
絶対に死なせない!私の中にある全ての願いをぶん投げてもいい!かなぐり捨ててもいい!!
願うはこの人の幸せ、願うはこの人の人生、願うは…この人が笑顔で生きていける人生!!
「なぁ、戦士長、あたいはこの光景を見るのは二度目なんだ、あたいはまた失うのかい?白い髪に、時期に白くなっていく黒い髪…あたいはまた、失うのかい?」
遠くで女将の嘆きが聞こえたような気がした…
うっわ、最悪、自爆タイプの強襲されたってことは、被害が多そうじゃないの、まだ睡魔が飛びきっていないので直ぐに反応が出来なかった
直ぐに動かない私の代わりに、起きていた女将が直ぐに返事をする
「被害の規模はどうだい?」「ぇ、あ、確認したところ五つに分かれた部隊の一部隊が壊滅規模の被害が出てます」
ぇ?壊滅?
その言葉に一瞬にして微睡んでいた思考が一気にクリアになり意識が覚醒する
「死者は!?」全身が凍り付く様な報告に勢いよく体を起こして状況確認をする
「部隊の7割が損傷して…死者は、でてます…」最悪の事態じゃないの!!指揮していたやつは何してたの!!
「直ぐに退避して!移動の陣は持ってるの!?」「はい!持っていて、部隊の中で損傷が激しく怪我した人たちは全員帰還して医療班に担ぎ込まれました!!」
くそ!医療の父は前線に出ているから、頼りになる人が…
「ネクストは?」No3が前線に出ていないことを祈るばかり「…前線に出ています」
最悪の最悪じゃないの!!なんで、なんで!!医療の主軸になる人を全員外に出すのよ!!
「なんとか街に残っている医療スタッフで対処していますー!」「誰がいる?」メンバーによっては救えない!!
「昔からこの街で医療班として働いている人達が全員、病棟に残って対処に当たってくれていますー!」
その答えから考えられる病棟にいるメンバーは、No2や、医療の父と共に働いてきたベテランスタッフの可能性が高い、彼らが居るのであれば、命を繋ぐ為に最善手を尽くしてくれるだろう…だけれど
…技術力がロートルすぎる、最新の術式は出来ない、医療の父と同じ時代のことしかできない、なんで、なんで!主軸を外にだしたのよ!!No2も私もいないのに!!
「ごめんなさい、私が、全力で止めればよかったんですよね、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私が長い間、沈黙しているのでメイドちゃんが私が怒っていると思ったのだろう、実際に怒りは湧いてきているけれど、怒りの矛先はメイドちゃんに向けてはいけない。
メイドちゃんが悪いわけじゃない、通話の向こうにいるメイドちゃんが涙を流しながら懺悔する声が聞こえる
「いいのよ、貴女が悪いわけじゃないわ、あの人をとめれる人なんて私か」…No2しかいないもの
「っでも!ネクストは何やってんのよ!勝手してんじゃないわよ!!」あんの馬鹿!!状況をよみなさいよ!向こう見ずなとこがダメなのよ!!
私の怒号に「ごめんなさぃぃぃ」メイドちゃんからは悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる帰ったら辛い立場を任せてしまったことを詫びて甘やかしてあげないといけないね
フォローは帰ってから!今なすべきことは「どっちでもいいから前線から下がらせることはできそう?」
少しでも早く多くの命を救うことを考えないと
「それが、現場で損傷した人たちが多すぎて二人体制じゃないと命が救えない状況って報告があがっていますです~」
ああ、なるほど、状況を理解した、爆破があって多くの被害者が担ぎ込まれた場所、それは襲撃が発生する前から、前線で展開している医療テントに医療の父とネクストが待機しているのね。
そこで受け入れれる人達と、街で治療したほうがいい人達を選定して救える患者を先に現地で治療している可能性が高い
ってことは、街に運ばれてきた人は…見捨てた可能性がたかいな
惨状が脳に再生される、どうしようもない人達を看取り続ける悲しい現場が、その光景に胸が痛くなる…
どうして、私はそこにいないのだろうか?私がいればまだ、救える命があるはずなのに…
くやしさに気が付けば椅子を何度も何度も叩いていた
叩いていた手の上にそっと手が添えられる大きくてごつい手が
「あんたが悪いわけじゃないさ、憎むべきはあいつらだ、自分を責めるんじゃぁないさぁね、メイドちゃんもだよ」
その声に一筋の涙を流し「街の人達で手が空いてる人たちが居れば、医療室に向かってもらって治癒の陣に魔力を通してもらって!」「はい!!」
あと、考えないといけないのが、一つの部隊が壊滅状況、その分の負担が他の部隊にのしかかる、それだけじゃない、厄介な魔道具持ちの人型とも戦っている部隊がいる
部隊を再編成しないといけないのだろうけれど、どう再編成したらいいのか皆目見当がつかない…
次の指示を悩んでいたら、先にメイドちゃんから提案が飛んでくる
「部隊の編成はなんとかティーチャーさんに丸投げします!」うん、それが現状では最適解ってことだよね
「お願い、なんとか、生きて、死なないで」「…はい、あの、姫様はご無事ですか?」うん、気になるよね、司令官の声がいきなり途絶えたのだから
「限界がきて今は、横になってる、起きる気配がないから、かなり無理をしていたみたい」「です、よね…出来る限り私達でも踏ん張って見せます!!」
通話が終わると静寂の刻が流れていく…万全の状態であれば、恐らく被害も少なく冷静に対処できているのだと思う、どうして、こうも的確に攻めてくるの?タイミングを完全に理解している、此方の嫌がるタイミングを…
脳裏に思い浮かぶ言葉
『指揮をするやつが敵にいる』
この言葉が心の隅々にまで染み渡る程に理解すると同時に気が付くと同時に、奥歯が割れそうな程、歯を食いしばり拳を握りこんでいた
姫様だけが、この状況になると何年も前から予測しており、結果的に最悪の状況に向かいつつある
もっと、もっと…私もこの状況を想定して動けなかったのだろうか?
自分の無知に腹が立つ、自分の境遇に腹が立つ、自分本位で生きてきたことに腹が立つ…
苦しそうにしている姫様の服を脱がしていく、自分が来ている戦闘服も脱ぐ
魔力なんて無い!でも、何処かにあるでしょ!捻り出しなさいよ!!
姫様を抱きしめる様に魔力を放出しようとするが、全然出てこない、でてこない・・・でてこいよ!!
あるだろうが!…何を犠牲にすればいい?何を魔力に換えればいい?
目の前にスイッチが見える、押せばきっと魔力を生み出せるのだろう、だけどそれを押せば命が消える
それじゃダメ、私にはまだすることがある、命に影響のない場所から魔力を生み出す方法が無いのか探る
ある、まだ、命に影響のない箇所で魔力を生み出せる箇所はある…
臓器を、死なない程度に臓器を供物へと捧げる・・・
見える、どの臓器を供物に捧げてもいいのか、感じる、全ての細胞に魔力は宿る、死の一撃に必要な魔力を生み出す為に臓器を差し出す、それを選択することが可能であるのであれば、死なない程度に臓器を捧げれればいい
暫くは、塩分控えめになるかな…押そうスイッチを、臓器を捧げるスイッチを
「ダメ、それはダメ」腎臓を魔力に変換しようとした瞬間に姫様の声で制止させられ、腕を振るえる手で握りしめてくる
「魔力変換で亡くした臓器は培養できない、適合しなくなるの…永遠に失うの、だから、お願い、それはしないで、お願い」
ぎゅっと力を籠めるのも辛そうに震えている、握られた手を包み込むように握り返す
「でも、こうでもしないと、魔力が」魔力が無いの…
「ぃいの、いいの、団長はしなくていいの、お願いだから、感情的にならないで、大丈夫、計算上で敵が動くのなら大丈夫だから、焦らないで皆ならきっと大丈夫、大丈夫、きっと立て直す、信じて、犠牲が出たのは悲しいことよ?でもね、今焦って私に魔力を注いでも状況はすぐに好転しないわ、死んだ人は帰ってこないの、犠牲を受け止めて、前にすすもう?ね?」
大粒の涙を流しながら誰よりも悲しみ、悔み、苦しいのに必死に声を殺しながら泣いて、私の愚かな判断をとめてくれる。
姫様を抱きしめて自分の愚かさ、短絡さ、くやしさ、仲間が死んだ悲しみ、色んな感情が渦巻き、自然と涙があふれ出る。
…仕方がねぇな、貸、一つだ
声が聞こえた、男の私の声が聞こえた、その直後に体内に廻る魔力を感じ取れる、微弱だけれどゼロじゃない
少しでも湧き上がってきた魔力を放出し、ロスを完全になくすようイメージして姫様に流し込み続ける
「無理、しないで」悲願するような懇願するような悲しい声で姫様が注意をしてくれる
その声に応えるように優しく子供をあやす様に
「大丈夫よ、無理なんてしないわ」優しく抱きしめ頭を撫でながら寝かしつけるように子守唄を唄う
「…うん、ごめんね、無理ばかりさせちゃって」「いいのよ私達は姉妹でしょ」
その言葉に笑顔を見せた後、ゆっくりと眠りにつく、愛しく感じるこの人を支えるために出来ることをしよう
目を閉じて魔力を渡すことに集中していく…
魔力を流し続ける、長い時間流し続ける、何処からこれ程の魔力が生み出されているのかわからない、貸一つ、きっと男の私が何かをしてくれたのだと思う、それが何かは、落ち着いたら問い詰めよう、凡その予想はついているけれど、そんな細かい魔力操作なんて私じゃ出来ないもの、こうやって魔力を放出しながら別のことを同時でするなんて出来ない。
きっと、男の私がそれの処理を担当してくれてるのだと思う、これが終わったら居なくなっているような気がするけれど…
あれもまた私の一部だもの、受け止めるよ君の考え方、生き方を。
そこからはずっと静かだった、半日以上、何も音が無かった、戦線が安定しているのか膠着しているのか、現状では何とかなっているのかもしれない、もしくは
報告する間もない程、自分たちの判断で動き続けないといけないほどの連戦連続の襲撃にあっているのかもしれない、遠い場所に居る私達が何が出来るかなんてわからない。
何も出来ない、特に戦士部隊の象徴でもある女将にとっては助言なんてするよりも、自分が前線に立って敵を殲滅する方が成果を上げれる。
私だって、後方で待機していないで、前線近くで医療テントを出して、怪我した人を全力で治療して前線に送り返すことで前線を安定させる方が成果を上げれる。
姫様だってそう、姫様の真骨頂は魔道具の扱い、様々な魔道具を駆使して私達では考えもつかない方法で敵を倒す。
姫様だって何度か前線に出て戦ったことがある、その殆どが魔道具や術式を駆使して敵を翻弄し策に嵌め込むように敵の動きを崩して敵の自由を奪って殺す
全員が得意とする場所から遠い場所にいる、私達が現場にいるだけで士気は高揚し、怪我人も減る…
私達の戦う場所は、真に活躍できる場所はここじゃないとわかっているけれど、私達、ううん、姫様にしか出来ないことが多すぎるのが一番の問題なのだと、痛感する。
「ありがとう、少し、楽になったよ」胸の上で眠り続けていた人から声が聞こえてくる
「…よかった、何か食べる?」頭を撫でながら声を掛けると
「うん、皆、休憩にしましょう、車を止めて外で食べましょう、それくらいの時間はあるから」消え入りそうな小さな声で指示を出すので、周りに聞こえるように
復唱するように声を出すと運転席からわかりましたっと返事が返ってくるとゆっくりと車が停車するので、自分の上半身を起こすように姫様の上半身を起こすと女将が手早く姫様の服を着せていく
手慣れてるねって声を掛けると「これでも母親だからねぇ、子供の着せかえなんて慣れっこさ」っと、戦士の表情ではなく母親の表情と声でテキパキと着せてくれるので、私も自身の服を着ていく
外は明け方に近いためか風が強く肌寒い、もう一日が経とうと、している、時間が経つのが早く感じるのは意識が途切れ途切れだからかな?
外に出ると戦乙女ちゃん達が椅子などをセッティングしてくれていて、車の上に載せてある道具を取り出し火を起こす
この辺りのいるであろう野生にいる従来の獣が居たとしても女将を見たら尻尾を丸めて逃げ帰るかお腹を出して媚びるだろう
野生ではないあいつらがここに出てくるとは思えない、南と北に戦力を集中させているはずだろうから、こんな場所に獣の軍勢を送り込んでいるとは思えない
姫様が椅子に座りながら白湯を飲んでいる、手には地図が握られていて戦乙女ちゃんが現在のおおよその位置を教えている
私も白湯を頂きながら椅子に座って空を眺めながら休憩する
女将がちらちらとこちらを見ているのでどうしたのか話を聞くと
「いや、その、無理するんじゃ、ないよ?」どうやら、魔力を流し続けてきたことに心配をさせてしまっているみたい
「うん、ありがとう大丈夫、まだいけるよ、不思議とね、いける気がするの」
本当に不思議だった、魔力の流れを感じないのに、必要な時に魔力を感じる、何処から魔力が湧いて出てくるのかわからないけれど、まだ大丈夫
まだ死なない
私の言葉を聞いた女将の下あごの皮膚がしわしわになっている、どんな表情よ、口角が下がってるわよ?
「…どうして、あたいには、魔力が少ないんだろうねぇ…」
その呟きは、全人類が思ってることだよ、私が人よりもほんの少しだけ魔力保有量が多いだけ、過去を、出自を知ったからこそ、そうじゃないのかなって思うのが
王家の血筋に、古くから王族の傍で戦い続けてきた血筋、その二つが混ざることで、先祖がえりをしたのじゃないかなって、だって、王家は始祖様の血が濃いと思うのよね
姫様の言葉を思い返す、ずっと引っかかっていた、気になっていた、あの50年で失われた始祖様の血が濃く始祖様から産まれた第一世代人達。
その多くが争い、争いの果てに多くの人が死んだ話、多くの始祖様の直系が亡くなってしまった、けれども、王族はその戦いに表立って戦っていない
つまり、始祖様の濃い血筋が残っているってことだよね?だから、彼らが自分でも名乗る時に良く語るワードがある、王都が 秘宝 って、王族の事を表現しているのだから。
その秘宝と、その秘宝を守り続けてきた一族の血
どう考えても、他の人達よりも始祖様の血が濃いと思われる…
だから、私の髪の色は黒くて、魔力保有量が人よりも多いのだと
どうせだったら、第一世代の様に強く生まれて欲しかったなぁ、そうしたら、世界を救う勇者にでも成れたのに…ね。
姫様にこんな苦しい思いをさせなくても、よかった
お父さんが死ななくても、よかった
No2が悲しまなくても、よかった
女将が自分の弱さに嘆かなくても、よかった
世界中の人々が死ななくても、よかった
私の心が…魂が女性じゃなかったら、反発することなく、第一世代のような肉体へと至れたのかな?強者へと…
「ダメだよ、魔力枯渇症からくるネガティブ思考に囚われないでね」
その言葉に、現実世界へと引き戻される、だめだなぁ、魔力枯渇症になると直ぐにネガティブ思考に結びついて行っちゃう。
「説明したいけれどもまずは、腹ごしらえだよね、食べよう食べよう」
姫様のその言葉で全員が一斉にご飯を食べていく、よくよく考えれると出発してから何も食べてない気がする。
「ごめんね、休憩が遅くなっちゃって」
モグモグと口の中にパンを含みながら姫様が申し訳なさそうに謝ると戦乙女ちゃんが直ぐに返事を返している
「大丈夫ですよ!丸薬をちょっとずつ食べたりしていたので、お腹はすきましたけれど、栄養的に問題ないはずです。いつもの外での任務に比べたら余裕ですよ!」
元気な返事が返ってくる、長い時間、交代交代で、運転していたと言っても、疲れはあるだろうし、魔力だって消耗するだろうに、心配になったので魔力回復促進剤を飲むように勧めると
「はい、出発前に飲みました!ご飯食べ終わったらもう一本飲むつもりです」
うげぇっと苦虫を嚙み潰したような表情に舌を出してお道化て見せる辺り、気を使って場を和ませようとしているのだろう、駄目だなぁ、気を遣わせてばっかり。
「うふふ、そうね、私もご飯を食べた後は飲まないとね」
同じように苦虫を嚙み潰したような表情をして舌をだしてお道化る
二人を見た皆がクスクスと笑いながらも、食事を楽しんでいく。
全員が食事を終えると姫様が声を出す「お手洗いなどの休憩が終わり次第、出発するからね」まだまだ力を感じ取れない弱々しく感じるその一言の後、各々が出発する準備を進めていく
ふと視線を水平線に向けると、太陽の光が少しだけ覗かせている、ここの風は冷たい、あの大地とは違うのだなっと肌で感じる
太陽の光を眺めていると「ここの土地って肌寒いよね…懐かしいな」隣から姫様の声が聞こえる
そういえば、確か
「姫様の故郷ってこっちの方だよね?」
確か、王都から見て東側にあると聞いたことがある
「そうだよ、王都から見て東のやや南、えっとね、あっちの方に光が見えるのわかる?」
指を指された方を見ると、点々とした光が薄っすらと見える、あの大地から見える光がきっと姫様の故郷なのだろう
「昔はね、もっともっと小さかった辺境の村だったの、今となっては結構大きな街になったんだよ」
遠い遠い目をしている、故郷を懐かしく感じているのだと思う、やっぱり育った街だからこそ帰りたいって思うのかな?
「帰りたい?」「絶対にヤダ、死んでも帰りたくない、会いたくも見たくもない!お父様なんて嫌い!!」
間髪入れずに怒気を含んだ声で返事が返ってくるのは予想外だった、ちらりとみると一瞬だけ頬を膨らませていたけど、直ぐに表情が変わる
「…でもね、全てが終わったら、帰ってもいいかなって思ってる、全てが…終わったら」
その表情は悲しそうで切なそうで、遠い遠い未来を見つめている…
「守るって決めたから、私の大事な綺羅星を…」
最後の方に聞こえた言葉に私はなんて返せばいいのかわからなかった聞こえないふりをするしか出来なかった
私の残された時間までに
薄々感じていた、感じていたけれど誰もその話を振ることが出来ない…
短命だったお母さん、お母さんと同じように白髪…姫様の命は何処まで続くのか?何処まで生きていけるのか?
姫様に近い人であればある程、知りたくても聞けない情報、免れることのない死の運命…
私達は姫様に何を残してあげれた?姫様は私達に多くを残し導き、授けてくれたのに…
感謝の言葉しか私達はプレゼントすることが出来ていない、だから、だからこそ、姫様が生きている間は絶対に支えようと心に誓っている。
…打算的な部分もあるのが悲しい所だよね、だって、姫様を支えることで人類生存の道に繋がるのだから、生きたい、明日を願う気持ちで姫様を利用しているのじゃないかって断罪されるのならしょうがないと思う、断罪して欲しいくらい。
こんなにも弱々しくて、辛そうにしているか弱き乙女を酷使し続けて、死が近い彼女に無理ばかりさせている、これが罪に問われないのだとしたら…
人類は傲慢すぎる…そんな人類を救う価値はあるのかな?
ないよ、犠牲を強いるような人間性に救いなんていらない、滅んでいいよ。
だからか、うん、だからなんだね、私自身の命が軽いような気がするのは、そうだよ。
人類にとって最も価値ある命であり生命体である彼女が生きている方が絶対に世界の為になる、その彼女の命を利用し続けてきたのだから、その償いとして命を捧げるなんて軽いことじゃない…
嗚呼、そうか、そうなんだ、贖罪だったのかな?私と姫様の関係って?ううん、私達弱者である人類と姫様との関係…かな。
気が付くと姫様を抱きしめていた
姫様は驚いた顔を一瞬したけれど私の胸の中に顔を埋めてくれる
「…私の為に泣いてくれてありがとう、大好きだよ」「うん、私も大好き」
決意が漲る
この人だけは死なせない
絶対に死なせない!私の中にある全ての願いをぶん投げてもいい!かなぐり捨ててもいい!!
願うはこの人の幸せ、願うはこの人の人生、願うは…この人が笑顔で生きていける人生!!
「なぁ、戦士長、あたいはこの光景を見るのは二度目なんだ、あたいはまた失うのかい?白い髪に、時期に白くなっていく黒い髪…あたいはまた、失うのかい?」
遠くで女将の嘆きが聞こえたような気がした…
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