104 / 657
人類生存圏を創造する 始祖様の秘術をここに 7
しおりを挟む
ベルが三回じゃなくて、五回?間違えたのかな?悠長にノンビリとしていると姫様が直ぐに起き上がり
「大丈夫!?生きてる!?」姫様らしからぬ大声で通信機に言葉を叫ぶように投げかけると
「大丈夫じゃないですー!なんか途方もなく強くて今まで一度たりとも見たことが無い人型が一体いまして、そいつに凄いスピードで此方の人員が殺されています!!」
…ぇ?殺されている?鎧は?装備は?、、、ま、さか?姫様が
「逃げて!絶対に近寄らないで」「はい!全力で逃げています!現在ベテランさんとお爺様が大急ぎで現場に向かっています!!」
あり得ない程の緊迫した状況に女将が近くにやってくると、腕が震えているのが見える、本能で理解しているのだろう、恐れていたやつが前に出てきたのだと。
「誰でもいいからプランEの為に用意しておいた魔道具を持たせて!それを使用して!絶対にこれ以上、犠牲を、誰も、死なないで…」懇願するような叫びが辺り一面に響き渡る
誰もが固唾を飲んで静まり返る
「ぁ、あ、えっと、あ、はい!プランE発令です!!!緊急事態ですー!!!プランE発令です!!!」
プランD発令と同じように大きな音を鳴らし、鐘をガンガンっと力いっぱい叩く音が聞こえる
「こちらもプランE発令!」ぇ?こちらも?こっちでも何か出来るの?
姫様の声に合わせて戦乙女ちゃん達が慌てて何かを用意している、台座だ、魔石を大量にセットする台座だ、だけど、肝心の魔石が無い
「最悪のタイミング、何?やっぱりこっちの状況見てるんじゃないの?あいつ・・・・」
姫様が普段着ない戦闘服に着替えていく、周りに男性の視線があろうがお構いなしに、全裸になり、着替えていく
「団長!」着替え終わると同時に声を呼び掛けられる、魔力か!
「毒のついてないナイフ貸して!後、戦闘服起動用の魔力を練っておいて!!」
言われたとおりに毒が付いていないナイフを渡し目を閉じて魔力を練る作業に入る、ある程度、魔力を練る感覚が出来たので、薄っすらと目を開きながら状況を確認していく
「準備はできてる?」戦乙女ちゃん達に檄を飛ばす様に大きな声で確認をする
「魔石をセットすれば準備完了です」魔石から魔力を取り出すための魔道具に、魔石をセットしている。
さらに、その魔道具にケーブルが繋がれる、ケーブルの先には、魔力を送るための台座がある
これから先に行う術式の為に必要な魔力は相当な規模であると準備が物語っている。
「プランDに誘われた?それとも、本当に此方の状況を理解している?なら、何故あの時に攻撃してこなかった?事情がある?…ぁぁもう、イライラするっぅ」
戦闘服を着た状態で頭をガシガシとかきむしりながら、ウロウロと落ち着きがない、相手の出方が、私達の状況を把握しているかの如く魔石が無いタイミングという見計らったような状況に苛立ちを覚えている
ベルが三回鳴る「魔道具を渡して前線にいるお爺様の手に渡りました!あんなボールみたいな魔道具でどうにかなるのですか!?爆弾ですか?」メイドちゃんからの通信が入ってくるが、持たされた魔道具がボールみたいなやつ?聞いたことが無い、そうなると、敵から奪い取った魔道具ではなく、姫様お手製の魔道具の可能性が高い
「どうにかするの!ちゃんとプランEに記載されてる通り、渡してくれているのなら起動方法と仕組みが書かれた仕様書も読んでくれているはず!不安で心苦しく辛いでしょうけれど!今は待ちましょう!」
「…はい!」姫様の力強い言葉にメイドちゃんも力強く返事を返してくれる
問題があるとすれば次の魔石がまだ届かないこと、姫様の発令した作戦に必須と思われる魔力が足りない、なら、足りないのなら作ればいい。
私一人の命で大型の魔石を何個も必要とする術式の発動の為に、必要な多くの魔力を生み出せるだろうか?不安なのはその部分だけ、命を捨てる覚悟はとっくの昔に完了している。
たぶん、もう少しすれば魔石を乗せた車が到着するはず、焦る必要はない、車の明かりが先ほど見えたのだから、あと20分もすれば到着するはず
…20分、女将が言うには5分もあれば此方の戦力全て全滅すると言わしめた絶望的な力量の違い、私達の街は耐えれるの?この1分で、1秒で、何人の戦士が死ぬの?
ぞっとする、心臓が止まるかと思った、余りにも考えてはいけない情景が脳裏に鮮明な映像で映し出される、恐怖、これに飲み込まれてはダメ、心を強く持つ
何度も深呼吸をして雑念を払い、魔力を練る作業に没頭しないと、恐怖や恐慌に負けてはだめ…
車のブレーキが聞こえる、タイヤが急停止し大地を滑る音が聞こえる、目を開けて車の方を見ると、戦乙女ちゃん達と女将が全力で走っていく
車の運転席から大袈裟なお出迎えだなぁっと呑気な声が聞こえてくるが、一瞬で状況を理解したのか慌てて車から降りて車から魔石を取り出して大地の上に積んでいく
降ろされた魔石を手に持っては此方に運び、台座にセットしていく、私も背負うタイプの魔道具の後ろを開き、魔石をセットする
セットが完了すると「戦闘服起動するから魔力を頂戴!」姫様の言葉に直ぐに行動を起こす、戦闘服に魔力を注ぎ起動させるとベルが三回鳴り
「プランEセット完了です!で、ですが、本当に大丈夫ですか?これ?」メイドちゃんの声が聞こえてくる
「こちらも準備を終え次第、発動します!出来る限り時間を稼いで!絶対に死なないように!」通信魔道具の先にいるメイドちゃんに向かって大きな声を出すと
「は、はい!伝えます!」慌てた声で返事が返ってくる、恐らく渡した魔道具を発動したけれども何も起きなかったことに困惑しているのだろうか?
「魔石のセット完了です!」戦乙女ちゃん達からも合図が送られてくると
魔道具を背負った姫様がナイフを取り出し
自身の髪の毛、後ろ髪の部分ををバッサリと切る、肩まで届く長めの髪が一気に、首元が見えるくらいバッサリと切り
「秘術を発動します、離れて!!」
ナイフを渡された後、直ぐにその場から離れると戦闘服から光があふれ出る、魔力の光だ、高密度の魔力の光があの戦闘服から放たれている
眩しい程の光が収束する、先ほど切った姫様の髪の毛に収束すると、髪の毛が一瞬にして一振りの棒、いや、あれは槍。
槍へと変貌を遂げる
すううっと大きく息を吸い込み目を閉じる
槍を両手に持ち、柄の部分を地面につけ、槍の切っ先に額を付けて何か呟いている
「ベルを一回鳴らして!」言われたとおりに戦乙女ちゃんがベルを一度だけ叩く、チーンと今の重苦しい空気に似つかわしくない軽快な、軽い音が辺りに響き渡ると
「お願いします!!私達を助けて姫様!!」通信機から叫び声が聞こえたと同時に
「始祖様が秘術をここに再現!!私達のような愚者でも工夫すれば発動は可能!!いっけぇ!!!」
手に持っていた槍を両手で持ち上げ、軽く助走をつけたと思ったら大きな声で
「うがぁああああああああああああああああああああ」叫びながら槍を投擲すると、姫様の力では到底不可能な勢いで槍が上空へと飛んでいく
飛んでいくと同時に、台座にセットされていた大型の魔石が一斉に砕け散る、1メートル近くある巨大な魔石が衝撃で割れたの!?
ずしゃぁっと地面をこする音が聞こえたので音がした方向、姫様の方に視線を向けると、投げた勢いを殺しきれずに地面に土煙を出しながら滑っていく
慌てて駆け寄り、抱き起こすと「ぅぅ痛いよぉ」地面に転ぶように滑ったから擦過傷でも起こしたのかな?でも、戦闘服のおかげであの程度なら擦れていないと思うけれど
「どこが痛い?」全身を隈なく見ていると「お腹ぁ・・・」…ん?腹筋でもつった?「ぅぅぅ、ポンポンいたいぃぃ」ポロポロと涙を流し始める
取り合えず、ポーチに入っている痛み止めの水薬を飲ませてあげる
「めちゃくちゃいたいぃぃ、こんな痛いっておもってなかったぁ」グスグスと涙を流しながら痛みに耐えている
姫様が痛みにもんどりをうっているとベルが三回鳴る
「姫様!!!作戦成功です!!敵が、敵が、突如振ってきた槍に貫かれて絶命しました!!…その衝撃で辺り一面、木々だろうが、吹き飛び、地面には大きなクレーターが出来ましたけれど!作戦は成功です!!ぁぁ、ありがとうございます!!!」
その言葉に姫様が痛みを堪えながら震える声で
「っは、思い出しやがれ畜生共が、始祖様のどこからでも飛んでくる絶命の一撃という恐怖をな!!」
中指を立てながら空に向かって言葉を捻り出す、言葉を言い終わると同時にふっと、意識を失った
現場ではその声に大きな歓声が響き渡り、あの女将が全身を震わせながら涙を流していた
歓喜の声が渦巻く最中でも、冷静に姫様の戦闘服を脱がして腹部を触診する、筋肉に凹みが無いので、腹筋を大きく損傷したわけでは無さそう、腹部を観察する、皮膚の下からは皮下出血班が浮かび上がっていないか確認する
小さな斑点がわき腹に浮き上がっているので、内臓を怪我した可能性があるので、回復術式を発動し、姫様の出血を止め、組織の回復力を向上させていく。
脈を計る、かなりあれている、血圧計を取ってきてもらい計る、かなり脈が速い、それに血圧は物凄く低下している、これはよくない、血圧を安定させるための薬を持ってきてもらい注射を使って投与する
顔が真っ青になっている、魔力測定器を使うがゼロに近い、あり得ない数値、少しでも魔力を注がないと危険な状況なので、上半身の服を脱いで、姫様も上半身を裸にして全力で魔力を注いでいく。
今の私では支えきれないのではと思う程の魔力を消耗しているのだと、思う、どうにかして魔力を工面しないといけない、何をどうすれば
悩んでいると股間に痛みが走る、うう、姿勢が悪かったのかな?あそこをはさんじゃったかも、男のアレ取ってもらえばよかったかなぁ、、いたぁぃ・・・
痛みに耐えながら魔力を工面しようとすると、魔力が何処からともなく体の中から流れてくるので、それを全力で姫様に注ぎ続ける
歓声の中で聞こえてくる宰相の声、定時報告っぽいけれど、誰も気が付かないでいるので戦乙女ちゃんに対応をお願いするのと同時に送ってもらった魔石が大破したのと、此方での非常事態を伝えるように言ってもらう
その後は何事もなく夜が明ける
朝日に包まれている時刻になっても、姫様はぐったりとピクリと動かない、朝になり朝日を浴びたのに、瞼が光に当たったときに反応があるのに、それすらなく、起きる気配が一切ない、その間も全力で魔力を注ぎ続ける
ベルが三回鳴る、通信魔道具からメイドちゃんの声が聞こえてくる、戦況報告で、先ほどの襲撃によって出た被害を教えてくれる
死者40名…あの街が保有する戦士や騎士の一団、総数300名弱、そのうちの約七分の一があの一連の流れで物の数分でたったの一匹の獣に奪われたのかと思うと、吐きそうになる。
損傷した人も多く、部位欠損した人達、重傷者がおよそ30名、骨折や脱臼などはおよそ20名
甚大な被害が発生している、幸いにあの一連の流れの後、追撃も無く、新たな獣の軍勢が追加されることもなく残留部隊だけとなり、戦線は多大な被害を出したにも関わらず、安定している。
幸いにも、ベテランさんもお爺ちゃんも怪我をしただけで、命がある、これだけでも人類生存するために必要な戦力が居なくならずに、戦力ダウンを免れたので良しとするべきなのだろう。
心が被害規模に悲鳴を上げ、打算的な生存本能が良しとする
命の重さを天秤にかけるなんて人がしていい考えじゃないのに、どうしても、貴重な戦力が失われ無かったことに安堵してしまう。
人として人情も何もない打算的で人道に反する感情を冷やかな目で見つめながらも、亡くった人達の心や想いを受け継ぐように受け止めていく。
絶対に、仇を取って見せるからね、何時かきっと、人類があの大穴の敵を討ち滅ぼして見せるから。
メイドちゃんからの報告が終わると、続けざまに宰相からの定時報告が始まる
前線は安定しており、多種多様な魔道具を用いて撃滅しており、現れた幾多にもわたる人型も多少の被害は出ているモノの、倒しきれている
昨夜、途中から敵の数が減り、追加の獣の軍勢が襲ってくることが無く、今は乱戦というよりも、残党を各個撃破している状況
敵の屍の量が多いせいなのか、徐々に毒の沼地を抜け出てくる獣が増えてきているが、毒が完全に効かないわけではなく、敵の機動力や戦力が低下しているので、対処は問題ないそうだけれど、毒の沼地を完全に攻略されるのは時間の問題だが、次策も用意しているので問題はない
問題があるとすれば、そちら側で発生した非常事態がこちらでも起こりえる可能性があるという事…
宰相も被害規模を聞いて戦々恐々としている様子だった。
通信が終わり、視線を周りに向けると術士二人が元気に作業をしている、多少の魔石が残っていたので、それを使って壁を創造する作業をしてくれている、段々と作業に慣れてきたのか最初のころに比べての焦りなどは無く、切羽詰まった感じも無く淡々と作業をしながらも、二人で楽しそうに会話をしながら作業をしている。
流石は王都が誇る指折りの術士、もう術式に慣れて発動しながらも他の事が出来るようになるなんて、凄いね
ぼーっと術士の方を見ていると、作業が終わったのか、こちらに近づいてきて魔道具を外して椅子に座り水分を補給している
どうやら、手持ちの魔石が完全になくなってので、作業は終了となり本人たちの余力は数多く残されている様子だった
今の状況は一枚の毛布に包まりながらずっと、魔力を注ぎ続けている、当然、上半身は裸のままである
厚めの毛布だから中は見えないのはわかっているのに、なんでだろう、ドキドキしちゃう…
視線を感じたのでにこやかな笑顔でいると、話しかけられてしまった
今何をしているのかという質問とか、他愛のない日常的な会話をしていく、だけど、目の前にいる女性二人、上半身が裸だと、この二人は知らないんだっけ?
知ってたらそんな、冷静に会話なんてしてこないよね?よね?
ぅぅ、恥ずかしくなってきた、この恰好で応対するのやだぁ…
チラチラと皆が何処にいるのかと見てみると、どうやら、支援物資を運んできてくれた人たちの対応をしているみたいで、相手は馬車で見たことのある家紋が書かれている立派な馬車だ、何処だろう?何処で見たかな?
その間も会話に終わりがなく、私の羞恥心が限界を超えそうになった時に
戦乙女ちゃんがこちらの状況に気が付いたみたいで、すぐに駆けつけてくれる、戦乙女ちゃんに言われるままに姫様を抱っこしながら立ち上がる、毛布が開けない様に戦乙女ちゃんがしっかりと保持してくれる、ぅぅ、ありがとう。
車の方に向かって案内される、その際にぽつりと「これだから、男ってのはぁ」っと溜息をつきながら一緒に歩いてくれる
…もしかしなくても、こちらの状況を理解したうえで、声を掛けてきたってことなのかな?
それを聞いて確認したいが、怖くて聞けない・・・・男の人って思っていた以上に、想像以上に、エロの塊なの?みんなベテランさんみたいなの?それがデフォルトなの?
ぅぅ、男の私が居れば問いただしたいのに、今はいない…
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら車に乗り込み、姫様に魔力を注ぎ続ける
魔力を譲渡しながらも、先ほどの馬車から頂いた物資を教えてくれる、何でも近くの領主様が色々と物資を支援してくれたみたいで、服とか、下着とか、食料とか、小さな魔石とか、本当に色々な物が送られてきたのだけれど、下着?っという部分に困惑が強い…
どうして、私達が女性だと知っているのだろうか?っという疑問が湧き上がってくる、宰相が伝えたのだろうか?それにしては、サイズがぴったりな気がするのだけれど?
平均的なサイズだけならまだしも、完全に姫様のサイズにぴったりとはどういうことだ?
姫様は年齢に比べると平均的ではない、身長も小さく、小柄…
胸のサイズは私よりも少し大きいくらい、何故把握している?
その部分と、先ほどの男性のエロという意識に触れてしまったので恐怖を覚えていると
「姫様のサイズがぴったりってのは、流石は姫様のお父さんですね、しっかりと娘のことは把握しているってことでしょうね」
その言葉に先ほど見た家紋が何なのか理解する、過去に見せてもらった姫様の家紋じゃないの。
なるほど、それなら納得かも、事前にお父さんに何かしらの連絡を取っていて支援物資を送ってもらったのだろう。
目録を確認した後、戦乙女ちゃんは、車から降りて積み荷の上げ下ろしとかを手伝いに向かって行く。
私と姫様は車の中で毛布に包まりながらじっとしている、ふと、視線を外に向けると綺麗な帽子に、高貴な恰好、優雅な雰囲気をまとった人と目が合う、ペコリをお辞儀をしてくれる
しっかりと帽子を取ってお辞儀をするのだけれど、うん、てっぺんが完全にツルツルだった、それに少し小太りな感じ、きっと領主様に仕える人だろう。
一瞬だけこちらを見た後、口が動く、読唇術に覚えないからなんて言ったのかわからないけれど、嫌な気分はしなかった…
手を振りながら去っていく
その後も丸一日姫様が目を覚ますことが無く、作業は停滞しているが、術士二人が必死に作業を続けてくれるので進展はゼロではない
通信から伝わってくる言葉も戦線から獣の数が大きく減り、小競り合いばかりになっている
北も南も、この苛烈な猛攻が、永遠に続くのではという懸念も抱いていた、無限だと思われた敵の勢力も数に限りがあるのかもしれない、
ただ純粋に、海の未知なる獣が北の大穴から戦力を搔き集めて南に運んでいるだけなのかもしれない
まだまだ、攻防は続くのだろうと思うけれど、こうやって静寂な時間があるのは非常に助かる、永遠と数の暴力で攻めてこられてしまったら、何時かはこちらが押し負けてしまうのは目に見えている。
姫様が事前に用意した策で、何処まで耐えることが出来るのかは知らないし、わからない、なので、敵の攻撃の手が緩むのは此方としては非常にありがたく、助かる。
この間に怪我人は回復して前線に復帰することが出来るし、壁の想像も進んでいく。
消耗戦であり、攻城戦のような、この緊迫した状況、並大抵の人だと神経が擦り減って倒れてしまう。
騎士団や、私達の街の皆なら、一か月や二か月くらい耐えてくれるのだと信じている。
そういえば、元々、この砦に居た人達や、南の集落で生活を営んできた人たちは、無事、街に辿り着いたのだろうか?
今度、メイドちゃんから通信が来たら話を振ってみてもいいかも、暗い状況だからこそ、少しでも吉報が欲しくなるものだからね
姫様に魔力測定器を持たせると多少は回復したみたいで、数値があがっている
服を着させ、私も隊服を着る、食事にするのが良いのだけれど、起きる気配がない、そうなると医者として起こすアクションは決まっている。
万が一に起きない状況になったときの為に、用意しといた非常時用の点滴セットを取り出して手の甲に点滴用の針を刺して、点滴をうつ
食事をとってくれるのであれば、必要はないと思っていたけれど、これは必要だよね、念のためにおむつもセットしておこう…
魔力回復促進剤を二本開けて飲み、丸薬を齧りながら栄養だけでも体に満たしていく。
簡易的な栄養摂取を終えた後は魔力を譲渡することに没頭する。
「大丈夫!?生きてる!?」姫様らしからぬ大声で通信機に言葉を叫ぶように投げかけると
「大丈夫じゃないですー!なんか途方もなく強くて今まで一度たりとも見たことが無い人型が一体いまして、そいつに凄いスピードで此方の人員が殺されています!!」
…ぇ?殺されている?鎧は?装備は?、、、ま、さか?姫様が
「逃げて!絶対に近寄らないで」「はい!全力で逃げています!現在ベテランさんとお爺様が大急ぎで現場に向かっています!!」
あり得ない程の緊迫した状況に女将が近くにやってくると、腕が震えているのが見える、本能で理解しているのだろう、恐れていたやつが前に出てきたのだと。
「誰でもいいからプランEの為に用意しておいた魔道具を持たせて!それを使用して!絶対にこれ以上、犠牲を、誰も、死なないで…」懇願するような叫びが辺り一面に響き渡る
誰もが固唾を飲んで静まり返る
「ぁ、あ、えっと、あ、はい!プランE発令です!!!緊急事態ですー!!!プランE発令です!!!」
プランD発令と同じように大きな音を鳴らし、鐘をガンガンっと力いっぱい叩く音が聞こえる
「こちらもプランE発令!」ぇ?こちらも?こっちでも何か出来るの?
姫様の声に合わせて戦乙女ちゃん達が慌てて何かを用意している、台座だ、魔石を大量にセットする台座だ、だけど、肝心の魔石が無い
「最悪のタイミング、何?やっぱりこっちの状況見てるんじゃないの?あいつ・・・・」
姫様が普段着ない戦闘服に着替えていく、周りに男性の視線があろうがお構いなしに、全裸になり、着替えていく
「団長!」着替え終わると同時に声を呼び掛けられる、魔力か!
「毒のついてないナイフ貸して!後、戦闘服起動用の魔力を練っておいて!!」
言われたとおりに毒が付いていないナイフを渡し目を閉じて魔力を練る作業に入る、ある程度、魔力を練る感覚が出来たので、薄っすらと目を開きながら状況を確認していく
「準備はできてる?」戦乙女ちゃん達に檄を飛ばす様に大きな声で確認をする
「魔石をセットすれば準備完了です」魔石から魔力を取り出すための魔道具に、魔石をセットしている。
さらに、その魔道具にケーブルが繋がれる、ケーブルの先には、魔力を送るための台座がある
これから先に行う術式の為に必要な魔力は相当な規模であると準備が物語っている。
「プランDに誘われた?それとも、本当に此方の状況を理解している?なら、何故あの時に攻撃してこなかった?事情がある?…ぁぁもう、イライラするっぅ」
戦闘服を着た状態で頭をガシガシとかきむしりながら、ウロウロと落ち着きがない、相手の出方が、私達の状況を把握しているかの如く魔石が無いタイミングという見計らったような状況に苛立ちを覚えている
ベルが三回鳴る「魔道具を渡して前線にいるお爺様の手に渡りました!あんなボールみたいな魔道具でどうにかなるのですか!?爆弾ですか?」メイドちゃんからの通信が入ってくるが、持たされた魔道具がボールみたいなやつ?聞いたことが無い、そうなると、敵から奪い取った魔道具ではなく、姫様お手製の魔道具の可能性が高い
「どうにかするの!ちゃんとプランEに記載されてる通り、渡してくれているのなら起動方法と仕組みが書かれた仕様書も読んでくれているはず!不安で心苦しく辛いでしょうけれど!今は待ちましょう!」
「…はい!」姫様の力強い言葉にメイドちゃんも力強く返事を返してくれる
問題があるとすれば次の魔石がまだ届かないこと、姫様の発令した作戦に必須と思われる魔力が足りない、なら、足りないのなら作ればいい。
私一人の命で大型の魔石を何個も必要とする術式の発動の為に、必要な多くの魔力を生み出せるだろうか?不安なのはその部分だけ、命を捨てる覚悟はとっくの昔に完了している。
たぶん、もう少しすれば魔石を乗せた車が到着するはず、焦る必要はない、車の明かりが先ほど見えたのだから、あと20分もすれば到着するはず
…20分、女将が言うには5分もあれば此方の戦力全て全滅すると言わしめた絶望的な力量の違い、私達の街は耐えれるの?この1分で、1秒で、何人の戦士が死ぬの?
ぞっとする、心臓が止まるかと思った、余りにも考えてはいけない情景が脳裏に鮮明な映像で映し出される、恐怖、これに飲み込まれてはダメ、心を強く持つ
何度も深呼吸をして雑念を払い、魔力を練る作業に没頭しないと、恐怖や恐慌に負けてはだめ…
車のブレーキが聞こえる、タイヤが急停止し大地を滑る音が聞こえる、目を開けて車の方を見ると、戦乙女ちゃん達と女将が全力で走っていく
車の運転席から大袈裟なお出迎えだなぁっと呑気な声が聞こえてくるが、一瞬で状況を理解したのか慌てて車から降りて車から魔石を取り出して大地の上に積んでいく
降ろされた魔石を手に持っては此方に運び、台座にセットしていく、私も背負うタイプの魔道具の後ろを開き、魔石をセットする
セットが完了すると「戦闘服起動するから魔力を頂戴!」姫様の言葉に直ぐに行動を起こす、戦闘服に魔力を注ぎ起動させるとベルが三回鳴り
「プランEセット完了です!で、ですが、本当に大丈夫ですか?これ?」メイドちゃんの声が聞こえてくる
「こちらも準備を終え次第、発動します!出来る限り時間を稼いで!絶対に死なないように!」通信魔道具の先にいるメイドちゃんに向かって大きな声を出すと
「は、はい!伝えます!」慌てた声で返事が返ってくる、恐らく渡した魔道具を発動したけれども何も起きなかったことに困惑しているのだろうか?
「魔石のセット完了です!」戦乙女ちゃん達からも合図が送られてくると
魔道具を背負った姫様がナイフを取り出し
自身の髪の毛、後ろ髪の部分ををバッサリと切る、肩まで届く長めの髪が一気に、首元が見えるくらいバッサリと切り
「秘術を発動します、離れて!!」
ナイフを渡された後、直ぐにその場から離れると戦闘服から光があふれ出る、魔力の光だ、高密度の魔力の光があの戦闘服から放たれている
眩しい程の光が収束する、先ほど切った姫様の髪の毛に収束すると、髪の毛が一瞬にして一振りの棒、いや、あれは槍。
槍へと変貌を遂げる
すううっと大きく息を吸い込み目を閉じる
槍を両手に持ち、柄の部分を地面につけ、槍の切っ先に額を付けて何か呟いている
「ベルを一回鳴らして!」言われたとおりに戦乙女ちゃんがベルを一度だけ叩く、チーンと今の重苦しい空気に似つかわしくない軽快な、軽い音が辺りに響き渡ると
「お願いします!!私達を助けて姫様!!」通信機から叫び声が聞こえたと同時に
「始祖様が秘術をここに再現!!私達のような愚者でも工夫すれば発動は可能!!いっけぇ!!!」
手に持っていた槍を両手で持ち上げ、軽く助走をつけたと思ったら大きな声で
「うがぁああああああああああああああああああああ」叫びながら槍を投擲すると、姫様の力では到底不可能な勢いで槍が上空へと飛んでいく
飛んでいくと同時に、台座にセットされていた大型の魔石が一斉に砕け散る、1メートル近くある巨大な魔石が衝撃で割れたの!?
ずしゃぁっと地面をこする音が聞こえたので音がした方向、姫様の方に視線を向けると、投げた勢いを殺しきれずに地面に土煙を出しながら滑っていく
慌てて駆け寄り、抱き起こすと「ぅぅ痛いよぉ」地面に転ぶように滑ったから擦過傷でも起こしたのかな?でも、戦闘服のおかげであの程度なら擦れていないと思うけれど
「どこが痛い?」全身を隈なく見ていると「お腹ぁ・・・」…ん?腹筋でもつった?「ぅぅぅ、ポンポンいたいぃぃ」ポロポロと涙を流し始める
取り合えず、ポーチに入っている痛み止めの水薬を飲ませてあげる
「めちゃくちゃいたいぃぃ、こんな痛いっておもってなかったぁ」グスグスと涙を流しながら痛みに耐えている
姫様が痛みにもんどりをうっているとベルが三回鳴る
「姫様!!!作戦成功です!!敵が、敵が、突如振ってきた槍に貫かれて絶命しました!!…その衝撃で辺り一面、木々だろうが、吹き飛び、地面には大きなクレーターが出来ましたけれど!作戦は成功です!!ぁぁ、ありがとうございます!!!」
その言葉に姫様が痛みを堪えながら震える声で
「っは、思い出しやがれ畜生共が、始祖様のどこからでも飛んでくる絶命の一撃という恐怖をな!!」
中指を立てながら空に向かって言葉を捻り出す、言葉を言い終わると同時にふっと、意識を失った
現場ではその声に大きな歓声が響き渡り、あの女将が全身を震わせながら涙を流していた
歓喜の声が渦巻く最中でも、冷静に姫様の戦闘服を脱がして腹部を触診する、筋肉に凹みが無いので、腹筋を大きく損傷したわけでは無さそう、腹部を観察する、皮膚の下からは皮下出血班が浮かび上がっていないか確認する
小さな斑点がわき腹に浮き上がっているので、内臓を怪我した可能性があるので、回復術式を発動し、姫様の出血を止め、組織の回復力を向上させていく。
脈を計る、かなりあれている、血圧計を取ってきてもらい計る、かなり脈が速い、それに血圧は物凄く低下している、これはよくない、血圧を安定させるための薬を持ってきてもらい注射を使って投与する
顔が真っ青になっている、魔力測定器を使うがゼロに近い、あり得ない数値、少しでも魔力を注がないと危険な状況なので、上半身の服を脱いで、姫様も上半身を裸にして全力で魔力を注いでいく。
今の私では支えきれないのではと思う程の魔力を消耗しているのだと、思う、どうにかして魔力を工面しないといけない、何をどうすれば
悩んでいると股間に痛みが走る、うう、姿勢が悪かったのかな?あそこをはさんじゃったかも、男のアレ取ってもらえばよかったかなぁ、、いたぁぃ・・・
痛みに耐えながら魔力を工面しようとすると、魔力が何処からともなく体の中から流れてくるので、それを全力で姫様に注ぎ続ける
歓声の中で聞こえてくる宰相の声、定時報告っぽいけれど、誰も気が付かないでいるので戦乙女ちゃんに対応をお願いするのと同時に送ってもらった魔石が大破したのと、此方での非常事態を伝えるように言ってもらう
その後は何事もなく夜が明ける
朝日に包まれている時刻になっても、姫様はぐったりとピクリと動かない、朝になり朝日を浴びたのに、瞼が光に当たったときに反応があるのに、それすらなく、起きる気配が一切ない、その間も全力で魔力を注ぎ続ける
ベルが三回鳴る、通信魔道具からメイドちゃんの声が聞こえてくる、戦況報告で、先ほどの襲撃によって出た被害を教えてくれる
死者40名…あの街が保有する戦士や騎士の一団、総数300名弱、そのうちの約七分の一があの一連の流れで物の数分でたったの一匹の獣に奪われたのかと思うと、吐きそうになる。
損傷した人も多く、部位欠損した人達、重傷者がおよそ30名、骨折や脱臼などはおよそ20名
甚大な被害が発生している、幸いにあの一連の流れの後、追撃も無く、新たな獣の軍勢が追加されることもなく残留部隊だけとなり、戦線は多大な被害を出したにも関わらず、安定している。
幸いにも、ベテランさんもお爺ちゃんも怪我をしただけで、命がある、これだけでも人類生存するために必要な戦力が居なくならずに、戦力ダウンを免れたので良しとするべきなのだろう。
心が被害規模に悲鳴を上げ、打算的な生存本能が良しとする
命の重さを天秤にかけるなんて人がしていい考えじゃないのに、どうしても、貴重な戦力が失われ無かったことに安堵してしまう。
人として人情も何もない打算的で人道に反する感情を冷やかな目で見つめながらも、亡くった人達の心や想いを受け継ぐように受け止めていく。
絶対に、仇を取って見せるからね、何時かきっと、人類があの大穴の敵を討ち滅ぼして見せるから。
メイドちゃんからの報告が終わると、続けざまに宰相からの定時報告が始まる
前線は安定しており、多種多様な魔道具を用いて撃滅しており、現れた幾多にもわたる人型も多少の被害は出ているモノの、倒しきれている
昨夜、途中から敵の数が減り、追加の獣の軍勢が襲ってくることが無く、今は乱戦というよりも、残党を各個撃破している状況
敵の屍の量が多いせいなのか、徐々に毒の沼地を抜け出てくる獣が増えてきているが、毒が完全に効かないわけではなく、敵の機動力や戦力が低下しているので、対処は問題ないそうだけれど、毒の沼地を完全に攻略されるのは時間の問題だが、次策も用意しているので問題はない
問題があるとすれば、そちら側で発生した非常事態がこちらでも起こりえる可能性があるという事…
宰相も被害規模を聞いて戦々恐々としている様子だった。
通信が終わり、視線を周りに向けると術士二人が元気に作業をしている、多少の魔石が残っていたので、それを使って壁を創造する作業をしてくれている、段々と作業に慣れてきたのか最初のころに比べての焦りなどは無く、切羽詰まった感じも無く淡々と作業をしながらも、二人で楽しそうに会話をしながら作業をしている。
流石は王都が誇る指折りの術士、もう術式に慣れて発動しながらも他の事が出来るようになるなんて、凄いね
ぼーっと術士の方を見ていると、作業が終わったのか、こちらに近づいてきて魔道具を外して椅子に座り水分を補給している
どうやら、手持ちの魔石が完全になくなってので、作業は終了となり本人たちの余力は数多く残されている様子だった
今の状況は一枚の毛布に包まりながらずっと、魔力を注ぎ続けている、当然、上半身は裸のままである
厚めの毛布だから中は見えないのはわかっているのに、なんでだろう、ドキドキしちゃう…
視線を感じたのでにこやかな笑顔でいると、話しかけられてしまった
今何をしているのかという質問とか、他愛のない日常的な会話をしていく、だけど、目の前にいる女性二人、上半身が裸だと、この二人は知らないんだっけ?
知ってたらそんな、冷静に会話なんてしてこないよね?よね?
ぅぅ、恥ずかしくなってきた、この恰好で応対するのやだぁ…
チラチラと皆が何処にいるのかと見てみると、どうやら、支援物資を運んできてくれた人たちの対応をしているみたいで、相手は馬車で見たことのある家紋が書かれている立派な馬車だ、何処だろう?何処で見たかな?
その間も会話に終わりがなく、私の羞恥心が限界を超えそうになった時に
戦乙女ちゃんがこちらの状況に気が付いたみたいで、すぐに駆けつけてくれる、戦乙女ちゃんに言われるままに姫様を抱っこしながら立ち上がる、毛布が開けない様に戦乙女ちゃんがしっかりと保持してくれる、ぅぅ、ありがとう。
車の方に向かって案内される、その際にぽつりと「これだから、男ってのはぁ」っと溜息をつきながら一緒に歩いてくれる
…もしかしなくても、こちらの状況を理解したうえで、声を掛けてきたってことなのかな?
それを聞いて確認したいが、怖くて聞けない・・・・男の人って思っていた以上に、想像以上に、エロの塊なの?みんなベテランさんみたいなの?それがデフォルトなの?
ぅぅ、男の私が居れば問いただしたいのに、今はいない…
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら車に乗り込み、姫様に魔力を注ぎ続ける
魔力を譲渡しながらも、先ほどの馬車から頂いた物資を教えてくれる、何でも近くの領主様が色々と物資を支援してくれたみたいで、服とか、下着とか、食料とか、小さな魔石とか、本当に色々な物が送られてきたのだけれど、下着?っという部分に困惑が強い…
どうして、私達が女性だと知っているのだろうか?っという疑問が湧き上がってくる、宰相が伝えたのだろうか?それにしては、サイズがぴったりな気がするのだけれど?
平均的なサイズだけならまだしも、完全に姫様のサイズにぴったりとはどういうことだ?
姫様は年齢に比べると平均的ではない、身長も小さく、小柄…
胸のサイズは私よりも少し大きいくらい、何故把握している?
その部分と、先ほどの男性のエロという意識に触れてしまったので恐怖を覚えていると
「姫様のサイズがぴったりってのは、流石は姫様のお父さんですね、しっかりと娘のことは把握しているってことでしょうね」
その言葉に先ほど見た家紋が何なのか理解する、過去に見せてもらった姫様の家紋じゃないの。
なるほど、それなら納得かも、事前にお父さんに何かしらの連絡を取っていて支援物資を送ってもらったのだろう。
目録を確認した後、戦乙女ちゃんは、車から降りて積み荷の上げ下ろしとかを手伝いに向かって行く。
私と姫様は車の中で毛布に包まりながらじっとしている、ふと、視線を外に向けると綺麗な帽子に、高貴な恰好、優雅な雰囲気をまとった人と目が合う、ペコリをお辞儀をしてくれる
しっかりと帽子を取ってお辞儀をするのだけれど、うん、てっぺんが完全にツルツルだった、それに少し小太りな感じ、きっと領主様に仕える人だろう。
一瞬だけこちらを見た後、口が動く、読唇術に覚えないからなんて言ったのかわからないけれど、嫌な気分はしなかった…
手を振りながら去っていく
その後も丸一日姫様が目を覚ますことが無く、作業は停滞しているが、術士二人が必死に作業を続けてくれるので進展はゼロではない
通信から伝わってくる言葉も戦線から獣の数が大きく減り、小競り合いばかりになっている
北も南も、この苛烈な猛攻が、永遠に続くのではという懸念も抱いていた、無限だと思われた敵の勢力も数に限りがあるのかもしれない、
ただ純粋に、海の未知なる獣が北の大穴から戦力を搔き集めて南に運んでいるだけなのかもしれない
まだまだ、攻防は続くのだろうと思うけれど、こうやって静寂な時間があるのは非常に助かる、永遠と数の暴力で攻めてこられてしまったら、何時かはこちらが押し負けてしまうのは目に見えている。
姫様が事前に用意した策で、何処まで耐えることが出来るのかは知らないし、わからない、なので、敵の攻撃の手が緩むのは此方としては非常にありがたく、助かる。
この間に怪我人は回復して前線に復帰することが出来るし、壁の想像も進んでいく。
消耗戦であり、攻城戦のような、この緊迫した状況、並大抵の人だと神経が擦り減って倒れてしまう。
騎士団や、私達の街の皆なら、一か月や二か月くらい耐えてくれるのだと信じている。
そういえば、元々、この砦に居た人達や、南の集落で生活を営んできた人たちは、無事、街に辿り着いたのだろうか?
今度、メイドちゃんから通信が来たら話を振ってみてもいいかも、暗い状況だからこそ、少しでも吉報が欲しくなるものだからね
姫様に魔力測定器を持たせると多少は回復したみたいで、数値があがっている
服を着させ、私も隊服を着る、食事にするのが良いのだけれど、起きる気配がない、そうなると医者として起こすアクションは決まっている。
万が一に起きない状況になったときの為に、用意しといた非常時用の点滴セットを取り出して手の甲に点滴用の針を刺して、点滴をうつ
食事をとってくれるのであれば、必要はないと思っていたけれど、これは必要だよね、念のためにおむつもセットしておこう…
魔力回復促進剤を二本開けて飲み、丸薬を齧りながら栄養だけでも体に満たしていく。
簡易的な栄養摂取を終えた後は魔力を譲渡することに没頭する。
10
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
異世界ラーメン屋台~俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい~
橘まさと
ファンタジー
脱サラしてラーメンのキッチンカーをはじめたアラフォー、平和島剛士は夜の営業先に向けて移動していると霧につつまれて気づけばダンジョンの中に辿りついていた。
最下層攻略を目指していた女性だらけのAランク冒険者パーティ『夜鴉』にラーメンを奢る。
ラーメンを食べた夜鴉のメンバー達はいつも以上の力を発揮して、ダンジョンの最下層を攻略することができた。
このことが噂になり、異世界で空前絶後のラーメンブームが巻き起こるのだった。
置き去りにされた聖女様
青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾
孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう
公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ
ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう
ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする
最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで……
それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる